IS-インフィニットストラトス~一匹の蜘蛛~   作:清麿

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18.短編1.セシリア×料理

「んっ、美味い」

 

南は、一夏が作った弁当のから揚げを頬張りながら言った。

 

臨海学校と夏休みの間。そろそろ生徒も浮足立ってくる時期であった。

 

いつものように、屋上で昼食を取る専用機持ち八人。

 

輪を書くように座って、それぞれの昼食を口に運ぶ。

 

同室の一夏が、朝早く起きて作った弁当を見て、女子四人は鈍い表情をした。

 

確かに美味しそうなその弁当を超えるものを、自分は作ることが出来るのか、そればかりが頭をよぎる。

 

ただ二人例外であったのは、簪と鈴だ。

 

簪は同室時代、何度も南に手料理を振舞い、その度に美味しいと絶賛されている。

 

そのことが、確かな自信に繋がっていた。

 

「はい、南。あたしの酢豚も食べなさいよ」

 

「おお、作ってきてくれたのか。すまないな」

 

そしてもう一人、鈴は自分の手作り酢豚を、南が楽しみにしてくれているのを知っている。

 

「うん、今日も美味いな……一週間に一回は絶対に食べたい」

 

鈴からタッパーを受け取った南は、豚肉を一口齧って頷いた。

 

そんな一言に顔を赤くして鈴は俯く。

 

二人のそんな様子を見て、他の五人は頬を膨らませた。

 

「そ、そんなに、好き……なわけ?」

 

俯いていた顔を上げて、鈴は南を見つめる。

 

「好きだぞ」

 

「はうっ」

 

南の簡潔な答えに、鈴は胸を抑えた。

 

五人の表情がどんどん暗くなっていく。

 

「ど、どんなところが、好きなの? その『酢豚!』の」

 

シャルロットが、聞いた。

 

大きな声で酢豚を強調したことに南と一夏が首を傾げ、鈴はシャルロットを睨んだ。

 

箒とセシリア、ラウラ、簪が小さく拍手する。

 

「そうだな……何が、とかではなく、食べないと気持ち悪いというか、一種の中毒だな……定期的に食べないと始まらないというか……そんな感じ」

 

鈴が倒れた。

 

「おいっ、鈴! 大丈夫か!? 鈴!」

 

一夏が駆け寄るが、反応はない。

 

ただ蕩けきったような表情を浮かべるだけ。

 

「そ、そうなんだ……」

 

簪が言うと、南は続ける。

 

「まぁ、一夏のこれも美味いけどな。簪、食ってみるか?」

 

「えっ……」

 

唐突な一言に、目を丸くした簪。

 

南は気にした様子もなく、唐揚げを箸でつまみ、隣に座る簪の方へ向けた。

 

「ほら」

 

(か、間接……キ、ス……)

 

裏切者と怒鳴る四人の怒声が聞こえる気がするが、簪は華麗に無視し、口を開いた。

 

「どうだ?」

 

「う、うん……美味しい……織斑くん……料理、上手だね」

 

簪は口元を手で隠しながら言った。

 

一夏が胸を張るより前に、南が腰に手を当てた。

 

「そうだろう」

 

「何で南が自慢げに話すんだ?」

 

「そう……織斑くんが、作った……」

 

箒がむくれたまま言うと、簪もいつものように冷静な口調で言った。

 

「いいか、よく聞け」

 

南は、まるでその一言で、この世の全てを証明できるかのような言い方をした。

 

その真剣な眼差しに、箒は胸を打たれそうになる。

 

「あいつは俺の友人だ」

 

「だから何ですの」

 

セシリアが呆れる。

 

ため息をついた後、すぐに顔を上げ、南の方へ詰め寄った。

 

「南さん、明日はわたくしが、お弁当を作ってきて差し上げますわ」

 

「そうか……すまないな。明日、楽しみにしてる」

 

そう言って笑った南に、他の四人が食いついた。

 

「ま、待て! それなら私も作ってこよう。ちょうど多く作りすぎる予定だったんだ」

 

「何だ、その予定は」

 

箒の言葉に、南は冷静に返した。

 

「僕も作るよ! 南に食べて欲しいな」

 

「軍ではローテーションで食事係があったんだ。教官仕込みの腕を見せてやる」

 

「わ、私だって……南も、そろそろ……私の味が、恋しいはず……」

 

一斉に視線を当てられ、南は両手を向けた。

 

まぁまぁと苦笑いする。

 

「そんなにたくさん作られても、食べきれないだろ? 明日は、まずセシリアの料理を頂こうじゃないか」

 

「お任せください!」

 

セシリアがふんっと鼻息を荒くした。

 

その目には闘志が宿っているように見える。

 

「アンタ、料理なんか出来んの?」

 

いつの間にか復活していた鈴が、横目でセシリアを見た。

 

「当然ですわっ、わたくしに不可能はありませんもの」

 

「その発言が既に不安だな」

 

ラウラが真顔で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、同じく昼休みの屋上。

 

「さぁ、南さん! 召し上がってください」

 

バスケットに入った色々な具のサンドイッチを見せながら、セシリアは嬉しそうに笑った。

 

それはどれも綺麗な見た目で、食欲をそそる。

 

「「「「「「「おおっ」」」」」」」

 

その綺麗な出来具合に、七人全員から思わず声が出た。

 

「美味そうじゃないか」

 

南が口角を上げた。

 

手を揉み合わせながら、どれを最初に食べようか目で追う。

 

「何よ、ホントに料理できたわけ?」

 

「美味しそうだね、セシリア!」

 

鈴とシャルロットが言うと、箒とラウラも続いた。

 

「見たことないような具も挟んである……食べごたえがありそうだ」

 

「ふむ……やるな」

 

簪と一夏がバスケットを覗き込む。

 

「私も……食べてみたい」

 

「これとか、美味そうだな~」

 

それだけ一斉に褒められたことがないのか、セシリアは顔を赤くした。

 

思わず自慢げに笑うのを忘れる。

 

「たくさん作りましたから、皆さんもよろしければ……でも、最初は南さんに食べて欲しいですわ」

 

「そうか? すまないな、皆。俺が最初らしい」

 

南はニヤニヤと笑いながら、ついにバスケットに手を入れて、その内の一つを掴んだ。

 

取り出したのは卵サンドだろうか、綺麗な黄色が白いパンに挟まれている。

 

「それじゃあ、いただきます」

 

セシリアに言うと、彼女は頷いた。

 

その表情は少し緊張している。

 

満面の笑みを浮かべながら、口へと運ぶ南。

 

そんな彼を皆、まばたきするのも忘れて見守っている。

 

「んっ」

 

笑顔のまま一口。

 

もぐもぐと口を動かし、うんうんと頷く。

 

「どうだ?」

 

ラウラが聞くと、南の笑顔がどんどんと消えていった。

 

勢いよく動いていた口も、次第にペースを落とす。

 

「ん?」

 

首を傾げて、もう一口。

 

セシリアはその反応に胸が苦しくなる。

 

それでも南の反応は変わらなかった。

 

首を傾げたまま、渋い表情で二口減ったサンドイッチを見ていた。

 

「セシリア……」

 

長い時間かけて、ようやく絞り出されたその声に、セシリアは肩を震わせた。

 

「これ、自分で食べたか?」

 

「い、いえ……南さんに食べていただきたかったので、わたくしは……」

 

「この具とか、味見は?」

 

「え? してませんけど……」

 

セシリアは、さも当たり前かのように目を丸くした。

 

南は、なるほどと頷いて、バスケットから適当な一つを取り出して渡す。

 

「食ってみろ。ほら、皆も」

 

そう言って、半ば強引にサンドイッチを手渡し、他の六人にも配った。

 

「どうぞ」

 

南が言うと、七人が一斉に一口。

 

「んんっ!?」セシリアが目を大きく丸くした。

 

「あ、がぁ……」箒は手を震わせる。

 

「んむっぅ!!」鈴は早くもサンドイッチをバスケットに戻し、口を手で押さえる。

 

「おぅぅぅぅ……」シャルロットが顔を紫にした。

 

「んぐ、ぶぐっ……」ラウラは激しく呼吸を繰り返す。過呼吸のようになっていた。

 

「…………………………………」簪に反応はない。時が静止していた。

 

「あー、あぁー、あ~」一夏は口を半開きにしたまま、涙目になった。

 

それぞれの反応を見ることなく、南はひたすら一口一口噛みしめる。

 

眉を顰めつつ、首を傾げていた。

 

「なんだろうな……不味くは……ないが」

 

「「「「「「ええっ!?」」」」」」

 

そんな一言に、六人が声を張り上げる。

 

セシリアに関しては、反応することすら出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ぬかと、思った……」

 

「三途の川が見えたぞ……」

 

簪と箒が苦し気な声を出す。

 

シャルロットは体を横にして、目を閉じていた。

 

今動くと、出てくるかもしれないらしい。

 

鈴とラウラは身を寄せ合ってガクガクと震えていた。

 

「まぁ……個性的な、味だな……」

 

一夏は持ち前の根性で、何とか笑みを作る。

 

セシリアすら、ハンカチで口を抑えて項垂れていた。

 

「まぁ、そうだな……何を入れたら、この味になるんだ」

 

パクパクと口に運びながら、南が言った。

 

「み、南さん……た、食べては駄目ですわ……」

 

自分で作った物にそんな事を言うのは心外であったが、セシリアは躊躇なく言った。

 

それでも、南は手を止めない。

 

「いや、食えなくはないぞ? 美味しい、とはお世辞にも言えないが」

 

「嫁は、強いな……」

 

ラウラが震えながら言う。

 

箒が頷いた。

 

「折角作ってくれたからな。残すと勿体ないだろ? ほら一夏、お前も食え」

 

南はサンドイッチの一つを一夏に持たせた。

 

セシリアの表情が歪む。

 

「南さん……」

 

「いいか、セシリア……女の手料理で倒れる男がどこにいるんだ。毒だろうと何だろうと耐えて見せるのが男の度量だ」

 

ハッキリと毒と言われたことにも気付かず、セシリアは顔を輝かせた。

 

同時に一夏が、掴んだサンドイッチを見つめた。

 

「それ、千冬姉も言ってた……そうか、そうだよな!」

 

何かに目覚めたように南の方を向いた。

 

「南、食おう!」

 

「ああ、いただきます」

 

「いただきますっ!」

 

そう言って、ハイペースでサンドイッチに齧り付く(バカ)二人。

 

当然、次の日の授業は、二人揃って欠席した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いう訳でだ」

 

南がバンッとテーブルを叩いた。

 

それは、『セシリアのサンドイッチ凄いね』事件を受け、南と一夏が欠席した日の翌日の放課後。

 

寮にある調理室に集まったのは、南を始めとするいつものメンバー……ではなく、鈴と簪を除いた一組メンバーだった。

 

「俺が料理を作る。そして、そのアシスタントをセシリアにしてもらうことにしよう」

 

「おぉー」

 

一夏がぱちぱちと手を叩いた。

 

それに続いて、箒とシャルロット、ラウラも続いて手を叩く。

 

「ん? 鈴と簪はどうした?」

 

南が聞くと、箒が答えた。

 

「二組と四組は、それぞれクラス単位でやらなければならない事があるらしい。真面目に働いている人は、なかなか暇がない」

 

「じゃあ、どうして俺に暇がある?」

 

「何故だろうな、不思議だな」

 

箒は適当に答えると、そのまま腕を組んだ。

 

「南は、料理は得意なのか?」

 

「愚問だな」

 

そんな問いかけに、南は鼻で笑った。

 

目の前に並べられた食材を手でなぞるようにしながら言う。

 

「俺は料理することに命を懸けている、と言っても過言ではないぞ。それくらい好きなんだ」

 

「料理をするのが好きっていうのと、得意なのとはまた違う気がするけど……」

 

シャルロットが頬を掻きながら、苦笑いした。

 

「私は早く嫁の料理が食べたいぞ」

 

ラウラは期待に目を輝かせながら言った。

 

そんな視線に、南は大きく頷いた。

 

「そうだろう、そうだろう。では、始めるとしよう」

 

そう言うと、セシリアが勢いよく頭を下げた。

 

「よ、よろしくお願いしますっ」

 

「おう」

 

自信満々に言った南は、セシリアに包丁を渡した。

 

「じゃあ、この野菜を切ってくれ。俺はその間に、他の準備に取り掛かる」

 

「は、はいっ」

 

そう元気よく返事をしたセシリアだったが、明らかに慣れていない手つきで包丁を構える。

 

右手で包丁を握り、左手を添えるが、その左手も危なっかしい。

 

「よし、セシリア。貸してみろ」

 

早くも動き出した南が、彼女から包丁を再び受け取る。

 

「いいか?切る時はこうだ」

 

そう言いながら、南はトントンと素早く野菜を切っていった。

 

「南、すげぇじゃんか!」

 

一夏が感心の声を上げた。

 

「うむ、いい手際だ」

 

「本当、切るの上手だねっ」

 

「さすが私の嫁だ」

 

素早く包丁を動かしていた手を止めて、もう一度、セシリアに包丁を渡す。

 

同時に四人の方を振り返り、胸を張った。

 

「俺は昔から、やれば出来る子だと言われ続けてきたんだ」

 

南を無視して、四人はセシリアの方を見ている。

 

特に気にする様子もなく、南は体の向きを変えた。

 

「さあ、やってみてくれ」

 

「え、えっと……こう、ですの?」

 

見よう見まねで包丁を動かすセシリア。

 

南は「そうだな、そんな感じ」と小さく頷いた。

 

そして、鍋に水を入れ、火を沸かす。

 

「うん、今のでも充分いいんだが……」

 

それからセシリアの方へ向き直り、南はまた言った。

 

「もう少し、肩の力を抜いて……そう」

 

と、体に触れ、手に触れ指導を始める。

 

顔を赤くしながらセシリアは頷くことしか出来ず、他の女子三人は気が気でない。

 

「どうして、そんなに触れてやる必要があるんだ」

 

「ぼ、僕……包丁の使い方、忘れよっかな~、なんて」

 

「不倫か……これが不倫というやつか……」

 

しかし、包丁を持っている二人に下手なことをする訳にもいかず、三人は見ていることしか出来ない。

 

一夏は相変わらず、呑気に凄いな凄いなと連呼していた。

 

「よし、切れたな。じゃあ、その野菜は一旦置いておいて……俺が沸かしておいたお湯にだな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして一時間後。

 

教えながら、そして悪戦苦闘しながらも完成した料理に、セシリアは安堵の表情を浮かべた。

 

「や、やりましたわ……」

 

「素晴らしい出来だ。いいか? 慣れるまでは、余計なことをしない。これが唯一絶対のルールだ。一昨日のサンドイッチ、何を、どれだけ入れたかなんて覚えていないだろう? それが良くなかったんだ」

 

南は諭すように言って、息を吐く。

 

「そうですわね……わたくし、改心しましたわ!」

 

胸に手を当てて、笑顔を浮かべるセシリアに、南も頷いた。

 

「あ、あのー」

 

そこで右手を小さく挙げる者が。

 

二人が声の方を見ると、どこか空気がどんよりしているように見える。

 

「どうしたシャルロット」

 

南が言うと、シャルロットは控えめに尋ねた。

 

「これって……」

 

出来上がったものを指さしながら、言葉を探していた。

 

「普通のお鍋……だよね」

 

「しかも、出汁は鍋つゆの素じゃないか……」

 

箒も震える声で続く。

 

苦笑いする一夏と、何がいけないのか分からないラウラ。

 

そんな二人を差し置いて、箒は立ち上がった。

 

「鍋だって料理だろう? 野菜を切って、肉と鍋に入れて、味付けをする。立派に出来たな? セシリア」

 

そう言って振り返ると、彼女は嬉しそうに首を振った。

 

「料理が好きというから……てっきり、もっと手の込んだ物を作ると思っていたんだが……」

 

「俺は美味しい物を食べて欲しいだけなんだ。それに今回は、俺が料理をすることは目的ではない」

 

ハッキリ言って、胸を張る南。

 

どこに胸を張って威張れる箇所があったのか分からず、箒はため息をつく。

 

「さっきは、料理に命を懸けているって言ってなかった?」

 

シャルロットが聞いた。

 

「これだけは言っておくぞ?」

 

南がをまっすぐに彼女を見つめる。

 

「命は軽々しく懸けるものではない」

 

「先に言ったのは……」

 

南じゃないか、と続ける前に調理室の扉が開いた。

 

「やってるぅー?」

 

「お邪魔、します」

 

鈴と簪だった。

 

ズカズカと入ってくる鈴と、ちょこんと顔を出す簪に南は笑顔を作る。

 

「ちょうど今出来たんだ。皆で食べようじゃないか」

 

美味しい美味しいと鍋をつつく南とセシリア、ラウラ、鈴、簪。

 

調理の過程を見ている箒とシャルロット、一夏は苦笑いとため息しか出てこない……

 

と思っていたが、一生懸命に包丁を握り、南の言うこと全てをメモに取り、真剣な表情で鍋に具材を入れるセシリアを思い出し、優しく笑った。

 

「ま、これも料理だよなっ」

 

「そういうことにしておくか」

 

「今度は、僕がセシリアに料理教えてあげよっと」

 

そう言いながら、それぞれが鍋に向かって箸を伸ばした。

 

 

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