IS-インフィニットストラトス~一匹の蜘蛛~   作:清麿

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49.本音の本音①

のほほんさんこと、布仏本音は寮の廊下をスキップしながら歩いていた。

 

この日は一夏と夕食を摂ることは出来ないが、明日はその埋め合わせとして朝昼晩、食事を共にすることが決まっている。

 

「んふふ~。明日は、おりむ―――じゃ、なかった……いっくんとごはん~」

 

本音は小さく鼻歌を奏でながら、満面の笑みを振りまいていた。

 

廊下の角を曲がろうとした瞬間。

 

「確保ー!」

 

「捕まえたよ、布仏さん!」

 

二組のクラス代表、鈴と本音の所属する一組の専用機持ち、シャルの声だった。

 

同時に腕を掴んだのはセシリアと、幼馴染の簪だった。

 

「さぁ、参りましょうか」

 

「連行」

 

「はわわわわわ」

 

何が起こっているのか分からず、本音は目をぐるぐると回しながら引っ張られていく。

 

先頭に鈴とシャルが、両脇にセシリアと簪が、そして後ろからは箒とラウラが付いてきていた。

 

「安心しろ、布仏……副官が言っていたコイバナ、というやつだ」

 

「お前の副官は何でも知っているな」

 

ラウラの誇らしげな声も、箒のため息交じりの声も、もう本音には届いていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……疲れた」

 

「全くだな」

 

一方、一夏と南は資料整理という名の段ボール運びをさせられていた。

 

一夏が本音と夕食を共にできなかった理由でもある。

 

「山田先生も人遣いが荒いぜ」

 

腰に手を当てた一夏は、汗を拭いながら言った。

 

秋の夜はもう気温も落ち込んでいるが、身体を動かした二人には関係ない。

 

「こんな日はお前の作るハンバーグが食べたいんだが」

 

「そう言ってくれるのはありがたいけど、また今度な……流石に作れないよ」

 

「お前のハンバーグは五千円は取れるくらい美味いからな。食ったことあるか?」

 

「当たり前だろ」

 

一夏が苦笑する。

 

二人は、脱いでいた制服の上着を羽織り、資料室を出る。

 

すると、真耶が申し訳なさそうにしながら立っていた。

 

「ごめんなさい、織斑くん、神代くん。大変でしたよね」

 

「いやいや、全然」

 

「もちろん、大変な作業でした」

 

一夏は手を振るが、南は断固とした表情で言い張った。

 

眉を下げる真耶は、何やら券のようなものを二人に差し出す。

 

「これはご褒美です。食堂で限定販売してるプリンの無料券」

 

「あはは……ありがたく貰います、けどプリンじゃ南は―――」

 

「おおっ、ありがとうございます、山田先生! これは食べたかったんだ……一夏、飯行こう」

 

言うや否や、南は駆け出した。

 

遅れて一夏も後を追う。

 

「なあ、俺がハンバーグ作ってやるって言ったらプリンは後回しにするか?」

 

「する訳ないだろ。プリンが優先だ」

 

吐き捨てるように言った南にため息をついた一夏は、背後で「廊下は走っちゃダメですっ」と叱る真耶の声を聞き逃している。

 

 

 

 

 

 

 

食堂に着くと、いつものテーブル……食堂で二番目に大きいテーブル席に専用機持ちを見つけた。

 

珍しく、そこには本音の姿もある。

 

「おい、のほほんさんもいるぞ」

 

「あれ、本当だ。今日は一緒に食えなかったから、皆と食ってたのかな?」

 

「良かったじゃないか。彼女は食わないが、お前の食べてる姿を見てもらえるぞ。愛の力だな」

 

茶化すように言った南だったが、一夏は照れたように笑うだけ。

 

「よせよ、南」

 

肩を軽く叩かれ、顔を顰めるしかなかった。

 

カウンターでそれぞれ夕食を受け取り、皆の座るテーブルの方へ。

 

「うす」

 

南は短く言いながらセシリアの隣に腰かけた。

 

一夏も端のシャルの隣に座ろうとしたが、素早くシャルは立ち上がり、「駄目だよ!」と言い出した。

 

「いっくんは、こっちじゃないと」

 

シャルの意地の悪い笑みで、一夏の顔が引き攣った。

 

「ちょ、ちょっとデュっちー」

 

焦った本音の声がするが、箒やセシリア、鈴、ラウラ、簪もただ表情を緩めるだけだった。

 

「いっくん?」

 

南が首を傾げる。

 

「一夏のあだ名なんだって! キャー!」

 

鈴が叫んだ。

 

ヒューヒューと古い煽りまでしている。

 

「おりむーじゃなかったのか?」

 

「おりむーは、織斑からもじってるでしょ? 付き合うことにして、一夏からもじって、いっくん」

 

簪が微笑ましそうに二人を見る。

 

移動させられた一夏は、困った表情を浮かべたまま本音の隣に座り込んだ。

 

「いいな、いっくん。ELTみたいで」

 

ようやく色々呑み込めたのか、南も笑顔になる。

 

「なるほど、二人の話を聞いてた訳か」

 

「そうだ。照れているのか、誤魔化せるつもりでいるのか、中々告白の場面を話さないんだ」

 

「何故か出生の話から始まって、今ようやくIS学園に入学した」

 

箒とラウラはガックリとしながら言った。

 

ずっと、本題に入らない話に飽き飽きとしている様子だった。

 

「俺達はちょうどいいタイミングで来たわけだ。さぁ、のほほんさん包み隠さず頼むぞ」

 

南はそう言いながら、唐揚げを齧りついた。

 

一夏は本音の隣で顔を赤くしながら、魚の骨を取っている。

 

そんな一夏の羞恥心がうつったのか、本音も顔を赤くした。

 

「えっと……それで、IS学園に入学した私は、幼馴染のかんちゃんとも違うクラスになっちゃって―――」

 

ボソボソと言う本音の事細かな話は確かに長く、中々一夏が出て来ない。

 

「それで、女の子ばかりのこの学校で、顔は格好いいけど、どこか抜けてるおり……いっくんに出会うのです」

 

セシリアと鈴、シャルが悲鳴のような歓声を上げる。

 

簪に関しては何故か、涙目になっていた。

 

「ちょっ……どこか抜けてるって」

 

「まぁ待て一夏、続きを聞こうじゃないか」

 

南が箸を振った。

 

口ごもる一夏に満足した南は、米をかきこむ。

 

それからも、南が転校するまでの日々が語られた。

 

箒の同室騒ぎや、セシリアとの決闘、鈴との再会、シャルルとラウラの転校が本音視点で紡がれた。

 

「ヴィッヒーは凄く強くて、せっしーもリンリンも倒しちゃいます」

 

セシリアと鈴の表情が歪み、ラウラは得意げに笑った。

 

「ちょっとアンタ、何笑ってんのよ」

 

「あんなのは無効ですわ!」

 

「何を言う。あれは正々堂々……いや、お前たちは二人がかりだったか」

 

歯を食いしばる二人を、シャルはまぁまぁとなだめた。

 

「あれもいい思い出ってことで……それでそれで」

 

シャルが身を乗り出す勢いで聞いた。

 

本音はえっと……と少し間を空けた後、南の方を見て笑顔になる。

 

「そうして、一組に口ばっかりよく動く、みなみんが転校してきます」

 

「おい、のほ―――」

 

「まぁまぁ南、続きを聞こうぜ」

 

一夏がすかさず言った。

 

何も言い返せず、南の表情が歪む。

 

本音の話は続いた。

 

臨海学校の話すら始まらず、南は食べ終えた食器を片付けに行こうか迷う。

 

「嫁」

 

「どうした?」

 

ラウラが小声で言った。

 

「布仏は、織斑一夏に惚れているが、嫁の方が……その……恰好いいぞ」

 

「お、おう……」

 

急に何を言い出すのかと、南の頬を掻いた。

 

ラウラも照れたように言ったが、すぐに真顔になった。

 

「ということはだ、布仏が織斑一夏から嫁に鞍替えすることはあり得るんだ。すると、織斑一夏は復讐の鬼になる」

 

「そうしたら、気を付けないとな。枕の下に銃かチェーンソーを隠しておく」

 

計算通りの流れに、ラウラはもじもじしながら続けた。

 

顔が赤くなる。

 

「それか、部屋を出るのもいいかもしれないぞ……私の部屋、とか……その、来てくれて構わない」

 

少し考えるように顎元に手をやった南だったが、すぐにラウラに向き直った。

 

「……それかチェーンソーだ」

 

チェーンソーが気に入ったのか、南は繰り返す。

 

ラウラが肩を落とした。

 

「そ、それで……あの、いっくんに……最近できたテーマパークに誘われました」

 

「待ってましたーー!」

 

鈴が騒ぐ。

 

一夏は困った顔で、まだ魚の骨を取っている。

 

 

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