IS-インフィニットストラトス~一匹の蜘蛛~   作:清麿

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またアーキタイプブレイカーのキャラです。


82.姉妹襲来

南と一夏は、土曜の授業終わりに、トレーニングルームで汗を流した後、自室へと向かっていた。

 

静かな寮の廊下を、二人してのんびり歩く。

 

「……あのキリンですら、首の骨の数はちゃんと七本なんだ。人間と同じなんだぞ」

 

「ふーん」

 

いつの間にそんな話になっていたのか、適当に聞き流していた一夏には分からない。

 

おかしな話だろ? と熱弁する南の言葉にも、力ない相槌を打つだけだった。

 

一夏は、たどり着いた部屋の前で立ち止まって鍵を取り出す。

 

そんな彼に怒ることもなく、南は先に部屋に入った。

 

さっさと制服を脱ぎ捨てた南が部屋着になった頃、扉が短くノックされる。

 

「はーい」

 

南とは対照的に、丁寧に制服をハンガーにかけていた一夏は、そう返事をすると、無言のまま手を南に向ける。

 

それに応えるように、南も拳を向けた。

 

二人は、小さく手を揺らした後、手の形を変える。

 

一夏がパー、南がチョキだった。

 

「っし!」

 

大げさに喜んで、再びベッドに身を倒した南は、上機嫌に歌を唄う。

 

悔しそうにため息をついた一夏は、小走りで扉の方へ。

 

開けた扉の先に立っていたのは、千冬だった。

 

「あ……」

 

一夏が口を開くと同時に、千冬の拳が、その脳天に突き刺さる。

 

「いってぇ! 何で!?」

 

「どうせ、千冬姉と呼ぶだろう。織斑先生と呼べ」

 

まさに無意識の内にそう呼びかけていた一夏は、言い返す言葉も見つからず、部屋の中へと招き入れた。

 

鼻を鳴らした千冬は、部屋の中で一曲歌い上げる南を見て、残念なものを見る目をする。

 

「お前が口ずさむ歌はどうしてそう、古いんだ」

 

「太古のメルヘンを感じたいからですよ。歴史は繰り返すんです」

 

「意味が分からん」

 

身体を起こしながら答えた南に、千冬は吐き捨てるように言って、椅子へ腰かけた。

 

部屋に戻ってきた一夏の手には麦茶が握られており、それを向けると、千冬は小さく頷いて受け取った。

 

「お前達に頼みがある」

 

麦茶を豪快に飲み干した千冬は、テーブルにコップを置くと、そう切り出した。

 

二人は、無言で顔を見合わせる。

 

「頼み?」

 

一夏が訊いた。

 

「そうだ」

 

「お断りします」

 

「ほう」

 

南が力強く言うと、千冬の目が鋭くなった。

 

体勢は変わらないものの、覇気とも言うべき特殊な何かを感じる。

 

「お、おい、南……」

 

一夏が焦ったように言うのを聞いて、南も少し後悔の顔色を見せた。

 

しかし、頭を小さく振ると、真っすぐに千冬に視線を向ける。

 

「大体、どうしていつも俺達なんですか。一年には優秀な専用機持ちがたくさんいますよ」

 

「確かにな」

 

千冬は腕を組むと、その綺麗な唇をすっと伸ばした。

 

背もたれに体重を預け、足も組む。

 

「神代、お前は私を尊敬しているだろう? 崇拝して心頭しているのは分かっている」

 

「その通り、先生は神だ」

 

南の皮肉を聞き流し、千冬は目を閉じた。

 

「だから、つい頼ってしまうんだ」

 

「そういうことなら、ラウラは? 頼み事を断らないという意味ならシャルも適任だ」

 

「お前、逃れるのに必死だな」

 

人差し指と中指で数えている南に、一夏は苦笑しながら言った。

 

千冬は組んでいた腕と足を戻し、前のめりになる。

 

細長い指を絡ませ、口を開いた。

 

「明日から数日間、留学という形で代表候補が来る。お前達にはその世話係をしてもらう」

 

用件をすんなり言い放った千冬に、一夏と南が固まった。

 

数秒して、一夏は「おお~」と唸り、南は頭を抱える。

 

「してもらうって……もう、頼んでないじゃないか」

 

そう言う間にも、千冬は「では、頼んだ」と告げて、さっさと立ち上がった。

 

扉に向けて足を伸ばす。

 

「たまには先生がやってくださいよ」

 

南の最後のあがきだった。

 

そんな言葉を背に受けて、千冬は立ち止まる。

 

「留学生の案内役が、元世界最強の教員では彼女達も気が休まらないだろう」

 

言いながら振り返る千冬の表情が、綺麗に歪んだ。

 

珍しく見せる楽しそうな表情に、弟の一夏でさえ、ドキッとする。

 

「それに、明日は休みなんでな。昼間からバケツで酒を飲む……思いっきり吐くまで」

 

一夏が肩を落とした。

 

続けて南が苦い顔をして言う。

 

「吐くことに抵抗はないのか」

 

「吐くからバケツで飲むんだ」

 

そう満足気に言い放った千冬は、大股で部屋を出た。

 

扉が閉まると、一夏が苦笑を南に向ける。

 

「大変なことになりそうな予感がするな」

 

「ああ……ん?」

 

頷いた南は、先程、千冬が振り返りながら言った台詞を思い出して固まった。

 

「どうした?」

 

「織斑先生、彼女達もって言ったよな」

 

「そうだな……ってことは、二人以上来るのか」

 

「どんどん面倒な方向に……」

 

「まぁ、一人も二人も変わらないんじゃないか?」

 

一夏は、千冬によって空になったコップを手にしながら笑う。

 

しかし、南はベッドから起き上がりながら一夏を指さした。

 

「呑気だな、お前は。そんな事だと、いざという時に困るぞ。どうしよう、どうしようとポケットをまさぐっても、出てくるのは焦りだけだ」

 

非難の言葉を並べる南を無視しながら、コップを流しに置いた一夏は、そのまま扉の方へと足を向けた。

 

呆れを含んだ笑みを浮かべたまま振り返り、ノブを握る。

 

「はいはい。じゃあ、俺はほんちゃんの所に行ってくるから」

 

それだけ言うと、一夏は部屋を出た。

 

向けた指をそのままにしていた南は、静かになった部屋で数秒間、動かずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝。

 

日曜日ということもあって、南は布団に身を包んだまま、安らかな表情をしていた。

 

結局、部屋に帰ってこなかった一夏が身支度する音もしないため、部屋は完全な沈黙を保っていた。

 

そんな彼の部屋に、無情なノックが響く。

 

回数を重ねるごとに大きくなるノックを聞き、南はゆっくりと目を開いた。

 

「んんっ……ふぁぁぁ」

 

大きな口を開けて欠伸をした後、スマートフォンのホーム画面を確認する。

 

箒とシャル、簪からの連絡が目に入ったが、同時に響いたノックに、髪を触りながら身体を起こした。

 

スマホは枕元に投げ出し、のっしりとした動作で扉の方へ。

 

ドアを開けると、そこには見慣れないウェアに身を包んだヴィシュヌが立っていた。

 

頬を僅かに膨らませ、眉を少し顰める彼女に、南は寝起き全開の表情で手を挙げる。

 

「おはよぅ~……どうした」

 

「もう。早く出てください」

 

「今起きたんだ」

 

すぐにでも閉じられそうな目を擦りながら、南はかすれた声を出した。

 

そんな表情に、ヴィシュヌは仕方ないですね、と笑う。

 

「ところで、朝のヨガは、身体の調子を整えてくれるんです。これからするのですが、南もいかがですか?」

 

「いや、まずは野菜ジュースを飲んで目を覚ます。その後、ハッキリ断ることにしよう」

 

ヴィシュヌが優しく問いかけると、南はドアを更に開けて、部屋の中へと戻り始めた。

 

部屋に入れという意味だった。

 

断るのかと、一瞬だけ退屈そうな顔を見せたヴィシュヌだが、日曜の朝から意中の相手の部屋へ入ることに成功したことで、高鳴る胸を抑えながら、軽いスキップで室内へと続いた。

 

「今日は何か予定があるのですか?」

 

ヴィシュヌは、南が洗顔する様子を見守りながら訊いた。

 

タオルで顔を拭きながら、南はうーんと唸る。

 

「織斑先生から頼まれてることがあるんだ。一夏に押し付けることが出来れば、時間はある」

 

「それでは、織斑一夏が不憫でなりません」

 

冷蔵庫から野菜ジュースを取り出したヴィシュヌは、コップにそれを注いだ。

 

枕元のスマホを操作しながら腹を撫でる南に手渡す。

 

「おお、すまん」

 

南は、一気にコップの中身を空にすると、音を立てて飲み込んでから息を吐いた。

 

「箒とシャル、簪からも誘われてしまったな」

 

「織斑先生からの頼まれごととは一体……」

 

ベッドに腰かける南の隣に、同じように腰を下ろしたヴィシュヌが訊ねた。

 

その距離はやけに近いが、南が気にする様子はない。

 

「なんでも留学生が来るんだと……その相手を俺と一夏がすることになった」

 

「うっ……私の時と同じですね。それは無下には出来ません……」

 

同じく外部からこの学園に訪れたヴィシュヌは、思う所があるのか、肩をすくめるだけだった。

 

「では、箒達には私から……」

 

ヴィシュヌが立ち上がりながら言うと、部屋の先に延びる廊下から騒がしい音がした。

 

優雅な日曜日の朝には似つかわしくない騒音に、二人は顔を顰める。

 

その音は、南の部屋にぶつかり、同時に勢いよくドアを開けた。

 

「助けてくれ、南!」

 

音の正体である一夏は、涙目で南にすがった。

 

「あの変態、どこ行ったのよ!」

 

「ファニール、ちょっと待って!」

 

その後から響く二つの声。

 

鈴のような肩を出した制服に身を包んだ二人の少女の内、明るい髪をした方が、室内で南の足元に膝をつく一夏を見て邪悪に笑った。

 

対照的に大人しい髪色をした方が、その腰元に抱きついている。

 

「見つけたわよ……初対面のオニールにあんなことを……覚悟は出来てるわよね?」

 

「南、助けてくれ!」

 

再び言った一夏に、南は頬を掻く。

 

「……あー、今からヴィシュヌとヨガをするから忙しいんだ」

 

ヴィシュヌの肩を抱きながら南が言うと、その胸元の少女は、静かに頬を染めた。

 

 

 




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