IS-インフィニットストラトス~一匹の蜘蛛~   作:清麿

5 / 88
5.昼食と夕食

ラウラ・ボーデヴィッヒに圧勝した南は、ISを待機状態に戻して、手をパンパンと叩いた。

 

「す、凄いな南!」

 

一夏が興奮した声を上げる。

 

遅れて、数名の女子も続いた。

 

南の表情は変わらない。

 

右手を小さく挙げて、声に応えるだけだった。

 

「おい、神代」

 

「へい」

 

「はい、だ」

 

「なんですか?」

 

千冬の声に南は振り返った。

 

「どれだけ強く殴ったんだ。ボーデヴィッヒが起きんぞ」

 

そう言われた南はラウラの方を覗く。確かに倒れたまま動かない。

 

「医務室まで運んでやれ」

 

「分かりました。医務室は……」

 

南はラウラを持ち上げようと膝をつきながら聞いた。

 

「ああ、あそこから校舎に入ってすぐ、右手の廊下沿いにある。頼んだぞ」

 

「うす」

 

短く返事をした南は、ラウラを抱きかかえて歩き出した。

 

「お、お姫様抱っこ……」

 

「う、うらやましい……」

 

「わ、わたしもしてほしい……」

 

「お、織斑くんでもいいけど……」

 

何故か、語頭を二度言う女子を無視して、南は歩みを進める。

 

 

 

 

「ん……んぁ……ここは……」

 

「医務室だ。もう四限が終わる」

 

「っ! お、お前……!」

 

目が覚めると早々に起き上がり、南を睨みつけるラウラ。

 

「なんだ、元気じゃないか……五限の美術には遅れないようにな」

 

医務室にいた教諭は、勝手にベッドを使えと南に、乱暴に言いつけたあと、医務室を飛び出した。

 

何が何だかわからないまま、南はラウラをベッドに寝かせ、自分もその隣に丸椅子を並べて座っていた。

 

「ふん、余計なお世話だ……」

 

悔しさからか、怒りからか……身を振るわせて目を閉じていたラウラが、もう一度目を開く。

 

そこにはもう南の姿はなかった。

 

 

 

 

 

「おう、南。どうだ? ラウラの調子は?」

 

医務室を出て、ロッカーで着替えたあと、教室に戻る途中で一夏が南に声をかけた。

 

「ああ、一応目は覚めた。起きて早々、何やら怒っていたし、すぐに良くなるだろう」

 

ポケットに手を入れたまま、南は答える。

 

そうか、と一夏が小さく笑った。

 

「あ、これから昼飯食いに屋上に行くんだけど、お前も来るだろ? 皆来てるぞ」

 

「いいのか?」

 

「そりゃあ、そうだろ。な、行こうぜ」

 

「あぁ」

 

皆、というのがどの範囲の皆なのかはよく分らなかったが、南は流れに任せて頷く。

 

途中の購買でパンを買い、屋上に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ。一夏~、南~」

 

屋上に上がると、すぐにシャルルが手を振って二人を呼んだ。

 

一緒にいたのは、箒、セシリア、鈴だ。

 

「おう、お待たせ」

 

「なんだなんだ、いい景色じゃないか」

 

パンが入った袋を置いて、南が大きく伸びをする。

 

「……ここって、生徒が使っていい屋上か?」

 

周りを見渡しても誰もいない屋上に、南が不安げに聞いた。

 

芝生も綺麗に敷き詰められているのだが、利用者は他にいない。

 

「まぁ、怒られたことないし、他の生徒も使ってるの見たことあるし……大丈夫だろ。それより、早く食おうぜ」

 

一夏が待ちきれない様子で座り込んだ。

 

「それもそうだ」

 

各々で自分の昼食を用意し、食べ始める。

 

「ほぉ……皆、見事にバラバラだな」

 

南はパンに齧り付きながら言った。

 

一夏はおにぎりを、箒は小さめの弁当、セシリアはサンドイッチ、鈴の弁当には酢豚しか見えない。シャルルはサラダとインスタントのスープだった。

 

「ん?」

 

南は目を見開く。

 

「鈴……その酢豚……」

 

「なになに、美味しそうって? そんなに言うなら、少し分けてあげるわよ。あたしの手作り酢豚」

 

恐る恐る口を開いた南に、鈴は嬉しそうに言った。

 

「パイナップルが入ってないか?」

 

「え? 入ってるけど……」

 

「考えられない……俺には、許せないものが三つあってな。ワースト三だ」

 

「三つ?」

 

箒が聞く。

 

「料理に入ったパイナップルと、昼寝を邪魔されることと、それから、いただきますを言うよりも先に料理の写真を撮る奴だ」

 

「なっ!? そこまで言うなら食べてみなさいよ!」

 

鈴が弁当箱を押し付けようと体を乗り出す。

 

「てか、鈴。弁当……酢豚だけか?」

 

今度は、一夏が鈴の弁当を覗き込んだ。

 

「何よ。いけないわけ?」

 

「い、いけなくは無いが……さすがに酢豚だけと言うのは……」

 

箒が若干引き気味に言う。

 

「……じゃあ、アンタのご飯ちょっと寄越しなさいよ」

 

そう言って鈴は、箒の弁当のご飯に箸を伸ばす。

 

「お、おい! これは私の分だ! 勝手に取るな!」

 

「ちょっと鈴さん! 暴れないでください! はしたないですわよ!」

 

セシリアの声にも、鈴は止まらない。

 

まあまあと一夏が止めに入る。

 

「ねえ、南」

 

シャルルが声をかける。

 

「ん、どうした」

 

まだありえないと、呟きながらパンを齧っていた南は、もごもごと口を動かしながらシャルルに向き直った。

 

「南のIS、凄いね。僕、初めて見たよ」

 

「そうか?まぁ、さすがに現存する全てのISを把握するのは、いかに優等生のシャルル君でも難しいだろう」

 

南は頬を掻いて笑う。

 

「うん。でもね、あそこまで軽量化された専用機は初めて見た……あれってさ……」

 

距離が近い。南は率直に思った。

 

思わず身を引く。

 

しかしそれにも構わず、シャルルはグイグイと体を寄せた。

 

「まぁまぁ落ち着け。どうした」

 

南はなんとか体を起こしながら、シャルルの肩を叩いた。

 

「ご、ごめん」

 

シャルルが自分の体勢に気付いたのか、顔を赤くして座り直した。

 

「そうですわ!神代さん!」

 

「アンタのIS、あれって」

 

「一体どうなってるんだ!」

 

ようやく一息ついたかと思いきや、今度はセシリア、鈴、箒だった。

 

「助けてくれ一夏」

 

「そんなこと言われてもなぁ」

 

一夏は苦笑いを浮かべる。

 

「俺も気になるし……」

 

「まったく、俺の許せないもののワースト三だ。料理に入ったパイナップルと、非協力的な友人と、それから『さっきのワースト三と違うじゃないか』って指摘してくる奴」

 

南はため息をつきながら言った。

 

「分かった分かった。皆、南もこう言ってるし、今日はこれくらいに……」

 

「あれは、糸というのは……」

 

「軽量化されていますが、装甲に問題は……」

 

「あのナイフ、あんなのでダメージに……」

 

「良ければ、もっと南のISについては詳しく……」

 

そんな一夏の言葉も虚しく、質問責めに合う南。

 

「待て待て。一つ聞きたいんだが……ISってなんだ?」

 

誤魔化してみたが、無意味だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、神代くん……お、おかえり」

 

「ああ、帰ったぞ」

 

授業で分からないところを、山田先生を捕まえて教えてもらい、セシリアを捕まえて教えてもらいとしていたら、時刻は午後の六時を回った。

 

さらにその後、お礼にと自分のISについて少し話していたことで、時刻は午後の七時。

 

腹は減っていたが、疲れからか、食堂に行くことすら億劫で部屋に帰ってきていた。

 

「ん。この匂い……カレーか……?」

 

食欲そそるカレーの匂いに、南は鼻をすんすんと動かす。

 

「うん……作ってみたんだけど……た、食べる……?」

 

伏せ目がちに問う簪に、南は小さくガッツポーズする。

 

「いいのか?悪いな。実に申し訳ない……いやー、本当に。本当だ」

 

よく分からないことを言いながら、南は上機嫌で洗面台に向かい、その後で、部屋着に着替えた。

 

「できた……食べよ……?」

 

綺麗によそわれたカレーの隣には、小さなサラダが添えられていた。付け合わせとしてはいい具合の量だった。

 

「いただきます」

 

「きやす」

 

ちゃんと手を合わせて食べ始める簪と、いち早くスプーンを持って頬張る南。

 

「うめぇ」

 

小さく呟き、その時間さえ勿体無いと、更にカレーを口に運ぶ。

 

「そ、そう……」

 

若干、頬を赤くした簪も少しだけスプーンですくった。

 

「あ、そう言えばな……お前がこの前言ってた特撮ヒーロー、十話まで見たが信じられなかったぞ」

 

「え?」

 

一瞬で、簪の表情が固まった。

 

スプーンを落としそうになる。

 

「信じられないくらい面白い。あれをリアルタイムで見られないとは、残念だ」

 

「び、びっくりした……」

 

胸を撫でおろした簪は、いやー、アレは素晴らしいなと話す南に言った。

 

「早く、三十話まで……見てほしい……本当に面白い、から」

 

「先は長いな」

 

南は笑って水を含んだ。

 

「ふふ……」

 

簪も微笑みながら、またカップに手を伸ばした。

 

「それにしても」

 

南は、カレーを口に運ぶ動きを止めない。

 

「こう美味しいカレーを食べられるのはいいが、年頃の男女が同じ部屋で同棲というのは、どうなんだ……」

 

簪の頬が赤くなる。

 

「そ、そうだね……」

 

「まったく、どうなっているんだ日本は」

 

スプーンを置いて「別に嫌なわけじゃないぞ」と続ける南に、簪は言った。

 

「あ、ここは日本であって、日本じゃないよ……」

 

南の表情が曇る。

 

「哲学か?」

 

「ううん、そうじゃなくて……このIS学園には、特記事項というのがあって……その一つに、この土地はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと……学園の関係者に対しては、一切の干渉が許されないという国際規約があるの」

 

簪の声が段々と低くなっていくが、南は目を反らさずにソレを聞いていた。

 

「だから、このIS学園は日本国にあるというだけで、厳密には、日本ではない……」

 

言い終わると同時に、簪は息を吐いた。

 

南もふむ……と唸る。

 

「……凄い記憶力だな」

 

「へ……?」

 

素っ頓狂な声が、簪から漏れた。

 

まるで予期せぬ言葉だったからだ。

 

「よくそんなことを覚えているな……もう頭から出て行きそうだ」

 

南が頭を抱えながら言う。

 

「生徒手帳に、書いてあるよ……」

 

「そうか……特撮よりも先に生徒手帳を読んだ方がいいんじゃないか……」

 

ため息と同時にそんな言葉が出た。

 

しかし、同時に簪がガタっと立ち上がる。

 

「だ、だめ……」

 

「何がだ?」

 

「特撮が先……」

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

登校してきたラウラの表情に、いつもの険しさはなく、どこか無気力だった。

 

千冬に呼ばれても生返事。その結果、出席簿で殴られ頭を抱えるというシーンが二度あった。

 

「おい、どうした。今日は」

 

休み時間に南は、またも考えごとをしているラウラに呼びかけた。

 

「ああ……」

 

それでも、生返事が返ってくるだけ。

 

いつもなら、噛み付く勢いで話しかけるなと騒ぎ出すのだが、それもない。

 

顎元に手をやり、首を傾げる南は尋ねる。

 

「なんだ、昨日俺に負けたことを気にしてるのか?」

 

こう言えば、多少強い口調で返事が返ってくると思ったからだ。

 

しかし、それでもラウラはただ頷いた。

 

「う、うむ……」

 

「あまり気にするな。俺を舐めていたから攻撃が通らなかった、それだけだ。次は分からない……それに、話は聞いているぞ。あのセシリア嬢と鈴を一人で相手して、圧勝したらしいじゃないか」

 

「そんなことはどうでもいいんだ……」

 

「どうでもいいとか言ってやるなよ」

 

昨日、泣きそうになりながら「負けたわけじゃない!」と騒ぐ二人の扱いがあまりに不憫で、南は涙を拭うフリをする。

 

「お前は……」

 

少し間を空けて、ラウラが口を開いた。

 

「お前は、何のために力を得たんだ。私は戦うために作られ、戦うために生まれ、戦うために育てられ、鍛えられた……そんな私を、お前はいとも簡単に退けた……」

 

ラウラの目が南を捕らえる。

 

真っ直ぐに。

 

「そんな力を一体なぜ……どこから……分かっている、私は最強ではない。教官を初め、上には上がいる……男であるお前は、何のためにISに乗ることができ、何のためにその力を得た?」

 

「…………」

 

答えは、返ってこない。

 

「おい」

 

ラウラが、目を閉じている南の腕をチョンっと触る。

 

「っ!? びっくりした! どうした」

 

「き、貴様……聞いていなかったというのか……私が、私がぁ……」

 

ラウラは体を震わせると同時に、立ち上がった。

 

「私がなんだ?」

 

千冬の声がラウラの頭上から降ってきた。

 

ビクッと、違う意味で体を振るわせたラウラは、ゆっくりと振り返った。

 

「きょ、教官……」

 

出席簿がラウラの頭を弾いた。

 

「織斑先生だ、何度言わせる。そして今日、何度私にお前の頭を叩かせるつもりだ?」

 

「も、申し訳……」

 

「もういい、早く座れ」

 

南を睨むことも忘れてラウラは席についた。

 

「ん、デュノアがいないな……織斑、知らないか?」

 

「遅れました!」

 

千冬が一夏に問うと同時に、扉が開く。

 

遅いぞ! と叱る千冬の方を、南は険しい顔で見ていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。