IS-インフィニットストラトス~一匹の蜘蛛~   作:清麿

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34.明かされる事実

「俺に任せろ!」

 

そう叫んだ一夏のIS「白式」の変化に、南とエムの二人は驚きを隠せない。

 

「……セカンド」

 

「シフトだと……」

 

南が呟くと、それに重ねるようにエムが苦しい表情を浮かべた。

 

倒れていた体をゆっくり起こしながら、南は笑う。

 

「遅いじゃないか」

 

「立ち直るのはゆっくりでいいって言ったじゃんか」

 

一夏も似たような笑みを浮かべながらそう言い返した。

 

「白式」の左腕装甲に装備された多機能武装腕「雪羅(せつら)」が近接格闘用のブレードを展開。

 

軽くそれを振るい、南の方を見ることもなく一夏が口を開いた。

 

「見ててくれ、南。俺がアイツを仕留める」

 

そんな頼もしい言葉に、一瞬座り込みそうになった南だったが、足に力を入れて踏ん張った。

 

「いや、俺はのほほんさんを追うよ。セシリア達が気になる」

 

「でもその体じゃ……!」

 

「心配するな。俺なら大丈夫だ」

 

フラフラとおぼつかない足元を手で軽く叩き、前を見据える。

 

その目はいつも通り、しっかりと世界を捉えていた。

 

「……分かった、ここは俺に任せろ」

 

一夏がエムを睨んだ。

 

そんなエムは、俯いたまま肩を震わせていた。

 

ただでさえ分からない表情に加え、下を向くことで、その視線を感じる事も出来ず、不気味さが増していた。

 

「……ろす……ころ………やる………」

 

小さなエムの呟きは、二人には届かない。

 

「アイツ、何を……」

 

警戒する一夏に、南はいつもと変わらない口調で続けた。

 

「落とした財布か、ピーターパンに切られた腕でも探してるんだろ」

 

「フック船長の腕はワニに食べられたんだぞ。冗談言うなら正確に言ってくれ」

 

呆れたように表情を緩ませた一夏だったが、同時にエムが顔を上げた。

 

急加速し、二人の方へと突進する。

 

「つまらん事を抜かすなぁ!」

 

激昂するエムの一撃を、一夏が受け止めた。

 

「イエッサー、船長」

 

軽く敬礼した南は、それだけ言って踵を返した。

 

校舎の方……本音が歩き去った方向へ走り出す。

 

「くっ! 待て!」

 

「いや、待つのはお前だよ」

 

受け止めていたブレードを上へ突き上げて、蹴りを放つ。

 

一夏の追撃を弾くエムに、南を追うことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

千冬は地下にある通路を歩いていた。

 

そんな通路を抜けて広間のようになっている薄暗い空間には、IS学園が有する無数の兵機が並んでいる。

 

実践で使える物から、実験途中の物まで。様々に並んだ兵器の合間を縫って足を進める。

 

奥にあるロッカーのような箱の前で足を止めて、右手を液晶に伸ばした。

 

暗かった画面がパッと明るくなり、一から九と三マスずつ並んだ暗証番号を打ち込む画面が表示される。

 

細長い人差し指で、スムーズに十六桁の番号を打ち込む。

 

すると今度は、網膜センサーがちょうど千冬の目線の高さに現れた。

 

目を特別見開くこともなく、千冬はじっとセンサーを見つめる。

 

やがて、赤に光っていたランプが緑に代わり、ロックが解除される音がした。

 

取っ手部分を引くと、中に入っていたのは……。

 

「何をコソコソと隠れている……出てくればいいだろう」

 

千冬は背後に向かって声を上げた。

 

そうしながらもロッカーの中から、ある物を取り出す。

 

「気付いていましたか……」

 

少量の明かりしかない広間の物陰から姿を現したのは、制服姿の女生徒。

 

丸い眼鏡にヘアバンド、髪を三つ編みにしている彼女は、冷たい笑みを浮かべながら千冬を捉えていた。

 

「お前が今回の騒動を引き起こした黒幕か、布仏(うつほ)……いや、『グンタイアリ』」

 

「やはり、貴女を出し抜くことなど出来ないのですね……流石は世界最強」

 

「妹までもを自分の能力にかける外道に褒められても……嬉しくないな」

 

千冬はそう言いながら、履いていたパンプスを脱ぎ捨てた。

 

そして、ロッカーから取り出した「ブーツ」を地面に置き、足を入れる。

 

「更識家に代々仕える布仏の人間が、どうしてこんなことを?」

 

ブーツのジッパーを上げ、ベルトを締めながら聞く千冬だったが、興味があるようには見えなかった。

 

それでも布仏本音の姉、虚は口を不気味に歪めて笑った。

 

「言っても分かりませんよ……貴女には……」

 

虚が自身の能力に気付き、更識という暗部に使える家系でありながら、『組織』の虫としても価値があると見出されたのは偶然と奇跡の連続だった。

 

『グンタイアリ』の力があれば、全てが意のまま。

 

操れない人間はおらず、「ほんの試し」に唾液を飲ませた妹ですら、簡単に言いなりになった。

 

それにも関わらず、更識の人間に仕えさせられ様々な身の回りの援助をさせられる日々。

 

同時に『組織』にも目的が不明のまま、こき使われる立場。

 

虚には我慢できなかった。否、その必要を感じなくなった。

 

そこで思い付いたのが、このIS学園を支配すること。

 

ただでさえ、このIS学園というのは世界における立ち位置や関係が不安定で、ある意味危ない特殊な存在。

 

そんな学園を狙う輩など無数に存在し、今回、手を組むことになった亡国機業など、その一つでしかない。

 

そして、このIS学園に対するテロ行為は『組織』に対する裏切りも意味していたが、この学園を全て支配することが出来るのならば、それも構わないと虚は踏んだ。

 

例え、『組織』であっても対等以上に闘える。虚の反抗心と己の能力に対する絶対の自信が、今回の事件を引き起こしたのだ。

 

「それで? 私をどうするおつもりですか?」

 

虚が一歩ずつ前へと足を踏み出した。

 

「洗脳することが出来るのなら、それを解除することも可能だろう?」

 

「ええ、可能です」

 

「では、そうしてもらおうか」

 

千冬は履き終えたブーツのつま先をトントンと軽く打ち付けながら言った。

 

その表情からは余裕が感じ取れる。

 

「はい分かりました……なんて言う訳がないでしょう! 貴女にも私の唾液を飲んでもらいます……ふふ……」

 

徐々に詰められる距離。

 

いつでも戦闘状態になれるその距離で、虚は叫んだ。

 

「行け! メディア!」

 

群れの中でも、狩りを担当する役職の名を告げた途端、千冬の両脇から影が伸びた。

 

洗脳状態にあった二人の教員は、対IS兵器にも使われる刀剣を振り上げながら猛進。

 

しかし千冬は、慌てることもなくその両サイドからの剣戟を避けた。

 

同時に片方の顔面に蹴りを入れる。

 

鼻から血が吹き出し、派手に真後ろに吹き飛んだ。

 

そんな様子を見ることもなく、もう片方の肩を掴み、頭を壁に打ち付ける。

 

そのまま背負い投げの形で投げ飛ばした。

 

ふっと息を吐いた瞬間、その腰元に衝撃を受けた。

 

虚が飛びついたのだ。

 

バランスを崩した千冬は、そのまま倒れ込む。

 

しかし、馬乗りになった虚の嗜虐的な笑みを見上げながらも、表情を変えることはなかった。

 

「貴女を取れ(支配すれ)ば、この学園は貰ったも同然。本音ではなく、私自ら唾液を飲ませて差し上げます」

 

そう言った虚は、千冬が浮かべる微笑に眉を顰めた。

 

「何を笑っているんです……」

 

「いや、こうして体を倒されたのは久しぶりだと思ってな」

 

千冬の懐かしむような表情が、虚を更に不快にさせた。

 

(今から私の……『グンタイアリ』の兵になるというのに……この余裕は一体……)

 

「あれは、第一回のモンド・グロッソ予選の予選……二回戦以来だな……天候も悪く、観客もほとんどいない中での試合だった」

 

自分が倒されている状況など、まるで気にしていない様子で語る千冬。

 

しかし、虚は何を言っているのかなど、気にしている場合ではなかった。

 

(ま、待て……! どうしてこの人(織斑千冬)は、私のことを『グンタイアリ』と呼んだ!? 神代 南も私も、『組織』や虫のことは話していないはず!……ま、まさか……)

 

「良いことを教えてやろう。私の……芋虫(イモムシ)の戦いは、倒れてからが本番だ」

 

「な、なっ……」

 

砲台固定(アンカーボルトキャタピラー)

 

千冬が呟くと、履いていたブーツに仕込まれたボルトが、地面に食い込んだ。

 

足元が固定される。

 

重爆(キャノン)

 

激しく勢いを乗せて起き上がり、虚の顔面に頭突きを食らわせた。

 

「うがぁっ」

 

唐突な起き上がり際の攻撃に、虚の体が宙に浮く。

 

芋虫とは、円筒形の形をし、多数の爪を有した疣足を持つ昆虫の幼生形態である。

 

様々なスタイルを持ってして、厳しい自然界を生きる虫。

 

毒を持ち、角を持ち、力を持ち、脚力を持ち、特殊な機構を持った成虫は、定められた環境や条件に適応し活動する。

 

しかし芋虫は、極限まで単純化された構造の中に、環境を選ばず生き抜く適応能力を備えている。

 

そんな芋虫に攻撃性はあるのか……?

 

答えは、イエス。

 

主に葉を食べる草食性に、数多くの天敵。

 

常に、弱々しく虫のなり損ないであると思われがちだが、真実は違う。

 

―――草食性で獲物側なイメージを払拭する、完全肉食で捕食側の芋虫が、存在する。

 

Carnivorous Caterpillar(カニヴァラス キャタピラー)

 

ハワイ固有のシャクガ科の幼虫の一種である。

 

その捕食スタイルは他の虫と遜色ない、一瞬で仕留める完璧な狩り。

 

まず、木の葉や枝などに擬態して獲物を待つ。

 

そして獲物が通りかかった瞬間、瞬時に身体を屈曲させ捕らえる。

 

ハエやガ、コオロギ、ゴキブリまでも餌食とする肉食幼虫なのである。

 

「ふん、たかだかアリ如きが、芋虫に挑もうなど……」

 

髪をかき上げながら、千冬は歯を見せずに笑う。

 

「約四億年、早い」

 

 

 

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