粒子の狩人 ~Particle Hunter~ 作:ピジョンブラッド
グダグダになるかもしれませんが、どうぞよろしく!!
ではでは・・・
俺は今、人生で初めて人を殺した。
しかも父親を。
俺の父親はアル中だった。
部屋には常に強烈な酒の匂いが充満していたがそれさえも慣れてしまい、もう何も感じなくなってしまった。
酒癖の悪い父親は、毎日家に帰るなり焼酎を開けては、地方の銀行という疲労の多い仕事場でのストレスを俺や母親にぶつけていた。
そのせいか、母親も精神を病んで俺が五歳の頃から日がな一日ベッドで寝込んでばかりだ。
部屋からは基本一歩も出ず、なんら生産的なことをしない。
食事もロクに摂らず、ミイラのように布団の中でうずくまってガタガタ震えているのは、実に不憫であった。
つまり、五歳の頃からから今まで家事全般は全て俺がやってきたし、父のストレスのはけ口は主に俺になった。
殴り蹴りは日常茶飯事で、言葉での暴力も後を絶たない。
次第に俺は心を閉ざし、家族とも会話をせず、学校では友達も作らないようになった。
いわゆる学習性無力感というものかもしれない。
幸い家が貧乏なわけではなく身なりも中流階級並みなので、学校でいじめられることはなかったが、学校はただただつまらない授業に時間が食われるだけの施設となった。
感情を失っていた俺は、暴力を受けている間も時間が早く過ぎることだけを考え、涙も出なかった。
どんな罵声も空気の振動としか捉えず、心の鋼の扉で阻んだ。
このまま成人して、親とも縁を切ってやっと解放される。
それまでの我慢だといつも思った。
今日までは。
今日は金曜日だ。
スーパーで晩御飯のインスタント焼きそばと納豆を残り少ないお小遣いで買う
湯を沸かし焼きそばを作り始める。
そろそろ九時だ。
インターホンが乱雑にならされ、父親が帰ってきた。
いつもよりかなり早い。
激しい音と共にドアが開かれ、忌まわしい父親の体躯が現れる。
「ごらてめぇ早くドア開けろっつってんだろが!」
そんなもの聞いた覚えすらないが。
「洗濯しろって昨日の夜言ったよなァ!?なんでできてねぇんだよ!」
して当然みたいな言い方するなよ。
拳が飛んでくる。
足をもつれさせながら1メートルほど後ずさりしたあと、床に倒れこみイスの角に頭をぶつける。
「あん?てめえみてぇな使えないガキ作ってこっちが恥ずかしいんじゃァぼけェ!!」
父の右足が俺の脇腹にあたりそうになったのを何とか回避する。
もう酔いが回っているようだ。
「半殺しにしてやる!コッチ来いや!」
呂律が回っていない。
あと何時間で寝られるのだろうか。
今日も殴られ続けるんだな、と思っていた。
そう、いつも通り・・・
「ふざけんなよ・・・」
口が勝手に動く。
やめろ。
余計に相手を焚きつけるだけだ。
「おらてめえ今なんつった!もういっぺん言ってみろ!」
またパンチが飛んでくるのを何とか躱し、体勢を崩す。
今日の俺は、どうかしている。
わかっているのに、口は俺の命令に逆らって「雄弁」を続ける。
「ふざけんなって言ったんだよコノヤロー!お前が性欲満たしたいだけに俺を孕ませたんか!てめえだけの自己満足に俺を巻き込むなよ!選べるならな、選べるならお前んとこなんかに生まれてくるもんか!」
こんなこと言ったってなにも変わらない。
この言葉で父親が反省するわけがない。
怒りに身を任せて言った言葉に、いや父親に言う言葉なんかに意味なんてあるはずがない。
現に今奴は、青筋を立てて人とは思えないゴブリンのような目つきで今にも握りつぶさんとこちらを睨んでいる。
「おのれぶっ殺してやるゥゥ!!」
キンキンと金切り声をあげてこちらに走り出し、両手を俺の首に掛ける。
「ぐッ・・・ぐぇぇ!」
親指で喉仏を締め付け、頸動脈が圧迫される感覚がある。
血が、鼓動が止まる・・・
死が刻々と迫ってくる。
子だから殺しはしないだろう、だなんて一般常識はこいつには通用しない。
四年前家族でフェリーに乗った時、奴にハンドレールから突き落とされたことがある。
一件は事故として片づけられたが。
なぜか警察にはバレなかったらしい。
無論告発しようと思えばできたが、小さかった俺は世に言う報復を恐れてできなかった。
できるわけがなかった。
意識が遠のいていく感覚が体を襲う。
視界が暗く・・・
せめて奴にあの一升瓶を一撃してやれたら。
・・・
ゴスッ
一瞬打撃音が響く。
コンマ一秒経ちガラスの破砕する音。
首を絡める手に力が抜けていき、同時に意識が少しずつ復活してくる。
ずる、と父親が崩れ落ちる。
ぽたぽたと血の雫が滴り周りに海を作る。
「ひッ!」
背中を寒いものが這いずる。
恐怖を押し切って視線を少しずつ父親に向ける。
背中からうなじにかけて至る所に刺さっている一升瓶の破片。
深いものだと4cm以上突いているものもある。
血の海をよく見ると一升瓶の中身の芋焼酎がぶちまけられている。
一秒一秒染みが広がっていき、それが一番近い肉親の死を意味することを悟る。
俺は今、人生で初めて人を殺した。
しかも父親を。
しかし、俺が殺した・・・のだろうか?
俺が殴ったわけじゃない。
じゃあ、母か?
いや絶対に違う。
母は今寝ているし、第一そんな腕力があるわけがない。
でも紆余曲折を経てたどり着いたリビングには人影一つ見当たらない。
もはや超常現象ではないのか。
一升瓶が意志を持っていたかのような動きに気味悪さを感じつつ、何とか緋色に染まった絨毯を踏みしめ、固定電話に手をかける。
久しぶりの110番通報。
「俺、目の前の、あのえっと、父、はい父が、死んで」
気が動転し、単語がぽろぽろと文を紡がずに出てくる。
警察がパトカーの喧騒を連れて家にきたのはそれから15分ほど後の、九時半過ぎだった。
パトカーが来る数分前には母もベッドから這い出したが、突きつけるにはあまりにも残酷な現実を目の当たりにして失神してしまった。
当然の反応だろうと思う。
しかし、その15分で頭の中を必死に整理した結果、俺が最も恐れたのは自分が犯人だと勘違いされて逮捕されることだった。
父が死んで辛いだなんて、心の片隅にさえなかった。
それどころか、死してなお人に迷惑をかけるつもりなのか、とさえ思った。
誰にもきっと理解されないであろう感情を、とりあえず封じる。
「こんばんは。刑事の枳殻といいます。ええと、君の名前は・・・」
ちらほらマンションの前に集まり始めた捜査員を家に入れる。
「慶野、杜です。」
「杜くんだね。少し見せてもらえるかな?」
枳殻と名乗るその刑事は人差し指で部屋の奥を指し、目的語をあやふやにさせて案内を要求する。
「おぉ・・・」
あまりにも強烈な現場に、枳殻も息をのむ。
俺が一升瓶を叩きつけたと思われなければいいな、という懇願は想像以上に容易く叶った。
枳殻は父の体に手を合わせてからじっくり観察した。
表情が次第に奇異なものを見るような顔へと変わっていく。
「ガラスに貝殻状断口がないぞ・・・しかも傷自体の深さは6cm近くあるのに破片は4cm程度のところまで刺さっていない。ガラス片でついた傷じゃないのか?」
ぶつぶつと何かを言っているがよく理解できない。
何かあるのではと思って覗き込むと、枳殻が何かに気づいたかのように身体を跳ねさせ、俺の両肩をがっしりと掴む。
そして緊迫した雰囲気で、聞いたことのない外来の言葉が耳に響く。
「君は、もしかしてユニファイアなのか?」
突拍子もない始まりでしたが、次回いろいろ説明すると思います。
二次創作の方も頑張って定期投稿目指します。