粒子の狩人 ~Particle Hunter~ 作:ピジョンブラッド
ではでは・・・
枳殻は少し悩んだように顔を背け、ンーと呟いてからもう一度こちらに向き直った。
「言い方が悪かった・・・かな?まぁ何を言っているかわかるわけもないか。」
「は、はあ。」
柔らかい表情を俺に向けてくれる。
「一応、どんなことがあったか教えてくれるかな?」
「はい。」
なんとかしてバレなさそうな言い訳を考えなければならない。
慎重に洞察して、矛盾のないように話さなければ。
冤罪から免れるための考えが頭の中を高速で回転していたその時。
「ただ君、変なことが起きただろう。物が勝手に動き始めた、とかね。そこも含めて・・・」
突然影が落ちた枳殻の顔が殺気を帯び、真剣な顔つきになる。
「嘘は言っちゃいけないよ・・・」
低く威圧感のある声が、いつ握りつぶそうかと心臓を嬲る手のように頭全体にガンガンと響く。
まず天敵に射竦められたような恐怖と萎縮がよぎる。
しかし、彼は超能力じみた何かを知っている。
俺が殺した、という因果関係はないのだ。
全てを吐露する決意をし、俺は事の一部始終を全て彼の前に晒した。
俺が話をしている間、彼は常に平静を保っていた。
ある意味想像通りなのだが、ポルターガイストの話を至極当然のようにされると違和感を通り越して不気味ささえ覚えてしまう。
枳殻が話を聞いてから初めて口を開く。
その言葉を聞いて俺は凍りつき、半ばパニックになった。
「僕の予想は当たっていたね、杜くん。じゃあ署まで来てもらえるかな?」
嘘だ。
やっぱり言うべきじゃなかった。
「違う、俺はやってない!」
俺は犯人じゃない!
俺が、俺が何をしたって言うんだ。
その言葉を聞いた枳殻は一瞬何を言っているかわからないという風に呆気にとられたが、数秒後状況を理解して誤解を解こうと奮闘した。
「ち、違うんだ。僕は君を逮捕しようとしてるわけじゃなくて・・・」
しかし一度堂々巡りを始めた俺の貧弱な心にその言葉が届くはずもなく、ただただ逃げなければとだけしか考えられなかった。
捕まっちゃいけない。
できるだけ、遠くに逃げなければ。
脳内CPUが爆発し、ダッシュで家から出る。
「待て!」
遠くから枳殻の叫び声が聞こえる。
周りを取り囲んでいた警察官を押しのけて走る。
パトカーが連れて来たサイレンの喧騒と鮮やかな真朱のランプが周辺の野次馬どもを釣る。
もはや誰が誰かもわからない人の海をかき分けて抜ける。
もう何キロメートル走っただろうか。
23:00を過ぎて、見た事のない街並みには人が出てくる予感すらしない。
息が苦しい。
走るスピードがマイナスの加速度を受けてみるみる遅くなってゆく。
まるで敗者のように跪き、手を地につけ、這いつくばるような体制になる。
まだ心拍は治まる気配を見せずにせかせかと生命のビートを刻む。
「やっと、撒いた、か・・・」
安堵と未だ払拭できない焦りをため息に込める。
が、それも最後までは吐き出せなかった。
「はっ?!!!」
夜の闇に溶け込んでいた二人の軍人のような男が俺を押さえ込む。
「枳殻二等陸佐、ターゲットを拘束しました。」
片方の軍人がトランシーバーにあるPTTのスイッチを押し込みながら叫ぶ。
そして無線機から流れ出た音声は無情で、残酷で、確かに枳殻自身の喉から発せられた言葉だった。
『彼は間違いなくユニファイアだ。即座に気絶させろ。ただ国の重要人物でもあるんだ。あまり手荒な真似はするな。』
枳殻は、自衛隊の幹部なのか・・・?
「は、離せ!離せ!」
その必死の悲鳴も虚しく3度目の離せを言おうとした瞬間にガチィンと耳元で音がする。
「あ、がぁ・・・」
体から力が抜け、感覚がなくなっていく。
つま先、膝、手指、肘、みぞおち、胸、喉。
体が自分の体じゃなくなっていく奇妙な感覚。
目が見えなくなった。
耳が聞こえなくなった。
顔面の神経からも電気のパルスが消える。
父に首を絞められていた時よりかは遥かに100倍は短いはずの時間が、永く、永く。
体温すらわからない。
自意識も麻痺して・・・
「二等陸佐!タスク01完了しました。これよりタスク02、対象の搬送を開始します!」
ああ、もうわけわかんないな。
「・・・あれ。」
ここはどこだろうか。
さっきまでの宵闇から一転、見知らぬ部屋の窓からは薄い陽光が差し込んでいる。
ただ、それをかき消すようにLED電球の人工光が部屋をモノクロームたらしめている。
壁、天井、床、どれに目をやっても、全て清潔且つ無表情な月白の色。
気を失っていた間は記憶が丸ごと無いようだ。
「病院か?」
今更ベッドの中にいることに気づき、むくりと体を起こす。
「おお、起きたか杜くん。乱暴をしてしまって申し訳ないね。」
枳殻とおぼしき声音が耳に入り、心臓がぎゅうと締め付けられ飛び上がって驚く。
「大丈夫、僕は君を逮捕したりなんかしない。」
おそるおそる顔を枳殻の方へ向け、表情を確認する。
幸い、敵意など微塵も感じない菩薩のような笑顔が視界に入り、安堵のため息を着く。
「説明が足りなかったかな、申し訳ない。」
そういうと枳殻は頭を下げ、すぐに向き直ると、本題に入り始めた。
「君に、まずユニファイアというものを説明しようかな。」
咳払いをし、少し考えてからまた話を始める。
「最近の研究で、ヒト、特に思春期なんかの多感な時期は、自由意志エネルギーというものが体内から多量に放出されることがわかったんだ。その意気には、人それぞれに固有の波長を持っていてね。」
光エネルギーみたいなものだろうか。
光も、赤なら700nm、緑なら546.1nm、青なら435.8nmと波長によって色が違う。
「そして、その自由意志エネルギーがあまりにも大量に放出されると、一部が運動エネルギーに変化して物体が動くんだよ。」
つまり、レーザー光のエネルギーが熱になるように、人間の「じゆういしエネルギー」とやらが物体を動かす、ということなのか。
そんな馬鹿な。
本当に科学的に立証されているのか。
「ただし!その自由意志の波長にちょうど共振する物体でないと動くことはない。でも裏を返せば、自分の自由意志の波長に共振する物質さえあればそれを思いのままに操ることができるということだ。」
あほらしい、と思いかけて、瓶がとてつもないスピードで飛んできたあの情景が頭をよぎる。
まさか。
「そう。昨日のきみのようにだ。まぁいかんせん絶対量が少ないから、あれぐらい追い詰められた状況でないと物を吹っ飛ばすようなレベルのエネルギーは出ないんだがね。それに、一般人は波長が長すぎてどんな物質にも共振しないから、君は特殊な人材ってことになるかな。」
「俺が念じた時の自由意志エネルギーが一升瓶を操って父を殺した、ということなんですか?」
「ああ。不慮の事故さ。ただ、少しだけ違うかな。君は瓶なんて『操ってない』んだよ。」
「えっ・・・」
ただでさえ大量の情報インプットに対応できてない脳みそがパンクしかける。
「説明しよう、『事故』の全貌を。」
主人公は能力者でしたね!
次回、事件の全貌が?
二次創作の方も頑張るです。