IS-インフィニットストラトス~一匹の蜘蛛~   作:清麿

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14.一番最初の絆

鈴とラウラが再度、校門まで戻ってきたところで、南たちはようやく学園の外へと繰り出す。

 

電車に揺られること十五分。

 

IS学園から最も近いショッピングモールに到着した。

 

さすが休日ということもあってか客は多く、少し混雑していた。

 

「さて、水着売り場はどこだ?」

 

一夏が辺りを見渡しながら言う。

 

「あ、あそこに案内板が……」

 

シャルロットが指さす先にある案内板によると、どうやら男性用と女性用で売り場が違うらしい。

 

「別行動だな」

 

そう言った南は、途中で買ったソフトクリームを食べている。

 

「行こうぜ、南」

 

「ああ。それじゃあ、また後でな」

 

南がそう言って背中を向けるが、後ろから鈴が声をかけた。

 

「ちょっと、どうやって合流するのよ」

 

「……箒が髪を結えているリボンに、発信機を付けておいた」

 

「えっ!?」

 

箒が慌てて髪を触るが、もちろん南の冗談だ。

 

いち早くそれが分かったシャルロットが、それを小さな声で伝える。

 

「最新型のやつだ。それで合流しよう」

 

男子二人の大きな背中はみるみる遠ざかり、人混みに消えていく。

 

「まったく、どんな冗談だ」

 

箒は腕を組むが、満更嫌そうでもない。

 

「大体、そんなの付いてたとして、何を見たら現在地が分かるのよ」

 

「ははっ、その通りだな」

 

鈴の言葉に、箒が吹き出した。

 

同時に、シャルロットが小さく息を吐く。

 

「はぁ~あ。水着、南に選んで欲しかったなぁ」

 

「やっぱり、抜け駆けするつもりでしたのね!」

 

そんな小さな呟きも聞き逃さず、セシリアが詰め寄った。

 

「い、いやぁ……そんなつもりは……」

 

「人畜無害そうな顔して、油断ならないわね……」

 

鈴が腕を組む。

 

そこに簪が割って入った。

 

「南は、私が最初に……」

 

「そんなの関係ないよ!」「そんなの関係ありませんわ!」「そんなの関係ないわよ!」

 

「ひっ……」

 

流石に、各国の代表候補に凄まれると、簪でも強くは言えなかった。

 

小さく震えて、縮こまる。

 

「あ、ご、ごめん……」

 

そんな簪に、鈴が身を引きながら言った。

 

「でも、誰が最初とかは関係ないでしょ? そうだよね? ね?」

 

シャルロットの有無を言わせない物言いに、簪は頷くしかなかった。

 

先程までの強気な嫉妬は、すっかり息を潜めてしまっている。

 

「ふむ……」

 

そんな会話に参加せず、物珍しそうに辺りを見渡していたのがラウラだった。

 

せわしなく首を動かしている。

 

「どうした、珍しいのか?」

 

箒がそんなラウラの隣に立った。

 

ラウラは素直に頷くと、適当に指をさす。

 

「あれは何だ?」

 

「ん?あれは服屋だな」

 

「あれは……」

 

「服屋だ」

 

「そっちのは……」

 

「えっと……服屋だな」

 

「どうして、無意味に別れて立ち並んでいるんだ。大きく纏めてしまえばいいだろう」

 

そんな乱暴な意見に、箒はなんと答えるか、すぐには言葉が出なかった。

 

「ま、まぁ……こんな所で立っててもアレだし、僕たちも水着選ぼっか」

 

シャルロットが言うと、皆が頷いて歩き出した。

 

 

 

 

 

「あ、そういえば……」

 

一夏がピンと人差し指を立てた。

 

そのわざとらしい仕草に、南はイラッとしながらも首を傾げた。

 

「もうすぐ箒の誕生日だ。何か買ってやらないとな」

 

低い声で言った一夏は、明らかに南を意識した話し方で、余計に腹が立つ。

 

「確か……臨海学校の途中だったか……」

 

芝居がかった台詞のように言葉を並べる一夏。

 

南のイライラは止まらない。

 

「お前のそういう落ち着き払った雰囲気は、人を不快にさせるな」

 

南は遂に我慢できず、そんなことを言った。

 

「そうかもしれないな」

 

それでも、一夏は顔を変に固くして言い返す。

 

「ほら、お前の落ち着き払った雰囲気は―――」

 

「南を不快にするんだろ、もうやめるよ」

 

一夏がニカッと笑う。

 

悪びれている様子はない。

 

「それにしても、箒の誕生日か……」

 

「あ、南も買うなら、二人からの誕生日プレゼントってことにするか?」

 

「いいのか?」

 

「まぁ、大事なのは気持ちだしな」

 

「一夏……」

 

「ん?」

 

「お前の落ち着き払った雰囲気も悪くないぞ」

 

南のあからさまな態度の変化に、一夏も笑わずにはいられなかった。

 

水着を探すことも忘れて、すっかり箒への誕生日プレゼントを探す二人。

 

適当にブラブラ歩いていると、南の目にある物が止まった。

 

「なぁ」

 

「ん?」

 

南が肩を叩くと、一夏が振り返った。

 

「アレなんかどうだ?」

 

「おお、リボン……いいんじゃないか? 箒も、発信機付いたやつは嫌だろうし」

 

「俺もそう思う」

 

それだけ言って、店に入る。

 

「これなんかどうだ?」

 

「えー? こっちの方が良くないか?色とかも」

 

「うーむ。いや、ならそっちのも捨てがたいだろ」

 

「おぉ、確かに。これと同じデザインで色が違うのないかな?」

 

男二人で、リボンを選ぶ様はなんとも気持ち悪い。

 

いい意味で無神経なのか、南も一夏も気にはしていなかった。

 

十五分ほどかけて、納得いくものを買った二人は割り勘で代金を支払い、店を出た。

 

「南が渡すか?」

 

「いや、一緒に渡せばいいだろう」

 

「じゃあ、俺が預かっとくよ」

 

そう言って綺麗に包装されたリボンを、バックに仕舞う。

 

「あれ? 一夏じゃねぇか」

 

そんな声がして、二人同時に振り返る。

 

そこには赤い髪を長く伸ばした男が立っていた。

 

「おお、弾。お前も買い物か?」

 

「まぁな……ん? そちらさんは?」

 

「ああ、こいつは神代 南。この前電話で話したろ? 俺と同じ、男でISが使えるんだ。南、俺の中学の時からの友達、五反田 弾だよ」

 

一夏が南と弾の間に入って、それぞれに手を向けた。

 

「ああ、神代くんね。一夏から話は聞いてるぜ~? めちゃくちゃ強いんだろう? 代表候補生も倒しちまうって」

 

弾は、聞いていた情報をスラスラ言いながら笑う。

 

「いや~、この女尊男卑の世の中で、そんな奴がいるとは思わなかったが……実際見てみるとオーラ出てんな~。一夏とは大違いだ」

 

「おい、どういう意味だよ」

 

「ははっ! まぁ、よろしく頼むぜ?」

 

握手をしようと、弾が手を伸ばすと南はその手をガッシリ掴んだ。

 

思わぬ力に、少し身を引き気味になる弾だが、南には関係ない。

 

目を輝かせて弾を見つめていた。

 

「その髪……」

 

「あぁ、これな……」

 

「デビルかっけぇ……」

 

「へ?」

 

府抜けた声を出す弾。

 

南はそれでも、彼の髪に熱い視線を向けていた。

 

女子にモテたくて染めたはいいが、見事に方向性を間違えたのか、今まで以上に女子から声をかけられなくなっていた弾にとって、そんなことを言われたのは初めてだった。

 

「わ……」

 

「わ?」

 

弾が震える。

 

一夏が首を傾げた。

 

「分かってくれるかぁ~~!」

 

弾が南に飛びつかんばかりに、満面の笑みを浮かべる。

 

「ああ、かなり格好良いと思うぞ。弾」

 

「おぉ! 俺は、おれは……嬉しくて涙が出そうだぁ! 今日の出会いに乾杯しよう、南!」

 

そんな弾の足をグッと踏みながら、一人の少女が、一夏へ駆け寄って行った。

 

「お兄、うっさい……一夏さん、お久しぶりですっ」

 

「お、蘭も来てたのか。南、弾の妹の蘭だよ……で、こっちは神代 南。コイツも男でISが使えるんだ」

 

改めてされる紹介に、南は軽く手を挙げた。

 

「神代だ。よろしく」

 

「は、はいっ。え、えっと……よろしく、です……」

 

それだけ言うと、再び南は弾へ、蘭は一夏へ向き直った。

 

「私ですね、来年、IS学園受けるんです。一夏さんの後輩になるんですよ!」

 

「そうか! 受験勉強、頑張れよ!」

 

「髪、そんなに長くて邪魔にならないか?」

 

「ばっか、邪魔に決まってるだろ? でもな、それに耐えてこそ男は磨かれるんだ」

 

その場は、それぞれが話したいように話す、ちょっとした交流会になっていた。

 

だが、混雑しているショッピングモールで、それを咎める者はいない。

 

数分話した後、蘭が「一緒に買い物しませんか?」と一夏に詰め寄った。

 

「悪い、今日は他に一緒に来てる奴らがいてさ……また今度な」

 

一夏が手を合わせると、蘭は眉を下げた。

 

水着を買う目的を忘れかけていた南も頷く。

 

「まぁ、また休みの日にでも遊びに来いよ。南も連れてさ」

 

弾が言うと、一夏は笑顔を作る。

 

「ああ、そうする。それじゃあな」

 

「また会おう」

 

そうして兄妹と別れて、二人は水着売り場へと歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、女子六人は……。

 

「この水着、可愛いじゃない!」

 

「私、これにしようかな……」

 

「あら、簪の持ってるの、いいわね」

 

「鈴さんのも、可愛いと思う……」

 

鈴と簪がそれぞれ水着を手に取って言った。

 

広く設けられていた水着売り場には、他にも女性客がいて賑わっている。

 

「これが全て水着か……」

 

しきりに辺りを見渡しながら、ラウラが呟く。

 

「この世には、こんなに様々な水着があったのか……」

 

「ラウラ……も、買うの?」

 

シャルロットは慎重に声をかけた。

 

こうして買い物をするには、あまりにも話した回数が少ないからだ。

 

「うむ……学園指定の水着は持っているから、ソレでいいかと思っていたんだが……」

 

「それじゃあダメだよ!」

 

急な声に、ラウラの肩がビクッと跳ね上がる。

 

「な、なぜだ……?」

 

「臨海学校で着るってことは、南にも見てもらうんだよ? しっかり気合入れて選ばないと!」

 

そこまで言って、シャルロットはラウラの耳元まで顔を寄せた。

 

悪戯に笑うその表情に、ラウラは警戒する。

 

「似合わない水着なんか着ちゃうと、南に嫌われちゃうかもよ? 他の事が全部完璧でも、水着が格好悪いと致命的なんだから」

 

そこまで聞いて、ラウラは何かに胸元を撃たれたような感覚に襲われる。

 

彼女の中で、鉛の銃弾は見事に貫通していた。

 

「な、なっ! それは困るぞ! アイツは私の嫁だ……嫁に嫌われるのは……それは……」

 

「うーん、その嫁っていうのは間違ってると思うんだけど……」

 

ラウラが顔を真っ青にして震えていると、シャルロットはため息をついてから、その肩に手を置いた。

 

「大丈夫だよ、僕も一緒に選んであげるから」

 

「……本当か?」

 

そう言って、上目遣いにシャルロットを見つめる目は、涙ぐんでいるように潤っていた。

 

そんな表情にラウラとは違う意味で、胸を打たれたシャルロットは、だらしなく表情を緩ませた。

 

「うん、僕に任せてね……えへへ……うへへ……」

 

怪しく笑うシャルロットに、ラウラは気付かない。

 

「箒さん、これなんて如何です?」

 

「うっ……少し、露出が多くないか……」

 

一方、既に自分の水着をイギリスから取り寄せていたセシリアは、本当にただ付いてきただけであったため、箒の水着を選んでいた。

 

そのことごとくが、箒には刺激が強いものばかりであった。

 

「もう少し、控えめな物がいいのだが……」

 

「もうっ、折角わたくしが選んでさしあげているのにっ」

 

「す、すまない……」

 

何故、怒られてるのか分からないまま箒は結局、セシリアが選んだ水着を購入した。

 

「み、南に……変に思われないだろうか……」

 

「大丈夫ですわ。その大きな胸があれば……くっ!」

 

セシリアが恨めしそうに、箒の胸元を睨む。

 

箒は服の上から、腕で覆い隠す。

 

「皆、選んだ?」

 

シャルロットが言うと、それぞれが袋を掲げた。

 

「じゃあ、皆でラウラの私服も選んであげようよ」

 

「あー、そういや南も言ってたわねぇ……」

 

鈴が頭の後ろで腕を組んだ。

 

「制服しか持っていないのでは、不便だしな」

 

「じゃあ、買いに行こう……」

 

箒が言うと、簪が歩き出した。

 

「ふむ、私のために迷惑かけるな」

 

ラウラが胸を張った。

 

「どうして威張ってますの……」

 

セシリアが肩をすくめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ショッピングモールの隅にある、小さな雑貨屋で合流した八人はランチを楽しみ、学園へと帰ってきた。

 

夕刻時。

 

シャワーを浴びた南は、部屋着でテーブルの椅子に座り、買ってきた物の整理をしていた。

 

水着以外にも色々と買い込んだ南の傍に、簪が寄って行った。

 

「ん? どうした、まだ着替えていなかったのか」

 

部屋に帰って来てから、数十分は経っていたが、簪は未だに出掛けた格好のままだった。

 

南が言うと、簪は小さく頷くだけだった。

 

「……ふぅ」

 

小さく息を吐いた南。

 

そっと立ち上がって、簪を正面に見る。

 

後ろで手を組んでいた簪が、そんな彼を見上げる。

 

「まぁ……その、なんだ……」

 

歯切れ悪く、南は頬を掻いた。

 

「なに?」

 

簪の声は低かったが、怒ってはいない。

 

少しして、また南が口を開いた。

 

「その服、よく似合ってるぞ」

 

ボソッと呟くように言った南であったが、簪にはちゃんと聞こえていた。

 

嬉しさに表情を晴らしそうになった簪だが、それを我慢する。

 

「……言ってくれなかった、のに」

 

「ん?」

 

「私が、一番最初に私服、見せたのに……何も、言ってくれなかった……私が、一番だったのに……」

 

泣き出しそうな簪の声に、南は焦る。

 

「そ、それだよ」

 

「え?」

 

南が人差し指を向けた。

 

「お前とは、過ごしている時間が一番長いだろ? だから……その……」

 

夕焼けが二人だけの部屋を照らす。

 

真っ赤なのは、夕焼けを受けた部屋なのか、それとも南がただ、赤くなっているのか。

 

どちらにせよ、真っ赤な顔で南は口を開く。

 

「……照れ臭かった、というか……言うタイミングがなかった、というか……でも、誰よりも一番最初に思っていた」

 

簪は大きく目を見開く。

 

その顔色は、南と同じく真っ赤になった。

 

夕焼けは、関係なかった。

 

「あ、ありがとう……その、言葉を……待ってました」

 

明るくなった声音に、南は胸を撫でおろす。

 

「そうだろう、そうだろう」

 

うんうん、と大きく頷く南。

 

簪はそんな彼の腹部に、軽く拳を当てた。

 

「でも、もっと早く言ってくれないと、やだ……」

 

「次からはそうする。『俺とお前は、強い絆で結ばれている。お互いの考えていることなんて容易に分かるし、どんなことがあっても離れない』だったか?」

 

「そ、それ……」

 

「この間、言ってた特撮ヒーロー、三十話まで見たからな」

 

あの日。

 

カレーを振舞ったあの日の……。

 

南はいつも通り笑って、簪の頭に手を置く。

 

「ほら、着替えてこい」

 

意味もなく腰に手を当てて、冷蔵庫の方へ向かう南。

 

鼻をしきりに擦っては照れ臭そうに、また笑う。

 

コンコン

 

簪が、上に羽織っていた物を脱いで、ノックされた扉の方を伺った。

 

「はいはい」

 

ペットボトルを片手に持った南が、扉を開けた。

 

扉の前に立っていたのは、山田真耶だった。

 

笑顔の真耶は「今、いいですか?」と、南に問う。

 

「山田先生?……あぁ、どうぞ」

 

そう言って彼女を通した南。

 

真耶は部屋の中央まで来て、立ち止まった。

 

南は、真耶の視界に入る位置まで移動してくる。

 

二人を交互に見た後、真耶が片目を閉じた。

 

「お引越しですっ!」

 

「はい?」「ええっ!?」

 

首を傾げただけの南に対して、簪は大きな声を出した。

 

「デュノアくんは、デュノアさんでしたので、織斑くんのお部屋が空きました。そこに神代くんがお引越しです」

 

笑顔のまま言う真耶。

 

「デュノアさんは、ボーデヴィッヒさんのお部屋に移動してもらいました。いつまでも年頃の男女が、同室で生活をするというのは、よくありませんから」

 

「「…………」」

 

しばらく無言の時間が続く。

 

南と簪が顔を見合わせた。

 

「俺たちは……絆で繋がってはいるが、離れることはあるらしい」

 

苦笑いする南。

 

「なんで、こうなるのーー!」

 

悲痛な叫びが響く。

 

 

 

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