IS-インフィニットストラトス~一匹の蜘蛛~   作:清麿

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80.繋がり

箒達一行は、食堂のいつものテーブルに座っていた。

 

すぐに戻ると言って抜けた南と、その前から様子の変わったラウラを心配しながらも、それぞれのメニューを口に運ぶ。

 

「南さん、大丈夫かしら……」

 

「ラウラも様子が変だったな」

 

セシリアが白魚のフライを飲み込むと、対面の箒が頷いた。

 

食堂に人はまばらで、どこかいつもより静かに感じられる。

 

「まぁ、心配しなくても大丈夫じゃないか? 南のことだし、また適当なこと言いながら、ラウラと戻って来るって」

 

努めて明るく言った一夏に、無理矢理納得するように六人は頷いた。

 

話題を変えようと、鈴がフォークをセシリアに向ける。

 

「てか、セシリア。アンタ、南と何したのよ」

 

「はい?」

 

何のことか分からず、セシリアは首を傾げた。

 

「体位測定よ! 南に測ってもらったんでしょ!」

 

「なっ、何故それを……って! 箒さんや、シャルロットさん、ラウラさんもですわ!」

 

「カーテンの仕切りの中で、何やらいかがわしい声が聞こえてきたが? それに、随分と二人で楽しそうだったではないか」

 

薄く開いた目でセシリアを睨んだ箒の言葉に、一夏が頬を赤くして俯いた。

 

簪が、鈴の方に視線をやった。

 

同時に、少し焦ったセシリアの声がする。

 

「どうして、そのことを?」

 

「一組の奴らに聞いたのよ! セシリアが、それはそれはやらしー声を出してたってね!」

 

鈴が吠えた。

 

「ど、どういうことですか!」

 

ヴィシュヌが詰め寄る。

 

その勢いに、セシリアがとぼけた顔でそっぽを向いた。

 

「ただ、ちょっとくすぐったりしただけですわ……恋人のように……」

 

「恋、人……」

 

「嘘をつかないでください!」

 

簪とヴィシュヌは、セシリアを責め、鈴はシャルの方に身を寄せた。

 

「アンタが一組にいながら、どうしてそういうことになんのよ!」

 

「い、いや、でも……た、たまたま……ね、偶然、そうなっちゃうこともあるだろうし……」

 

困った顔で言うシャルは、自分も体位測定の際、南の顔を自分の胸に押し当ててしまったことを思い出した。

 

同時に顔が赤くなるが、怒りながらチャーハンを掬う鈴は気付かない。

 

「アンタは優しすぎんのよ、シャルロット。思い切ってガツンッとかましなさい」

 

「で、でも……」

 

「普段、大人しいアンタがブチ切れたら、結構、効果があるはずよ……そしたら、セシリアもエロいことしなくなるかも」

 

「ぶ、ブチ切れるなんて……女の子なのに……」

 

苦笑するシャルを助けるように、箒が口を開いた。

 

魚の切り身を、器用に箸で掴む。

 

「鈴、シャルロットには難しいだろう」

 

その一言で、鈴は鼻息を鳴らした。

 

片目を閉じて手を合わせたシャルに、箒は黙って頷く。

 

 

 

 

 

 

 

「もう一度って……どういうことだ?」

 

月明りに照らされながら、南は静かに訊ねた。

 

ラウラの金の瞳が放つ輝きには、どこか鈍い気配がある。

 

「私は、遺伝子強化試験体として生まれた……いわゆる、造られた人間だ」

 

淡々と話すラウラの声は、あまりに無機質だった。

 

わざとそうしているようにも見え、南は眉を顰める。

 

「そして、先日この学園をワールド・パージとかいう能力で襲ったのも、恐らく私と同じ生まれだ」

 

「どうして分かる」

 

「この眼」

 

ラウラが左目を指した。

 

寂し気に笑いながら、また小さく息を吸った。

 

「お前が見たのだろう? 同じ眼をしていなかったか?」

 

「……」

 

南は何も言わなかった。

 

首を小さく振ろうと力を入れるが、ラウラにが認めるほど動いたかは分からない。

 

「VTシステムを使って、どうする?」

 

「分からん……ただ、私に埋め込まれていたシステムだ。もう一度起動させれば、何かの手掛かりになるかもしれない」

 

そう言ったラウラは、一度目を伏せ、再び南を見つめた。

 

「会って、話をしたい。私と同じ試験管ベビーであるそいつと……」

 

しばらく沈黙が続いた。

 

風に吹かれ、身体が冷えていくが、二人は動かないままだった。

 

やがて、南が大げさに息を吐く。

 

「俺が相手した彼女の裏には、束博士がいる。そう簡単には会えないぞ……それに、VTシステムは、あの事件の後、すぐに廃棄されたじゃないか」

 

「……」

 

今度はラウラが黙った。

 

しかし、すぐに長い銀髪を揺らして、南の胸元を掴んだ。

 

「それでも! ようやく見つけた、繋がりなんだ……」

 

南の制服を掴むラウラの手は震えていて、その声も同様だった。

 

「私には、織斑一夏や箒、簪のような姉がいない……セシリアと鈴、シャルロット、ヴィシュヌのような家族の思い出もない……必要ないと思っていた……」

 

静かに話を聞いている南の表情は、月が雲に覆われたせいで分からなかった。

 

次第に弱くなるラウラの手は、それでも南を離さない。

 

「しかし……さっきのデータを見て、私は何かを確信した。この忌まわしい眼を持つ誰かと……私は……」

 

―――繋がりを、感じたいのかもしれない

 

その言葉にも、十分な迷いが含まれていた。

 

ラウラ自身、どうしたいのかが分からない。

 

何が正しくて、何が間違っていて、何をしたくて、何をしたくなくて……突如、目に飛び込んできた同じ試験管ベビーの情報に、自分がどうアプローチすべきなのかが、分からない。

 

南は、決して涙は見せない彼女の頭を、優しく包んだ。

 

ゆっくりと視線が交わり、同時に、月を覆っていた雲が消える。

 

月明りに照らされていた南の表情は、ラウラの予想とは違った。

 

「織斑先生を心酔し、俺と夫婦になるって言い続けるお前は、無意識の内ではあっても、ずっとそう願ってたのかもな」

 

南は、ラウラの左目の周りをそっと撫でた。

 

「だが、二つだけいいか?」

 

「な、なんだ?」

 

「忌まわしい眼なんて言うな……嬉しくないかもしれんが、綺麗な眼だと思う。それも、お前の立派な一部だ」

 

両手をラウラの肩に添わせると、南はその視線の高さを合わせた。

 

少し屈む格好になり、自然と二人の顔は近くなる。

 

真っすぐに南に見つめられたが、ラウラは照れや、緊張を忘れた。

 

それ以上に、彼の悲しい表情が目立ったからだ。

 

「もう一つ。VTシステムは使わせない。あんな危険なものを、もう一度起動するなんて絶対にさせない」

 

「南……」

 

「気付いてないかもしれない……そんなものは、温いと笑うかもしれない」

 

ただ……南は、そう続けた。

 

「あんなのに頼らなくても、無理に焦って探さなくても……お前には仲間がいるじゃないか」

 

そう言うと、南は姿勢を戻しながらラウラの髪をくしゃっと撫でた。

 

ラウラは、自分の中にあった混乱や焦り、迷いがすっと溶けていく感覚を覚えた。

 

いつの間にか、優しい表情に戻った南が、おどけるように口を開く。

 

「頼れる嫁もな」

 

話は終わりだと言わんばかりに、南は歩き出す。

 

その大きな背中の後を、ラウラは小走りで追いかけた。

 

(そうか……繋がりは、もう……)

 

心の中で、専用機持ちの顔を思い起こしたラウラの頬が、自然と緩んだ。

 

南の背中に追いつくと、その左手を掴む。

 

「……あの時と、同じだな」

 

小さく呟いたラウラは、掴んだ手に力を込める。

 

思い出したのは、件のVTシステムによって暴走した自分を助けてくれた時の、あの手の感触だった。

 

その時と全く同じ温もりが、今、自分の手の中にある。

 

「やはり、お前は最高の嫁だ……また、助けられたな……ありがとう」

 

「あの時の鶴か? 待ってたぞ」

 

とぼける南は、羽で布を織るのはオススメしない、と言っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

すっかり食事を終えた専用機持ちのテーブルに、南とラウラが腰かけた。

 

眼帯を外したままのラウラに全員が気付いたが、口にはしない。

 

「何かあったのか?」

 

箒が、心配そうな視線を向けた。

 

パスタをフォークに巻き付けるラウラが、得意げに笑う。

 

「何もない。夫婦の絆が本物になっただけだ」

 

「はっ?」

 

「ど、どういうことですの!?」

 

ヴィシュヌが目を丸くし、セシリアが立ち上がった。

 

特に否定もせず、南は静かに食事を続ける。

 

「本当に夫婦になったのか? 適性値の【K】は、結婚の【K】ってことか?」

 

一夏が冗談交じりに言うと、箒と簪が睨みつけた。

 

肩を縮めて萎縮する一夏は、南に小声で話しかけた。

 

「俺の冗談、面白くないのかな?」

 

「ああ」

 

「まさか……南の影響もあって、結構、ユニークなこと言えると思ってたんだけど……最悪、南よりは」

 

「撤回する。今のは面白い」

 

眉を上げた南に、一夏はため息をつく。

 

ラウラに詰め寄るセシリアを、小さな笑みで躱すその表情は、穏やかだった。

 

横目でそれを確認すると、南も同じように笑い、ストローの刺さったコーラを口にする。

 

「大体、その夫婦というのは―――」

 

「って、ちょっと待ってくれっ」

 

セシリアの言葉を遮って、南が立ち上がった。

 

急なことに、全員の視線が南に向く。

 

「俺はダイエットコーラを注文したのに、これは普通のコーラじゃないかっ。カロリーを計算して頼んだのに!」

 

南は、コーラを掴んだまま、大股でカウンターの方へと歩いて行った。

 

残された専用機持ちは、ぽかんとしていたが、ラウラだけが呆れたように笑う。

 

「あれが、女子のブチ切れよ」

 

再びシャルに身を寄せた鈴が、南を指さした。

 

 

 

 




本当は一話に纏めたかったんですけど、すぐに纏まらなくて……すみません。
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