IS-インフィニットストラトス~一匹の蜘蛛~   作:清麿

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27.人脈は、変なところで生きる

「嫁のISでは、ここまでは届かないだろう!」

 

ラウラが高度を上げながら笑う。

 

肩のレールカノンを放ち、地上を走る南を捉えんと照準を動かし続けた。

 

走りながら、ラウラを見上げていた南は一瞬目を切ってから、ターン。

 

体の向きを変え、逆に走り込み、跳んだ。

 

「なっ!?」

 

異常な高さまで跳び上がった南に、ラウラが目を丸くした。

 

ISの標準装備である飛行機能がない『フィアー・スパイダー・ロージング』が、今まさに上空高く舞うラウラを捉えようとしていた。

 

―——跳躍。

 

それは、クモ類最多種別『ハエトリグモ』の得意技である。

 

獲物を発見し、狙いを定めると同時に脚部血圧が上昇。

 

自身の20倍もの高さまで跳び、捕食する。

 

その脅威の跳躍力からか、ハエトリグモは英名を『ジャンピング・スパイダー』という。

 

「くっ!」

 

AICを起動させようと、右手を伸ばすがもう遅い。

 

ハエトリグモが跳躍した時には、もう勝負はついている。

 

 

 

 

 

夏休みが開けた。

 

その初日から、実践演習をやらされていた南は、更衣室で一人項垂れていた。

 

「久しぶりすぎて疲れた……」

 

長い休暇の間、ほとんど体を動かしていなかった南。

 

既に千冬から、先に上がっていいと言われ、更衣室に入ってから五分は経ったが、軽く息が切れていた。

 

「っ!」

 

息を吐いた瞬間、背後に気配を感じた。

 

仕舞っていたナイフを素早く抜き、立ち上がる。

 

振り返ると同時に構えた。

 

「ありゃ、気付かれちゃった?」

 

少女が立っている。

 

簪と同じ髪の色。制服の上着をベスト風に改造してある少女は、悪戯がバレた子供のような笑顔を南に向けていた。

 

「アンタは? 『組織』の人間か?」

 

南の低い言葉にも、少女の表情は変わらない。

 

懐から、閉じられた扇子を取り出した。

 

「そうだとしたら、どうする?」

 

楽しそうな顔に、愉快気な声。

 

南の警戒度が高くなる。

 

「目的を言ってもらう。何しに来た?」

 

「さて、なんでしょう?」

 

両手を広げた少女に、南はナイフを仕舞った。

 

低くしていた姿勢をやめ、立ち上がる。

 

「言う気がないならいい」

 

南は冷たく言って、自分の荷物を手にして背を向けた。

 

更衣室を出ようと少しだけ歩くが、ふと立ち止まる。

 

「やっぱり一つだけ聞いていいか?」

 

「うん、いいわよ。なーんでも聞いて?」

 

甘い声を出す少女だが、南は振り返ることもしない。

 

「アンタは何の虫だ?」

 

「は? 虫?」

 

素っ頓狂な声を出す少女。

 

流石の南も、その反応には眉を顰めて振り返った。

 

「いやだから、アンタも虫だろ?」

 

「………………」

 

目を丸くしていた少女だったが、次第にその目つきが鋭くなる。

 

「おねーさん、初めてだわ……初対面の男の子に、虫呼ばわりされたのは………」

 

肩が震えていた。

 

それが怒りから来ているものだというのは、容易に分かる。

 

「違うのか?」

 

南が首を傾げると、同時に少女が跳ねた。

 

一瞬にして南との距離を縮め……ようとして、失敗した。

 

何かに足を引っかけ、盛大に転んだのだ。

 

それが、南が仕掛けた糸であることは言うまでもない。

 

「……大丈夫か?」

 

南が笑いを堪えながら言った。

 

少女は動かない。

 

「あ、もうこんな時間じゃないか。次は織斑先生の授業なんだ。失礼する」

 

付けてもない腕時計を見るフリをして南は駆け出した。

 

 

 

 

 

 

その翌日。

 

全校集会の為、生徒がホールに集められていた。

 

腕を組んで、前方を見つめていた南の肩がちょんちょんと突かれる。

 

「ん?」

 

振り返ると、箒が心配そうに南を見つめていた。

 

「どうした、箒」

 

組んだ腕はそのままで、笑いかける。

 

箒は頬を赤くしていたが、薄暗いホールではそれも目立たない。

 

「い、いやな……難しい顔をしていたから、どうかしたのかと……」

 

ボソボソと恥ずかしそうに言う箒。

 

南は笑みを崩さずに答える。

 

「何も心配することはない。ただ昨日、謎の女生徒と更衣室で遭遇してな」

 

「女生徒?」

 

「ああ、『組織』の人間かと聞いたら、何も答えなかったんだ。だから何の虫か、と聞いたら走り込んで来て、で転んだ」

 

「意味が分からん」

 

箒が頭を抱える。

 

「いきなり組織とか、虫とか言っても分からないよ、南」

 

南の隣でシャルロットが言った。

 

「南が蜘蛛で、沖……さん? がゴキブリ。大きなスキンヘッドの人がオオスズメバチ……『組織』は皆、虫の能力を持っているって……僕たちは教えてもらったから知ってるけど、その女生徒さんは分からなかったんじゃないかな」

 

「じゃあ、どうして俺が『組織』の人間か? と聞いた時、否定しなかったんだ?」

 

「まさかそんなに危ない集団だとは思わなくて、南をからかってるつもりだったんだよ……ここでは、男の子は特別なんだから」

 

シャルロットが諭すように言うと、それはまさに母親に軽く叱られているような気分だ、と南は思った。

 

自然と腕を組むのをやめ、後ろに回す。

 

「何も知らない女の子に虫って……南は酷いことを言ったんだよ?」

 

「すぐに名乗らないアイツが―――」

 

「南?」

 

「……俺が悪かった」

 

ますます怒られている感が強くなって南は拗ねた表情をする。

 

「まぁシャルロット、許してやれ。嫁だって反省しているんだ」

 

そんな南に助け舟を出したのがラウラだった。

 

シャルロットの肩を軽く叩く。

 

「嫁、反省しただろう?」

 

「ああ」

 

二度三度頷く南。

 

その真剣な表情にシャルロットと箒は笑いそうになる。

 

「では、次に会った時はちゃんと謝るんだぞ」

 

「分かった」

 

「南はやれば出来る子だからな」

 

南が頷くと、前に立っていた一夏が振り返って言った。

 

一連の会話を聞いていたのか、ニヤニヤしている。

 

「そうだ、昔からそう言われて育ってきた。『蜘蛛』も俺のことはそう言って育てたんだ」

 

胸を張る南に、一夏の表情が曇った。

 

「皮肉で言ったんだよ」

 

「なら、分かりやすく紙にでも書いてくれ」

 

南が言うと、スピーカーから声がした。

 

『それでは、今月行われる文化祭について、生徒会から説明させていただきます』

 

そんな声で、騒がしかったホールは静まり、全員が前方の舞台を向く。

 

すると、袖から足音を立てながら、ゆっくり歩いてくる少女が。

 

壇の前に立つと、そこに手をついた。

 

「昨日はすみませんでした」

 

南が小声で言って頭を下げた。

 

「えっ?」

 

シャルロットが、驚いた声を出す。

 

箒とラウラも同じだった。

 

「あの人だ」

 

南は頭を軽く振って、壇上の少女を指した。

 

「昨日、更衣室で会った」

 

「さてさて、今年は色々と立て込んで、ちゃんとした挨拶がまだだったね。私の名前は更識楯無……君たち生徒の長よ。以後、よろしく」

 

南は出来るだけ目を合わせないようにしていた。

 

バレないようにしていると、緊張で何を話しているのかも分からない。

 

笑顔で挨拶した彼女の容姿は、異性同性関係無く魅了するらしく、あちこちから熱っぽいため息がした。

 

「では、今月の一大イベント学園祭だけど、クラスの出し物は皆、頑張って決めるようにね」

 

軽く目を伏せて、袖へと戻る間際、楯無と目が合った。

 

南がしまったと、思った時にはもう遅い。

 

強く睨まれ、そのまま袖へと消えて行った。

 

「さっきの謝罪は聞こえなかったか」

 

南が肩を落とす。

 

 

 

 

 

「それでは、わたくしたち一年一組の出し物は、この中から決めますわよ!」

 

セシリアが黒板を叩いた。

 

「神代 南and織斑 一夏のホストクラブ」

「神代 南and織斑 一夏とツイスター」

「神代 南and織斑 一夏と王様ゲーム」

「神代 南and織斑 一夏がポッキーゲーム」

 

列挙された案に、一夏が立ち上がった。

 

「決めますわよ、じゃなーい!」

 

えーっ! と非難の声が飛び交う。

 

一夏は一瞬怯んだが、それでも態勢を立て直した。

 

「百歩譲って、最初の三つはまだいいよ! 最後! 俺と南がポッキーゲームしてどうすんだよぉ! 流れで言えば、俺達と客がやるんじゃないのか!?」

 

「分かってないな~、織斑くんは!」

 

「そうそう」

 

「男の子二人がやるからいいんじゃない」

 

女子のそんな声に、一夏の表情は歪むばかり。

 

最前列で一夏が抗議する中、南は一番後ろの席で腕を組んでいた。

 

「嫁は抗議しなくていいのか?」

 

隣のラウラが言う。

 

「効果はなさそうだ」

 

そう言って、椅子を後ろ足の二本で支えて、教室後方のロッカーに倒す。

 

プラプラとしながら、その隣で頭を抱えていた千冬の方を向いた。

 

「織斑先生は、一夏とツイスター派ですか?」

 

「馬鹿なことを言うな……はぁ、どうして私の受け持つクラスはこうも馬鹿ばかりなんだ」

 

教室はどんどんとヒートアップしていき、騒がしくなる。

 

あれがいい、これがいいと無法地帯のようだ。

 

「どうにかしてこい」

 

千冬が頭を抱えながら、ため息をつく。

 

「どうやって」

 

南が教室を見渡しながら言った。

 

「それは自分で考えろ。市民が『犯罪を減らしてください』と頼んで、警官が『どうやって』なんて聞かないだろ」

 

「確かに」

 

「ふん」

 

納得した南に満足した千冬。

 

すると、ラウラが小さく手を挙げた。

 

「ラウラさん? 何か意見がありまして?」

 

「メイド喫茶はどうだ?」

 

セシリアが尋ねると、ラウラが続けた。

 

「客ウケはいいだろう。それに、飲食店は経費の回収が行える」

 

熱くなっていた一組が、そんな冷静な意見に落ち着きを取り戻した。

 

「俺の優秀な夫が、やりました」

 

自信に満ち溢れた顔で千冬を見る南。

 

千冬は、冷たい眼差しで南を見下した。

 

一夏が席につき、その隣でシャルロットが顎に手をやった。

 

「うん……いいんじゃないかな。南と一夏には、執事か厨房を担当してもらえばオーケーだよね?」

 

「メイド服どうする? 私縫えるけど、全員分はちょっと……」

 

クラスメイトの岸原 理子が苦笑いする。

 

「どこかから借りないといけないかな?」

 

「それだと、経費がかなり必要になるね」

 

一つが決まれば、また別の問題が生じる。

 

ラウラもそれは確かに大変だ、と眉を顰めた。

 

「俺にアテがある」

 

そう言って立ち上がったのは南だった。

 

え……と驚きの声が上がった後、少し引いたような冷たい、え……が聞こえる。

 

「……変な趣味はないぞ?」

 

奇異の眼差しを向けられ、南が慌てたように手を振った。

 

隣で千冬が笑いを堪えている。

 

夏休みに、コスプレ喫茶で強盗犯が立て籠もる事件が起こった。

 

その現場に居合わせた南は、アルバイトの少女の命を助け、その娘の財布を届けたことがある。

 

店のコスチュームには、メイド服もあった。

 

それを利用しない手はない。






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