IS-インフィニットストラトス~一匹の蜘蛛~   作:清麿

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37.寂しさを埋めるゲーム

久しぶりに自分以外の誰かが部屋にいるという状況が楽しみな南は、大声で歌いながら自動販売機でジュースを買っていた。

 

「ラウラの好きな飲み物が分からん……適当に色々買うか」

 

札を投入し、連続で色々なボタンを押す。

 

鞄の中に、取り出したジュースを詰めて寮の方へ歩き出した。

 

「ん?」

 

そんな寮へ続く道中にある掲示板に、一夏が何やらチラシを貼っていた。

 

隣に本音はいない。

 

「一夏」

 

南が声をかけると、一夏は「おう」と笑顔で言いながらまた画鋲を刺していく。

 

「悪い、今日も先に寝ててくれ」

 

「ああ、それはいいが……生徒会の手伝いでチラシ貼りとは……地味だな」

 

「本当はのほほんさんとやる予定だったんだけどさ。楯無さんが二人で話があるからって、俺一人なんだ」

 

一夏は「参っちゃうよな」と苦笑しながら、慣れた手つきで掲示板を埋めていった。

 

何気なく目に入った一枚を注視した南はそれを読み上げた。

 

「なになに……『社会的な不安や、急な発作、抑えられないパニック症状など、お悩みは生徒会へ!』……すごいチラシだな」

 

真顔のまま言った南に、一夏が頷く。

 

「楯無さんに言われて俺が作ったんだ」

 

「生徒会の前に、病院に行った方がいいだろ」

 

南のもっともな意見に、一夏が再び頷いた。

 

「そうだ、今日はラウラが部屋に来るんだ。一応、同室のお前には言っておかないとな」

 

ふと思い出した南が言うと、一夏が目を輝かせた。

 

同時に、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「ほー、南もやるじゃん」

 

「何がだ?」

 

「女子を部屋に入れるなんてさ」

 

このこのと肘を突く一夏が腹立たしい南は、鬱陶しそうに顔をしかめると同時に、忘れていた感覚を思い出し、スッキリした。

 

「やっぱり必要ないな」

 

「ん? 何か言ったか?」

 

ボソッと呟いた南に、一夏が聞く。

 

小さく首を振った南は、言わないでおこうとしていた本音との関係を問うことにする。

 

「そういうお前はどうなんだ。のほほんさんと上手くやってるのか?」

 

「は、え、えぇ!?」

 

分かりやすく頬を赤くし、飛び退いた一夏。

 

南は苦笑したまま尋ねる。

 

「分かりやすいにも程があるだろ」

 

「な、なな、何がだよ」

 

「付き合ってるんだろ?」

 

「ち、ちがっ、違う違う。付き合ってない!」

 

「じゃあ、付き合わないのか」

 

「い、いやー、それは、その……」

 

「……なら、俺が狙ってもいいか?」

 

南が鞄を肩から降ろし、ポケットに手を入れた。

 

そんな南の言葉に、一夏が目を見開く。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! それも困るというか……」

 

「冗談だ。早く告白でも何でもすればいいだろう」

 

夕日が照らすIS学園。南と一夏の周りには誰もいない。

 

風が吹いた。

 

本格的な秋の風が、二人の間を流れる。

 

「そ、そうだけど……てか、何で俺がのほほんさんのこと、その……アレだって分かったんだよ」

 

アレなんていう言葉で誤魔化す一夏に、南はため息をついた。

 

どこまでも面倒くさい男だと内心で思う。

 

「見てれば分かる。専用機持ちは皆知ってるぞ」

 

「う、うわぁ……隠しときたかったのにぃ……えぇ、マジかー……そんな、皆知ってるって、嘘だろぉ……いやぁ、え? んー! ちょっと待ってくれ、ええぇ~。そっか、皆かぁ! 皆なんだな……はぁー、くっそー、バレたかぁ!」

 

一人でウロウロと歩き回り出した一夏の様子がおかしくて、南は笑いを堪えるのに必死だった。

 

噴き出しそうになるのを懸命に抑える。

 

「一夏、いいことを教えてやろう」

 

「え?」

 

そう言いながら南は、掲示板のチラシを強引に引っ張って、一夏に見せつけた。

 

可愛らしくマスコットのようになった楯無のキャラクターが、漫画の噴き出しのように話している箇所を指さす。

 

「お悩みは生徒会室へ」

 

 

 

 

 

 

 

夜の七時ちょうどに、南の部屋の扉がノックされた。

 

はいはい、と言いながら扉を開けると、そこには黒猫の着ぐるみのようなパジャマを着たラウラが、顔を真っ赤にして立っていた。

 

「び、ビックリした……すごい服だな」

 

「う、うぅ……これは、その……シャルロットに……」

 

南は、もじもじとしながら言うラウラの肩を軽く叩く。

 

「可愛らしいじゃないか」

 

「そ、そうか……?」

 

「あぁ、良く似合ってるぞ」

 

「な、ならいいんだ……そうだ、南」

 

「ん?」

 

一度表情を崩したラウラは、何かを思い出したのかハッと顔を上げた。

 

「もう一度やり直させてくれ。すっかり忘れていた」

 

「え?」

 

「いいから……もう一度だ」

 

そう言いながらラウラは部屋の中に入ることもなく自ら扉を閉めた。

 

間髪入れずに扉が再びノックされる。

 

「なんだこれは……はいはい」

 

困惑しながらも、南は扉を開けた。

 

「オイっす」

 

「…………」

 

扉を開けた先にいたラウラは、片手をシュビッと開けながら軽快に言った。

 

どう返していいか分からず、南が押し黙る。

 

「……おかしいな。男友達が居ない寂しさを埋めるためには、こんな気さくな挨拶がいいと聞いたんだが……」

 

「誰にだ」

 

首を傾げたラウラに、南が言う。

 

「それはだな……」

 

「いや、やっぱり聞かないでおこう。入ってくれ」

 

口を開きかけたラウラを右手で静止した南は、そのまま部屋に招き入れた。

 

この時のためにと綺麗に掃除された部屋には、髪の毛一本落ちていない。

 

普段から一夏が掃除はするのだが、この日は特に綺麗になっていた。

 

「さてと……とりあえず何か……」

 

飲み物を言おうとした瞬間、扉が破裂する勢いで開け放たれた。

 

大きな音に二人して肩を震わせる。

 

「ちょっと……はぁはぁ……お邪魔……ふぅ……するわよ」

 

飛び込んできた鈴は激しく肩で息をしながら言った。

 

ラウラが舌打ちをする。

 

「どうした鈴」

 

南はそんな鈴の隣を通って冷蔵庫へ。

 

買っておいたジュースをいくつか取り出した。

 

「どうしたもこうしたもないわよ! ちょっとラウラ! アンタ、何してるわけ?」

 

鈴が、がるると歯を剥き出しにしてラウラを睨んだ。

 

しかし、それに臆することなく胸を張るラウラ。可愛い猫のパジャマを着ている彼女には、残念ながら威圧感はない。

 

「ふっ、私は嫁に呼ばれてここに居るんだ。織斑一夏が布仏にうつつを抜かしていて寂しいらしい。それを私が埋めてやろうという訳だ」

 

いつの間にか再び鈴の隣を通った南が、自信満々に言うラウラの頭を撫でた。

 

「そうなんだ。まぁ、寂しいわけじゃないが……あんなのでも、居ないと静かだからな……もふもふじゃないか」

 

変なツンデレ発言をしながらも、猫耳のついたフードを被っているラウラを撫でまわす南は、その柔らかい生地に感動を覚えた。

 

「そういうことなら、あたしも南の寂しさを―――」

 

「結構だ。嫁には私がいる」

 

「最後まで言わせさいよ!」

 

撫でられて蕩けていた表情だったラウラだが、鈴の言葉には即座に反応した。

 

鈴がうぅ~と唸る。

 

「まぁまぁ、人数は多くてもいいじゃないか。この際、皆呼んでやるとしよう」

 

そう言いながらスマホを操作する南をラウラが睨んだ。

 

「私では不満だと言うのか!」

 

「そうは言ってない……鈴も来たことだし、この際と思ったんだが……」

 

「そうよラウラ。皆で楽しみましょ!」

 

きゃぴっとわざとらしく片目を閉じた鈴に、ラウラは顔を怒りで赤くした。

 

わなわなと震え、歯ぎしりをする。

 

「おい、怒ってるぞ。どうするんだ」

 

スマホで箒とセシリア、シャルロット、簪を呼んだ南は、すすすっと鈴の耳元に寄った。

 

大きくため息をついた鈴が「しょうがない」と肩を落とした後、南の耳元に口を寄せる。

 

「なんだそれは。逆に怒らせるだろ」

 

「いいから、ほら」

 

耳打ちされた内容に顔をしかめた南だったが、背中を押されラウラの目の前へ。

 

ぽりぽりと頬を掻きながら、先程鈴に耳打ちされた台詞を言う。

 

「あー、可愛い可愛いラウラさん? 俺の膝でよろしければ、枕にしてもいいからどうか機嫌を……ってやっぱりこれは――—」

 

「ふん! 今の言葉、忘れるなよ」

 

ラウラは鼻息を荒くしながらずんずんと扉の方へ歩いて行く。

 

「どこに行くんだ?」

 

「出てくるときに邪魔が入らないよう、シャルロットを縛り付けて出てきたんだ。解いてくる」

 

それだけ言い残して、ラウラは部屋を出た。

 

「ね? 成功でしょ?」

 

得意げに笑う鈴に、南は眉をひそめる。

 

「いや、怒っていたじゃないか」

 

そう呟いた瞬間、扉がまたも勢いよく開いた。

 

南と、そして今度は鈴が扉の方を見る。

 

「言い忘れていた……あばよ!」

 

ラウラはひょこっと顔だけ出して、またも手を勢いよく挙げた。

 

「何あれ?」

 

「気さくな挨拶らしい」

 

閉まった扉を見つめたまま鈴が聞くと、南は先程のラウラの説明を思い出しながら言った。

 

「良かった。発作かと思ったわ」

 

「そうだったら生徒会の出番だ」

 

南からため息交じりの言葉が出た。

 

 

 

 

 

 

それから数分としないうちに、二人用である南と一夏の部屋は、七人と大人数で賑やかになった。

 

「そうか、一夏が居なくて寂しかったとはな」

 

うんうんと頷く箒に、南は首を振る。

 

「そうじゃないんだ。分かってくれ」

 

困った顔で引き攣った笑いを浮かべる様子がおかしくて、簪は意地の悪い顔で南の肩をちょんちょんと突く。

 

「寂しかったね……もう一人じゃないよ」

 

「やめろぉ!」

 

顔を抑えながら膝をついた南。

 

セシリアが苦笑しながら両手でまぁまぁと制す。

 

「ずっと二人でしたもの……急に一人になれば、人肌も恋しくなりますわ」

 

「は?……人肌?」

 

うずくまっていた南が顔を上げた。

 

「ひ、ひひ、人肌って……そ、そそそ、それじゃあ、南と、い、い、一夏は……そういう……」

 

シャルロットが悲鳴に近い声を上げながら、わなわなと口元に手を当てた。

 

「ち、違う違う! おい、セシリア!」

 

珍しく狼狽する南だが、セシリアは自分の失言に気付いていない。

 

顔を赤くしていたのは箒と鈴、シャルロット、簪で、セシリアとラウラは何のことだと首を傾げた。

 

この流れは不味いと、南は棚から据え置きのゲーム機を取り出した。

 

「こ、これをやろう。そう、これをやろうと思ってラウラを呼んだんだ」

 

「あたしも持ってるわよ。何のゲームするの?」

 

パタパタと手で顔を仰ぎながら、鈴が尋ねた。

 

南が同じ棚からいくつかのソフトを取り出す。

 

「まぁ、どれでもいいんだが……皆で決めてくれ」

 

「…………ふむ、これはどんなゲームだ?」

 

ラウラが取り上げたのは、テロリストと戦う各国特殊部隊をモチーフにしたキャラクターを操作する、対戦型のシューティングゲームだ。

 

ISが登場した今も活躍する特殊部隊の装備や、特徴をしっかり捉えているとして人気がある。

 

説明を聞いたラウラは目を輝かせながら、これにしよう! と南にせがんだ。

 

軍人であるラウラだけでなく、ISを取り扱う専用機持ちがどんな操作をするのかが気になり、南も準備を始めた。

 

ただひたすら、犬や猫と戯れるだけのゲーム『たわむれ3』を両手に持っていたシャルロットは肩を落としたが、南が嬉しそうに準備をする様子を見て諦めることにした。

 

コントローラーが四つしかないため、同時にプレイできるのは四人までであり、また画面も一つはモニター、もう一つはPCと繋げた二つしかない。つまり、一つの画面をそれぞれ分割して使用することになる。

 

「み、見にくいわね……」

 

困惑した様子で言う鈴を、簪が仕方ないよと諭す。

 

「よし、最初はどう分ける?」

 

南がウキウキとしながらベッドに腰かけ、その隣にラウラが座り込んだ。

 

座布団を引いた画面の前に鈴と簪、シャルロットが、箒とセシリアは一夏のベッドに座った。

 

「ふむ、最初にチュートリアルをやらせてくれないか」

 

「そうだね、何事も準備が大事……」

 

箒と簪が言うと、南が静かに頷いた。

 

「いいだろう。じゃあ皆で操作を覚えてくれ……俺は静かにその時を待つ」

 

そう言いながら腕を組んだ南は目を閉じた。

 

堂々たる姿勢に鈴が苦笑する。

 

「一応、アンタも参加しなさいよ」

 

「ピカソが塗り絵をするか? 織斑先生がISの起動の仕方を勉強するか? 俺は大丈夫だ」

 

自信満々に笑う南に、絶対泣かしてやると心に決めた鈴が前のめりでコントローラーを握った。

 

そして、とうとう対戦へ。

 

最初は箒とラウラのペア、そしてセシリアとシャルロットのペアがプレイすることに。

 

CPUを合わせた七人ずつのチームで行われるデスマッチ。制限時間内に、どちらが多くの敵を倒すことが出来るかという単純なルールだ。

 

二つの画面を食い入るように見つめ、コントローラーをガチャガチャと動かす四人。

 

モニターから銃声や爆発音が轟く。

 

「くっ!」

 

敵に囲まれ、銃弾の嵐を凌いでいる箒が苦しい声を出した。

 

次の瞬間、完全な遮蔽物に隠れていたはずの箒のキャラクターが死亡する。

 

どうやら高い位置からの銃撃でやられたらしい。

 

「なっ!? 貴様は……シャルロットか!」

 

「正解だよ。誰が箒を倒したかっていう問題ならね!」

 

シャルロットはしなやかな指使いでコントローラーを操作し、次々と敵を倒していく。

 

すると、セシリアの操作するキャラクターと合流した。

 

分割された画面で相対する二人。

 

ふと、シャルロットの武器を見たセシリアが声を荒げた。

 

「ちょっとシャルロットさん!? なぜあなたもスナイパーライフルを!?」

 

「え?」

 

「狙撃はスナイパーである、わたくしに任せて欲しいですわ!」

 

「遠距離射撃用の武器を使う『人間』は、哺乳類の僕に任せて?」

 

よほどスナイパーライフルが使いたかったのか、シャルロットが言い返す。

 

「あなた、段々言い回しが南さんに似てきましたわね……」

 

げんなりとしながらもセシリアはラウラの操作するキャラクターを撃ち抜いた。

 

「ああっ!?」

 

ラウラの悲鳴が響いた。

 

 

 

 

 

 

その後もプレイヤーを鈴や簪、そして南と変えたり、ペアを変えたりと白熱しながら夜は更けていく。

 

今は南とシャルロットのペア、そして鈴と簪のペアだった。

 

「南、下がって!」

 

「すまん、頼んだ」

 

「簪、押し込むわよ!」

 

「了解、援護する」

 

「待たせたな、シャルロット」

 

「助かったよ、南」

 

「くっ……しぶとい」

 

「ほらほら、これでも喰らいなさい!」

 

四人の動きに合わせて箒やセシリア、ラウラも声を張り上げた。

 

残り時間がなくなり、画面が暗転。

 

スコアが出るリザルト画面で、シャルロットの操作するキャラクターが新しい装備の解放を伝えた。

 

「おっ、これは特定の条件で解禁されるマシンガンだな。ありがとう、シャルロット」

 

ベッドに腰かける南の目の前に、座布団を引いて座っていたシャルロット。

 

南はそんな彼女の頭を撫でる。

 

「えへへ……どういたしまして」

 

そう頬を赤くしたシャルロットを、他の四人が恨めしそうに睨んだその瞬間。

 

部屋の扉がノックされた。

 

ノックというよりは、叩くと言った方がいいだろうか。バンバンと大きな音を立てている。

 

『神代、居るんだろう。出てこい』

 

扉の奥から響いた低い声に、七人が固まった。

 

千冬の声だった。

 

「不味い、騒ぎすぎたか」

 

「って、ちょっと待て! もう十二時じゃないか!」

 

箒が時計を見て小声で言った。

 

「しまった……もう就寝時間は過ぎている……」

 

「こんな所に居るのがバレたら……」

 

ラウラと鈴の表情が青ざめていく。

 

「み、南……」

 

簪の潤んだ目が南を捉えた。

 

そうする間にも扉は叩かれ、千冬の声が響く。

 

『おい、出て来ないなら扉を蹴破るぞ』

 

「それが寮長のすることか……」

 

南は大きく深呼吸をした。

 

「仕方ない。ここは素直に謝るしかない……皆、行こう」

 

そう言って振り返るが、皆コソコソと隠れだし、出て行くつもりはない様子だった。

 

「おい、何で隠れるんだよ。上手く説明するから手助けしてくれ」

 

「僕がゲットしたマシンガン、持って行っていいよ」

 

シャルロットが画面を指さしながら言った。

 

「ふざけるなよ……ああ、くそ」

 

『いいか、壊す(開ける)ぞ』

 

「すみません、織斑先生。遅れました」

 

扉を開けた千冬は既に片足を振り上げており、あと一秒遅く開けていたら、南の体に穴が開いていただろう。

 

「呼ばれたらすぐに出ろ馬鹿者が」

 

「すみません」

 

「他の生徒から苦情が来ているぞ。やかましいとな……織斑は生徒会の手伝いだろう。他に誰がいる?」

 

「いえ、誰も」

 

目が泳がないように力を入れて南が答える。

 

冷たい汗が頬を伝った。

 

千冬は開いた扉の隙間から部屋を覗いた。当然、皆隠れているためその程度では見えない。

 

「いや、見ていた映画がちょうど熱いシーンで、つい……気を付けます」

 

「気を付けるんじゃない。もう寝ろ……就寝時間は過ぎている」

 

千冬は無表情のまま言った。

 

怒る訳でもないその様子が更に恐怖を煽る。

 

「でも織斑は起きてますよ……あ、のほほんさんと寝てるかもしれませんが」

 

「貴様……」

 

しまったと思った頃にはもう遅い。

 

千冬は青筋を立てて、南を睨んだ。

 

先程までの無表情が可愛く見える表情に、南は思わずISを展開しそうになる。

 

というより、足元の装甲は少し展開してしまった。

 

「何でもございません」

 

「今からグランドを走って来い。一万周だ」

 

「アンタ本当に大学出たのか? そんなの無理でしょう」

 

ぶっ飛んだ数に、思わず南の口が開いた。

 

「ほう、まだそんな口が叩けるか……更識姉以来だな」

 

千冬の表情が今度は笑顔に変わった。

 

先程までの怒りの表情が可愛く見える笑顔に、どんどん南の体温が下がっていく。

 

「明日の放課後、私の所に来い」

 

「もし逃げたらどうなります?」

 

南が恐る恐る聞いた。

 

すると、千冬は嗜虐的な笑顔で言う。

 

「そうだな……追いかける。地獄の果てまで、というより……」

 

そこで南の肩をガッと掴み、口元を耳に寄せた。

 

「追いついたところが、地獄になる」

 

ギリギリと骨が変な音を立て始め、南は苦痛で顔を歪めた。

 

「では明日……楽しみにしているぞ」

 

すっと肩が軽くなり、千冬はしばらく南を睨みながら部屋を後にした。

 

完全に千冬が見えなくなったのを確認した南は部屋に戻る。

 

様子を隠れながら見ていた六人は、恐る恐る部屋を後にするべく扉の方へ。

 

それを止めることもせず、南はしゃがみ込んだ。

 

「ああ、どうして余計な事を言ってしまったんだ……」

 

「酒で判断力が鈍ってたんじゃないか?」

 

箒が言う。

 

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