IS-インフィニットストラトス~一匹の蜘蛛~   作:清麿

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4.蜘蛛の戦闘

「じゃあ、今日はこれくらいで終わっておきます。次、ISの実習なんでしょう? 二組と合同で。遅れないようにね」

 

国語の担当教諭が、そう言って教室を出て行く。

 

南は大きく息を吐きながら天井を見上げた。

 

「実習か……」

 

「南。女子が着替え始めちゃうから、僕たちは別で着替えるんだよ」

 

呟くと同時にシャルルが声をかけた。手には小さな入れ物を持っている。

 

「ああ……」

 

ISスーツが入っているんだなとすぐに理解した南は、自分もと鞄の中から取り出して席を立った。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

「頼む」

 

短く言って、シャルルに続く。

 

廊下に出ると一夏はすでに待っていて、「お、来たな」と笑った。

 

三人並んで更衣室へ行き、服を着替える。

 

制服の上着を脱ぎ、シャツを脱いでいて、南は気付く。

 

「ん? シャルルはどうした」

 

「いるよ~」

 

隣で同じようにシャツを脱いでいた一夏を見ると、シャルルの声がロッカー越しに聞こえた。

 

「どうして向かい側のを使ってるんだ?」

 

「なんか、着替えを見られるのが嫌なんだと……何回か、隣で着替えてたこともあるんだけど、よっと……」

 

一夏は頭からISスーツを被り、袖を通す。

 

「着替えるのも凄く早くて、気付いたらもう着替え終わってるんだ……別に見たいって訳じゃないけど……なんか気になるよなぁ?」

 

南も同じように袖を通していた。

 

シューズも履き替えて、トントンとつま先を床で叩く。

 

「見られたくない傷があるとか、一夏が嫌いとか色々原因は考えられるけどな」

 

「そっか、傷か……って! 俺、嫌われてるのか!?」

 

一夏の悲痛な叫びが響いた。

 

「コラ」

 

南の背後から、頭に軽いチョップが当てられる。

 

頭に手を置く程度のものだった。

 

「適当なこと言わないの。見られたくない傷もないし、一夏のことも嫌いじゃない」

 

「知ってる」

 

南は淡々と答えて、悪びれもなくペットボトルの水を傾けた。

 

「冗談だ一夏。お前は皆から愛されているぞ」

 

「それ、俺の目を見て言えるか?」

 

「お前は皆から愛されている」

 

南はペットボトルをロッカーにしまいながら、一夏の方を見ることもなく、同じことを言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グランドに出た南たちであったが、早く着いたのかグランドの生徒はまばらだった。

 

「あ、アンタが三人目の男操縦者ね!」

 

活発で、明瞭な声が南の背後からして、三人は同時に振り返る。

 

その先には、ツインテールがよく似合う女子が、腰に手を当てて立っていた。

 

「紹介するよ。こいつが神代 南。で、こっちは凰 鈴音だ。鈴って呼んでやってくれ」

 

「よろしくね!」

 

一夏の紹介に合わせてくる手を差し伸ばす鈴。

 

なるほど、コイツは二組かと南は内心で思いながら手を伸ばした。

 

「ああ、よろしく」

 

「鈴はこう見えて、中国の代表候補なんだぜ?」

 

「ほう、凄いじゃないか」

 

一夏が指を鈴に向けながら言った。

 

「こう見えては余計よ!」

 

「よし、授業を始める! クラスごとに並べ!」

 

南の感心する声と、鈴の声が被った。

 

さらに千冬の号令も響く。

 

「南。こっちだぞ」

 

一夏を頼りに、南は一組の列へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、今日は専用機持ちに実演戦闘を行ってもらう。その後、各班に分かれてISを動かせ……そうだな……」

 

千冬の視線が動く。

 

ぼんやり立っている一夏。ピンと背筋を伸ばすセシリア。優等生らしく腕を後ろで組むシャルル。険しい表情のラウラ。自信ありげに笑う鈴。そして、あくびをしながら頭を掻いている南。

 

ふっと笑った千冬は、指をさした。

 

「神代……それとボーデヴィッヒ。お前ら二人だ」

 

「はっ!」

 

とっさの指名にもすぐに返事をするラウラ。南からの返事は聞こえない。

 

「え、俺か……」

 

テンポが少し遅れて、南は伸びをする。

 

「うっす」

 

「二人とも返事は、はいだ」

 

千冬のため息交じりの言葉に、二人は何も言わず前に出る。

 

「えっ。神代くんとボーデヴィッヒさんって……」

 

「大丈夫かな……」

 

「神代君ってそんなに強いの?」

 

クラスメイトの女子が囁く。

 

「気をつけろよ南。お前のISを見たこと無いけど……うん。とにかく気をつけろ」

 

「何に気を付ければいいか、結局分からないじゃないか」

 

南は笑いながら、手を軽く振った。

 

「一夏くん、君の言っていることは実に曖昧で分かり辛い。登山道と同じだ、全貌が全く見えない」

 

芝居ががかった南の台詞に、一夏の不安は増すばかりだった。

 

「……南、頑張ってね」

 

シャルルも少し心配そうに南を見つめ、鈴に関しては、先程の明るい表情は消えていた。箒とセシリアもまた苦い表情だ。

 

「なんだ?誰か死者でも出たのか?」

 

少しだけ不安になった南が言うが、すっかりグランドの離れた所まで来てしまい逃げ場はない。

 

「神代 南……織斑一夏よりは楽しませてくれよ?」

 

ラウラが嗜虐的に笑う。

 

と、同時にISを展開。

 

ドイツの第三世代型で、肩の大型レールカノンが目立つ漆黒のIS。

 

南はそれを見届けた後、自身のISを展開。

 

光の粒子が南を包むと同時に、展開は終わった。

 

ISとは、飛行機能を備えた、究極の搭乗型機動兵器である。

 

シールドエネルギーによるバリアーや「絶対防御」などによって、あらゆる攻撃に対処できる。そのため、操縦者が生命の危機にさらされることはほとんどないことからも、兵器としての性能の高さが伺える。

 

装着時の全長はISによって当然異なるが、大体は三mを優に超える。

 

しかし、南のISは前述した兵器を体現するには些か小柄であった。

 

極限まで軽量化した……というわけではなく、「初めからこのようなIS」であるようだった。

 

ラウラと比べても、やはり一回りか小さく見える。

 

そんな南を見て、ラウラは笑った。

 

「はっ、随分と可愛らしいISではないか」

 

「巨人に昇れば、巨人より遠くが見える」

 

「なに?」

 

南の言葉に、ラウラは顔をしかめた。

 

変わらない表情、変わらない口調で南は続ける。

 

「自分より大きな力を借りれば、成長できるって意味だ」

 

「私を利用することなど許さん……振り落としてやる」

 

ラウラの表情は険しい。

 

「それでは、はじめっ!」

 

千冬の声と同時に、ラウラは肩のレールカノンを放った。

 

南は右に飛ぶ。

 

転がり避けた先で、顔を上げると既にラウラは次発を放っていた。

 

「うおっと!」

 

それをジャンプで躱す。

 

着地と同時だった。

 

「はぁっ!」

 

ラウラの手首から展開されたプラズマ手刀が直撃する。

 

「ふんっ、他愛のない」

 

ラウラは無表情のまま、吹き飛ぶ南の方を睨んだ。

 

滑るように転がり、倒れ込んだ南を見て、一夏を含む一・二組の生徒は肩を震わせる。

 

もう終わっちゃった……と誰かが小さく呟いた。

 

「ほう、中々の威力だ」

 

声がする。

 

「なっ!?」

 

ラウラの表情がそこで初めて変わった。

 

南は何事もなかったように立ち上がったのだ。

 

「だが、そんなんじゃ俺は倒せない」

 

南はそう言って、どこからともなく不思議な形状の刃が付いたナイフを取り出した。

 

「さぁ、皆の手本となるような実践にしようじゃないか」

 

両手を広げる南。

 

ラウラには、一瞬だけ見えた。

 

「お前のシュ……ヴァア……なんとかかんとか…………シュークリーム・レーズン? と」

 

その背後に大きな『蜘蛛』の影が……。

 

「俺のIS、フィアー・スパイダー・ロージングでな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――蜘蛛の糸は、

 

同じ太さであれば鋼鉄をも凌ぐ、自然界最強のファイバーである。それはナノ単位で構成された天然の複合材。

 

人工繊維を遥かに凌ぐ靭性を活かし、海外の軍事産業においては、様々な研究が進んでいる。

 

そんな蜘蛛の糸を、対IS兵器用に適応させたのが、南のISを完成させた『組織』であった。

 

全身にその糸を無数に束ねて作られた鎧は、南を甘く見ているラウラの攻撃など通さない。

 

南のISは、蜘蛛をモチーフにした……のではない。

 

「くそっ! 私に本気を出させたことを、後悔させてやる!」

 

蜘蛛そのものなのだ。

 

「そうか」

 

突進してくるラウラに対して、南は取り出したナイフを向けることもなく、立ち尽くす。

 

またも、プラズマ手刀が直撃する寸前……

 

「!?」

 

ラウラの攻撃が、虚空で弾かれた。

 

弾かれた反動で体が大きく開く。

 

「がら空きだぞ」

 

南は身を低くして、容赦なくラウラを切りつけた。

 

「があっ!」

 

声を漏らしたラウラが後退する。南はその隙を逃さない。

 

「よいしょ―――」

 

「調子に乗るな!」

 

追撃に走った南の動きが止まった。

 

それは、ラウラが右手を伸ばしたのと同時だった。

 

「おお、動けねぇ」

 

南に驚いた素振りはない。

 

「AIC……」

 

一夏が苦々しく歯を軋ませる。

 

セシリアも同様だった。

 

「対象を任意に停止させることができるなんて……一対一では反則的な能力ですわ」

 

「まぁ、私たちはそんなのあんまり関係なくやられたんだけど……実際、一対一じゃなかったし」

 

鈴がボソッと呟いた。

 

「鈴さん、余計なことは言わなくていいですっ」

 

右手を伸ばしたままで、レールカノンの照準が南を捉える。

 

「この距離での砲撃にも、そんな余裕な顔が出来るかっ!」

 

ラウラが叫ぶと同時に射出。

 

しかし、爆発したのは南ではなく、レールカノンそのものであった。

 

「くっ!? 暴発だと!」

 

後ずさるラウラに南は突進する。

 

「蜘蛛はいつだって罠を張っている……」

 

「うぐっ」

 

南の突進を受けて後退したラウラはそこで、ようやく気付いた。見えてしまった。

 

「なぁっ!?」

 

ISのハイパーセンサーは、どれだけ小さくても、どれだけ目視が難しいものでも無慈悲に見通す。

 

しかし、熱くなり冷静さを失っていたラウラには、気付くことができなかった。

 

自分の正面だけでなく、今立っている地面にまで張り巡らされた無数の蜘蛛の糸に……。

 

「なんだ、この糸は……一体、いつ……」

 

動揺するラウラに対して、南は冷静だった。

 

「初めからだよ……俺が巨人云々言ってた時から、すでに準備は始まっていた」

 

南は続ける。

 

「さっきお前の手刀が弾かれたのも、お前の肩のゴツイのが暴発したのも……全部俺が仕掛けた(イト)だ」

 

ラウラは混乱と同時に、自分の心臓がこんなにも早く動くのかと、少し冷静な分析も出来た。

 

(空中に張られているだけでなく、私の武器にまで糸を……何重にも張っていたというのか……)

 

ラウラはそこまで結論に至って―――

 

「あ、あああああああ!!」

 

考えることをやめた。

 

それでいて慎重だった。

 

何も考えずに弾けるように跳ぶのではなく、張り巡らされた糸を躱し、躱し……

 

それでも南は立ち尽くす。

 

―――蜘蛛は構えない。

 

人は戦闘時に、普段とは違う姿勢で挑むが、蜘蛛は違う。

 

むしろ普段通り。

 

攻めの気配を消し、獲物が近づいてきたところで……

 

「ふんっ!」

 

牙を剥く。

 

「ふぐっう!」

 

ラウラの姿勢が、南の打撃で崩れた。

 

そして打つ、撃つ、討つ……

 

これが蜘蛛である「フィアー・スパイダー・ロージング」の戦闘。

 

ドサッと倒れこんだラウラを見て南は……

 

「どうだ?俺を肩から落とせそうか?」

 

と、呟いた。返事はない。

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