二週間が経った。
南は順調に『蜘蛛』によって、自分もまた一匹の蜘蛛として成長していた。
親の心配はあったが、立ち止まっている余裕はない。
そんなある日。
「お客さんだ」
茶碗を持った手を止めて、南が言った。
テーブルの向かいに座る『蜘蛛』は黙って頷いたが、手を止めることなく、箸を動かす。
扉が静かに開けられた。
入ってきたのは、大柄の男。
二メートル近い背に、太い眉、スキンヘッド。その頭にはタトゥーが入っており、果てしない威圧感を感じる。
黒い毛のついたコートも、そして靴も脱ぐことなく、二人の元に大股で歩いてきた。
「よぉ、『蜘蛛』」
「『
背後に立った大男に、『蜘蛛』は視線も向けずに言い放った。
「宴席に顔を出せと言っただろう。どうして来ない」
大男……『雀蜂』の低い声に、南は手が少し震えるのを感じた。
―――この男は、ヤバい。
息をするのも忘れて、南は『雀蜂』と『蜘蛛』を交互に見ていた。
「いつも行かないだろ。それに、俺には別の用事が出来た」
そんな『雀蜂』に臆することなく、『蜘蛛』は言葉を並べる。
コップを手に取った。
「その用事というのは、このガキか?」
「そうだ。今、鍛えている……仕事を覚えさせ、仲間に加えたい」
『蜘蛛』は南の目を見て言った。
仲間になるつもりはなかったが、南は声も出ない。
「ほう」
「ボスに頼んでくれないか?」
小さく笑った『雀蜂』に言うと、ポケットからスマートフォン……ではなく、普通の携帯電話を取り出した。
指をゆっくり動かしながら操作し、耳に当てる。
「はい、『雀蜂』です」
相手はすぐに出たようだ。
得体のしれない『ボス』の反応が悪ければ、自分は殺されるのだろうか。
そんな考えが、南の頭から離れない。
「はい……はい……」
二度三度返事した『雀蜂』は携帯を仕舞う。
少しの沈黙の後、口を開いた。
「構わないそうだ。良かったな、『蜘蛛』」
「…………」
何も答えない。
南もまた、嬉しくなかった。
「ふん。たまには宴席にも顔を出せ」
それだけ言った『雀蜂』は、体の向きを変えて、大きな体を揺らしながら家を出た。
センサーの役割を持つ糸も、今は『雀蜂』がちゃんと家を離れて行ってるのかを教えてくれない。
否、感じる事が出来なくなっている。
「もう行った」
『蜘蛛』のそんな簡潔な言葉に、南は大きく息を吐く。
体のあちこちが震えていた。
「あ、あいつは……」
上手く声が出ない。
それでも南は、『蜘蛛』に問いかけた。
「『組織』に所属する者は全員、節足動物……つまり虫の名を冠するコードネームを持っている。そして、その生物の性質に合わせた、人知を超える能力や技術を有している」
台本のようにスラスラと言う『蜘蛛』。
持っていたコップを傾けて、喉を潤す。
「俺が……そして、お前が蜘蛛であるように、さっきの男は雀蜂。『組織』のボスと唯一、連絡を取ることが出来る……」
「そのボスってのは、どんな能力……どんな虫なんだ?」
南が聞くと、『蜘蛛』は首を横に振った。
「分からない。だが、厄介なのは『雀蜂』だ。アイツには気を付けろ」
『蜘蛛』が静かにそう言うと、南は納得したように頷いた。
気を付けろと言う言葉にではない。
始末して欲しいと言っていたのは、『雀蜂』のことだと分かったからだ。
南が『蜘蛛』と出会って三か月が経った。
いつもの地下室で、南はナイフの刃を『蜘蛛』に向けていた。
その刃は、『蜘蛛』の顔の直前で止められており、脚には糸が絡みついていて、身動きは取れないようになっている。
「俺の勝ち、だな」
南はそう笑って、刃を退ける。
驚いた表情のまま『蜘蛛』は言った。
「どうして、殺さなかった……」
「言っただろう。俺は「殺し」はやらない……止めは自分で刺してくれ」
ナイフを仕舞いながら、南は答えた。
『蜘蛛』はしばらく黙っていた。
「……そうか。だが、後は銃の使い方も覚えておけ。
ポケットから小さな拳銃を取り出した蜘蛛は、マガジンを装填する。
「ああ、これか」
そう言うと、南は自分も同じようにポケットから銃を抜いた。
トリガーに指をかけて、クルクルと回す。
「どうやって見つけた」
「換気口の中、その死角……糸が教えてくれた」
南は嬉しそうに笑った。
表情を変えずに『蜘蛛』は息を吐く。
「俺の仕事をしよう……『雀蜂』を仕留めるんだろ?」
銃を再びポケットに仕舞いながら言った。
相変わらず『蜘蛛』は表情を変えない。
「分かった……明日の0時。あの日の工場に来い……段取りはそこで話す」
それだけ言って、梯子を昇っていく『蜘蛛』は結局その後、家から姿を消した。
始まりの廃工場。
南はここで暴力を受け、鉄パイプで顔面を殴られる寸前、力に目覚めた。
そこで『蜘蛛』と名乗る殺し屋に出会い、助けられた恩を返すべく、不思議な地下室がある家に三か月の間、閉じ込められ、そして遂に……
今日、全てが終わる。
南が三か月着ていた服は、全て『蜘蛛』が用意したものだった。
だが、やるべき事さえ終われば家に帰ることが出来る。
三か月ぶりに制服に身を包み、胸ポケットに銃を仕舞っていた。
件の廃工場には屋上があった。
錆びついてボロボロの扉を開けると、真正面に『蜘蛛』が屋上のタイルに座っていた。
煙草を吸いながら「遅かったな」と言う『蜘蛛』に、南はポケットに手を入れたまま歩み寄る。
「そうか? 約束の時間通りだ」
「こういう時に言い返す用の諺を教えてやる……『急ぐのは、悪魔の仕業だ』」
「何だそれ?」
南は苦笑した後、『蜘蛛』に背を向けた。
フェンス際まで歩き、そこから見える景色を眺める。
「それで? これからどうす―――」
パンッ! と銃声が鳴った。
『蜘蛛』が発砲したのだ。
しかし、その銃口の先に、南はもういない。
「俺が撃つよりも先に、一瞬だけ早く跳んだな」
扉がある物陰に隠れて、激しく呼吸する南。
ほんの一瞬の間だったが、それはまさに百メートルを走り抜けた直後のような息苦しさ。
頭が混乱する。
「ほ、本気で撃ったな! 何考えてる!」
「お前は言ったな。本気で誰も殺さないと……だが、俺は殺し屋だ。本気で誰かを殺す」
物陰に隠れているため、『蜘蛛』の姿は確認できない。
しかし、いつものように無表情で立っている事は容易に想像がついた。
「お前は強くなりすぎた。俺より腕が立つ蜘蛛は……いらない」
「アンタがそうしたんだろうが! 『雀蜂』を仕留めるために! 何ふざけたこと言ってる!」
南の混乱は収まらない。
自分をこうした本人が、何を言っているのか、理解できない。
(俺は……アンタへの恩を返すために……)
南は迷っていた。
だが、同時に思考する。
この状況を打破すべく……。
―――廃工場の屋上。
―――隠れられるのは二か所。
―――一か所は自分がいる。
―――もう一か所は未確認。
―――貰った
―――相手は、殺し屋。
―――同時に、蜘蛛
―――やられる前に、
―――やるしかない。
もう一か所、隠れられるとすればそれは、貯水タンク。
頭を少しだけ出して、確認。
先程座っていた場所にはいない。
ならば、貯水タンクの裏だろう。仕留める機会を伺っているはず……南はそこまで考えて、ナイフを取り出す。
(やるしかない)
もう一度自分に言い聞かせ、南は足を前へ。
ゆっくりと、貯水タンクへと歩いて行く。
ちょうど南が隠れていた場所と、目的のタンクの中間地点まで来て……
カチャ、と音がした。
身を潜めていた扉の上に、『蜘蛛』が立っている。
南の動きが止まった。
背後に『蜘蛛』がいる。その威圧感に、南は目大きく開いた。
少し遅れて銃声がした。
「俺の位置を見誤りながらも、糸を張り巡らせ、俺が銃を構える音まで感知するとは……」
『蜘蛛』の後ろにある月が、不気味に二人を照らしている。
「隠れる時も、攻める時も……いつでも罠を張っている、やはりお前は、俺以上の……」
そこまで言って、『蜘蛛』の口から血が噴き出た。
遅れて、ドサッと倒れ込む音がする。
先程の銃声は、南が胸ポケットから銃を抜き、制服越しに背後の『蜘蛛』を撃ったものだった。
右手に強い振動が残る。
南の頬を伝う汗が床に落ちたと同時に、振り返った。
「お、おい!」
倒れている『蜘蛛』の元へ走り込み、体を起こす。
「大丈夫か! なぁ!」
「ぐ、ふっ……お前が撃ったんだぞ……大丈夫な訳ないだろ……」
「何なんだよ……どうして、こんなこと……」
南の目から涙が溢れ、血を止めようと銃創を抑える。
「お前に、始末して欲しい奴がいると言ったな……」
『蜘蛛』の小さな声に、南は丁寧に頷いた。
「『雀蜂』のことじゃない……あれは、俺のことだ」
「え……」
「俺は、謂われない差別を受け、誰からも必要とされない、クズ同然の人生を送っていた。ずっと死にたかった……誰かに殺して欲しかった……だが、誰も彼もが俺と同じクズばかり……俺を殺す資格のある奴などいなかった」
「…………」
「だが、お前は違う。その歳で死を恐れ、それに留まらず、その中でも生にしがみつく強い心を持っている。お前に殺されるなら、本望だ」
どんどん弱くなる『蜘蛛』の声。
南は何も言うことが出来なかった。
「俺をここまでにしといて……『組織』にも目を付けられ……俺はどうすりゃいいんだよ……」
弱音が出た。
しかし、『蜘蛛』は即答する。
「何者にも、奪われるな。お前は……お前の生き方を見つけ、歩め」
『蜘蛛』は体を自分で引きずりながら、扉にもたれかかった。
南は血で染まった右手で涙を拭った。
「お前は、蜘蛛だ……蝶や蛾のように狩られることも……蜂や蟻のように個を失うこともない。蜘蛛として生きてくれ」
「俺は……アンタみたいに、強くない」
「弟子にしてくれと言ってきた奴は大勢いたが、誰一人として、そんなのは取らなかった。お前は唯一、俺が育てた―――」
最後まで言うことも出来ず、『蜘蛛』はまた血を吐いた。
支えていた手から伝わる体温が、冷たくなっていくのを感じる。
「致命傷だ。このまま放って置いても死ぬ……だから、俺を撃て……」
自分が持っていた拳銃を、南に差し出した。
首を激しく横に振る。
「ふっ……そうだった、お前は殺さないんだったな……なら、俺が自らトリガーを引こう。そうすれば、殺したことにはならないだろう」
「そんなのでいいのかよ」
溢れる涙を必死で拭いながら、震える声で言った。
「悪いが、銃を支えてくれないか……もう、トリガーを引く力しか、込められない」
『蜘蛛』が、目を閉じた。
南は両手でその手を包む。
しかし、力が入らなかった。
「何をしている……早く、してくれ」
『蜘蛛』が笑った。
最後の笑みだった。
南は両手に力を入れ、無理に笑って見せる。
「急ぐのは……悪魔の、仕業だ……」
涙を堪えることもせずに続けた。
「ふ……じゃあ、な……」
この日、三発目の銃声がした。
人が滅多に近寄ることもないそんな地帯に、南の慟哭が響く。
『蜘蛛』が死んだ後、彼と出会った時に言っていた『組織』の後処理担当である『屍出蟲』が、遺体を回収した。
『屍出蟲』はニット帽を被った初老の男だった。
血を洗い流し、家に帰ると、両親が泣きながら南に抱きついて泣いた。
制服越しに銃を撃ったため、制服に不自然な穴が開いていたが、そんなものを気にするほどの余裕はなかったようだ。
あの日、南を廃工場へ連れた上級生とクラスメイトは、いじめが発覚したこともあり退学。
腹部を『蜘蛛』によって刺された上級生に関しては、南と同じく消息不明になったらしい。
失踪届を出されていたため、警察に何度か行く羽目になったが、南の答えは曖昧であったにも関わらず、警察は深く関与しなかった。
どう考えても『組織』が絡んでいたが、それは好都合だった。
両親も何度か息子の失踪について聞いたが、同じく曖昧な返事をする彼に何も聞かなかくなった。
無事に帰って来てくれた、それだけで十分だと泣いた両親の言葉に、嘘はないだろう。
それから一か月もしないうちに、神代家は現在の田舎に引っ越すことになる。
父は仕事を辞めて、その地で農家を始めた。
静かで小さなそんな村は、新たなスタートを切るのに適していたのかもしれない。
南はその村から往復二時間かかる中学に転校。
いじめられることもなく、平穏な日々を過ごしていた。
『蜘蛛』が死に、神代 南が新たな『蜘蛛』となってから二年。
高校受験を直前に控えた冬のある日だった。
「ただいま」
「あ、おかえり。外は寒かった?」
「まぁ、冬だしな」
玄関で靴を脱ぎながら答えた南は、そのまま部屋に向かう。
襖を閉め、鞄を置いた後、静かに言った。
「誰だ?」
「私に気付くとは、さすが『蜘蛛』ですわねぇ」
南は声の方も見ずに、勉強机に腰かける。
「『組織』が呼んでますわよ」
質問に答えず、声の主である少女は言った。
「今まで全く音沙汰がなかったから、てっきり忘れてくれたと思ってたんだがな」
「馬鹿なこと言わないで欲しいですわね……ただ、殺しの仕事もせず、こんな何にもないクソ田舎に住んでる虫に、何の用があるのか、に興味が湧くのは事実ですわね」
上品な口調と、乱暴な言葉。
少女の挑発に南は乗らない。
「……断るとどうなる?」
「はんっ、この私、『ゴキブリ』が家族を皆殺しですわねぇ……」
楽しそうに言う『ゴキブリ』に、南の動きが止まった。
「いつの間にかいて、いつの間にかいない。そんな私を、罠を張ることが狩りの前提である『蜘蛛』に止められるわけが―――」
「親に手を出すな」
低い声が、笑っている『ゴキブリ』の真正面から聞こえる。
気配を感じ取るだけで、瞬時に回避行動を取ることが出来る『ゴキブリ』の目と鼻の先に瞬時に移動した南。
彼女のナイフが首元に押し付けられる。
十畳ほどある大きな部屋の端にいたはずの南が、その反対側にいた自分を捉えている事実に、『ゴキブリ』は目を丸くした。
―――ゴキブリを主食とする蜘蛛が、存在する。
『アシダカグモ』
網を張らず、歩き回って獲物を捕らえる徘徊性の蜘蛛。
この蜘蛛は、獲物を捕える際、何の策も用いない。
体毛で空気の微妙な流れから獲物の存在を感知し、発達した脚力のみで、ゴキブリを捕食する。
アシダカグモが住む家のゴキブリは、半年で全滅するという。
「は、はい……」
涙を目に浮かべ、返事をするしかない『ゴキブリ』
南はナイフを仕舞った。
「案内しろ」
「え……」
「『組織』が呼んでるんだろ?」
翌日、学校をさぼり『ゴキブリ』に連れられるまま、移動すること二時間。
とある港町の倉庫にたどり着いた。
倉庫に入ると見たことない女性が、世界を揺るがしている兵器「IS」に向かって何やら作業をしていた。
その隣には『雀蜂』と、もう一人女性が立っている。
「あーら、ゴキちゃん。お帰り~」
「来たか」
女性が振り返ると、『雀蜂』も続いた。
ISを触っている女性はこちらを見向きもしない。
「連れてきましたわ」
「何の用だ」
『ゴキブリ』が小さな声で言うと、南は『雀蜂』を睨んだ。
初めて会った時の恐怖を感じる事はない。
ゴキちゃんと呼んだ女性は、『ゴキブリ』を連れて何やら離れた所で話し始めた。
「久しぶりだな」
「用はなんだって聞いてるんだ」
「ふん……『蜘蛛』は優秀な殺し屋だった。お前のせいで、その『蜘蛛』が死んだ」
鼻で笑った後、『雀蜂』が南の周りを歩き始めた。
南は何も言わない。
「そのくせ、お前はその代わりに仕事をすることもなく、ただ静かに暮らしているだけ……ボスも何も言わなかったので不問にしていたが、遂に指示が出た」
「…………」
「あそこにある機械が何かは分かるな?」
「……ISだろ」
簡潔に答えると『雀蜂』は頷いた。
「あれは本来、女しか乗れないが、あそこにいるISの開発者、篠ノ之束博士によって男であるお前も乗れるようにしている」
「は?」
「四月から高校生になるべく、受験勉強をしているんだろう?」
何が可笑しいのか分からないが、『雀蜂』は歯を見せながら笑った。
「IS学園という、専門の特殊高校入学しろ。手続きは今進めている……かなりガードが固くてな。すぐには入学できないだろうから、転校という形になる」
南は顔をしかめた。
状況が呑み込めない。
「どうして俺なんだ?」
「さっきも言っただろ。虫であるにも関わらず、仕事をしない異端な存在が、ちょうど高校生になる歳だからだ」
「あの『ゴキブリ』に頼めばいいだろ」
「ボスはお前を指名している」
「どうして『組織』がISなんかに興味がある? そこでの目的はなんだ?」
「さあな」
納得できない表情を浮かべる南に、『雀蜂』は続けた。
「断れば、お前の家族にも危害が及ぶ、と言えばどうなる?」
笑みを浮かべたまま言う『雀蜂』に、南はナイフを取り出した。
目の前の大男に向ける。
「殺す」
「殺しはやらない、じゃなかったのか?」
「どこでそれを聞いていたのかは知らないが、物事には例外があるんだ」
「お前が大人しく従ってくれさえすれば、何もしない」
「そうして俺は、IS学園に来たって訳だ」
全てを話し終えた南は、ふっと息を吐く。
長い時間、話していた。
七人の表情は暗く、俯いてしまっている。
「心配するな。俺は『組織』に、親を人質に取られている立場だ。お前らの敵じゃない」
南が小さく笑った。
「そうじゃないだろう」
箒が立ち上がった。
「ん?」
「それじゃあ、あまりに……あまりに、お前が……」
箒の肩が震えた。
畳に水滴が落ちる。
「大丈夫だ。万が一の為に、さっきの『ゴキブリ』……めぐみをここに置いて、怪しい動きがないか監視させてるんだ」
「で、でも……そのめぐみが裏切ったら……」
鈴が顔を上げた。
その表情は不安でいっぱいになっている。
「可能性はなくはないが、その後、「南様の下僕になりますわ!」って言い出してな。IS学園に来る前にも色々と世話になったし、敵じゃないだろう」
「我が「黒ウサギ隊」にも、ここを―――」
ラウラが南の方へ駆け寄った。
そんな彼女の頭を手で押さえて、南は苦笑する。
「迷惑かけるわけにはいかない。これは俺の問題だ」
「み、南っ」
簪が、潤んだ瞳で南を捉えた。
「わ、私たちも、頼って……ほしい」
「そうですわ! 南さんに助けられてばかりのわたくし達にも、何かお手伝いさせてください!」
そう言った簪に、セシリアは続く。
南はラウラの頭から手を退けて、髪を触った。
照れ臭そうに笑う。
「そうだぞ、南! 俺はお前の味方だ」
一夏が自分の胸を叩いた。
するとシャルロットが「ああっ」と声を上げた。
「一夏は、そういう事を言うの本当早いよね……僕が言いたかったのに……」
頬を膨らませながら続ける。
「そういうのは全部、自分でやりたがるんだから」
「宇宙人がやってきたら、『どうも、どうも』と手を挙げながら、われ先にと会いに行くタイプだからな」
いつもの調子で、南が笑った。
「そうして、真っ先に撃たれちゃったりするんだね」
「早く宇宙人が来ればいいな」
南は肩をすくめる。
「湿っぽい話は終わりにしよう。『組織』の目的は分からないが、考えても仕方ないことだ」
そう言って南は、箒の涙を指ですくう。
箒はハッとして、顔を上げた。
「こんな話の後だ。気分も落ち込むだろうが、それじゃあ前に進めない……そうだろ?」
南が笑うと、遅れて箒も小さく笑った。
その表情に満足した南は、大きく体を伸ばす。
「あ、そうか」
一夏が思い出したように、人差し指を立てた。
「昨日、電話してたのが、めぐみさんだったってことか?」
「まぁ、そうだな」
一夏の言う通り、前日にめぐみに電話をし、姿を見せるなと言っていた。
結果は、ご存知の通りだが。
「『はいはい、俺も愛してるよ』って言ってなかったか?」
しまった、と南は眉をひそめる。
めぐみがいつも言ってくることに対しては、適当に返事をするようにしている。
部屋の外で電話はしていたが、切る直前にはもう部屋にいた。
それが失敗だった。
「あれはアイツが『愛してますわ』って言い出したから、適当に返してやったんだ。言い方で分かるだろ?」
「いや、実はビックリしてたんだけど、なるほどな~」
一夏が頷くと、簪が南のわき腹をつねった。
「い、痛いっ」
身を捩ろうとするが、恐ろしい表情をする六人に、南は息を飲む。
徐々に距離を詰めてくるその姿は、まさにホラー映画のようだった。
「冗談で言ったんだがな……はは……」
乾いた笑いしか出てこない南。
何か言わねばと、頭を働かせた。
しかし、その場を凌ぐような言葉も思い付かず、両手を挙げて言った。
「は、話せば分かる」