IS-インフィニットストラトス~一匹の蜘蛛~   作:清麿

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シャルとラウラは61話でやったので、添い寝回は鈴で終わりです。お付き合いいただき、ありがとうございました。一応、二人とも添い寝したという体でお願いします。

酷いネタ切れのため、見苦しい箇所ばかりだったとは思いますが、次話以降もよろしくお願いします。



71.寒い夜には~鈴&終章~

「ふっふふ~ん」

 

新調したパジャマに身を包み、寮の廊下をスキップする鈴は、紙袋を片手にだらしなく頬を緩めていた。

 

「やーっと、あたしの番ねっ。まぁ、今日の為の秘策も思い付いたわけだし、別にいいんだけど~」

 

南の部屋の前で、鈴はぴょんっと跳ねて着地した。

 

軽快に扉を叩き、南を待つ。

 

「はいはい」

 

扉から顔を覗かせた目当ての男は、鈴の胸の高鳴りなど知らないのか、いつも通りの表情をしていた。

 

本人を前にすると少しの緊張も出てくるが、鈴の「秘策」が、それを打ち消す。

 

「南、来てあげたわよ!」

 

「おう、今日は鈴か。どうぞ、入ってくれ」

 

「お邪魔しまーす」

 

軽快に部屋の中へ足を踏み入れる鈴。

 

扉が閉まり、遅れて部屋に戻る南を待ってから、クルリと体の向きを変えた。

 

「ねぇ、南。小腹空いてない?」

 

いつものように一年の専用機持ちで食事を摂ってから三時間ほど。

 

全く何も食べられないか、と言われれば否定は出来ない。しかし、小腹が空いているとも言えない時間だった。

 

「いや、別に……」

 

南は、妙なテンションの鈴に多少の困惑を見せながらも、椅子に腰かけた。

 

それもお構いなしに、鈴は紙袋を差し出す。

 

「これ、食べない?」

 

「俺の話を聞いてなかったのか? 小腹は空いてな―――って、これ高級店のチョコじゃないか!」

 

呆れたように鼻で笑った南だったが、差し出された紙袋を見て、即座に目を釘付けにした。

 

ひったくる勢いで手に取り、興奮しながら中を取り出す。

 

「男って、チョコにそこまで食いつくかしら、普通……まぁ、いいわ。食べてみない?」

 

「おう、食べよう食べよう。いやー、ありがとう鈴」

 

無邪気に箱を開ける南に、鈴はほくそ笑んだ。

 

(ふふ……チョコと言ってもただのチョコじゃなくて、中身はウィスキーボンボン。これで程よく酔ってしまえば、優しく介抱してもらえる……)

 

――—ウィスキーボンボンとは、洋酒入りのボンボン菓子の一種であり、砂糖製の殻でウィスキーを包んだものである。

 

これをチョコレートでコーティングしたものは、材料の他に手間もかかるので値段が張る場合が多い。

 

事実、鈴が用意した物は一粒で千円を超える代物であり、代表候補生の鈴だからこそ気軽に手を出せた。

 

(あたしは結構お酒に弱い……っても、ちゃんと飲んだことはなくて、台湾の親戚に無理矢理飲まされた程度なんだけど……それでも、かなりきちゃったのよねぇ)

 

「じゃあ鈴、悪いが貰うぞ」

 

「ええ、あたしもいただくわっ」

 

二人は、同時にウィスキーボンボンを手に取り、口に運ぶ。

 

南が、感動の声を上げる。

 

「おぉ~、ウィスキーボンボンか。美味い……流石、高級店だ」

 

「ええ、美味しいわね」

 

「寝る前にこんなの食べて、太らないか?」

 

「よ、余計なこと気にしなくていいのよっ……それに私達は、ISで散々動くんだから大丈夫!」

 

言い聞かせるように言うと、早く酔ってしまうべく、鈴は二つ目に手を伸ばした。

 

南も、負けじと口に放り込んだ。

 

箱を埋め尽くしていた物は、あっという間になくなり、鈴は息を吐く。

 

「ふぅ、美味しかったわね」

 

「…………」

 

わざとらしく言う鈴に、南は何も言い返さなかった。

 

それにも構わず、鈴はパジャマの胸元をパタパタと仰ぐ。

 

「ねぇ、ちょっと暑くない?」

 

「……………」

 

南の返事はない。

 

「ちょっと酔っちゃったみたい……お菓子で酔うなんて、そんなことある訳ないと思ってたのに……」

 

あえて色っぽい声を出してみるのだが、相も変わらず南からの返事はなく、鈴はムッとしながら顔を上げた。

 

すると、先程までテンションが上がりっぱなしだった南は、項垂れるように俯いてしまっている。

 

「え、ちょっと、南?」

 

「……んぁ?」

 

鈴に呼ばれて顔を上げた南は、鈴の数倍は顔を赤くし、目をぼんやりと開けているだけだった。

 

力が入らないのか、首を傾けたまま虚ろな目で鈴を見ている。

 

やがて、心配そうな表情をする彼女に気が付いたように、ニヤリと笑った。

 

「おおー、りん……なんか眠くなってきた……」

 

明らかに酔いが回っている口調の南は、鈴の肩を掴んで立ち上がる。

 

「ちょ、ちょっと、大丈夫?」

 

「んー? そりゃー、だいじょーぶだ……おれは、『くも』だぞ」

 

フラフラと鈴を支えにしながら立ち上がった南。

 

そんな彼を必死に介抱する鈴に、酒気は全くなかった。

 

酔いも醒める南の泥酔ぶりに、困惑を隠しきれない。

 

「何よ、あたしよりお酒弱いじゃないの」

 

「よわい?」

 

南の眉が上がった。

 

鈴から身体を離し、意味もなく胸を張る。

 

「おいおい、おれはよわくないぞ……」

 

「いや、お酒の話……」

 

「おれはな、中学のとき、牛をたおしたことがあるんだぞ、牛を」

 

普段の南なら信じられるが、今はとてもじゃないが信じられない。

 

「嘘でしょ?」

 

なだめるような表情で言う鈴。

 

しかし、南は首を横に振った。

 

「ほんとうだ……しょうがつに、しんせきが集まったときにな……酒を飲まされたおれは、ふらふら外にでてったんだ」

 

「あぶなっ」

 

鈴は、思わず口に出す。

 

同時に思い出したのは、夏休みに訪れた山に囲まれた村の情景だった。確かに、牛がいてもおかしくない。

 

「で、道でそうぐうした牛を、俺がこの手でしとめた」

 

「あり得ないわ」

 

「いや、立ってた牛がたおれたんだ」

 

「それは、アンタが倒れたのよ」

 

「……そういえば、そらが横向きだったような」

 

ため息をついた鈴は、髪を留めているリボンを触った。

 

「ほら、もう寝るわよ……あーあ、計画が台無しじゃない」

 

二つのリボンを解き、机に置く。

 

纏まりを持つ髪を、軽く振って均した。

 

電気を消そうと振り返る。

 

すると、南がシャツを脱ぎ捨てる光景が目に飛び込んできた。

 

「なっ!?」

 

日々、IS操縦者として鍛え上げられている肉体に、鈴は顔を赤くしながらも目を離すことは出来なかった。

 

「あっつい……あつくないか?」

 

酔いで体が火照っているのか、南は真冬にも関わらず、手でパタパタと額を扇ぐ。

 

「ちょっと、何脱いでんのよ! 風邪引いちゃうじゃない!」

 

「しんぱいするな……おれは『く―――」

 

「アンタが『蜘蛛』なのは分かったからっ……もう、しょうがないわねぇ」

 

服を着せるのを諦めた鈴は、電気を消すついでに、暖房の温度を上げた。

 

これで良し、と頷くと同時に、背中が重くなる。

 

身体に回された腕は、程よく筋肉が付いており、簡単に引き剥がせそうにない。

 

「な、なな、あ、アンタねぇ―――」

 

「りん……おまえ、やっぱり髪おろすと、かわいいな」

 

鈴の肩に頭を乗せた南は、いつもより低い声でそう言った。

 

耳にかかる吐息が、鈴の顔をより一層赤くする。

 

「そ、それじゃあ、普段は可愛くないみたいじゃない」

 

「そんなことないぞ……いつもとちがう感じで、っていみ」

 

「何よ……普段はそんなこと言わないくせに……」

 

「口にはださないだけだ」

 

「うぅ……ね、寝るわよっ。いつまでも抱きついてないで、離れなさい」

 

「すまん……」

 

南はすんなり体を離すと、おぼつかない足取りでベッドの方へと歩いて行った。

 

ドサッと音を立てて倒れ込むと、そのまま寝息を立て始める。

 

「もう……」

 

肩をすくめた鈴は、布団を剥がし、ベッドに寝かせ直す。

 

枕に頭を乗せて毛布を体にかけた後、しっかりと自分も横に寝てから布団をかけた。

 

すぐ隣で眠る南の表情に、鈴は苦笑した後で、いつものように笑った。

 

「可愛い、か……」

 

そう呟くと、南の鼻を人差し指で軽く触れる。

 

少しだけ動かして、撫でるようにすると、南は軽く身を捩った。

 

「この埋め合わせは、ちゃんとしなさいよね」

 

それだけ言って、鈴は目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

~~~終章~~~

 

翌日。

 

鈴が目を覚ますと、隣に南の姿はなかった。

 

「起きたか」

 

目を擦りながら身体を起こすと、南が制服に袖を通している姿が目に入る。

 

昨日とは打って変わった、いつも通りの立ち振る舞いに、鈴は目を見張った。

 

「その……昨日は、すまなかったな」

 

「え、う、うん……」

 

「今度の日曜日、お詫びにどこか行こう。それで許してくれ」

 

「それはいいけど……アンタ、大丈夫なの?」

 

「ああ、もう酒も抜けた……まぁ、飲んだわけじゃないんだが」

 

苦笑する南に、鈴は再び身体をベッドに沈めた。

 

「ホント、アンタって……」

 

「悪い悪い。じゃあ、先に食堂行ってるな」

 

「分かったわ」

 

それだけ言うと、扉が閉まる音がした。

 

部屋で一人になった鈴は、深いため息をつく。

 

その後、昨日の南の所業を思い出して顔を真っ赤にした。

 

「あたしも……酔ってたの、かな……んんんん~~!」

 

ふと思い出される南の腕の感触や、耳元でささやかれたことを思い出し、枕に顔を埋めて、バタバタと足を動かす。

 

布団が荒れるのも気にせず、鈴は数分間、悶え続けた。

 

 

 

 

 

 

同じころ、南は、食堂で鈴と一夏を除く専用機持ちと共に、朝食を摂っていた。

 

パンをオレンジジュースで流し込み、息を吐く。

 

「それで、南さん?」

 

セシリアがにこやかに言った。

 

隣に座る箒が箸を置く。

 

「そ、その……誰との添い寝が、い、一番良かった!?」

 

緊張気味に放たれた言葉に、ラウラが胸を張った。

 

皿の端に避けられたパセリが揺れる。

 

「当然、私だろう」

 

「違う、私」

 

素早く対抗した簪。

 

二人の間に火花が散る。

 

「特別誰が、ってことはなかったが……」

 

「そ、それでは駄目です!」

 

南が腕を組むと、正面のヴィシュヌが詰め寄った。

 

シャルも勢いよく頷いている。

 

「いや、ただ寝ただけだし……って、ちょっと待て、織斑先生が……」

 

全員が視線を向けると、千冬が鬼の剣幕で歩み寄ってくるのが見えた。

 

すぐさま視線を外し、そそくさと食事を再開する。

 

「おい、神代」

 

南達の座るテーブルまで来た千冬は、低い声を出した。

 

顔を上げないまま、南はパンを置く。

 

「なんでしょう?」

 

「貴様、この小娘共と日替わりで添い寝をしていたらしいな」

 

腹の底から響くような声に、冷や汗が流れる。

 

セシリアが両手を握り合わせて、祈りを捧げているのが見えた。

 

「おかしいですね。楯無……生徒会長が書いた申請書を出したでしょう」

 

「それをついさっき見たんだ。私は貴様らと違って忙しい……ようやく思い出して目を通してみれば、随分と舐めた真似をしてくれたなぁ」

 

「み、南っ。楯無会長をっ」

 

箒が南の袖を引っ張る。

 

南は、すぐさま箒の耳元に顔を寄せた。

 

「あの人は、今この学園にいないんだ」

 

「どうしてだぁ……」

 

箒の情けない声が漏れる。

 

「さて、どう落とし前をつけてくれようか」

 

「いや、あのですね……これには、仲間との親睦を深めるという崇高な目的が……」

 

立ち上がった南は、雄弁に語るべく必死に言葉を紡ごうとした。

 

しかし、千冬はそれを許さない。

 

「ほう、訳の分からんことばかり抜かすお前にも、仲間がいたのか」

 

そこで初めて、南は高らかに言った。

 

「失礼な。もちろんいますとも……ざっと数えただけで、専用機持ちの皆で九人います」

 

一夏、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、簪、楯無、ヴィシュヌの顔を思い浮かべながら、すぐさま言葉を返した。

 

「織斑先生も入れたら十人ですよ」

 

「私は入れなくていい」

 

「じゃあ、九人だ」

 

千冬はため息をついて、頭を抱える。

 

すると、食器のトレーを持った一夏と本音が通りかかった。

 

好機と見た南は、すぐさま指をさす。

 

「織斑先生、一夏ものほほんさんと一緒に寝てたんです。彼らは親睦を深めるのではなく、きっと不純なことを―――」

 

なんとか矛先を一夏と本音に向けようとしたが、言い終えるよりも先に、一夏が困った顔で南を見た。

 

「おい、南……お前、昨日、鈴と何してたんだ? さっき部屋に戻ったら『胸板が……生身の温もりと囁きが……』とか言ってたけど、この季節に裸になったりしてないだろうな?」

 

南の動きが止まる。

 

同時に、テーブルに座る専用機持ちと、千冬の鋭い視線が突き刺さった。

 

「南? どういうことですか?」

 

ヴィシュヌの凍えるような声がする。

 

しかし、南に返す言葉は見つからなかった。

 

「神代……折角だ、私の部屋でゆっくり話を聞こうじゃないか。おい、小娘共……来るか?」

 

急に優しい声になった千冬は、南と肩を組んだ。

 

問いかけられた専用機持ちは、声にも出さずに頷く。

 

「おい、一夏。残念な知らせがある」

 

「な、なんだ?」

 

千冬の覇気に、すっかり縮こまった一夏が震える声で訊いた。

 

「仲間が八人に減った」

 

「え?」

 

「お前はもう仲間じゃないからな!」

 

吐き捨てるように言った南は、そのまま千冬に引っ張られて行く。

 

一夏は首を傾げた後、誰もいなくなったテーブルに本音と腰かけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うぅ……」

 

文字通りボロボロになった南は、ふらつく足元に力を入れて寮の廊下を歩く。

 

否、壁伝いに身体を支え、足は引きずっていると言った方が正しい。

 

「どうしてこうなった……」

 

初日にも言ったこのフレーズを、震える声で絞り出す。

 

「ちょ、ちょっと、大丈夫!?」

 

すると、偶然通りかかった鈴が、南に駆け寄った。

 

南が解放された後、専用機持ちはそのまま千冬の地獄を見せられていたが、あの場にいなかった鈴はそれを逃れていたためである。

 

「もう、なんで二日連続でアンタを支えなきゃならないのよ……」

 

「すまん……命からがらとはこのことだな……」

 

「何があったの?」

 

鈴の問いかけに、南は事の顛末を話す。

 

それを聞き終えた鈴は、身震いした。

 

「そ、それって、あたしも……」

 

「多分、呼び出されるな」

 

「はぁぁ……ど、どうやって生き延びればいいの……」

 

鈴の怯えた表情を見て、南は身体を起こす。

 

「いいか? とにかく動け。止まるな。アリーナに引きずり込まれて、専用機持ち皆と織斑先生が猛攻を仕掛けてきたが、俺はとにかく動きを止めなかった」

 

「なるほどね」

 

南の言葉に、鈴は何度か頷いた。

 

「それから、隙を見つけて反撃だ。逃げてるだけじゃ終わらない……あの織斑千冬に刃を放つ瞬間は震えたな」

 

何故か得意げになって話す南。

 

鈴は、顔を顰めながら口を開いた。

 

「一つ聞きたいことがあるんだけど」

 

「なんだ」

 

「その時の空は横向きだった?」

 

 

 

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