IS-インフィニットストラトス~一匹の蜘蛛~   作:清麿

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9.日本×2、イギリス+中国

「学年別タッグトーナメント?」

 

体育の時間。

 

女子に混じることなく男だけで適当に汗を流した三人は、ランニングした後、木陰に座り込んで雑談をしていた。

 

そんな時、ふと一夏がその名を出した。

 

「ああ、二人一組でタッグ組んでやるんだってさ。他の組の奴でもいいらしい」

 

一夏が暇つぶしにと、柔軟ストレッチをしながら言った。

 

「今日のホームルームで言われたでしょ? 南は何を聞いてたの?」

 

シャルルが、横になって目を閉じている南の隣に座って言った。

 

距離が心なしか近いが、南は気にしない。

 

「寝てた」

 

南はそんなシャルルの問いかけに即答する。

 

「今だって寝てるのに」

 

「これは横になってるんだ。寝てるんじゃない」

 

屁理屈を言う南には慣れたのか、一夏もシャルルも何も言わない。

 

「一番後ろの席は、寝るためにあるようなものだろう? 俺はホームルームだろうと、授業だろうと、寝させてもらうんだ」

 

「それ、千冬姉に言ってもいいか?」

 

「やめてください、一夏さん」

 

南は一切、姿勢を変えることなく言った。

 

「ねぇ、南……良かったら僕と組まない?」

 

シャルルがもじもじしながら言う。

 

頬も赤く見えた。

 

「ん? 俺は、簪と組むことにする。アイツの専用ISは出来たばかりだからな。俺が介抱してやるんだ」

 

「簪さんが、そんなのいらないって言ったらどうするんだよ」

 

一夏が、自信満々の南に聞いた。

 

「その時は……シャルルと組む」

 

「僕は予備ってこと?」

 

シャルルが頬を膨らませて、眉を顰めた。

 

片目を開けて、その表情を見た南は少し焦ったように言葉を返す。

 

「どんなものにも予備は必要だ。パートナーにも同居人にも」

 

「それ、簪さんに言ってもいいか?」

 

「やめてください、一夏さん」

 

南の口調は変わらない。

 

「まぁ、冗談だ……シャルルの正体を知っているのは俺と一夏だけだからな。どちらかが組んでやらないといけない……だが、同居人ということもあって、簪には世話になっていることがたくさんある」

 

南は体を起こしながら続けた。

 

「だからシャルル。今回は簪に意見を聞いてからにさせてくれ……すまない」

 

シャルルの肩に手を置きながら言う南。彼女はため息を一つ漏らした。

 

「分かったよ。その代わり」

 

普段からにじみ出る優しい顔色が、急に狩人のように変わり、南だけでなく一夏もゾッとした。

 

「もし、僕と当たったら……その時は……ふふふ」

 

怪しく笑うシャルルの目に二人は映っていない。

 

「シャルルって怒らせない方がいい奴なんじゃ……」

 

「決勝で会おうと言うやつか……楽しみだ」

 

楽しみでもなさそうに南が言う。

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼休み。いつもの屋上。

 

簪のISを組み立てた一件から昼食を共にすることが多くなっていた七人は、輪になっていた。

 

昼食は既に摂り終えていて、まったりと箒が持ってきていたお茶を飲んでいる。

 

それぞれ全員のパートナーは、今日の朝には発表されていた。

 

申請を出さなかった者は、抽選で組む相手を決められる。

 

南と簪。一夏とシャルル。セシリアと鈴。そして、箒と問題児ラウラ。

 

この組み合わせだ。

 

抽選の結果だから何も言うことはない、と箒は冷静だった。

 

「あ、組み合わせ決まったからもう一度、用紙を提出しないとね」

 

シャルルがポケットから、紙を取り出した。

 

どうやら、組む相手を申告する用紙とは別に、その結果を提出するための用紙も必要なのだと言う。

 

「私は既に出したぞ」

 

箒がお茶を啜る。

 

「鈴さん、わたくし達も書きませんと」

 

「そう言うと思って、もう書いておいたわよ」

 

セシリアが言うと、鈴がポケットから紙を取り出して、セシリアに見せた。

 

「まぁ鈴さん、さすが……って! セシリー・オルコットンってなんですの!? 誰です!?」

 

自分の名前は丁寧に、セシリアの名前は適当に、ふにゃふにゃした字で書いていたことにセシリアが叫んだ。

 

「いいじゃん、そんなに変わらないでしょ」

 

「簪、俺達も書いてしまうか」

 

そんなやり取りを尻目に、南はささっと自分の名前を記入し、簪に渡す。

 

「うん。南と組める……えへへ……」

 

「一夏、ここに名前書いてくれる?」

 

「おう」

 

そうして、セシリアを含め、全員が名前を書いて落ち着いた。

 

「じゃあ俺が出してきてやるよ。皆貸してくれ」

 

一夏が立ち上がりながら手を伸ばした。

 

こういう時の気配りは、誰よりも出来る。

 

「アンタで大丈夫~?」

 

鈴が紙を渡しながら、顔をしかめた。

 

「そんなに不安そうな顔しなくても」

 

一夏が信用ないな~と苦笑いした。

 

「心配はしてないけどねぇ」

 

「落とさないでよ」

 

シャルルが笑う。

 

「じゃあ、俺も一緒に行こうじゃないか」

 

南が立ち上がった。

 

それは、忙しい自分の時間を削って、部下の仕事を手伝う上司のような口ぶりだった。

 

「急に……不安に、なってきた」簪が言った。

 

「わたくしもですわ」セシリアが頷く。「わたくしも心配になりましたわ」

 

「行くのやめようかな」一夏が座ろうとする。

 

「おいおい、俺一人じゃ不安じゃないか」

 

南が真剣に訴えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「簪、調子はどうだ」

 

タッグトーナメント当日。

 

南は控室のベンチに座る簪に声をかけた。

 

「うん、好調。問題ない……が、頑張ろうね」

 

簪はいつもと変わらない口調のつもりだろうが、その声も肩も微かに震えている。

 

しかし、対戦表の組み合わせは、そんな簪を待ちはしない。

 

「出たか」

 

ディスプレイに映し出される組み合わせ。

 

一回戦の第一試合。

 

組み合わせは、

 

『神代 南&更識 簪 vs セシリア・オルコット&凰 鈴音』

 

となっていた。

 

「なんだ、いきなりアイツらか。強敵だな」

 

南は呑気に言いながら、水を飲んだ。

 

「う、うん……」

 

震えは収まっているように見えたが、簪の指はやはり震えている。

 

初の実戦に、緊張しているのだろう。

 

南はそんな簪の手を握った。

 

「え……」

 

「心配するな、お前は大丈夫だ……不安になったら俺を見ろ」

 

簪は握られた手の暖かさに微笑む。

 

「得意の変顔で和ませてやる」

 

そう言ってグッと強く簪の手を握ってから離れる南。

 

呆れたような、和んだような分からなくなっているうちに、簪の震えは止まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まーさか、一回戦から当たるなんてねぇ」

 

鈴がアリーナの地上で伸びをした。

 

「全くだ」

 

南はパキパキと指を鳴らす。

 

「ええ。容赦なんてしませんわ!」

 

空中で待機しているセシリアがメイン武器である『スターライトmkIII』を構えた。

 

「わ、私だって……!」

 

簪も近距離武器、『夢現(ゆめうつつ)』を装備する。

 

『それでは、試合を開始します……3……』

 

山田先生のアナウンスが聞こえる。

 

『……2……』

 

三人が……そして、スタンドすら緊張に包まれた。ただ一人、南は薄ら笑いを浮かべている。

 

『……1……』

 

四人は姿勢を低くし……

 

『ビーーーーーーーーー!!』

 

けたたましいサイレンと同時に動き出す。

 

「簪!鈴は任せたぞ」

 

南は走りこみながら叫んだ。

 

綺麗に二手に分かれたところで、南はナイフを取り出す。

 

「行きますわ!」

 

宙に浮いているセシリアは、南を見下ろしながら、スターライトを放つ。

 

南は大きく回り込みながら、その銃弾を躱した。

 

「おらっ!」

 

同時に、ナイフを振るう。

 

するとナイフの先端、刃の部分が射出され、セシリアの方へと飛んでいく。

 

しかし……

 

「それが遠距離攻撃ですの?話になりませんわ」

 

銃弾に比べると遥かに劣るスピードの刃を、楽々交わしたセシリア。

 

南は刃が発射されたナイフの柄を振る。

 

すると、連動するかのように刃が軌道を変えた。

 

「くっ!」

 

不意を突かれたセシリアだったが、だからと言って刃が当たることはない。

 

その場で旋回して躱す。

 

「遠隔操作が可能なナイフ……?いや、あれは……」

 

セシリアは頭を動かす。

 

刃は柄の方へと戻り、またもナイフへ。

 

「ふっ、そういうことですの」

 

スターライトを撃つ。

 

「うおっと」

 

南は左に転がり、前に転がる……

 

「ラウラさんとの戦闘……わたくしに見られていたのが運の尽きでしたわね。その柄と刃は遠隔で連動するのではなく、ただ糸で繋がっているだけ!」

 

勝ち誇って笑うセシリアだが、細かく動いて、未だ射出される刃を躱すことを忘れない。

 

そして南は正解だ、と心の中で思う。

 

蜘蛛糸(スレッド)

 

それが南の『フィアー・スパイダー・ロージング』が放つ糸の名称。

 

それは、伸縮性がナイロンの二倍、強度が鋼鉄の七倍を持つ、太さ五マイクロメートルの蜘蛛の糸を十九万本分、特殊なパターンで編み込んで作られたものだった。

 

柄のスイッチを押すことで、端に糸が結ばれた刃が射出されるナイフを中心に、この機体はそんな糸を操ることが出来る。

 

微細な振動を感知するセンサーでありながら、ISが放つ放射物の熱と、IS二機分の重量に耐える強靭さを併せ持ち、その糸は南の意のまま働く。

 

しかし……

 

「糸では、わたくしは倒せませんわ!」

 

セシリアの言う通り、ISを直接傷つけることはできない。

 

「お行きなさい、ブルー・ティアーズ!」

 

指示を出された遠隔無線誘導型兵器は、南の方へと飛び出す。

 

それは合計四基。

 

「おお、すげぇ」

 

南は呟きながらも、体を止めない。

 

四基のブルー・ティアーズはそれぞれが別の意思を持っているように、南の周りを動き出した。

 

レーザーが発射される度、南は間一髪のところで避けていた。

 

「……取りましたわ!」

 

セシリアが笑う。

 

ピッドの制御に集中しなければならないセシリアは、他の武器と連携できない。

 

しかし集中していた結果、南の背後を取った。

 

右肩後方に浮かぶピッド。

 

南は前方のピッドに気を取られているのか、気付いている様子はない。

 

「まずは一発……」

 

セシリアがレーザーを放とうとした瞬間だった。

 

「ん?」

 

南が不自然なほど、急速で振り返る。

 

「なっ!?」

 

セシリアが動揺した瞬間、ピッドはレーザーを発射。

 

それを「目視」で避けた南は、ピッドを掴み、地面に叩きつける。

 

「危ないだろ」

 

無表情で言った。

 

「そんな……なぜ……くっ!」

 

セシリアは再び、集中する。

 

ピッドは同時に動き出し、またも南を攻撃し始めた。

 

叩きつけられて動かなくなった一基を、南が投げつける。

 

「当たりませんわ!」

 

セシリアはソレを悠々避けて、さらに集中。

 

「今度こそ……!」

 

今度は左肩背後からだった。ピッドが忍び寄る。

 

そして……

 

「おっと」

 

またも南は、首を捻じってピッドを見て躱す。

 

「なぜ!?死角を取っているのに!」

 

セシリアが叫んだ。

 

―――人間の倍以上の視野を持つ蜘蛛が、存在する。

 

『ハエトリグモ』

 

世界で500属5000種以上の存在が確認されているクモ類最多種別。

 

蜘蛛の視力は無に等しく、そのほとんどが糸や、感覚に頼って生活をしている。

 

しかし、ハエトリグモは前中眼で10度、前側眼で60度、後側眼で130度の視野を持ち、前中眼は、わずか5mm程度の体長にも関わらず、人間と同等以上の視力がある。

 

この異常に発達した前中眼で対象を捉えようとするため、その他の目で対象を確認した場合、体の向きを変えて対象の方を向くことが知られている。

 

「よいしょっ!」

 

南はまたも、ブルーティアーズを一基掴み取り、叩きつけては投げ返す。

 

「あと二基だな」

 

「っ!」

 

セシリアの表情が歪んだ。

 

南はピッドの攻撃を避けては掴み、叩きつけ、投げつける。

 

四基全てを破壊すると同時に、セシリアの元へ走り込んだ。

 

投げつけられるピッドを避けた先が地面であったセシリアは、再び上空へ飛び立とうとすると同時に、

 

「ブルー・ティアーズは六基ありましてよ!」

 

と、腰元から二基のブルー・ティアーズがミサイルを放つ。

 

南はナイフで斬り付けてソレを破壊し、なおも走り込んだ。

 

「くっ! 体勢を立て直して……」

 

「無駄だ……お前は既に、俺の(イト)の中にいる」

 

「なぁっ!?」

 

セシリアの驚きの声が聞こえると同時に、南は懐に飛び込む。

 

「糸が体に巻き付いて……一体いつ!」

 

楽しそうな南の笑い声がする。

 

「周りを見てみろ」

 

困惑しながらもセシリアが顔を上げる。

 

そこには、破壊されたブルー・ティアーズ四基を軸に、糸が張り巡らされていた。

 

「適当に投げていたわけじゃないんだ。投げ返すときに糸を巻いておいた」

 

南の答え合わせが終わると同時に、セシリアのシールドエネルギーがなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

「参りましたわ」

 

セシリアがISを待機状態に戻す。

 

「おう、とりあえず安全なところに……」

 

南はセシリアを抱きかかえた。

 

「ひゃっ!」

 

可愛らしい声が出ると同時に、南はセシリアをゲートまで運び込む。

 

「それじゃあ、行って来る」

 

南はそれだけ言うと、セシリアを降ろしてまた走り出した。

 

 

 

 

 

 

「待たせたな」

 

「南、遅いよ……」

 

「言っただろう、ヒーローは遅れて来るもんだ」

 

滑り込むように、鈴の後方に立つ南。

 

「ちっ! セシリア、負けちゃったわけ?」

 

鈴が舌打ちする。

 

「それに、挟まれたし……」

 

今の鈴は簪と南に挟まれている状態だった。

 

「簪、残りのエネルギーは?」

 

「かなり少ない」

 

初実戦にして、鈴と互角に戦った簪に、南は感心した。

 

「それじゃあ、終わらせよう」

 

南が手を広げる。

 

「甘く見ないでよね! 確かに不利だけど……簡単にはやられない!」

 

「いえ、もう終わる……」

 

簪の呟きに、鈴が嚙みついた。

 

「二人で一斉攻撃? それとも、南がラウラを倒した時みたいに、糸であたしをどうにかする?……まぁ二人掛かりで私を縛れば、すぐに終わるかもね!」

 

鈴はそう言いながらも、必死に頭を動かし、打開策を練っていた。

 

持っていた『双天牙月(そうてんがげつ)』を振るう。

 

「なら、二人で糸を持ってないとダメじゃない。アンタがセシリアと、そしてあたしが簪と戦ってるときに、糸を渡したような様子はなかった!」

 

鈴の頭の中で、勝利へのプランが積み上がった。

 

まずは、簪を肩に装備された『龍咆(りゅうほう)』で仕留める。

 

その後に南だ。

 

「せめて、対戦前に糸を簪に渡していれば、あるいは……」

 

そこまで言って鈴の背筋が凍る。

 

今まで必死に組み立てていたプランが、音を立てて崩れていった。

 

「ま、まさか……」

 

「あぁ」

 

南が言った。

 

「だから、そうしておいたよ」

 

南と簪の動きがリンクする。

 

二人が腕に絡めていた糸を引っ張ると同時に、鈴の体が縛られた。

 

試合前、南が簪の手を握った時、その手に糸を結えておいた。

 

簪がそれに気付いたのは、南が駆け付けた瞬間だった。

 

しかし……。

 

「くうっ!」

 

「トドメ……」

 

動けない鈴に、打鉄弐式の最大武装『山嵐(やまあらし)』による全四十八発のミサイルが発射された。

 

 

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