IS-インフィニットストラトス~一匹の蜘蛛~   作:清麿

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19.短編2.体育×倉庫

IS学園一年一組の体育の時間は月曜五限と、金曜二限にある。

 

「面倒臭いな……」

 

月曜の五限。昼食を食べた後の体育ということもあり、南のモチベーションは上がらなかった。

 

何度もあくびをし、机に突っ伏す。

 

「昼飯の後は、しっかり休みたいんだがな……サボっていいか?」

 

そんな机の隣に立つ一組のクラス代表、セシリアの方へ、南は突っ伏したまま目を向けた。

 

すると、セシリアは胸に手を当てて微笑む。

 

「駄目ですわ。わたくしがクラス代表の内は、サボりは認めません」

 

優しく諭すように言われると、南も強く言い返せない。

 

近所のお姉さんのような態度の余裕が、更に言葉を飲ませた。

 

「サボりというか……」

 

それでも何とか言い返せないものかと、南も頭を必死に動かす。

 

「休憩というか……ほら、飯の後すぐに動くと良くないだろ?」

 

「そ、れ、で、も、授業ですから」

 

メッと、人差し指を伸ばすセシリア。

 

「多分、正しいのはセシリアだ。でもな」

 

「でも?」

 

「正しいことが、人をいつも幸せにするとは限らない」

 

「あら」

 

セシリアが上品に笑った。

 

「確かに、そうですわね」

 

「そうだろ? じゃあ……」

 

「駄目です」

 

そこで南は諦めて、息を吐いた。

 

「今日の体育は、何をするんだろうね」

 

セシリアの対面に立っていたシャルロットが言う。

 

「何だろうな、ソフトボールかバスケか、ハンドボールか、サッカーか、バレーか、テニスか、バドミントンのどれかだろ」

 

「選択肢を全部言ったぞ」

 

南が適当に言うと、ラウラが隣の席から声をかけた。

 

「そう、人生の選択肢は無限に広がっている」

 

「また訳の分からない事を……」

 

シャルロットが頭を抱えた。

 

すると、正面に立っていた箒が時計を見た。

 

「そろそろ着替えに行った方がいいんじゃないか? 皆も着替え始めるだろう」

 

それにつられるように時計を見ると、五限が始まる二十分前。

 

確かにいい時間だ。

 

「まぁ、もう少しゆっくりしてから……」

 

それでも南は動かない。

 

「そんなこと言って、この前遅刻しかけていたじゃないか」

 

腕を組みながら言った箒の顔は呆れていた。

 

他の三人も苦笑している。

 

「俺だって反省はしてるんだ。努力しても結果が出ないタイプなもんでな。同情してもらいたいくらいだ」

 

「はいはい、そうだな」

 

箒が適当に返す。

 

すると、シャルロットがからかうように言った。

 

「『報われない人選手権』があったら、南は優勝候補だね」

 

「あればな。あれば優勝だ」

 

南はそれだけ言って体を起こす。

 

大きく伸びをしてからきょろきょろと辺りを見渡した。

 

「仕方ない……一夏」

 

クラスメイトの女子と話していた彼は、返事をしてから体操着を鞄から取り出した。

 

南も同じように鞄をまさぐって、立ち上がる。

 

「おっ、おりむ~とみなみんは今からお着換えですかな~?」

 

一夏の机まで行くと、クラスメイトの布仏 本音(のほとけ ほんね)、通称のほほんさんが、笑いかけてきた。

 

「まあな。セシリア嬢が体育をサボるなと言うんだ。仕方ないから着替えに行ってくる」

 

「何言ってるんだ?」

 

一夏が顔をしかめるのも気にせず、教室を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、授業始めるぞ~」

 

体育教師が言うと、クラスメイトは嬉しそうに返事をする。

 

南は無表情で立っていた。

 

グラウンド端でストレッチをして、それが終わると、グラウンドを一周軽く走る。

 

そんなウォーミングアップが終わると、教師が南と一夏に声をかけてきた。

 

「神代、織斑。倉庫からライン引きを持ってきてくれるか?」

 

「分かりました」

 

一夏は頷いて、倉庫の方へ足を向ける。南も「うす」と短く返事して、後に続いた。

 

コロコロと小さなタイヤがついたライン引きを転がしながら、二人が倉庫から戻ってくる。

 

「よし、今日はサッカーだから。そんな感じで線引いてくれ」

 

「なんて雑な指示なんだ」

 

南が顔をしかめるが、教師は気にしない。

 

「じゃあ、俺、あっちの方に引いてくるから……南は、ここ頼むな」

 

「仕方ない」

 

それだけ言うと二つのコートを作るべく、一夏が離れていく。

 

南も大きな長方形を作るために、動き出した。

 

「嫁よ、今日は何をするのだ?」

 

シャルロットとのストレッチを終えたラウラが、南の引いた線を見ながら聞いてきた。

 

「なんだろうな、当ててみろ。まあ、こんな線からは想像できないくらい過酷で、厳しいゲームだ」

 

「ふむ、その意味不明な言い回し、そして織斑一夏が向こうにも線を引いていることから、二面。そして、枠の大きさ……サッカーか」

 

言い当てられたことよりも、意味不明なと言われたことのショックに、南は何も返事をしない。

 

すると、シャルロットが後ろで手を組みながら南を覗き込んだ後、ラウラに向き直った。

 

「正解だったみたいだね。南、ぐうの音も出ないみたい」

 

「ぐう」

 

南が言うと、ラウラが満足気に微笑む。

 

「あー、ヴィッヒー。こっちこっちー」

 

間延びした声が後方から聞こえ、振り返るとのほほんさんがラウラの腕を掴んだ。

 

「今日は、私たちと同じチームなのだ~」

 

そう言うと強引にラウラを引っ張っていく。

 

抵抗する気はないのか、ずるずると引っ張られていくラウラに、南とシャルロットは苦笑するしかない。

 

その視線の先では、箒がセシリアの背中を押して柔軟を手伝っているのが見える。

 

しばらくシャルロットと話しながら線を引いていると、粉が出にくくなっていった。

 

「あ? マジか……」

 

南がライン引きを揺らすが、残念ながら粉は出てこない。

 

パンパンと叩いてみるが結果は同じだった。

 

「あらら、粉なくなっちゃったね」

 

「まだ半分しか引けてないのに」

 

言いながら、ライン引きのカバーを開けるが、残念なことに中は空になっていた。

 

「仕方ない。倉庫で足してくる」

 

軽くなったライン引きを持ち上げて、倉庫の方へ戻る。

 

「僕も付いて行ってあげるね」

 

「ちょうど、一人では不安だったんだ」

 

適当に言う南の隣を歩くシャルロット。

 

一般的な高校よりは大きな体育倉庫の中は広々としており、電気も通っている。

 

スイッチを押して明かりを点けてから、南は粉を探し始めた。

 

「えっと……どこだ……」

 

「へぇー、初めて入ったけど大きいね」

 

シャルロットは倉庫の中の方へと入っていく。

 

付いてきたのではなく、ただ倉庫に興味があっただけじゃないかと、南は苦笑する。

 

「ああ、あったあった。これだ」

 

南がラインを引く粉の入った袋を引っ張り出し、顔を上げると同時だった。

 

離れた所に立っているシャルロットの頭上、高く大きな棚に積み上げられた用具が、落ちてきそうにグラグラと揺れている。

 

あ、と南が声を出そうとした瞬間だった。

 

走り高跳びに使うであろう大きく厚みのあるマットから、先の尖ったメジャーまで様々な用具が落ちてくる。

 

「危ないっ」

 

南が言うと同時に右腕を振るう。

 

シャルロットが見上げると同時に「ひゃっ!」と悲鳴を上げた。

 

身構えて頭を庇う彼女の体に糸が巻き付き、強い力で引っ張られる。

 

その勢いのまま、体操に使われていた古いマットに二人で倒れ込んだ。

 

シャルロットが居た位置に、用具が大きな音を立てて落ちたのは、その後だった。

 

「危ないところだった……」

 

南が大きく息を吐いた。

 

そうして右腕に抱いたシャルロットの方を伺う。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん……ありがと、南ぃ……」

 

そう言って感謝の言葉を述べるシャルロットの頬は赤く、息も少し荒い。

 

南は目を見開いて、声を荒げた。

 

「どうした、どこか怪我したのか!」

 

間に合わなかったのかと不安になる南であったが、シャルロットは首を横に振る。

 

「う、ううん……南の、んんっ、おかげで……はぁ、はぁ……助かったよ……んふ」

 

そう言う彼女の頬の赤みは消えず、増すばかり。

 

息も荒くなる一方だ。

 

「じゃあ、どうしたんだ。様子が変だが……?」

 

不安な表情を浮かべたままの南。

 

「あ、あのね……あんっ……南の、糸が……あぁっ……」

 

「糸?」

 

自分の右手から続く糸を目で追う。

 

「っ!?」

 

その目線が体にたどり着いた時、気付いてしまった。

 

シャルロットに巻き付いている糸は、いわゆる亀甲縛りの形になっていて、非常に官能的になっている。

 

体の自由を程よく奪い、その豊満な胸が強調される様子に、南も動揺せざるを得ない。

 

「わ、悪いっ」

 

急いで糸を回収する南。

 

するすると体から糸が解かれるが、どこかに触れているのか、シャルロットは時々喘ぐ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

南が糸を回収し終えると、シャルロットが激しく呼吸する。

 

手で胸を押さえて、顔を赤くする彼女にどんな言葉をかけるべきか悩んだ。

 

「すまん……咄嗟だったもんで……」

 

シャルロットはすぐに返事はしなかった。

 

微妙な空気が流れる。

 

「み、南は……」

 

しばらくしてシャルロットが口を開いた。

 

「なんだ?」

 

緊張した声で聞き返した南に、シャルロットは上目遣いで、そんな彼を見つめた。

 

「ああいうのが……好き、なの……?」

 

―――SMプレイのような交尾をする蜘蛛が、存在する。

 

『カニグモ』

 

世界に約2000種が知られている徘徊性の蜘蛛。

 

蜘蛛のオスは、メスよりも体が小さく、交尾の際に食べられてしまうことがあるが、カニグモの一種は、それを防ぐためにメスの体を糸で縛り上げてから、交尾をする。

 

しかし行為が終わると、メスは何事もないように糸から抜け出し、活動を再開する。

 

つまり同意の上でのプレイであり、縛られている時は抵抗もしない。

 

その行為が一種の儀式なのか、交尾を許可する信号なのかは、謎に包まれている。

 

「い、いや! そういうわけではないぞ。た、たまたまだ。偶然だ」

 

「僕は……南が望むなら……」

 

「何を言ってるんだ、落ち着け」

 

そう言って、シャルロットから体を離さそうとした瞬間。

 

「南っ、大丈夫か!?」

 

「大きな音がしましたけど、何かありまして!?」

 

「シャルロットも無事か!」

 

箒とセシリア、ラウラが倉庫へ飛び込んできた。

 

その目に飛び込むのは、薄いマットの上で密着する二人。

 

シャルロットの呼吸は荒く、顔を赤くしたまま、涙目で三人の方を向いた。

 

「南……貴様ぁ!」

 

「ふふ……ふふふふふ……」

 

「殺す」

 

南は、思わずため息をついた。

 

「『報われない人選手権』の会場はここだったのか」

 

面白くもなさそうに顔をしかめる。

 

 

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