それからというもの、南達八人は、放課後に集まっては水曜日に行われるイベントの準備に追われた。
話すことから実施内容までを、全員で固めていく。
真耶を始めとする教員からの注意、国に要請された指示を基に、プログラムを練っていった。
翌週の火曜日。
授業を公欠した八人は、朝早くから現場に直行。
新幹線とタクシーを乗り継ぎ、イベントが行われる会場に到着した。
国が運営する大きな建物を使用する為、専用機持ちは各々がブースを設立し、そこでの責務を全うすることになる。
皆でああでもない、こうでもないと言いながら、それぞれの準備をしていく。
そうして迎えた水曜日。
近くのホテルを出発した八人が会場に着くと、そこには既に多くの小中学生が集まっており、この日の為に用意された展示用ISや、マスコットキャラクターの『エスアイちゃん』に群がっていた。
ちなみに『エスアイちゃん』の中身は真耶だ。
その様子を見て、鈴がふっと息を吐いた。
「気乗りはしないけど……やりましょうか……」
「もちろんだ。未来の後輩たちの為だからな」
南は途中のコンビニで買ったパンを齧りながら言う。
その隣では同じものをラウラが食べている。
制服の下に着たパーカーのフードだけを出して、片手にはビニール袋をぶら下げた南は、気持ち良さそうに伸びをした。
「さっさと初めて、さくっと帰る……今日の打ち上げは焼肉だ……テンション上がるだろ?」
「わっとやって来て、わっと帰っていく。イナゴの大群みたいだね」
シャルが笑った。
「ISを動かせるイナゴだ」
南は楽し気に言うと、先頭に立って歩き始めた。
各国の期待を背負った代表候補生と、特異の専用機持ちはそれぞれの舞台に消える。
「はい、というわけで! 今日はIS学園から、世界で唯一の男性操縦者、織斑一夏さんと中国の代表候補生、鳳 鈴音さんにお越しいただきましたー!」
司会のお姉さんの声と同時に湧き上がる歓声。
苦笑いしながら、袖から出てきた二人を見て、また一段と声が大きくなった。
「出囃子くらい流しなさいよね」
「はは……」
鈴が笑顔を作ったまま毒づくと、一夏は乾いた笑みで手を振った。
この歓声のほとんどが、一夏に向けられていることに照れ臭い様子でもある。
「お二人、今日はよろしくお願いします!」
「あ、はい……よ、よろしくお願いします」
「はいはーい! 皆、よろしくねー!」
一夏が慣れない様子で頭を下げる中、鈴は朝までのテンションからは考えられないほど高い声で挨拶をした。
片目を閉じ、大きく手を振るその様子に拍手が送られる。
目を丸くした一夏に気付いた鈴は、小さく呟いた。
「見てなさい、一夏……これがプロよ」
「イギリスの代表候補生、セシリア・オルコットです。今日は、ISの簡単な歴史、そして国際的な用途、更には考えられる問題点について学びましょう」
セシリアは柔和な笑みを浮かべながら、頭を下げた。
それなりに大きなホールに詰まった小中学生は、食い入るようにセシリアを見ている。
「それでは、こちらをご覧ください」
手をかざしたセシリアから現れたスライドは、プロジェクターを用いて映し出されている。
(ふふ……先週から、南さんと作ったこのスライド……二人の愛の結晶とも呼ぶべきこのスライド……皆さんに見せつけることが出来るなんて!)
大きな身振り手振りを交えて話すセシリアは、最前列に座る小学生に手を向けた。
「では、そちらのあなた? ISが初めて世に登場したのは……」
「十年前」
小学生は片肘をついて、つまらなそうに答えた。
言い終えるより先に答えを言われたセシリアは、頬をピクピクと振るわせながらも必死に笑う。
「せ、正解ですわ。おほほほほ……」
眼は笑っていない。
「よくお勉強されてますわね。それでは、そちらのあなた」
セシリアは逃げるように移動しながら、また別の、今度は中学生に手を向けた。
先程よりは気の弱そうな娘を選んだのは偶然ではない。
「ISは現在、スポーツのような競技として扱われていて、皆さんもそんな姿を目にすることが多くあるかと思いますが……本来の目的は……」
「宇宙空間での活動を想定したマルチフォーム・スーツ」
答えたのは先ほどの小学生だった。
「あ、な、た、に、は、聞、い、て、い、ま、せ、ん、わっ」
笑顔のようで笑顔じゃない表情で詰め寄るセシリア。
目を見開き、睨むように見るが、微笑を浮かべたその小学生は怯まない。
そんな二人に困惑する様子に気付いたセシリアは、身体を捻りながら咳ばらいをした。
それから三十分。
簡単に行われた授業は終了を迎える時間だ。
「今日はありがとうございました。皆さんがIS学園に入学される道を選ぶことを、わたくしは全力で応援させていただきますわ」
そう言って深々頭を下げたセシリア。
沸き起こる大きな拍手を受けて、頭を上げると、件の小学生はあくびをしていた。
拍手が鳴りやんでも、壇上から立ち去らないセシリア。
「すみません、皆さん。お教えすることを一つだけ、忘れていましたわ」
場内が不思議そうな表情に包まれる。
「IS学園はアラスカ条約という決まりに基づき設置された特殊高校です。では、そもそもアラスカ条約の正式名称は……」
「IS運用協定」
「で、す、がっ!」
先程の小学生は、ぽつりとつぶやいただけだったが、セシリアは聞き逃さなかった。
引っかけ問題のように繋いだ後、ずんずんと彼女の方に詰め寄る。
「その成立に際して、いくつの国と地域が参加したのでしょう?」
「えっと……」
言い淀んだ。
生粋のスナイパーはその瞬間を逃さない。
「にーじゅうーいーちヵ国でーすーわー」
嫌らしい笑みを浮かべたセシリアに、小学生は歯を食いしばる。
勝ち誇った表情でセシリアは胸を張った。
「これからも、しっかり勉強してくださいなっ」
この日一番の笑顔だった。
「どうも、こんにちは! フランスの代表候補生でシャルロット・デュノアって言います」
シャルは朗らかに笑って手を小さく挙げた。
一組のクラスメイトには「男装していきなよ」と言われていたが、しっかり無視していた。
「隣のクラスでは、僕の友達のセシリアが、ISに関する歴史だったり世界に与える影響だったり、外的なことを話してくれているから、ここでは実際に機能面だったり内面を見ていこうね」
シャルがそう笑うと、拍手が起こった。
物腰の柔らかい彼女の笑みは、それだけで周りを穏やかにさせる。
「まずは教科書に書いてあるようなことに目を通して、その後、実際に僕の専用機である『ラファール・リヴァイヴ・カスタムII』を使って詳しく解説していきます」
(あ~、先生っていうのも……やっぱりいいよね~。皆、一生懸命に僕の話を聞いて……よし、頑張らないと)
少しの間上の空だったシャルは、挙手をしている中学生を見つけて、どうぞと微笑んだ。
手を挙げていた中学生は笑顔のまま勢いよく立ち上がり、緊張気味に口を開く。
「あ、あのっ!」
「うん、なにかな?」
「彼氏とかいますか!?」
「えぇ!? か、彼氏……?」
シャルの顔が赤くなる。
その反応は、多感な女子を揺るがすのには充分だったのか、煽るような歓声が上がる。
「や、やっぱりいるんだ……」
「い……いや、いないよー? 狙ってる男の子はいるけど……」
後半は声が萎んだため、聞かれることはなかった。
「じゃあ、彼女はいるんですか!?」
「うへぇぁ!?」
突拍子の無い発言に、シャルから変な声が漏れた。
また意味もなく、フゥー! と歓声がした。
「ぼ、僕はノーマルだよぉ! 普通に男の子が好きなの!」
授業どころではなくなったシャルは、小さな声で南に助けを囁いた。
当然、その声が届くことはない。
「ドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。ISは生半可な覚悟では搭乗することすら許されない。貴様らに死と向き合う勇気はあるか?」
ラウラは小さな体で精いっぱいの威圧感を出す。
その効果もあってか、数名の小中学生は生唾を飲んだ。
しかし、一人。小学生だろうか、ラウラより更に小さな体で一歩前に踏み出し、胸を張る女子がいた。
「はいっ! 私はあります!」
幼さは残しているが、凛々しいまでの表情をしている女子に、ラウラは大きく頷いた。
「よし、その意気だ……では、お前からこの訓練機に乗ってみろ」
ラウラが指さした機体、『打鉄』は身体の小さな小学生が乗り込むにはあまりに不釣り合いだった。
しかし、器用に足場を探しながらスルスルと『打鉄』に乗り込み、武者震いにも見える震えを抑え込むようにそこからの景色を楽しんでいる。
「ほぁあ……」
「どうだ」
「す、凄いです……これが、IS……」
目を輝かせながら辺りをキョロキョロとする彼女に、他の学生も関心の意を隠せない。
「では、少し動かしてやろう」
当然、ISをいきなり自分で動かすことは許可されていない。
あくまで、ラウラが遠隔操作し、多少の歩行を順番で体験するだけのことだった。
それでも、最初の小学生に始まり次々と乗り込む学生は皆、目を輝かせながらISが動く様を食い入るように眺め、忙しなく視線を動かした。
「今日の経験は、必ず結果に結びつく。闘う事しか知らなかった私が、夫を手に入れたのも、数多の経験を乗り越えたからだ」
「夫……?」
多くの学生が首を傾げたが、ラウラは気にすることもなく満足気に頷いた。
「日本の代表候補、更識……簪です。今日は、私が実際に専用機で、飛行や装備の点検を、お見せします」
簪は緊張を隠すことも出来ず、ごにょごにょと話しながら俯いていた。
滞りなく、事前に決めたプログラムを進めていく。
この日の為に調整された簪の専用機、『打鉄弐式』の調子は好調で、特に大きな問題は起きなかった。
学生から寄せられる随所の質問にも完璧に答え、ISの細部を余すことなく見せつけた。
「やっぱり、ISって凄いね」
「うん……でも、ちょっと怖いかも……」
そんな風に話す二人組に、簪は優しく微笑んだ。
「その気持ちは、分かります……確かに、軍事利用は禁止されているとはいえ、兵器にしか見えないこれらを取り扱うのは怖いと思うし、実際に危険です」
真剣味を帯びるその話は、学生を聞き入れさせるに充分だった。
「でも、正しい使い方で、安全に気を付けてさえいれば……ISは、素晴らしい物だと、自信を持って言えます」
簪のハッキリとした口調に、自然と拍手が起こる。
頬を赤くして、学生の尊敬の眼差しから逃げようと、視線を反らした。
すると、トイレから南が出てくる所が目に入った。
緊張感もなく欠伸をしながら歩いている。
そこに、二人組の学生が駆け寄って行き、何やら話をし出した。
二三言話した後、一人のがスマホを取り出し、インカメラにしたのか手を高くつき出した。
スマホに写り込むように三人の身体が密着する。
写真を撮るよう頼まれるのは珍しいことでことではない。
ましてや、彼は世界で二人しかいない男性IS操縦者だ。
しかし、あろうことか南は二人の肩を抱いたのだ。
頼まれたのか、そうしないと写らなかったのかは分からない。
しかし気付けば簪は、部分展開した『打鉄弐式』で、内部を見る為に使うスコープを投げつけた。
かなりの距離が離れていたが、そのスコープは南の後頭部に直撃。
倒れ込む南に、簪は冷ややかな視線を向けた。
その様子を見ていた簪が担当する学生は、唖然としていた。
簪はゆっくりと彼女たちを眺めながら、薄っすら笑う。
「ああならないように、気を付けて」
箒が担当する質問コーナーには長蛇の列は出来ていた。
一人、十分程度の時間で自由に話すことが出来る。
「えっと……やっぱりIS学園の先生って怖い人ばかりなのでしょうか……?」
目の前に座る中学生は三年生らしく、受験するかを決める為に参加したという。
弱気な垂れ目は、同年代の箒の前でも変わらなかった。
「当然、厳しい先生はいる。だが、優しい先生だっていらっしゃる……それに、その厳しい先生も、私たち生徒の事を思い、真摯に向き合ってくれるぞ。だから、恐れることはない」
箒が優しく笑うと、相手は少しだけその表情を和らげた。
また次の学生は、元気よく挨拶した後、メモ帳を取り出した。
「あの、寮の生活って私、想像つかなくて……どんな感じなんでしょうか?」
「うむ。設備は整っている。食堂の食事は美味しいし、メニューも豊富だ。二人一部屋だから、相手と合わないと辛いだろうが、きっと仲良くなれるだろう。何せ、同じIS操縦者を目指す友なのだからな」
箒が力強く言うと、学生は笑顔で頭を下げた。
続いて訪れたのは保護者同伴の小学生だった。
一年生や二年生にしか見えないその娘は、ニコニコしながら箒を見つめている。
どうやら質問があるのは保護者のようだった。
「娘はISに大変興味があるらしくて、まだ幼いですから時期が来れば考え方も変わると思うんですが……やはり、普通の高校に行かせるべきでしょうか?」
(なんだその質問は!? 私は、この子の担任の先生か!? くっ、そんなこと聞かれても……)
箒は「えーっと」と言葉を濁すが、保護者は不安そうな眼差しを向けたままだった。
娘の頭を撫でながら、助けを乞うように箒を見つめる。
「う、うぅ……隣に!」
箒は考えるのをやめた。
「え?」
「隣に、私よりそういうのに詳しい男がいます!」
「え、いやでも、男性より、同じ女性の方が……」
「彼は優秀なので大丈夫でしょう! さぁ、どうぞこちらに! 優先してもらうよう、話しますから!」
勢いよく立ち上がり、箒は自分のブースを出た。
大股で南のブースへ入っていく。
ちょうど、学生と話が終わったのか、南は呑気に「次の方ー」と呼び込みながらチョコを食べていた。
南のブースはちょっとした店みたいになっており、今朝コンビニで買いこんでいた飲み物やお菓子を並べていた。
「自由すぎる……」
肩を落とした箒に気付いた南は手を振った。
「おう、どうした」
「この方、頼む」
「え?」
「では、こちらにどうぞ!」
南が呆気に取られている隙に、箒は保護者を押し付けた。
困惑する二人とその娘を残し、そそくさと帰っていく。
「えっと……チョコ食べます?」
表情を変えないままチョコを差し出すと、娘は嬉しそうに手を伸ばした。
数分後、箒は改めて南のブースを訪れた。
休憩に入る所だったらしく、中には誰もいない。
「おい、なんださっきのは」
怒る訳でもなく、南は苦笑しながら言った。
「うぅ……すまない……どうだった? 上手く答えられたか?」
「気まずい沈黙を挟む、堅苦しい会話には成功した」
南が肩を落とす。
専用機持ちの昼休憩が訪れた。
この時間は、学園の教員がISを使った模擬戦闘を見せることになっており、南達は楽屋のような部屋で弁当を頬張っていた。
「最近の中学生というのは、あんなにも生意気なものなんですの!?」
珍しく言葉を荒げながら箸を動かすセシリアに、シャルも顔を赤くして俯いた。
「ホント、困っちゃうよ……」
その隣でラウラと簪は仲良く、弁当の中身を交換しいる。
どうやら不満はないらしい。
「くぅ! 腹立つ!」
鈴も同じく米をかき込みながら叫ぶが、割り箸が音を立てて割れた。
これで四本目だった。
その正面に座る箒も何やら沈んだ顔をしている。
「どうしたんだよ、鈴。箒もえらく落ち込んでるけど……」
一夏が心配そうに声をかけた。
「さっき二人でトイレ行ったら、箒の娘に間違われたのよ!」
「えぇ!?」
一夏の口から、煮物が飛び出した。
「箒の娘って……そんなに小さく見えるかしら!?」
「私なんて親だぞ! 鈴の母親だと!?……そんなに老けて見えるのか……私は……」
鈴は割り箸を折り曲げては新しいのを掴む。箒は弁当が喉を通らない様子だった。
「まぁ、落ち着くんだ、鈴」
「箒も、落ち込まないで……大人びて見えるだけだよ」
ラウラと簪がフォローするが、二人の様子は変わらなかった。
「ここ、剣道場もあったわよね! そこから竹刀を借りてきて、振り回してやりたい気分だわ!」
歯を剥き出しながら鈴が唸った。
「竹刀を? お母さんに似たんだな」
南が嬉しそうに言うと、鈴はその肩を無言で殴った。
午後の部がスタートした。
南は引き続き、後頭部と肩をさすりながら質問に答えていく。
再開してから八人目の生徒。
彼女は、明らかに今までの娘とは違った。
「ちーっす。あーし、マジ質問あるっつーかー、まぁ、そんな感じ?」
「は?」
派手なメイクと髪型。気温も高くないのに、履いている意味があるのか分からないほど短いスカート、濃いピンクの上着を羽織ってはいるが、その胸元はだらしなく開いている。
「古いギャルじゃないか。成績優秀者しか来れないんじゃないのか」
南は思わず呟いた。
小さな声ではあったが、ギャルには聞こえたらしく、机をバンバン叩き出した。
「いや、つーかー? あーし、めっちゃ成績いいかんね? もぎ? もみ? あれ、なんだっけ?……全国、もしもし?」
「全国模試か?」
「あー、それそれ! あーし、いっつも一番!」
「嘘つくな」
「いや、ウケる~。あーし、嘘ついたこと、ないない」
右手を左右に振りながら笑う様子が腹立たしくて、南の顔は引き攣るばかりだった。
「ってか、そんなことどーでもよくなーい? あーしが聞きたいのは、ISのせんよーきってどうやったら、もらえんの? ってこと」
ギャルは勧めてもいないのに、勝手に机のお菓子をつまみながら言った。
飲み物も紙コップに入れず、そのまま飲んでいる。
「……日本の代表候補生になったら貰えるんじゃないか」
南は適当に答えた。
スマホを取り出して、ネットを開くのを我慢したのを褒めて欲しい気分だった。
「えッ! じゃあ、お兄さんだいひょーこうほなん?」
やけに大きい声で尋ねてくるため、その度に南は体が弱っていくのを感じた。
「いや、俺は違う」
「でも、せんよーき持ってるって、ニュースでやってたくない?」
「専用機は持ってる。だが、俺は特別だ……誰にでも適応されるわけじゃない」
「うげぇ、マジだりぃじゃん。だいひょーこうほってのにならないといけないのかー」
南は怒りにも似た、いや、実際怒っていたのかもしれない。
自分の目の前で日々、努力する専用機持ちの頑張りが、ちんけな言葉で軽んじられているように思えたからだ。
「代表候補生は、お前が思ってるほど楽になれるもんじゃないぞ」
自然と、声は低くなっていた。
「国を背負ってISを動かし、その為に日々、努力する……お前のそのふざけた態度で、簡単になれると思わない方がいい」
南の言葉は目の前の少女に届いたのか、彼女は何も言わなかった。
自分の目的を思い出した南は、慌てて口調を明るくする。
説教をするのが自分の仕事ではない。
「いや、まぁ……代表候補じゃない俺が偉そうに言っても説得力はないんだが……でも、友達の代表候補生は……確かに個性が強い奴ばかりだが、ISに関しては常に真剣だ」
ヘラヘラと笑っていたギャルから笑みが消え、小さく何度か頷いた。
「いや、何かマジで反省した。あーし、もっとがんばる」
「ああ、そうしてくれ」
話し方は直らないのか、と南は内心で苦笑する。
「……じゃあさ、あーしがIS学園入ったら、お兄さんが専属のコーチやってね」
「断る」
南は顔を顰めたが、ギャルは嬉しそうに身を捩った。
鞄を担ぎながら、跳ねるように立ち上がる。
「いや、拒否権とかマジないから。あ、あと、あーしの連絡先教えてあげる」
「…………」
ため息を我慢するのに必死で、南は頭を抱えるのを我慢し忘れた。
それもお構いなしに、派手なメモ帳にくりくりと丸っこい字で色々書いた後、南の目の前に置いた。
「じゃあ、ママに柿ピー買って来いって言われてるから、帰るねー」
「何の情報だっ」
叫ぶのを抑えて言うと、ギャルはスキップしながらブースを出た。
しばらく次を呼び込むのをやめ、肩を落とす。
「マジで、ちょー疲れるんですけど……」
ぽつりと呟いて、また気合を入れ直した。
夜の八時。
一時間前に終了したイベントの後片付けを終え、専用機持ち八人は疲れ切った表情で、動けずにいた。
教員は何やらやることが残っているらしく、ホテルには勝手に帰れと指示されている。
「どっか、飯行くか」
一夏が伸びをしながら言った。
「焼肉だな」
「はは、分かったよ。じゃあ、この辺で焼肉屋探してみる」
簡潔に言った南に、一夏はスマホを取り出しながら笑った。
疲れ切った表情をしていたシャルだったが、何かを思いついたように立ち上がった。
「あっ、そう言えば……南、今日女の子にたくさんプレゼントとか貰ってたでしょ……」
「写真もいっぱい撮ってた……」
簪も続く。
「まぁな。いらないと無下にも出来ないし、危ない物じゃないか調べてから寮に送ってもらうよう、山田先生が手配してくれた。写真はお前らもだろ?」
南が視線を向けると、簪は皆に、肩を抱いて写真を撮っていたことをちょうど話しているところだった。
鋭い視線が、一斉に南に向けられる。
「プレゼントって、南はいくつ貰ったんだ?」
助け舟を出すように一夏が聞いた。
疲れからか、特に危機を感じていなかった南は、指を折りながら数えていく。
「えーっと……ニ十個くらいだな」
「おっ、俺は百個近く貰ったぞ」
得意げに笑う一夏。
その表情に、南が固まった。
「俺が……一夏に、負けた……しかも、百個って……」
南は口をあんぐり開けて絶句した。
「鱗が出てますわよ」
セシリアが口を閉ざしてやりながら言う。