IS-インフィニットストラトス~一匹の蜘蛛~   作:清麿

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17.終戦

飛び立った七人を待ち構えるように浮遊していた福音。

 

「第二ラウンドだ」

 

一夏が言うと同時に、雪片弐型を振るう。

 

「鈴さん!」

 

「言われなくても!」

 

セシリアがスターライトを、鈴が龍砲を放った。

 

それが合図のように、全員が散る。

 

福音も弾けるように行動を開始し、舞うように銃弾を避けた。

 

「はあっ!」

 

「ふんっ!」

 

箒とラウラがそれそれの近接武器を装備し、福音へ接近。

 

先に到達した箒を、大量のエネルギー弾で牽制。

 

背後から猛追するラウラの方へと、蹴り飛ばした。

 

その背後から、シャルロットが重機関銃『デザート・フォックス』の弾丸を浴びせた。

 

一瞬怯んだ福音ではあったが、すぐに体勢を立て直して、エネルギー弾を射出。

 

シャルロットがその攻撃に身を捩る中、更に福音の背後からは簪が。

 

「当たって……っ」

 

背部装甲に装備された春雷(しゅんらい)の一撃。間違いなく当たるタイミングではあったが、福音の機動速度はそれを上回る。

 

接近された簪は、福音の攻撃を受けて、高度を一気に落とした。

 

それでも、一段落つけないのは福音。

 

セシリアのスターライトの一撃を、右足装甲に受けてよろめく。

 

「一夏っ!」

 

シャルロットが言うと同時だった。

 

「うおおおっ!」

 

叫びながら福音に突進する一夏。

 

雪片を振りかぶり、速度を上げた。

 

一夏の攻撃に備える福音の左肩が、小さな破裂を起こした。

 

「どこ見てるのかしらっ!」

 

肩部と腕部に装備された龍砲が揺れる。

 

上下左右。

 

あらゆる角度から攻撃を受けた福音に逃げ場はない。

 

後は、一夏の零落白夜が当たる瞬間を待つのみ……のはずだった。

 

次の瞬間、福音が光を纏い、突風を巻き起こした。

 

「なっ!?」

 

困惑した一夏が、そんな莫大なエネルギー放出に巻き込まれる寸前。

 

「間に合えっ!」

 

箒が一夏を腕に抱いて、急加速。福音から距離を取った。

 

青い雷を纏った福音は、自らを抱くかのようにうずくまっている。

 

「これは、もしや……」

 

セシリアが呟くと、ラウラが苦い顔をする。

 

「不味い……第二形態移行(セカンド・シフト)だ……」

 

全身からエネルギーの翼が生えたその様子に、簪が息を飲んだ。

 

福音は、その翼を軽く合わせて、巨大なエネルギー弾を放出する。

 

「避けろぉ!」

 

一夏が言い終えるよりも早く、全員が散った。

 

しかし、あまりに巨大なその攻撃を完全に避けきることは出来ず、シャルロットが被弾する。

 

「ぐあっ!」

 

「シャルロット! おのれ!」

 

箒は二対の刀剣を構え、接近。

 

鈴も続いた。

 

しかし、それらは振るわれることもなく、福音の翼から放たれるエネルギー弾を受け、後退。

 

更に大量にばら撒かれる弾が、一夏たちを襲った。

 

「くっ!」

 

「織斑くん……零落白夜は……?」

 

「ダメだ……もうエネルギーがない」

 

「そんなっ!」

 

簪の問いかけに答えた一夏に、鈴が表情を歪める。

 

しかし、福音はそんな彼らを待ちはしない。

 

機動性能を活かした、攻撃にセシリアはスターライトを構えることすら出来なかった。

 

「くっ、ここまでか……」

 

ラウラが歯ぎしりをすると同時。

 

箒が、セシリアが、鈴が、シャルロットが、ラウラが、簪が、ハッと目を見開いた。

 

この感覚……。

 

六人が顔を見合わせる。

 

そして、気付いた。

 

沖合まで飛んできていたはずが、激しい戦闘を経て、気付けばまた、あの砂浜の方まで戻ってきていた。

 

距離はそう遠くない。

 

箒の視線がその砂浜に移った時、神代 南が立っているのが見えた。

 

「南……」

 

そんな彼を見た瞬間、紅椿が黄金色の粒子によって、機体を金色に輝かせた。

 

絢爛舞踏(けんらんぶとう)。非常に困難が伴う他ISへのエネルギー提供を、機体接触するだけで即時実行できる、紅椿の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)

 

「これで、もう一本だけ戦えるだろう?」

 

箒は静かに浮上し、一夏に触れた。

 

いつか、シャルロット……否、シャルルに言っていた台詞。

 

一夏は目を見開いて、それから笑った。

 

「ああっ! これで、もう一本だけ戦える!」

 

そのまま繰り返した一夏に、箒が頷くと、六人はそれぞれ動き出す。

 

箒は一夏の後方、南に背を向ける形で。

 

セシリアと鈴が左右を、ラウラは高度を上げ、シャルロットは高度を下げ、海面に接しない程度で滞空。

 

福音がエネルギー弾を発射しようと構えた瞬間だった。

 

「させない……」

 

簪の機体、打鉄弐式の切り札である山嵐が発射される。

 

計四十八発のミサイルの爆撃を避けるべく、飛び回る福音。

 

舞うようなその動きにも、粗さが目立ってきた。

 

「一夏、終わらせよう!」

 

シャルロットが言うと、一夏が頷いて雪片を構える。そのまま、福音へ飛ぶ。

 

福音は、山嵐を避けたままの体勢を嫌い、立て直すべく回避行動を開始。

 

一夏を除く、六人に囲まれる形ではあったが、その間を縫って退避―――しようとして、失敗した。

 

見えない壁が行く手を阻む感覚に、福音は情報を処理しようとするが、一夏がそんな隙など与えない。

 

雪片の一撃を避け、蹴りを繰り出し、急上昇。

 

真上で腕を組むラウラの隣を素通りしようとして―――弾かれた。

 

「どこへ行く? まだ終わってないだろう?」

 

ラウラが笑うと、雲が晴れ、月の光が差し込んだ。

 

空高く滞空していた福音が、それを理解することは、ついに出来ない。

 

箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪に囲まれているのは分かる。

 

しかし、そんな六人を起点に糸が張り巡らされ、本当の意味で囲まれていることなど、福音には理解出来なかった。

 

「終わりにしようぜ」

 

一夏が言う。

 

六人が気付いたのは、腕に巻かれた糸の感覚。

 

皆が皆、南の糸に触れていたことがあったから……だから、砂浜に近付くことで気付いた。

 

円陣を組んだ時に付けられた糸を、セシリアが握り締める。

 

「それにしても……南の糸は、どこまで大きい罠を張れるのよ」

 

鈴がヤケクソ気味に笑った。

 

―――自身の1000倍を超える規模の、巨大な罠を仕掛ける蜘蛛が、存在する。

 

『ダーウィンズ・バーク・スパイダー』

 

その体長、僅か18mmにして幅25メートル、面積2.8平方メートルにも及ぶ巣を造る、造網性(ぞうもうせい)の蜘蛛。

 

樹木をまたぎ、川や池を横切るその網は、蜘蛛1匹が造る網としては世界最大であり、同時に……

 

その糸は、生物が生成する物質の中で、最も頑丈である。

 

「終わりだぁ!」

 

一夏が零落白夜を発動。

 

絢爛舞踏により、エネルギーが回復している一夏と、長い闘いを強いられている福音では、その速度に明らかな差があった。

 

突き刺すような一撃に福音は吹き飛ばされ、一夏はそれでも刀を突き立てる。

 

包囲網を解いた六人を置き、一夏と福音は砂浜に激突した。

 

「うおおおおおおぉ!」

 

胸元を貫かれながらも、福音は手を伸ばす。

 

「諦めろ」

 

一夏の頭を潰そうと、必死に伸ばしたその腕は、南によって掴まれた。

 

そうして福音のエネルギーは0になり、同時に一夏が大きく息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦完了……と言いたいところだが、お前たちは重大な違反を犯した」

 

旅館の裏手門の前で立ち並ぶ七人に、千冬が言った。

 

「違反? 誰だ、そんなことしたのは」

 

「南って、こんな時にも冗談が言えて凄い」

 

「俺がいつ、冗談を言ったんだ?」

 

シャルロットが呆れてため息をつくと、南は真顔で聞いた。

 

「喋るな、馬鹿者!」

 

千冬が怒鳴ると、シャルロットが肩を震わせる。

 

南はまだ首を傾げていた。

 

「帰ったらすぐ、反省文の提出だ。懲罰用の特別トレーニングも用意してあるから、そのつもりでいろ」

 

反省文なら得意だ、と南が手を揉み合わせる。

 

隣に立つ一夏は疲れからか、足が震えていた。

 

「織斑先生……もうそろそろこの辺で……皆、疲れているでしょうし」

 

真耶がファイルを抱えたまま言う。

 

千冬は目線を反らして、頬を微かに赤くした。

 

辺りは暗いが、どうしてかそれがよく分かる。

 

「まぁ、全員……よく帰ってきたな。今日明日と、ゆっくり休め」

 

「そうさせてもらおう」

 

南は誰よりも早く旅館の方へ歩き出し、千冬を横切ろうとした瞬間。

 

その腕をガッと掴まれた。

 

「神代……お前は福音とは戦っていないだろう? それに、色々と勝手もしてくれたなぁ?」

 

南の額から汗が噴き出し、頬を伝う。

 

頭を掻きながら、恐る恐る口を開いた。

 

「いや、あれは皆の為を思って……」

 

「噓つきは泥棒の始まりと言うだろう。出鱈目ばかり喋っていると、泥棒になってしまうぞ」

 

「俺が嘘をついたことありましたっけ?」

 

「それがすでに嘘だ」

 

千冬は切り捨てるように言うと、ラウラに視線を向けた。

 

「そうだろう、ボーデヴィッヒ」

 

「はい。確かに嫁は……南は、私に嘘をつきました」

 

千冬に聞かれて、ラウラは背筋を伸ばす。

 

あまりにハッキリした口調に噴き出しそうになりながら、南が聞いた。

 

「いつ?」

 

「わさび」

 

「ああ、あれか。面白い冗談だろう?」

 

簡潔に言うラウラに、南が笑って返した。

 

「はぁ……この馬鹿の相手をしていると疲れるな。ほら、お前達は早く休め」

 

千冬が言うと、六人は返事をして、旅館の方へ歩き出す。

 

箒が心配した表情で南を見ていたが、同じく歩き出そうとして、腕に力を込められ、痛がっている彼は気付かない。

 

真耶もそれに続いて、旅館に入ったのを確認すると、南が言った。

 

「えっと……」

 

「なんだ?」

 

「二人きりですね」

 

「………………」

 

「……わさび食べます?」

 

別館の方へ引っ張られていく南。千冬に情けなどなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「はい……はい……」

 

旅館から続く砂浜。そこから更に続く自然公園の一本の木。

 

その幹にもたれかかり、少女は電話をしていた。

 

「私は直接見ていませんが、『ギンヤンマ』の報告では……はい……」

 

月明りは木々で隠れており、夜の暗さから、その表情は分からない。

 

風がそよいだ。

 

「確実に、『蜘蛛』……神代 南は厄介な存在になっています。今日も、篠ノ之束と接触していました」

 

電話の相手は男か、女か。

 

特殊な加工が施されているからか、性別すら分からない。

 

「なっ……それは、本当ですか……あの方が……もう、神代 南のクラスに……」

 

それでも彼女は、その声の圧倒的な威圧感に、ただ頭を垂れる。

 

電話であろうと逆らえない、それが……。

 

「……了解しました。『スズメバチ』にも報告しておきます。ボス」

 

少女は電話を切り、ほくそ笑む。

 

持っていた電話を握り潰した。

 

「楽しくなりそうね……」

 

風は止まない。

 

金髪をかき上げた少女は、静かに姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

福音を倒し旅館に戻ってきたのが、夜の八時。

 

時刻は既に日が変わってから数分を知らせており、IS学園生は眠りについている。

 

旅館と隣接している砂浜を離れ、大きな岩が立ち並ぶ場所で、水着姿の箒は静かに息を吐いた。

 

「探したぞ」

 

背後から声をかけられ肩を震わせると、そこには神代 南が立っていた。

 

「南……」

 

彼の名を呼ぶと同時に、月明りがその顔を照らす。

 

信じられないくらいに腫れあがったその顔に、思わず噴き出してしまった。

 

「ぷっ……織斑先生に、大分絞られたみたいだな」

 

「疲れている生徒に、あそこまで出来るとは……」

 

南は箒の隣に腰かけ、缶ジュースを取り出した。

 

「飲むか?」

 

「ああ、貰おう」

 

プシュッと気持ち良い音を立てて開けられた缶は、よく冷えていた。

 

箒が一口呷ると、南もそれに続いた。

 

「南……私は、もう間違えない」

 

「……そうか」

 

強い口調で言った箒に、南は頷くだけだった。

 

しかし、少し間を空けて口を開く。

 

「だがな……今度、間違っても……その時は、俺が居るぞ」

 

「え……」

 

南は海を見つめたまま言う。

 

一瞬、目を見開いた箒だったが、すぐに微笑みに変わった。

 

「頼りにして、いいか?」

 

「俺ほど頼れる男が他にいるか?」

 

質問に質問で返した南の声は明るくて、またも箒は噴き出してしまう。

 

「お前と姉さんは……どんな関係なんだ?」

 

朝のやり取りを見ていて抱いた疑問をぶつけた。

 

南はすぐには答えない。波の音だけが、関係なく響いていた。

 

「俺は国家代表候補生でもないのに、専用機を持ってるんだ。お前のお姉様との絡みくらいあってもおかしくないだろ?」

 

その答えは……そんな誤魔化した答えは、箒を満足させるものではなかった。

 

しかし、これ以上聞いても新たな答えは返ってこない。

 

そう感じた箒は、聞くのをやめた。

 

「今は、詳しく話せないが……いつか……話せるといいな……俺のことも……お前の姉にして完璧超人、篠ノ之束が唯一恐れる、あの『組織』のことも…」

 

南が小さく言った言葉があまりに予想外で、ただ彼の方を見る事しか出来なかった。

 

「約束してくれ……いつか、話してくれると」

 

箒は諦めなかった。

 

今は聞けなくても、いつか答えが返ってくる。

 

それならば、彼の隣でその答えを待とう。そう決めて、少し南の方へ寄った。

 

体が当たらない程度しかない距離に、箒は自分の心臓が早く動いていることを自覚した。

 

「ああ、分かった…………ところで」

 

南が頷いた後、声音を変えて明るく切り出した。

 

「その水着、いいじゃないか。特に色が」

 

水着を見て南が笑うと、箒の顔は赤くなる。

 

今しがた褒められた、彼女の水着の色は白。

 

「そうだろうか」

 

そう言って頬を抑えた。

 

「ああ、色がいいな。うん、白とはセンスがある」

 

大げさに言う南に違和感を覚えた箒は、火照っていた顔の温度が下がっていくのを感じた。

 

彼に密着するくらいに体を寄せる。

 

「何を隠している?」

 

低い声で言うと、南は頭を掻いた。

 

「いや、別に……」

 

それだけ言って、ため息をつく。

 

「隠してる訳じゃない。ほら、これ」

 

そう言って南が取り出したのは、綺麗に包装された箱。

 

それを手渡して南が続ける。

 

「誕生日なんだろ? 一夏と俺からだ。本当は二人で渡すつもりだったんだがな、福音との戦いで疲れたのか、起きなかっ―――」

 

南が言い終えるよりも先に、箒は南に飛びついた。

 

腕を回し、力を込める。

 

「ありがとう、南……」

 

小さく言った箒に、南は優しく笑った。

 

「開けてみてくれ」

 

彼女の肩を優しく押して、体を離す。

 

小さく頷いた箒は、慎重に箱を開けた。

 

「これは……」

 

誕生日プレゼント……白のリボンを見て、箒は声を漏らした。

 

「そうか……だから、私の水着の色を褒めたのだな」

 

「さあな」

 

そう言って鼻を擦る南は嘘をついている。

 

箒は手に持ったリボンを南に渡した。

 

「ん?」

 

「つけて、くれないか」

 

上目遣いにそう頼む箒に、南はつい息を飲んだ。

 

「あ、ああ。分かった」

 

彼女がずっとしていた緑のリボンを取り、新たに白のリボンを結える。

 

「ほら出来たぞ」

 

南は髪を優しく撫で、そう言う。

 

手を離そうとすると、箒に掴まれた。そのまま頬に当てられる。

 

「箒?」

 

南が声をかけても、反応はない。

 

ただ、まっすぐに見つめるのみ。

 

「箒……」

 

夜の海が、二人を近付ける。

 

波の音が合図になったように、二つの影が重な―――ろうとして、

 

コツンッと南の頭に何かが当たる。

 

瞬時に感じ取った嫌な予感。

 

それは箒も同じなのか、互いに閉じていた目が合った。

 

ゆっくりと首を曲げる。

 

「セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪……」

 

一夏を除く専用機持ちがそこには集結していた。

 

先程、南の頭に当たったのはブルー・ティアーズのピッドらしい。

 

「覚悟……」

 

それだけ言って、簪がISを展開。

 

他の皆も続いた。

 

「ど、どうしてここが……!」

 

涙目で呟いた箒。

 

「しまった」

 

南は、右手に握っていた緑のリボンを見て呟く。

 

「発信機のせいか」

 

 

 

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