迎えた全学年合同タッグマッチ。
南は焦りで汗を垂らしていた。
「すまん、神代!」
「ぬふぅ。すみませーんー」
京子とフィーが頭を下げる。
彼女達曰く、調整後に気が付いたミスがあり、機体の動きが適正に、そしてスムーズに行われないことが分かった。
ただ動かすだけならまだしも、今日のような戦闘を前提にしたイベントには、とてもじゃないが出場は出来そうにないという。
「でも、そんなに時間のかかることじゃないんだ。ちょっと弄ればすぐに……」
「うゆぅ。急ぎますからぁ」
南は、隣の楯無の方を向き直った。
「楯無、俺達の試合を最後に持って来れるか?」
「ええ。それは大した問題じゃないわ。先生方に伝えて来るわね」
楯無はそれだけ言うと、すっと振り返って歩き出した。
それを見送ると、アリーナに隣接している整備室に三人で駆け込んだ。
「一応、時間は稼げたな」
南がそう言う頃には、京子とフィーの二人が、とんでもない速さで作業を進めていた。
その様子を、一年の整備科志望が目を輝かせて見ている。
「布仏! データスキャナー借りて来れるか!」
「あいあいさ~」
その場に居合わせていた本音が、長すぎる袖を額に当てて、緩い敬礼を見せた。
少しだけいつもより引き締めた表情をした本音は、整備室を出る。
本音にだけは任せられないと、他に二人が続いた。
「悪い、神代……この失敗は整備科の恥だ」
「なふぇ……ちゃんとかんせーさせて、せいこーさせるからぁ……」
京子とフィーは、焦りに表情を歪めながらも手を止めることはない。
その手際の良さは、他の整備科を圧倒する物があったが、今の二人には関係なかった。
「失敗から得られるのは成功じゃない」
そこで南は、人差し指を立てると高らかに言う。
周りの視線が集中した。
それに気をよくした南は、その指を振りながら胸を張る。
「同じ失敗を繰り返さない方法だ」
京子が口の端を持ち上げた。
「慰めになってねぇんだよ」
フィーの表情から焦りが消えた。
「んふぅ。なんですぁ、それぇ」
そこに、ちょうど本音と他二人が帰ってきた。
「おまたせ~。取ってきました~」
「よしっ、よくやった!」
京子は、本音からデータスキャナーを受け取ると、作業を再開。
整備室を出る前と比べて余裕を感じさせる二人を見て、本音が南の背中に袖を当てた。
「みなみん、またてきとーなこと言ったの~?」
「失礼なことを言うようになったな。一夏の影響だ」
南が、複雑な表情をする。
しかし、本音は照れたように頬を染めるだけだった。
『フィアー・スパイダー・ロージング』を二人に預け、南はとりあえずISスーツに着替えるべく、第四アリーナの更衣室へと向かう。
と言っても、スーツを制服の下に着込んでいるため、それを脱ぐだけであった。
更衣室へは、大きく回り込むように移動しなくてはならず、南はのんびりと歩いていく。
「そう言えば、第一試合の組み合わせはどのペアだ?」
「あっ、神代くーん」
ふと思った疑問を呟くと、背後から黛 薫子が声をかけた。
新聞部の取材という名目で交流のある彼女は、南にとって珍しい顔ではなかった。
「どうも」
「流石、たっちゃんとのペアだね。あなた達のオッズが一番よ」
そう言って手渡された用紙には、「神代 南&更識楯無」が一番上に記されており、その後に続く形で「篠ノ之箒&ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー」「織斑一夏&シャルロット・デュノア」「凰 鈴音&ラウラ・ボーデヴィッヒ」「セシリア・オルコット&更識 簪」となっている。
「なるほど……」
「ちなみに、私もあなた達に賭けたから……ちゃんと勝ってよ~。で、豪華賞品をよろしく!」
薫子はそれだけ言うと、カメラを構えた。
有無を言わせずポーズを取るように指示され、南は適当に拳を握る。
「写真オーケー! 次、コメント!」
「非暴力を訴えたガンジーに、勝利の味を教えてやりたい」
「よし、相変わらず意味不明! じゃあ私、今からオルコットちゃん達の方にも行くから」
―――それじゃあね、そう続けようとした薫子の声は、爆音によってかき消された。
地震のような振動に、薫子がよろめく。
「おっと」
腕を素早く伸ばした南が、その背中に手を回し抱え込んだ。
連続して続く振動が収まると、廊下の電灯が赤く染まった。
空中ディスプレイが、非常事態を知らせる。
「大丈夫ですか」
「あ、ありがと……いったい、何が……」
薫子が震える声で言う間にも、振動は続く。
教員の緊急放送が途切れ、南は薫子の背中を押した。
「とりあえず、一か所に集まりましょう……こっちだ」
引き返す形でアリーナの整備室へと足を向ける。
小走りする薫子の後を、早歩きでついて行く南はナイフを取り出した。
「きゃあああ!」
戻ってきた整備室の扉を開けようと手を伸ばすと、中から悲鳴が聞こえる。
薫子をゆっくりと押し退け、扉を強引に開ける。
そこには、黒くシルエットの整ったISに襲われる、整備科の姿があった。
「山田先生、何が起きている!」
「しゅ、襲撃です!」
廊下に響く千冬の怒声に、真耶が携帯端末を取り出しながら答えた。
学園内に設置されたカメラが写し出す「敵」に、千冬は舌打ちをする。
「先日、アラスカにある基地を襲った無人機ISだと思われます!」
「数は?」
「六基です! 既に戦闘教員が更識楯無さんと共に、一基と交戦中。残りのうち四基は、今回のタッグマッチの専用機持ちペアが対処しています!」
真耶はそこまで言うと、眉を下げた。
残りの一基を相手しているのは、いわずもがな南である。
それを察した千冬は、真耶の肩に手を置いた。
「アイツなら一人でも大丈夫だ。更識と共に交戦中の職員数名を、生徒の避難に回せ」
千冬の言葉に、大きく頷いた真耶は踵を返して駆け出す。
その背中が十分遠くなると、壁を思いっきり殴りつけた。
「甘く見るなよ、束」
そして、あの憎たらしい笑顔を思い出す。
「神代、頼んだ……」
「ラウラ! そっち狙ってる!」
「小癪な!」
プラズマ手刀を展開したラウラは、素早く腕を振るい、無人機IS「ゴーレムⅢ」を狙った。
しかし、右腕部に備えられたブレードに弾かれる。
更に、関節の動きを無視した一撃が、ラウラを襲った。
「ぐっ!」
歯を食いしばりながらも、視界の端に捉えた鈴の姿に、大きく後ろへ跳ぶ。
「いっけぇぇ!」
鈴の叫びに、龍の咆哮が応える。
最大の出力を持って放たれたそれは、確かにゴーレムⅢを吹き飛ばす―――はずだった。
しかし、機体の周りを浮遊する球状の装置が、素早くエネルギーシールドを展開。
衝撃砲を防ぐと、今度は鈴の方へ詰め寄った。
「なんなのよ、こいつ!」
鈴は双天牙月を両手で掴むと、素早く斬りつける。
それに応戦したゴーレムⅢが、掌にある砲口を鈴の方へ向けた。
「や、やば―――」
「はぁ!」
次の瞬間、ゴーレムⅢが大きく上体を揺らした。
ラウラによる大口径リボルバー―カノンの高速連射が為したことだった。
そのまま隙を与えず、ラウラは左手を伸ばす。
AICによる停止結界の発動だった。
動きを止めたゴーレムⅢに、鈴の一撃が降り注ぐ。
「きゃあっ!」
「うぅ……」
セシリアと簪の悲鳴が響く。
ゴーレムⅢの超高密度圧縮熱線による一撃が直撃したためである。
派手に、そして大きな音を立てて転がり込んだ二人はしかし、素早く身体を起こし、眼前に迫っていたゴーレムⅢの次なる一撃を避けた。
「これで……」
セシリアは荒れる呼吸を整えることもせず、空中停止すると、四基のブルー・ティアーズを周囲に配備した。
その全てのビームが明後日の方向へと飛ぶ。
苦し気な表情を浮かべながらも意識を集中する彼女の隙を逃さんと、ゴーレムⅢは右腕ブレードを構え、突進する。
「させない……」
簪はそう呟くと、荷電粒子砲である春雷を牽制代わりに連射した。
動きが鈍ったゴーレムⅢに、セシリアが一瞬だけ口角を上げる。
「いただきましたわ!」
指を滑らせるように振ると、先程、明後日の方向に飛んだビームが捻じ曲がり、方向を変えた。
ゴーレムⅢを全方向から襲う、BT兵器の精神感応制御こと「偏向射撃」だった。
しかし、無人機特有の怪奇な動きでそれを避けたゴーレムⅢは、瞬時加速を用いて、セシリアへと襲い掛かった。
「なっ!」
数発は着弾したものの、それをもろともせずに突っ込むと、セシリアの頭部を掴み上げた。
「くっ……ブルー・ティアーズは……六基ありましてよ!」
背部から展開したビットが、ミサイルを放つ。
その衝撃を自分も受けながら、それでも、息を大きく吸った。
「簪さん!」
「いっけぇ! 山嵐!」
装弾数四十八発の誘導ミサイルが、ゴーレムⅢを包み込むようにした。
「はっ!」
蹴る。
「ふっ」
避ける。
「っし!」
蹴る。
ヴィシュヌが行うのは、そんな単調なリズムのような攻撃だった。
だが、それで良かった。
ゴーレムⅢのブレードを躱し、砲撃をいなし、蹴りを放つ。
そして、時にパンチを、時に肘打ちを、時に箒を。
「はあああっ!」
箒が操る二刀流は、ゴーレムⅢの両腕を高く払い上げた。
空いた腹部に、ヴィシュヌの前蹴りが突き刺さる。
しかし、ゴーレムⅢもまた待っていた。
浮遊する装置は、エネルギーシールドを作り上げ、ヴィシュヌの足を強引に弾いた。
「ぐっ……」
衝撃に目を薄めると、ゴーレムⅢは、左の掌を箒に向けて熱線を発射。
同時に、右腕のブレードを振り下ろした。
「がはっ!」
斬りつけられた勢いを殺すことも出来ず、地面に転がるヴィシュヌ。
展開装甲をシールド状態に回していた箒は、素早くスラスターへ切り替える。
「貴様ぁ!」
強力な推進力を生みながら、箒はぐんぐんと速度を上げた。
普通ならば回避行動を取る所なのだが、そこは無人機。
同じく瞬時加速を行い、箒の方へと真正面からぶつかっていく。
大きな破裂音を生んだ二機は、空中から同時に高度を落とした。
「箒!」
ヴィシュヌの声が響く。
先に動いたのはゴーレムⅢだった。
異様な動きを見せながら体勢を立て直すと、掌を向ける。
「させません!」
まさに放たれる寸前となったゴーレムⅢの左腕に、複数本の矢が放たれた。
命中精度を重視していないヴィシュヌの牽制だった。
その矢を回避したゴーレムⅢが、再び箒を捉えた時には、クロスボウ状の武器を構えているのが見える。
「もらった!」
真紅のエネルギービームが放たれた。
シャルは素早く動き回りながら、連装ショットガンを放つ。
その視線の先に居るのは、ゴーレムⅢと一夏だった。
「うおおお!」
雪片を振るう一夏は、そんなシャルの援護を受けながら、ウィングスラスターの出力を上げる。
突進にも近い猛攻を防ぎきれず、ゴーレムⅢは大きくのけ反った。
その隙を見るや、一夏は零落百夜を発動。
激しく滾るエネルギーを纏い、刀を振り上げる。
しかし、ゴーレムⅢがPICを器用に用いて身体を起こした。
「や、やば―――」
熱線の直撃を覚悟した一夏だったが、シャルの重機関銃の乱弾がゴーレムⅢを弾く。
「させないよ!」
「助かったぜ!」
一夏はすぐに方向を変え、再び雪片を振った。
ゴーレムⅢもブレードを構えて応戦する。
つば競り合いのようになった一夏の視界に、避難が遅れた生徒の姿が数名見えた。
「シャル! コイツは任せて、皆を!」
ぐっと、腕を押し込みながら一夏が言った。
次なる装備を展開していたシャルが、声を漏らす。
「で、でも……」
「いいから早く!」
有無を言わせない一夏の声に、シャルは頷くと、物理シールドを展開しながら生徒の方へ跳んだ。
それを確認すると、一夏は腕を振り上げ、蹴りを放つ。
「まだ練習中でさ……」
左手に装備された雪羅が荷電粒子砲を展開した。
「自信ないから、一応、退いといてくれ」
一夏はそう言うと、表情を一層引き締めた。
爆音を轟かせ、ゴーレムⅢが吹き飛ぶ。
「うぐっ」
南の身体がよろめくと、ゴーレムⅢは容赦なくそこにブレードを振り下ろした。
最小限の動きでそれを避け、右手を突き出す。
ゴーレムⅢもまた、身体を捻って回避行動を取った。
左の掌が南に向く。
「だから、それはやめてくれ……」
南はナイフを体の前で構え、相手には届かない言葉を呟いた。
放たれた熱線が、南を焼く。
背後で怯える整備科の生徒が、悲鳴にも近い声を出した。
出口がゴーレムⅢの背後にあり、それでなくても戦闘できるのがギリギリ程度の整備室では、生徒の避難は優先できなかった。
自慢の糸も、無人機を絡め取る寸前に弾かれてしまう。
明らかに、南への意識が向けられている装甲だった。
「っ!」
痛みに耐えながら再び駆け出す。
跳躍……同時に、ナイフの刃を射出。
ゴーレムⅢはエネルギーシールドでそれを弾くと、左手を向けた。
その腕を足場に、南は再び方向を変えながら跳ぶ。
決して、整備科の方へ砲口が向かないように。
「はぁ……はぁ……」
肩で息をしながらも、地面を踏み込む。
体重をかけ、重心を動かした瞬間。
機体が、突如揺れた。
「あ……」
整備室へ飛び込み、素早く「フィアー・スパイダー・ロージング」に乗り込んだ時の、京子の言葉を思い出す。
『駄目だ、神代! まだ……そいつは、まだ……っ』
「直ってなかったか」
呟いた南に、ゴーレムⅢの殴打が突き刺さる。
軽く宙を舞った南は、ドサッと音を立てて動かなくなった。
「み、みーちゃん……」
フィーが震えながら言った。
その声に、ゴーレムⅢが反応する。
生徒の悲鳴が響いた。
フィーは、屈んだまま両手を広げた。
京子が特大ペンチを掴む。
上級生の意地があった。
しかし、彼女達も整備科。大型のブレードと、禍々しい浮遊装置を携えてこちらへと歩み寄ってくるその姿は、あまりに巨大で、あまりに恐ろしい。
「か、かみしろ……」
京子の目に、薄っすら涙が浮かぶ。
ペンチを握る手が震えた。
出来る事は、自分たちのせいで思うような戦闘を行えない南の名を呼ぶだけだった。
ゴーレムⅢがブレードを振り上げる。
「みなみん!」
本音が叫んだ瞬間、ゴーレムⅢは歩みを止めた。
否、何かにその行く手を阻まれたのである。
「心配、するな……皆は、リアルな体験、アトラクションを……楽しんでると思って、いい……」
倒れ込んだまま言う南は、片手ずつ、そして次に片足ずつ地面につけて力を込めた。
「おい……皆には、指一本触れさせない……お前は、俺の網の中にいる」
立ち上がった南は、よろけながらも踏ん張った。
――—獲物を、包み込むような巨大な網で捉える蜘蛛が、存在する。
『スズミグモ』
この蜘蛛の網は、太く編み込まれた糸を格子状にし、漁網をドーム状にしたような物。
80cmを超える大柄なサイズを誇り、これにかかった獲物は、完全に逃げ場を失う。
時に、凶暴なキリギリスまでをも捉える、閉塞用の仕掛けなのである。
ゆっくりと振り返ったゴーレムⅢ。
再び対峙した二人は、しばらく動かなかった。
やがて、何の合図もなく踏み出したゴーレムⅢに、南が身構える。
次の瞬間―——大きな音を立てて、整備室の壁が大きな穴を開けた。
その穴から飛び出してきたのは、もう一機のゴーレムⅢであり、南が相手していた物と激しく交錯した。
勢いは止まることもなく、二機のゴーレムは、反対の壁を破りながら、アリーナの方へと転がっていく。
「あああああ! 俺の網がぁ!」
南の悲鳴が響いた。
整備室を貫通させた穴を睨む。
すると、そこから一夏が顔を出した。
「おお、やっぱり雪羅は凄いなぁ……」
「一夏ぁ!」
「いっくん!」
落胆しながらも責めるような南の声に、涙交じりに口元を抑える本音の声が混じる。
「やっぱりお前か。あのな、俺が必死に作った物を、どうして一瞬で吹き飛ばすなんてことが出来るんだ?」
「必死に作った物って……ああ、ヴィシュヌの部屋にある戸棚みたいなやつか? あれは、ガラクタ博物館にでも行くだろ」
「お前のが常に置いてあるから、場所がない」
南は吐き捨てるように言うと、対面に空いた穴の方へと踏み出した。
そこからアリーナを見下ろすと、二機のゴーレムⅢがギギギ、と不気味な音を立てながら、体勢を立て直していた。
隣に立った一夏が、ふっと息を吐く。
「じゃあ、行こうぜ」
「そう言えば、俺と組みたいんだったな……願いが叶ったぞ」
「確かにな」
一夏が笑う。
「彼女の目の前で浮気することになるが」
「それはもういいって!」
そう言って一夏は、南の肩を叩いた。
南は小さく笑って、アリーナへと飛び降りる。
「いっくん……」
「行ってくるよ、ほんちゃん。さっさと終わらせる」
「うんっ」
本音の笑顔に頷くと、一夏もその後に続いた。
一夏が降り立つと同時に、ゴーレムⅢも臨戦態勢を取った。
四機のISの内、初めに動いたのは南だった。
その後を一夏が続き、一拍置いてゴーレムⅢが駆ける。
一方のゴーレムⅢは熱線を放った。
それを跳躍でやり過ごした南は、ナイフを振るう。
勢いよく飛び出した刃を、もう片方がブレードで弾いた。
そこに、一夏が飛び込む。
雪片で一閃、雪羅のエネルギー爪で一閃。
それぞれをゴーレムⅢに向けて斬りつける。
先の荷電粒子砲を受けたゴーレムⅢは、その衝撃で右腕を失っていた。
唯一の武器として向けられた左腕が、再び熱線を放つ。
「一夏、屈めっ」
南の声に反応すると、一夏は屈んで躱す。
そこには、ちょうど背後でブレードを振り上げるゴーレムⅢの姿があり、その胴体に熱線が直撃した。
地面に降り立った南は、素早く刃を戻し、再び振る。
―――『スズミグモ』の糸に、粘性はない。
あるのは、絡まり、解けなくなる規則だけである。
一夏の雪羅により吹き飛んだゴーレムⅢには、二機ともがその装甲に南の糸を纏わせていた。
罠は効かなくとも、糸の強度が変わることはない。
縛り上げるように手を振り上げた南。
それと同時に、二機のゴーレムⅢは、引き合うようにガッチリと重なった。
「任せたぞ、一夏」
剥がれた装甲から露出したコアに向け、一夏が零落白夜のエネルギーを纏った雪片を突き刺した。
串刺しのようにコアを貫かれた二機のゴーレムⅢは、遂にその動きを止める。
その翌日。
IS学園による事情聴取を受けた専用機持ちと他三名は、街のとあるカフェに訪れていた。
切れてしまった唇の痛みに耐えながら飲み物を口に含んだ南は、ふっと息を吐く。
「はぁ……折角、取り調べで授業が一日なくなったのに……どうして、こんな所で昼飯なんだ」
これに似た台詞を小さな声で五度は言っていた南に、鈴がおどけながら言った。
「今度、文句言ったら、ここでお尻ペンペンするわよ」
「頼むから言ってくれ、南!」
一夏が嬉しそうに手を合わせた。
そんな二人に冷ややかな視線を向けると、南はもう一度コップを傾ける。
「そう言えば、楯無会長はどうしたんだ?」
箒がサンドイッチを皿に置いた。
シャルは、さぁ? と首を傾げる。
「お姉ちゃん、かなり無理したみたいで、今日一日は検査入院してる……」
そんな姉からの連絡がしつこく、簪はウンザリしながら答えた。
どうやら、元気ではあるらしい。
「学園最強でもそうなるのか……上には上がいるんだな」
南が腕を組む。
「うん……平気な顔してたけど、関節が軋んで痛みがあるみたい」
「なるほど、上には関節痛がいたか」
補足した簪に、南はそう言って笑った。
「まぁ、今日は二年の先輩に、私らがいるからいいよなぁ、神代」
「はにぃ。イチゴぱふぇ、おいしー」
肩を組んでくる勢いで詰め寄る京子と、パフェを幸せそうに頬張るフィー。
この二人もまた、事情聴取を受けていた為、食事に参加している。
ちなみに、他三名のうち、もう一名は本音である。
「痛い痛い。俺もまだ全快してないんだぞ、京子ちゃん」
「ちゃん付けすんなっつってんだろうが!」
荒れる京子を無視して、南は背もたれに体重を預けた。