本業は研究者なんだけど   作:NANSAN

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GE編
EP1 神崎シスイ


 フェンリル極東支部。

 かつては日本と呼ばれた地に残る人類の砦だ。

 突如として現れたアラガミと呼ばれる災害により、人類は滅亡の淵まで追い込まれ、現代では毎日のように人が喰われている。

 そう、喰われているのだ。

 アラガミはあらゆるモノを食べてしまう。オラクル細胞という食べることで学習する細胞が、アラガミを構成しているからだ。アラガミに対抗するべく生み出された神機と呼ばれる兵器を以てしても、オラクル細胞を完全に消滅させることは出来ない。

 神機に出来ることは、ただオラクル細胞を霧散させて、アラガミを一時的に消すだけだった。

 それでも人類は足掻き続ける。

 オラクル細胞を体内に取り込み、神機を操ってアラガミを倒すゴッドイーターたちは、毎日のように戦死者を出しながらも、人類とアラガミの境界を守り続けていた。彼らは生化学企業フェンリルが生み出した、世の救世主なのである。

 極東支部は世界最大の激戦区と呼ばれるだけあって、ゴッドイーターの質も良く、更に強いゴッドイーターが常に求められていた。

 だからこそ、新型と呼ばれる神機使いが配属されたのは当然のことである。

 刀剣型、銃型という一つの武装タイプしか操れなかった旧型神機とは異なり、新型は二つの形態を自在に操ることが出来る。それに伴って、刀剣形態によるオラクル細胞の吸収、銃形態による放出、捕食形態によるアラガミバレット生成、アラガミバレット受け渡しによるリンクバーストなど、より強力なシステムが搭載されていた。

 たった一人で攻撃からサポートまでをこなす、期待の新兵。

 神薙ユウがフェンリル極東支部第一部隊へと配属されたのだった。

 

 

「例の新型はどうだペイラー?」

「まだ訓練の結果しか出ていないが、良好だと言っておこう。君が無理にでも本部から新型の権利を奪ってきただけはあるねヨハン」

「言いがかりはよせ。ちゃんとした話し合いで権利を譲って貰ったのだよ」

「話し合い……ね」

 

 

 執務机の上で腕を組み、新型神機使い神薙ユウのレポートを聞いているのは、極東支部の支部長ヨハネス・フォン・シックザールだ。そして、彼に報告を行っているのが、ヨハネスの友人であり、科学者でもあるペイラー榊博士。

 二人はかつて生化学企業フェンリルに技術者として勤め、オラクル細胞の第一発見者にもなった言わずと知れた有名人である。特に、ヨハネスは神機使いの雛形を作り出したことで、フェンリルに大きな発言権を有している。それだけでなく、アラガミという脅威から人々を守る対アラガミ装甲壁も、彼が中心となって開発したものだ。尤も、アラガミ装甲壁の根幹をなす偏食因子は、ペイラーが発明したものだったが。

 とは言え、ペイラーも別にそのことで研究を奪われたとは思っていない。

 偏食因子は、友人であるヨハネスの命を救うために託したものだったのだから。

 それ故、二人の仲は今でも概ね良好である。

 

 

「ではヨハン、報告の続きをするよ。新型神機使い神薙ユウ君だけど、適合率は予想以上だった。これは検査の時に君も隣にいたから知っているね? それで、戦闘中の適合率も測定してみたのだけど、驚くべきことに、戦闘中の方が適合率が高かったんだ。それも僕が興味を抱く程の差だったよ。詳しいデータは後で纏めてから送るけど……」

「ああ、それでいい」

「分かった。それで具体的な話だけど、訓練で戦ってもらったダミーアラガミでは、ユウ君の相手にならなかった。初めて神機を使ってこの結果だ。ポテンシャルはあのリンドウ君すらも上回るかもしれないね」

「それほどか」

 

 

 ヨハネスはペイラーの報告に驚く。語調にはそれほど驚きが見えなかったが、友人であるペイラーにはヨハネスの驚きがハッキリと分かった。

 

 

「そうだよ。あの第一部隊の隊長リンドウ少尉を越えるかもしれない。尤も、新型と旧型というくくりで考えれば、ポテンシャル的に上回っていても当然かな?」

「それもあるかもしれない。だが、逸材には違いない」

「ああ、それは僕も断言しよう。滅多にしない僕の断言だ。勘、なんてものに頼るつもりはないけど、なんだか彼には期待してしまう。ああいうのを英雄の素質とでも言うのかもしれないね」

「ふ……相変わらずのロマンチストだ」

「僕は星の観測者……スターゲイザーだよ。ロマンを追い求めるのが僕の主義だ」

 

 

 科学者として非常に優秀なペイラーだが、彼の思考は現実よりも理想寄りだ。それこそ、大を救うために小を切り捨てるようなことはせず、全てが幸せになれる可能性を追い求めてしまうほどに。

 だからこそ、彼は嘗て友人を止めきれなかったのかもしれない。

 失敗すると予想できても、友人の願いを強引に止めたりせず、ただ保険を渡すだけに留めたのだ。

 その時、友人ヨハネスが引き起こした実験事故によって、ヨハネスの妻アイーシャは死亡し、アラガミを宿した息子ソーマが生まれた。

 この実験失敗から神機とアラガミ装甲壁は生まれたのだが、ヨハネスにとっては永遠の重荷でしかない。

 現実と確実を追い求めるヨハネス。

 理想を追い続けるペイラー。

 友人でありながら対立したのは、この時なのかもしれない。

 

 

「さて、僕はそろそろ研究室に戻るよ。新型君は今頃、リンドウ君に連れられて実地演習をしている頃だろうからね。そのデータも纏めなきゃいけない。新型神機使いが来てくれたのは嬉しいけど、忙しくて僕のしている研究も一時ストップ状態さ」

「ああ、そのことだがペイラー」

「なんだいヨハネス」

「本部議会で新型をもぎ取ってきたとき―――」

「もぎ取ったことは否定しないんだね」

「――茶化すなペイラー。それで、そのときに研究者の人材を引き入れることに成功した」

「本部からの研究者……ね。大丈夫かい?」

「ああ、問題ない。いや、問題はあるが……まぁそれはいい。彼は神崎サクマ博士の一人息子だそうだ。神崎博士は偏食因子の研究をしていたから、ペイラーも知っているだろう?」

「勿論だとも。そうか、彼の息子も研究者になったんだね」

「まだ、十五歳だが天才的な片鱗を見せているという話でな。神崎シスイというらしい」

 

 

 確かに天才だ、とペイラーは内心で考えた。

 フェンリル本部は金の亡者とも言うべき老害が潜む魔窟だが、研究内容は一流である。極東の最前線にはない実験器具を揃え、潤沢な資金を以て多くの研究を行っている。派閥などの煩わしさに目を瞑れば、理想的な職場だと言えた。

 そんな中で、僅か十五歳の研究者がいるというのは驚くべきことだ。

 天才、鬼才と呼ぶに相応しいだろう。

 だが、驚嘆と同時に、ペイラーには疑惑もあった。

 

 

(ヨハンが呼んだ研究者……ね。どうもキナ臭いかもしれない。エイジス計画の裏でアーク計画なんてものを本部に提案しているぐらいだからね)

 

 

 あらゆるアラガミから人類を守る盾を建設する。

 絶海の孤島に強力な対アラガミ装甲壁を建設し、人類すべてを収容するエイジス計画。現在、極東支部で大体的に発表されているプロジェクトだ。建設に使用される資材を確保するため、ゴッドイーターたちは毎日のように駆り出されている。

 だが、これはあくまでも隠れ蓑に過ぎない。

 ノヴァと呼ばれる世界最大アラガミを人工的に作りだして制御し、意図的に地球を喰らわせ、一度世界をリセットする。そして選ばれた千人のみを宇宙へ逃がし、全ての環境が再生した地球でやり直すというアーク計画こそが真実である。

 ペイラーは既にヨハネスからアーク計画を持ち掛けられており、協力も要請された。だが、理想主義者であるペイラーはそれを拒否し、今は中立を保っている。

 そんな中で本部から新しい技術者を呼んだのだ。

 これは疑わない方がおかしい。

 

 

(神崎シスイ君か。僕も調べてみよう)

 

 

 ペイラーは残りの報告を済ませ、支部長室を後にする。

 そして自分の研究室に設置してあるコンピュータを立ち上げ、データベースにアクセスしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆ 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい。新入り。中々筋が良かったぞー」

「そうですか? ありがとうございますリンドウさん」

「おうおう。俺が初めて実戦に出たときと比べりゃぁ大したもんだ。流石は新型ってことか?」

「ま、まぁ。二形態を使えるということは戦術の幅も広がるということですからね。でも、時々どっちを使えば良いのか迷ってしまうのが難点ですね」

「それは俺にも分からねぇ悩みだな。まぁ、しばらくは俺がフォローしてやる。しっかりと実戦でモノにしてくれたまえ」

「了解です隊長殿」

「はは、よせって。隊長なんて柄じゃねぇ」

「確かにそうですね」

「そこは否定してくれよ」

 

 

 夕陽が照らすビル群の中で二人の神機使い、雨宮リンドウと神薙ユウが会話を交わす。現在は任務だったオウガテイル討伐を終え、帰投準備に入っているところだった。

 煙草を咥えたリンドウは、苦笑いしている新入りを眺めつつ思考に耽る。

 

 

(全く……新入りの動きじゃねぇな。あっという間に抜かれちまいそうだ)

 

 

 大抵の場合、新人ゴッドイーターは初めての実戦で腰が引けてしまう。小型アラガミであるオウガテイルですら、人間よりも大きなサイズなのだ。やはり、自分よりも大きな生物に対しては、本能的に恐怖を覚えてしまうのである。

 たかだかナイフをもったぐらいで熊に挑む者はいないだろう。

 それと同様に、神機を持ったからと言って、アラガミに挑むことが出来るかと言えば難しい。

 そんな中で、神薙ユウは新人らしからぬ動きをしていた。どこで覚えたのか、ロングブレードを振った時の慣性力で高速移動し、オウガテイルを捕喰。そしてバースト化したユウは、一瞬にしてオウガテイルを斬り刻んでしまったのである。遠くから近寄ってきた二体目には、銃形態のスナイパーでスムーズに攻撃。一発ほど外れていたが、残り五発は着弾し、二体目のオウガテイルも難なく仕留めた。

 

 

「さてと、そろそろヘリを呼ぶぞ新入り」

「分かりましたリンドウさん」

「よーし。俺がパイロットに連絡するからお前は周囲の警戒を……ん?」

 

 

 通信機を取り出したリンドウは、違和感に気付く。

 自分から繋いだ覚えがないにもかかわらず、通信機が音を拾い始めたのだ。一応、任務中の神機使いは常に救援チャンネル用の回線を繋いでいる。つまり、急に繋がった通信はアラガミに襲われている民間人などからの救援なのだ。

 

 

『誰か……A-18地点に救援を頼む。ヘリがザイゴートに囲まれた! 助けてくれ!』

 

 

 リンドウは舌打ちした。

 ザイゴートは空中を浮遊する小型のアラガミだ。弱いが、群れで行動する厄介さを秘めており、航空機などはザイゴートに落とされる被害が後を絶たない。

 そして、ヘリほどの高度で飛ぶザイゴートを仕留めるには銃タイプの神機使いが必要になる。残念ながらリンドウは旧型刀剣タイプであり、救援に向かったところで役には立てないだろう。戦力になるとすれば、新型であるユウだけである。

 救援ポイントはリンドウとユウの近くだ。

 助けに行かないという選択肢はないし、他の神機使いが助けに行ってくれるとも思えない。基本的に同じ作戦地区に二チーム以上は配置されないからである。

 

 

「仕方ねぇ! 行くぞ新入り。お前が頼りだ!」

「ま、マジっすか?」

「人命優先だ。極東ではこういうことも多々あると覚えておけ!」

 

 

 人手不足の極東では、任務中に別の仕事が入ることも珍しくない。酷い時は、討伐対象外の大型アラガミが乱入してくることもあるのだ。今でこそオペレーターがいるから一分前には察知できるが、一昔前までは不意打ちも珍しくなかった。常在戦場という四字熟語を彷彿とさせる修羅場だったのである。

 そしてアラガミの乱入ならば逃げることも選択肢として上げられるが、救援ではそうもいかない。

 リンドウとユウは走ってポイントまで移動し始めた。

 そして、その途中でリンドウはオペレーターのヒバリに連絡する。

 

 

「これから民間人の救援に向かう」

『分かりました。どうやら例のヘリにはフェンリル本部からの研究者も搭乗しているそうです。絶対に守り切れと支部長から言伝を預かっています』

「へいへい。りょーかいですよっと」

 

 

 神機使いの並外れた身体能力で移動するリンドウとユウは、すぐに救助対象のヘリを発見する。だが、ザイゴートに囲まれ、既に墜落寸前だった。

 

 

「ちょっとリンドウさん! あれって拙いですよね!」

「ありゃ拙いな。ザイゴートのせいで緊急脱出も出来ねぇみたいだ。さっさと片付けろ新入り」

「オラクル足りるかなぁ……」

 

 

 ユウは神機を銃形態にして構える。銃身をスナイパーにしているユウは遠距離攻撃でも充分な能力を発揮することが出来る。神機に残っているオラクル量も限られているので、焦らずゆっくりと照準を合わせていった。

 

 

「動きが早い……先読みが必要か」

 

 

 素早く移動し続けるザイゴートに銃弾を当てるのは意外と難しい。ユウは先読みと偏差射撃を行うことで一匹ずつザイゴートに風穴を開けていった。

 しかし、いくらユウが優秀でも新入りには変わりない。

 大量のアラガミを一度に相手にするのは難しく、遂にザイゴートの一体がヘリのローターを破壊する。

 

 

「しまっ―――」

「拙いぞ新入り! ヘリが墜落する。ここに居たら巻き込まれる!」

「でもリンドウさん!」

「追加任務は失敗だ。お前まで死ぬ気か!?」

「く……分かりました」

 

 

 神機使いは軍の指揮系統をそのまま採用している。つまり上官命令は絶対なのだ。新入りであるユウに拒否権などないし、どうにか出来る手段もない。

 そして、リンドウとしては無理矢理にでもユウを逃がすつもりだった。極東支部にやってきた唯一の新型神機使いをこのようなところで死なすのは拙いからだ。

 重力に従って落下するヘリから目を逸らし、二人は全力で離れていく。その間にヘリはどんどん食い破られていき、見るも無残な状態になっていた。

 だが、ヘリを背に離れていくリンドウとユウは気付かなかった。

 ヘリの搭乗口を蹴破り、飛び降りていく少年の姿に。

 

 

「父さんの故郷じゃザイゴートがお出迎えなのか。僕も嫌われたものだね」

 

 

 そんな呟きを残しながら少年はヘリから離れていく。搭乗口を蹴った時の初速度に従い、ゴッドイーターにも匹敵するような身体能力で見事に着地を決めてしまった。空中でザイゴートに襲われなかったのは幸運だったということだろう。

 

 

「とりあえず……あっちにゴッドイーターらしき人もいたよね。そっちに行って助けて貰おう。助けてくれるよね?」

 

 

 ザイゴートがヘリの残骸に夢中である内にこの場を離れることを決意する。ヘリの上からでもザイゴートを始末しようとしていた二人のゴッドイーターは見えていたので、合流することにした。

 極東人らしい黒髪黒目の少年が白衣を纏い、夕陽が照らすビル群を歩いていく。

 フェンリルマークの入った黒い手袋を装着した両腕には包帯が巻かれ、その右腕には、大きくて赤い腕輪が付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 安全地帯まで逃げ切ったリンドウとユウは一息ついていた。

 ただ、追加任務を失敗してしまい、二人の間に流れる空気は良くない。特に、ユウは初めての実地演習だったのである。演習と言えど任務は任務だ。初任務失敗という事実は重い。

 流石にリンドウも煙草を捨てて、真面目な様子を見せていた。

 

 

「あー……気にすんな新入り。ゴッドイーターになれば良くあることだからな」

「でも……」

「言い方は悪いが運が悪かった。それだけのことだ。このご時世、生きているだけで幸運だからなぁ。だが、生きていればどうにかできる。だから、お前は必ず生き残れ」

 

 

 ユウはそれを聞いてリンドウに出されていた命令を思い出す。

 『死ぬな』『死にそうになったら逃げろ』『そんで隠れろ』『運が良ければ不意を突いてぶっ殺せ』の四つである。本人は三つだと言っていたが、四つである。その時は肩に力が入っていたユウを笑わすための冗談だったのだろう。

 しかし、今のユウにはその命令がどれほど難しいか理解し始めていた。

 気落ちするユウの肩に、リンドウはポンと手を置く。

 

 

「帰投するぞ新入り」

「……はい」

 

 

 リンドウは改めて通信機をパイロットに繋げようとする。二人を任務地まで送ってくれたヘリのパイロットだ。日も沈みそうなので、急いだほうが良い。

 だが、それよりも先に、耳に付けたインカムからヒバリの声が聞こえてきた。

 

 

『リンドウさん、ユウさん! 近くにゴッドイーターの反応があります。お二人に近づいています。極東支部に所属しているゴッドイーターの反応ではありません!』

「何? 照合できるか?」

『やっていますが間に合いそうにありません。先程のヘリが墜落した方向です! もしかしたら護衛で乗っていた本部ゴッドイーターかもしれません!』

「了解だ。合流する」

 

 

 二人の通信はユウにも聞こえていた。それでヘリが墜落した方向へと目を向けると、遠くに人影が見える。神機は見えないが、ヒバリからの通信によるゴッドイーターの反応らしい。ゴッドイーターは神機を制御する腕輪から、特殊は波長を出している。これを観測することで、ゴッドイーターの反応を得ることが出来るという仕組みだ。

 リンドウとユウは警戒をしつつ、走って近づいてくる人影を待っていた。

 夕陽が逆光となって姿が見えなかったが、話せる距離にまで近づくと姿が確認できる。

 研究者が身に着ける白衣を羽織った少年。年齢はユウと同じぐらいだろう。黒髪黒目で極東人風の顔つきをしている。フェンリルロゴ入りの皮手袋を両手に付け、腕には包帯が巻かれていた。右手首に注目すれば、神機使いの腕輪が装着されていると分かる。

 少年と目が合う。

 彼は少し安堵しているように見えた。

 そこでリンドウが先に口を開く。

 

 

「フェンリル極東支部第一部隊隊長の雨宮リンドウ少尉だ」

「同じく第一部隊の神薙ユウです」

 

 

 普段のリンドウからは想像もできない敬礼付きの挨拶に続き、ユウもたどたどしく名乗る。そしてそれを見た少年は微笑みつつ、名乗り返した。

 

 

「僕は本日より本部から極東支部に転属することになりました。神崎シスイです。神機使いの仕事も出来ますが、本職は研究ですね。よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

(これは拙いことになったかもしれないね)

 

 

 自身の研究室でデータベースを開いていたペイラー榊は珍しく眉を顰める。彼の権力が許す限り、神崎シスイに関するデータを漁り、さらに権限以上のデータもハッキングして調べた。

 彼の視界には、その結果が映されていたのである。

 

 

(M2プロジェクト被験者、新型神機システム一部のオリジナル、そして厳重観察対象ね……そして本人は新型神機の研究者ということか。本部も厄介者を押し付けてくれたようだね)

 

 

 ここまでだけの情報なら、ペイラーも興味が湧くだけで済んだだろう。

 しかし、権限以上の情報閲覧によって得た神崎シスイのプロフィールが彼を悩ませていた。

 

 

(神機使い殺し……元フェンリル情報管理局特務部隊所属か。確かアラガミ化した神機使いを介錯することが仕事だったか。ヨハンが彼を呼んだということは……リンドウ君が調べ回っていることに気付いたということかな?)

 

 

 リンドウがエイジス計画に疑問を持ち、ヨハネス支部長の周辺を調べ回っていることはよく知っている。ペイラーもそれとなくリンドウの手伝いをしているからだ。

 そんな時にやってきた神機使い殺し。

 色々と疑念が溢れてくる。

 

 

(だが僕はそれでもスターゲイザーであり続けるよ。君がどんなことをしてくれるのか楽しみだ。そして神薙ユウ君もきっと―――)

 

 

 フェンリル極東支部。

 ここで新たな人類への試練が始まろうとしていたことに、まだ誰も気づいていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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