IS-インフィニットストラトス~一匹の蜘蛛~   作:清麿

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24.短編7.過去×真実③

二週間が経った。

 

南は順調に『蜘蛛』によって、自分もまた一匹の蜘蛛として成長していた。

 

親の心配はあったが、立ち止まっている余裕はない。

 

そんなある日。

 

「お客さんだ」

 

茶碗を持った手を止めて、南が言った。

 

テーブルの向かいに座る『蜘蛛』は黙って頷いたが、手を止めることなく、箸を動かす。

 

扉が静かに開けられた。

 

入ってきたのは、大柄の男。

 

二メートル近い背に、太い眉、スキンヘッド。その頭にはタトゥーが入っており、果てしない威圧感を感じる。

 

黒い毛のついたコートも、そして靴も脱ぐことなく、二人の元に大股で歩いてきた。

 

「よぉ、『蜘蛛』」

 

「『雀蜂(スズメバチ)』、何をしに来た」

 

背後に立った大男に、『蜘蛛』は視線も向けずに言い放った。

 

「宴席に顔を出せと言っただろう。どうして来ない」

 

大男……『雀蜂』の低い声に、南は手が少し震えるのを感じた。

 

―――この男は、ヤバい。

 

息をするのも忘れて、南は『雀蜂』と『蜘蛛』を交互に見ていた。

 

「いつも行かないだろ。それに、俺には別の用事が出来た」

 

そんな『雀蜂』に臆することなく、『蜘蛛』は言葉を並べる。

 

コップを手に取った。

 

「その用事というのは、このガキか?」

 

「そうだ。今、鍛えている……仕事を覚えさせ、仲間に加えたい」

 

『蜘蛛』は南の目を見て言った。

 

仲間になるつもりはなかったが、南は声も出ない。

 

「ほう」

 

「ボスに頼んでくれないか?」

 

小さく笑った『雀蜂』に言うと、ポケットからスマートフォン……ではなく、普通の携帯電話を取り出した。

 

指をゆっくり動かしながら操作し、耳に当てる。

 

「はい、『雀蜂』です」

 

相手はすぐに出たようだ。

 

得体のしれない『ボス』の反応が悪ければ、自分は殺されるのだろうか。

 

そんな考えが、南の頭から離れない。

 

「はい……はい……」

 

二度三度返事した『雀蜂』は携帯を仕舞う。

 

少しの沈黙の後、口を開いた。

 

「構わないそうだ。良かったな、『蜘蛛』」

 

「…………」

 

何も答えない。

 

南もまた、嬉しくなかった。

 

「ふん。たまには宴席にも顔を出せ」

 

それだけ言った『雀蜂』は、体の向きを変えて、大きな体を揺らしながら家を出た。

 

センサーの役割を持つ糸も、今は『雀蜂』がちゃんと家を離れて行ってるのかを教えてくれない。

 

否、感じる事が出来なくなっている。

 

「もう行った」

 

『蜘蛛』のそんな簡潔な言葉に、南は大きく息を吐く。

 

体のあちこちが震えていた。

 

「あ、あいつは……」

 

上手く声が出ない。

 

それでも南は、『蜘蛛』に問いかけた。

 

「『組織』に所属する者は全員、節足動物……つまり虫の名を冠するコードネームを持っている。そして、その生物の性質に合わせた、人知を超える能力や技術を有している」

 

台本のようにスラスラと言う『蜘蛛』。

 

持っていたコップを傾けて、喉を潤す。

 

「俺が……そして、お前が蜘蛛であるように、さっきの男は雀蜂。『組織』のボスと唯一、連絡を取ることが出来る……」

 

「そのボスってのは、どんな能力……どんな虫なんだ?」

 

南が聞くと、『蜘蛛』は首を横に振った。

 

「分からない。だが、厄介なのは『雀蜂』だ。アイツには気を付けろ」

 

『蜘蛛』が静かにそう言うと、南は納得したように頷いた。

 

気を付けろと言う言葉にではない。

 

始末して欲しいと言っていたのは、『雀蜂』のことだと分かったからだ。

 

 

 

 

 

南が『蜘蛛』と出会って三か月が経った。

 

いつもの地下室で、南はナイフの刃を『蜘蛛』に向けていた。

 

その刃は、『蜘蛛』の顔の直前で止められており、脚には糸が絡みついていて、身動きは取れないようになっている。

 

「俺の勝ち、だな」

 

南はそう笑って、刃を退ける。

 

驚いた表情のまま『蜘蛛』は言った。

 

「どうして、殺さなかった……」

 

「言っただろう。俺は「殺し」はやらない……止めは自分で刺してくれ」

 

ナイフを仕舞いながら、南は答えた。

 

『蜘蛛』はしばらく黙っていた。

 

「……そうか。だが、後は銃の使い方も覚えておけ。蜘蛛糸(スレッド)と比べれば、操作は簡単だ」

 

ポケットから小さな拳銃を取り出した蜘蛛は、マガジンを装填する。

 

「ああ、これか」

 

そう言うと、南は自分も同じようにポケットから銃を抜いた。

 

トリガーに指をかけて、クルクルと回す。

 

「どうやって見つけた」

 

「換気口の中、その死角……糸が教えてくれた」

 

南は嬉しそうに笑った。

 

表情を変えずに『蜘蛛』は息を吐く。

 

「俺の仕事をしよう……『雀蜂』を仕留めるんだろ?」

 

銃を再びポケットに仕舞いながら言った。

 

相変わらず『蜘蛛』は表情を変えない。

 

「分かった……明日の0時。あの日の工場に来い……段取りはそこで話す」

 

それだけ言って、梯子を昇っていく『蜘蛛』は結局その後、家から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

始まりの廃工場。

 

南はここで暴力を受け、鉄パイプで顔面を殴られる寸前、力に目覚めた。

 

そこで『蜘蛛』と名乗る殺し屋に出会い、助けられた恩を返すべく、不思議な地下室がある家に三か月の間、閉じ込められ、そして遂に……

 

今日、全てが終わる。

 

南が三か月着ていた服は、全て『蜘蛛』が用意したものだった。

 

だが、やるべき事さえ終われば家に帰ることが出来る。

 

三か月ぶりに制服に身を包み、胸ポケットに銃を仕舞っていた。

 

件の廃工場には屋上があった。

 

錆びついてボロボロの扉を開けると、真正面に『蜘蛛』が屋上のタイルに座っていた。

 

煙草を吸いながら「遅かったな」と言う『蜘蛛』に、南はポケットに手を入れたまま歩み寄る。

 

「そうか? 約束の時間通りだ」

 

「こういう時に言い返す用の諺を教えてやる……『急ぐのは、悪魔の仕業だ』」

 

「何だそれ?」

 

南は苦笑した後、『蜘蛛』に背を向けた。

 

フェンス際まで歩き、そこから見える景色を眺める。

 

「それで? これからどうす―――」

 

パンッ! と銃声が鳴った。

 

『蜘蛛』が発砲したのだ。

 

しかし、その銃口の先に、南はもういない。

 

「俺が撃つよりも先に、一瞬だけ早く跳んだな」

 

扉がある物陰に隠れて、激しく呼吸する南。

 

ほんの一瞬の間だったが、それはまさに百メートルを走り抜けた直後のような息苦しさ。

 

頭が混乱する。

 

「ほ、本気で撃ったな! 何考えてる!」

 

「お前は言ったな。本気で誰も殺さないと……だが、俺は殺し屋だ。本気で誰かを殺す」

 

物陰に隠れているため、『蜘蛛』の姿は確認できない。

 

しかし、いつものように無表情で立っている事は容易に想像がついた。

 

「お前は強くなりすぎた。俺より腕が立つ蜘蛛は……いらない」

 

「アンタがそうしたんだろうが! 『雀蜂』を仕留めるために! 何ふざけたこと言ってる!」

 

南の混乱は収まらない。

 

自分をこうした本人が、何を言っているのか、理解できない。

 

(俺は……アンタへの恩を返すために……)

 

南は迷っていた。

 

だが、同時に思考する。

 

この状況を打破すべく……。

 

―――廃工場の屋上。

 

―――隠れられるのは二か所。

 

―――一か所は自分がいる。

 

―――もう一か所は未確認。

 

―――貰った蜘蛛糸(スレッド)を使え。

 

―――相手は、殺し屋。

 

―――同時に、蜘蛛

 

―――やられる前に、

 

―――やるしかない。

 

もう一か所、隠れられるとすればそれは、貯水タンク。

 

頭を少しだけ出して、確認。

 

先程座っていた場所にはいない。

 

ならば、貯水タンクの裏だろう。仕留める機会を伺っているはず……南はそこまで考えて、ナイフを取り出す。

 

(やるしかない)

 

もう一度自分に言い聞かせ、南は足を前へ。

 

ゆっくりと、貯水タンクへと歩いて行く。

 

ちょうど南が隠れていた場所と、目的のタンクの中間地点まで来て……

 

カチャ、と音がした。

 

身を潜めていた扉の上に、『蜘蛛』が立っている。

 

南の動きが止まった。

 

背後に『蜘蛛』がいる。その威圧感に、南は目大きく開いた。

 

少し遅れて銃声がした。

 

「俺の位置を見誤りながらも、糸を張り巡らせ、俺が銃を構える音まで感知するとは……」

 

『蜘蛛』の後ろにある月が、不気味に二人を照らしている。

 

「隠れる時も、攻める時も……いつでも罠を張っている、やはりお前は、俺以上の……」

 

そこまで言って、『蜘蛛』の口から血が噴き出た。

 

遅れて、ドサッと倒れ込む音がする。

 

 

 

先程の銃声は、南が胸ポケットから銃を抜き、制服越しに背後の『蜘蛛』を撃ったものだった。

 

 

 

右手に強い振動が残る。

 

南の頬を伝う汗が床に落ちたと同時に、振り返った。

 

「お、おい!」

 

倒れている『蜘蛛』の元へ走り込み、体を起こす。

 

「大丈夫か! なぁ!」

 

「ぐ、ふっ……お前が撃ったんだぞ……大丈夫な訳ないだろ……」

 

「何なんだよ……どうして、こんなこと……」

 

南の目から涙が溢れ、血を止めようと銃創を抑える。

 

「お前に、始末して欲しい奴がいると言ったな……」

 

『蜘蛛』の小さな声に、南は丁寧に頷いた。

 

「『雀蜂』のことじゃない……あれは、俺のことだ」

 

「え……」

 

「俺は、謂われない差別を受け、誰からも必要とされない、クズ同然の人生を送っていた。ずっと死にたかった……誰かに殺して欲しかった……だが、誰も彼もが俺と同じクズばかり……俺を殺す資格のある奴などいなかった」

 

「…………」

 

「だが、お前は違う。その歳で死を恐れ、それに留まらず、その中でも生にしがみつく強い心を持っている。お前に殺されるなら、本望だ」

 

どんどん弱くなる『蜘蛛』の声。

 

南は何も言うことが出来なかった。

 

「俺をここまでにしといて……『組織』にも目を付けられ……俺はどうすりゃいいんだよ……」

 

弱音が出た。

 

しかし、『蜘蛛』は即答する。

 

「何者にも、奪われるな。お前は……お前の生き方を見つけ、歩め」

 

『蜘蛛』は体を自分で引きずりながら、扉にもたれかかった。

 

南は血で染まった右手で涙を拭った。

 

「お前は、蜘蛛だ……蝶や蛾のように狩られることも……蜂や蟻のように個を失うこともない。蜘蛛として生きてくれ」

 

「俺は……アンタみたいに、強くない」

 

「弟子にしてくれと言ってきた奴は大勢いたが、誰一人として、そんなのは取らなかった。お前は唯一、俺が育てた―――」

 

最後まで言うことも出来ず、『蜘蛛』はまた血を吐いた。

 

支えていた手から伝わる体温が、冷たくなっていくのを感じる。

 

「致命傷だ。このまま放って置いても死ぬ……だから、俺を撃て……」

 

自分が持っていた拳銃を、南に差し出した。

 

首を激しく横に振る。

 

「ふっ……そうだった、お前は殺さないんだったな……なら、俺が自らトリガーを引こう。そうすれば、殺したことにはならないだろう」

 

「そんなのでいいのかよ」

 

溢れる涙を必死で拭いながら、震える声で言った。

 

「悪いが、銃を支えてくれないか……もう、トリガーを引く力しか、込められない」

 

『蜘蛛』が、目を閉じた。

 

南は両手でその手を包む。

 

しかし、力が入らなかった。

 

「何をしている……早く、してくれ」

 

『蜘蛛』が笑った。

 

最後の笑みだった。

 

南は両手に力を入れ、無理に笑って見せる。

 

「急ぐのは……悪魔の、仕業だ……」

 

涙を堪えることもせずに続けた。

 

「ふ……じゃあ、な……」

 

この日、三発目の銃声がした。

 

人が滅多に近寄ることもないそんな地帯に、南の慟哭が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『蜘蛛』が死んだ後、彼と出会った時に言っていた『組織』の後処理担当である『屍出蟲』が、遺体を回収した。

 

『屍出蟲』はニット帽を被った初老の男だった。

 

血を洗い流し、家に帰ると、両親が泣きながら南に抱きついて泣いた。

 

制服越しに銃を撃ったため、制服に不自然な穴が開いていたが、そんなものを気にするほどの余裕はなかったようだ。

 

あの日、南を廃工場へ連れた上級生とクラスメイトは、いじめが発覚したこともあり退学。

 

腹部を『蜘蛛』によって刺された上級生に関しては、南と同じく消息不明になったらしい。

 

失踪届を出されていたため、警察に何度か行く羽目になったが、南の答えは曖昧であったにも関わらず、警察は深く関与しなかった。

 

どう考えても『組織』が絡んでいたが、それは好都合だった。

 

両親も何度か息子の失踪について聞いたが、同じく曖昧な返事をする彼に何も聞かなかくなった。

 

無事に帰って来てくれた、それだけで十分だと泣いた両親の言葉に、嘘はないだろう。

 

それから一か月もしないうちに、神代家は現在の田舎に引っ越すことになる。

 

父は仕事を辞めて、その地で農家を始めた。

 

静かで小さなそんな村は、新たなスタートを切るのに適していたのかもしれない。

 

南はその村から往復二時間かかる中学に転校。

 

いじめられることもなく、平穏な日々を過ごしていた。

 

『蜘蛛』が死に、神代 南が新たな『蜘蛛』となってから二年。

 

高校受験を直前に控えた冬のある日だった。

 

「ただいま」

 

「あ、おかえり。外は寒かった?」

 

「まぁ、冬だしな」

 

玄関で靴を脱ぎながら答えた南は、そのまま部屋に向かう。

 

襖を閉め、鞄を置いた後、静かに言った。

 

「誰だ?」

 

「私に気付くとは、さすが『蜘蛛』ですわねぇ」

 

南は声の方も見ずに、勉強机に腰かける。

 

「『組織』が呼んでますわよ」

 

質問に答えず、声の主である少女は言った。

 

「今まで全く音沙汰がなかったから、てっきり忘れてくれたと思ってたんだがな」

 

「馬鹿なこと言わないで欲しいですわね……ただ、殺しの仕事もせず、こんな何にもないクソ田舎に住んでる虫に、何の用があるのか、に興味が湧くのは事実ですわね」

 

上品な口調と、乱暴な言葉。

 

少女の挑発に南は乗らない。

 

「……断るとどうなる?」

 

「はんっ、この私、『ゴキブリ』が家族を皆殺しですわねぇ……」

 

楽しそうに言う『ゴキブリ』に、南の動きが止まった。

 

「いつの間にかいて、いつの間にかいない。そんな私を、罠を張ることが狩りの前提である『蜘蛛』に止められるわけが―――」

 

「親に手を出すな」

 

低い声が、笑っている『ゴキブリ』の真正面から聞こえる。

 

気配を感じ取るだけで、瞬時に回避行動を取ることが出来る『ゴキブリ』の目と鼻の先に瞬時に移動した南。

 

彼女のナイフが首元に押し付けられる。

 

十畳ほどある大きな部屋の端にいたはずの南が、その反対側にいた自分を捉えている事実に、『ゴキブリ』は目を丸くした。

 

―――ゴキブリを主食とする蜘蛛が、存在する。

 

『アシダカグモ』

 

網を張らず、歩き回って獲物を捕らえる徘徊性の蜘蛛。

 

この蜘蛛は、獲物を捕える際、何の策も用いない。

 

体毛で空気の微妙な流れから獲物の存在を感知し、発達した脚力のみで、ゴキブリを捕食する。

 

アシダカグモが住む家のゴキブリは、半年で全滅するという。

 

「は、はい……」

 

涙を目に浮かべ、返事をするしかない『ゴキブリ』

 

南はナイフを仕舞った。

 

「案内しろ」

 

「え……」

 

「『組織』が呼んでるんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

翌日、学校をさぼり『ゴキブリ』に連れられるまま、移動すること二時間。

 

とある港町の倉庫にたどり着いた。

 

倉庫に入ると見たことない女性が、世界を揺るがしている兵器「IS」に向かって何やら作業をしていた。

 

その隣には『雀蜂』と、もう一人女性が立っている。

 

「あーら、ゴキちゃん。お帰り~」

 

「来たか」

 

女性が振り返ると、『雀蜂』も続いた。

 

ISを触っている女性はこちらを見向きもしない。

 

「連れてきましたわ」

 

「何の用だ」

 

『ゴキブリ』が小さな声で言うと、南は『雀蜂』を睨んだ。

 

初めて会った時の恐怖を感じる事はない。

 

ゴキちゃんと呼んだ女性は、『ゴキブリ』を連れて何やら離れた所で話し始めた。

 

「久しぶりだな」

 

「用はなんだって聞いてるんだ」

 

「ふん……『蜘蛛』は優秀な殺し屋だった。お前のせいで、その『蜘蛛』が死んだ」

 

鼻で笑った後、『雀蜂』が南の周りを歩き始めた。

 

南は何も言わない。

 

「そのくせ、お前はその代わりに仕事をすることもなく、ただ静かに暮らしているだけ……ボスも何も言わなかったので不問にしていたが、遂に指示が出た」

 

「…………」

 

「あそこにある機械が何かは分かるな?」

 

「……ISだろ」

 

簡潔に答えると『雀蜂』は頷いた。

 

「あれは本来、女しか乗れないが、あそこにいるISの開発者、篠ノ之束博士によって男であるお前も乗れるようにしている」

 

「は?」

 

「四月から高校生になるべく、受験勉強をしているんだろう?」

 

何が可笑しいのか分からないが、『雀蜂』は歯を見せながら笑った。

 

「IS学園という、専門の特殊高校入学しろ。手続きは今進めている……かなりガードが固くてな。すぐには入学できないだろうから、転校という形になる」

 

南は顔をしかめた。

 

状況が呑み込めない。

 

「どうして俺なんだ?」

 

「さっきも言っただろ。虫であるにも関わらず、仕事をしない異端な存在が、ちょうど高校生になる歳だからだ」

 

「あの『ゴキブリ』に頼めばいいだろ」

 

「ボスはお前を指名している」

 

「どうして『組織』がISなんかに興味がある? そこでの目的はなんだ?」

 

「さあな」

 

納得できない表情を浮かべる南に、『雀蜂』は続けた。

 

「断れば、お前の家族にも危害が及ぶ、と言えばどうなる?」

 

笑みを浮かべたまま言う『雀蜂』に、南はナイフを取り出した。

 

目の前の大男に向ける。

 

「殺す」

 

「殺しはやらない、じゃなかったのか?」

 

「どこでそれを聞いていたのかは知らないが、物事には例外があるんだ」

 

「お前が大人しく従ってくれさえすれば、何もしない」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうして俺は、IS学園に来たって訳だ」

 

全てを話し終えた南は、ふっと息を吐く。

 

長い時間、話していた。

 

七人の表情は暗く、俯いてしまっている。

 

「心配するな。俺は『組織』に、親を人質に取られている立場だ。お前らの敵じゃない」

 

南が小さく笑った。

 

「そうじゃないだろう」

 

箒が立ち上がった。

 

「ん?」

 

「それじゃあ、あまりに……あまりに、お前が……」

 

箒の肩が震えた。

 

畳に水滴が落ちる。

 

「大丈夫だ。万が一の為に、さっきの『ゴキブリ』……めぐみをここに置いて、怪しい動きがないか監視させてるんだ」

 

「で、でも……そのめぐみが裏切ったら……」

 

鈴が顔を上げた。

 

その表情は不安でいっぱいになっている。

 

「可能性はなくはないが、その後、「南様の下僕になりますわ!」って言い出してな。IS学園に来る前にも色々と世話になったし、敵じゃないだろう」

 

「我が「黒ウサギ隊」にも、ここを―――」

 

ラウラが南の方へ駆け寄った。

 

そんな彼女の頭を手で押さえて、南は苦笑する。

 

「迷惑かけるわけにはいかない。これは俺の問題だ」

 

「み、南っ」

 

簪が、潤んだ瞳で南を捉えた。

 

「わ、私たちも、頼って……ほしい」

 

「そうですわ! 南さんに助けられてばかりのわたくし達にも、何かお手伝いさせてください!」

 

そう言った簪に、セシリアは続く。

 

南はラウラの頭から手を退けて、髪を触った。

 

照れ臭そうに笑う。

 

「そうだぞ、南! 俺はお前の味方だ」

 

一夏が自分の胸を叩いた。

 

するとシャルロットが「ああっ」と声を上げた。

 

「一夏は、そういう事を言うの本当早いよね……僕が言いたかったのに……」

 

頬を膨らませながら続ける。

 

「そういうのは全部、自分でやりたがるんだから」

 

「宇宙人がやってきたら、『どうも、どうも』と手を挙げながら、われ先にと会いに行くタイプだからな」

 

いつもの調子で、南が笑った。

 

「そうして、真っ先に撃たれちゃったりするんだね」

 

「早く宇宙人が来ればいいな」

 

南は肩をすくめる。

 

「湿っぽい話は終わりにしよう。『組織』の目的は分からないが、考えても仕方ないことだ」

 

そう言って南は、箒の涙を指ですくう。

 

箒はハッとして、顔を上げた。

 

「こんな話の後だ。気分も落ち込むだろうが、それじゃあ前に進めない……そうだろ?」

 

南が笑うと、遅れて箒も小さく笑った。

 

その表情に満足した南は、大きく体を伸ばす。

 

「あ、そうか」

 

一夏が思い出したように、人差し指を立てた。

 

「昨日、電話してたのが、めぐみさんだったってことか?」

 

「まぁ、そうだな」

 

一夏の言う通り、前日にめぐみに電話をし、姿を見せるなと言っていた。

 

結果は、ご存知の通りだが。

 

「『はいはい、俺も愛してるよ』って言ってなかったか?」

 

しまった、と南は眉をひそめる。

 

めぐみがいつも言ってくることに対しては、適当に返事をするようにしている。

 

部屋の外で電話はしていたが、切る直前にはもう部屋にいた。

 

それが失敗だった。

 

「あれはアイツが『愛してますわ』って言い出したから、適当に返してやったんだ。言い方で分かるだろ?」

 

「いや、実はビックリしてたんだけど、なるほどな~」

 

一夏が頷くと、簪が南のわき腹をつねった。

 

「い、痛いっ」

 

身を捩ろうとするが、恐ろしい表情をする六人に、南は息を飲む。

 

徐々に距離を詰めてくるその姿は、まさにホラー映画のようだった。

 

「冗談で言ったんだがな……はは……」

 

乾いた笑いしか出てこない南。

 

何か言わねばと、頭を働かせた。

 

しかし、その場を凌ぐような言葉も思い付かず、両手を挙げて言った。

 

「は、話せば分かる」

 

 

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