本業は研究者なんだけど   作:NANSAN

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EP10 シスイの仕事

 神薙ユウが隊長となり、ヨハネスから特務を言い渡されるようになった。ユウの実力はシスイの報告書を通して上層部に知られており、特務を与えるに十分な実力だと判断されたのである。また、ユウは行方不明となっているリンドウの代わりでもあった。

 そして特務に関する説明を受けた後、支部長室を出たユウはペイラー榊と擦れ違う。『君は好奇心が旺盛な方かな?』という意味深長な言葉に加え、拾えとばかりに落とされている二枚の記録ディスク。

 暗にディスクを見ろと言われていると確信したユウは、自室のターミナルにて確認した。

 

 

「……これって」

 

 

 ディスクの一つはソーマ・シックザールの関わるマーナガルム計画の概要である。ヨハネス・フォン・シックザールとペイラー榊の若き時代が映され、その中には見知らぬ女性も映っている。この女性こそがソーマの母親であることも、ディスクを確認する内に理解できた。

 ソーマは生まれながらにして偏食因子を宿した現代神機使いの雛形である。体には通常の神機使いを遥かに凌ぐ量の偏食因子が存在しており、圧倒的な身体能力はここから生まれていた。まだまだ潜在能力を使いこなせていない様子はあるが、人類としては最強の部類だと言って間違いない。

 そしてもう一枚のディスクはM2プロジェクトの概要とシスイの経歴だった。シスイの両腕がアラガミ化するきっかけとなった実験であり、新型神機計画にも並ぶもう一つの案だったという内容、そして本部でシスイが行っていた特務の内容だった。

 これによって、ユウはシスイとソーマの真実を知ることになる。

 

 

「シスイがいつも手袋をして両腕に包帯を巻いているのはこのため……?」

 

 

 食事時すらも手袋を外さないシスイに疑問を持ったことは多々あるが、わざわざ聞いたことはなかった。もしも聞いていれば盛大な地雷となっていたのは間違いないだろう。ユウはそう考えて少し安堵する。

 しかし、なぜこれをペイラーが渡してきたのか。それは疑問だった。

 

 

「直接確かめてみるか。ディスクを返すついでに……ん?」

 

 

 画面をスクロールさせて記事を最後まで見ると、一番最後の部分に添付ファイルが置かれていた。ここまで来たら見るしかないだろうと考え、ユウはファイルを開く。

 

 

「―――っ!?」

 

 

 それを見たユウは部屋を飛び出した。

 ユウは研究区画へと赴き、ペイラー榊の研究室に向かう。極東、いや世界に誇れる研究者の部屋だけあって、他の研究員に与えられている部屋とは比べ物にならないほど大きい。普通は六畳ほどの一室にコンピューターが一台程度なのだが、ペイラーに部屋はソファも置かれた大部屋で、奥には小部屋が二つもある。更に据え置かれているコンピューターも高性能なものだった。

 ユウはノックをしてから入室し、キーボードに何かを打ち込むペイラーの前まで歩く。ペイラーは画面を見つつ、寄ってきたユウに話しかけた。

 

 

「私に何か用かな? 君が来るなんて珍しいね」

「あの、これを」

「ん? ああ、これは誤って落としてしまったディスクじゃないか。わざわざここまで持ってきてくれたのかい?」

「ええ、そうですよ」

「ははは。それはありがとう……ところで中身は見ていないよね?」

 

 

 目を細めながらそんなことを言うペイラーに、流石のユウも白々しいと感じる。駆け引きが得意とは言えないユウは、単刀直入に尋ねることにした。

 

 

「暗に見ろと言ったのは博士でしょう?」

「さあ、どうだろうね」

「で、ソーマとシスイなんですが……」

「おっと。私の口からは何も言えないよ。強いて言うなら、ディスクの通りさ」

 

 

 あくまでも黙秘を貫くペイラーにユウは眉を顰める。

 だが、ここでの黙秘は肯定を意味していると言っても良い。聞き返す必要はなかった。

 

 

「なら、博士。最後に一つだけ聞かせてください」

「なんだね? 聞くだけなら構わないよ」

「シスイのディスク……その一番最後に添付されていたファイルの内容は事実ですか?」

「勿論だ。冗談であんなものを添付したりはしない」

「そうですか。失礼しました」

 

 

 ユウはそう言って部屋を出る。

 一人残されたペイラーは、誰かに聞かせるように独り言を呟いた。

 

 

「普段のシスイ君からは想像もできないだろう。彼がどれほどの戦場を駆け抜けて来たか。神喰らいになって僅か三年だというのにね。そうは思わないか?」

 

 

 思い出すだけでも身震いが起きる。

 極東という世界最悪の前線で研究をするペイラーをして、そう思わせるデータだった。

 

 

 

―――――――――――――――

記録:神崎シスイの討伐履歴

 

オウガテイル:2893体

ヴァジュラテイル:155体

ヴァジュラテイル堕天:47体

コクーンメイデン:2581体

コクーンメイデン堕天:713体

ザイゴート:2465体

ザイゴート堕天:482体

コンゴウ:1402体

コンゴウ堕天:699体

ハガンコンゴウ:31体

グボログボロ:1377体

グボログボロ堕天(炎):213体

グボログボロ堕天(氷):128体

シユウ:953体

シユウ堕天:341体

セクメト:12体

ヤクシャ:142体

ヤクシャ・ラージャ:24体

クアドリガ:159体

クアドリガ堕天:14体

テスカトリポカ:3体

ヴァジュラ:982体

プリティヴィ・マータ:14体

サリエル:317体

サリエル堕天(強毒):81体

アイテール:2体

ボルグ・カムラン:771体

ボルグ・カムラン堕天(炎):13体

ボルグ・カムラン堕天(雷):6体

スサノオ:7体

ウロヴォロス:1体

ウロヴォロス堕天:1体

アマテラス:1体

 

アラガミ化ゴッドイーター:19名

 

合計:17049体

―――――――――――――

 

 

 ちなみに、これはコアを回収できたアラガミの数だ。

 倒したアラガミの数とは一致しない。

 この数値でも、三年間で平均すれば、一日当たり15体以上もアラガミを倒していることになる。だが、シスイが今までに倒したアラガミの内、凡そ7000体は極東に来てからの記録である。まだ一か月も経っていないにもかかわらず、これだけの数なのだ。

 更に、アラガミ化したゴッドイーターの討伐数は19名。アラガミ化など滅多に起こることではないので、かなり多いと言える。

 流石のペイラーも驚嘆するしかなかった。

 

 

(尤も、今日の特務で更に増えているだろうけどね)

 

 

 コアを回収出来たアラガミの数は腕輪に記録される。

 そのため、秘匿された特務であっても討伐数だけは隠すことが出来ない。シスイの腕輪はダミーだが、この機能はしっかりと備え付けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。今日も多かった」

 

 

 嘆きの平原にある高台で、リッカお勧め『冷やしカレードリンク』を飲みながら呟やいたのはシスイである。極東支部の地下物資搬入路を通ってエイジス島まで行き、そこから伸びている緊急用通路から外に出ることで、誰にもバレることなく特務に出動していた。

 今日の特務は接触禁忌種セクメトのコアを回収すること。シユウ種から進化して、攻撃力が異常に高まった個体である。相変わらず耐久力は低いが、油断して一撃でも貰うと即死もあり得る。

 勿論、支給神機に仕込まれた集合フェロモンのせいで、討伐対象以外のアラガミも多数現れた。

 高台に腰かけるシスイの眼下では、コアを抜き取られた無数のアラガミがオラクル細胞を霧散させている。三桁ものアラガミが死に絶えている光景は、中々に壮観だった。

 

 

「冷やしカレードリンクは余計に喉が渇くね。今度は『へいッお茶ァ!』にしよう」

 

 

 シスイは立ちあがると、神機を肩に担いでエイジスに向かう。ヘリなどによる輸送もないので、緊急用外部出入り口までは歩かなくてはならない。アラガミに破壊されないよう、巧妙に隠されたその場所から地下に降りれば、エイジスまで一直線に繋がっているトロッコのような乗り物がある。

 破格の身体能力をフル活用してエイジスまで向かい、地下の資材保管庫に神機ごとコアを提出して、そのままアナグラへと帰投する。

 非常に疲れたので眠りたいところだが、まだ今日はリッカとの話し合いと実験も残っているのだ。疲れた体に鞭を打って、シスイはいつもの技術開発室に向かう。

 扉を開けると、いつも通りリッカが神機の調整をしていた。

 

 

「あ、シスイ君。もうすぐ終わるから、ちょっとだけ待ってね」

「分かった」

 

 

 今日の予定はリンクサポートデバイスの試作をチェックすることだ。戦闘とリンクサポートを並列起動するためのプログラムをデバッグしつつ、出力データを観測していく。設計自体はリッカの父親が殆ど完成させていたので、二人がやっているのは実用化に向けた研究だ。

 意外に早く終わるかと思いきや、ここからが進まない。

 理論から実践までに長く時間がかかることは良くあることだが、リンクサポートデバイスも同様だった。何より、リンクサポートデバイスは現段階でコストが高い。広域に特定効果を発揮させるので、どうしてもコストが上がってしまうのだ。

 問題はまだまだ多い。

 

 

(起動準備完了、プログラムセット、オラクル供給開始)

 

 

 リッカが神機の調整を終えるまでに、シスイが実験の準備を始めておく。細かい実験装置は昨日の段階でくみ上げているので、今日は起動準備だけで大丈夫だ。それゆえ、一人でも問題なく出来る。

 そうしている間にリッカの方も終わったのか、油で汚れた頬を擦りながらシスイの方へとやってきた。

 

 

「準備は終わっちゃった?」

「もう少し。何なら、手や顔を洗ってきてもいいよ」

「あはは。それならお言葉に甘えさせてもらうよ」

 

 

 彼女も18歳の乙女だ。汚れやすい整備士という仕事をしているが、多少は身嗜みにも注意する。尤も、これはシスイが助手となったからこその余裕だろう。これまでは一人で研究していたことも、シスイという助手が出来るだけで全く違ってくる。

 一言で言えば楽なのだ。

 研究者ゆえにデータ整理は早いし、学会から仕入れて来た最新の論文知識もある。フェンリルでも最高クラスの神機研究者というのは伊達ではない。

 またそれは逆もしかりだ。

 シスイの研究しているレイジバーストシステムも、リッカという優秀な技術者のお陰で形になりつつある。まだ設計段階だが、暴走神機を制御する感応制御システムもリッカのお陰で構想が出来上がったものだ。完成まではまだまだ遠いが。

 

 

(よし、出来た)

 

 

 エンターキーを押して全ての準備を整える。

 すると、丁度そこへリッカも戻ってきた。

 

 

「もう準備できたかな?」

「丁度今ね。じゃあ、実験を開始するよ」

「分かった。私は起動中の神機に異常がないか確かめるから、シスイ君はデータ観測をお願いね。数値に異常があったらすぐに報告して」

「分かった。そっちも異常があったら同様に」

「うん。じゃあ、始めようか」

 

 

 シスイがコンピューターを操作してプログラムを走らせ、接続中の神機を動かす。オラクルが溜められたタンクからエネルギーを供給し、リンクサポートを発動させた。更に神機の方も起動状態にして、戦闘可能になるまでオラクル活性化率を引き上げ始めた。

 

 

「現在、オラクルの活性化率9%」

「まだまだみたいだね。リンクサポートは?」

「既に動いている。ただ、出力が弱いかな?」

「オラクルの供給はどう?」

「そちらは問題ないね。予定よりもエネルギー効率が悪いみたいだけど」

「うーん。おかしいなぁ」

「理論はあっているハズなんだけどね」

「何が足りないんだろ?」

「取りあえず、失敗データも貴重なサンプルだし、今日はこれで満足しよう」

「仕方ないね」

 

 

 道はまだまだ遠い。

 今日も二人は夜遅くまで技術室に籠っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 三日後、観測班の様子が慌ただしかった。

 再びリンドウの腕輪反応がレーダーで検知されたからだ。第一部隊のサポート要員として、シスイもデータの処理を手伝い、移動ルートを予測演算する。

 

 

(動きが早すぎる……やはりアラガミ化しているみたいだ)

 

 

 ゴッドイーターは普通の人間に比べて身体能力が高い。だが、それを含めても腕輪反応の移動速度は異常なほど早かった。リンドウがアラガミ化している可能性は高い。

 もしくは、腕輪がアラガミに喰われている可能性だろう。

 どちらにせよ、リンドウの生存は絶望的だった。

 シスイが提出したデータを見た雨宮ツバキは、瞳を閉じて言い渡す。

 

 

「第一部隊に任務を発行する。リンドウの腕輪を取り戻せ。すぐに招集をかけろ」

「了解しました雨宮三佐」

「それと現地にはシスイも行け」

「はい……はい?」

「リンドウがアラガミ化している可能性に備える。貴様は最悪の場合はあいつを始末して貰う」

 

 

 それを聞いてシスイは言葉を失う。

 支部長と榊博士に知られていることは織り込み済みだったが、まさかツバキにまで知られているとは思わなかったからだ。驚いた表情を浮かべるシスイに対して、ツバキは淡々と事実を告げる。

 

 

「リンドウがアラガミ化している可能性について、シスイは報告書を上げていたな? それを私が支部長に提出した際、貴様のことを聞いた。本部で所属していた部隊、仕事をな」

「そうでしたか」

「本来ならば部隊長である神薙ユウの仕事だが、奴は経験が浅すぎる。実力、隊長としての器は私も認めているが、汚れ仕事をするには早い」

「分かりました。慣れていますし、僕がやります」

「愚弟が迷惑をかける。すまない」

 

 

 頭を下げて謝罪の言葉を述べるツバキを見て、シスイは少しだけ思考を巡らせる。

 

 

(僕が以前にしていた仕事は知っていても、僕のアラガミ化は知らないのかな? そうじゃないと頭を下げるなんて有り得ないし)

 

 

 本部でシスイのアラガミ化を知る者は、会うたびに嫌悪の目を向けていた。時には直接『化け物』と罵られることもあった故に、シスイはアラガミ化を隠すことにしている。今更、罵倒されたところで傷つくほど弱くないつもりだが、わざわざ嫌われるよりは好かれた方が良い。

 そのため、ツバキがアラガミ化を知らないならば好都合だった。

 

 

(リンドウさんに見せろって言われたのは特務のせいだからね。支部長も、そのあたりは考えているってことかな? 無闇に混乱を招きたくないのは向こうも同じだろうから)

 

 

 実際は、ツバキも半アラガミとも呼べるソーマの事例を知っているので、シスイに対して嫌悪を抱くことは無いだろう。そのことについて、シスイは知る由も無かったのだが……

 ともかく、リンドウがアラガミ化しているならば自分がやるべきだ。

 アラガミ化してもリンドウの戦闘術が記憶にあるならば、それは非常に厄介な存在となる。普通の神機でも倒せなくはないが、やはり有効なのは本人が使っていた神機だ。ただ、未だにリンドウの神機は見つかっていないので、適当なものを見繕うことになる。

 また、第一部隊のメンバーでは、アラガミ化したリンドウを見て戦意喪失してしまう可能性が高い。最悪の事態が起これば、第一部隊を撤退させて、シスイが単騎討伐に移る手筈となった。

 

 

「雨宮三佐。それで僕はどうしましょうか? 第一部隊と共に行くなら、僕が神機を持っていく理由も説明しないといけませんが」

「貴様が余っている神機に適合できたことにする。データの改竄は済んでいるし、支部長にも許可は取った。それに、貴様には悪いが技術主任のリッカにも話は通してある」

「……分かりました。これからは僕も戦線復帰するんですね?」

「そういうことだ。分かったら早く第一部隊を集めろ。時間は有限だ」

「了解です三佐」

 

 

 シスイはタブレット端末を操作して第一部隊にメールを一斉送信する。すぐにロビーへと集合するように呼び掛けた。

 ついでにリッカへと通話をかける。

 数回のコールの後、リッカが電話に出た。

 

 

『もしもし? シスイ君?』

「ああ、リッカ? 僕の神機だけど、話は聞いてる?」

『あははは……ツバキさんに聞いた時は驚いたけどね。まさか君がそんな特異体質だなんて知らなかったよ。勿論、神機は用意してあるよ。君が好んでいるヴァリアントサイズを用意しておいた。旧型だけど大丈夫だよね?』

「ありがとう。助かる」

『きっちり整備してあるからね。いつでも使えるよ』

「分かった。それだけ聞きたかったから、もう切るね」

『うん。ちゃんと生きて帰って来てね? 君がいないと研究が捗らないから!』

「勿論」

 

 

 通話を切ったシスイはロビーへと向かい、第一部隊がいつもブリーフィングをしているソファに腰かける。十分後にソーマが到着し、その後すぐにユウ、コウタがやってきた。更に五分後、アリサとサクヤが共に到着して第一部隊が完全に揃う。

 集まったメンバーの中で、一番に口を開いたのはサクヤだった。

 

 

「今日はどうしたの? 急に招集なんかして」

「リンドウさんの腕輪反応を検知しました」

 

 

 それを聞いてサクヤは目を見開く。

 ユウとコウタ、そしてアリサは身を乗り出すようにして口々に言葉を発した。

 

 

「本当かシスイ!?」

「どこどこ? 早く行こうぜ!」

「すぐに教えてくださいシスイ!」

 

 

 これがリンドウの人望ということだろう。不愛想なソーマですら、ピクリと反応したのだ。時間がある訳ではないので、シスイも勿体ぶらずに内容へと移る。

 

 

「極東支部が各地に置いているレーダーが検知したリンドウさんの腕輪反応を解析し、その移動ルートを調べ上げました。その結果、数時間後に贖罪の街にやってくる可能性が高いということです」

「なら、急がないとね。出撃準備を含めればギリギリよ」

「お待ちを。ちゃんと作戦の説明をするので」

「なら早くしなさい」

 

 

 焦るような態度を見せるサクヤをどうにか止めて説明を始める。

 詳しい話はヘリでする予定なので、簡単な内容だけだ。

 

 

「今回、観測された腕輪反応から予測した移動速度はゴッドイーターでも有り得ない速度です。つまり、リンドウさんのアラガミ化も視野に入れて欲しいということですよ。既に行方不明になってから一週間経っていますし、偏食因子投与の期限は過ぎています。あれは運が良くても一週間が限度ですから。仮にリンドウさんがアラガミ化していた場合は即時撤退してください」

 

 

 それを聞いた全員が一斉に表情を暗くする。基本的に、ゴッドイーターの偏食因子投与は三日に一度だ。どんなに遅くても五日以内には投与することになっている。それを過ぎればアラガミ化しないと言い切れなくなるし、一週間を過ぎればもはや絶望的となる。

 これはゴッドイーターになった誰もが知る基礎知識だ。

 つまり、リンドウがアラガミ化していた場合、自分たちで殺さなければならなくなる。その事実を皆が悟ったのだ。

 シスイは暗くなりかけた雰囲気の中で、更に言葉を続ける。

 

 

「もう一つ可能性はあります。リンドウさんの腕輪がアラガミに喰われている場合です。つまり、移動速度の速いアラガミが体内に腕輪を持っている可能性ですよ。恐らくはプリティヴィ・マータだと思うのですが、それにしても移動速度が速すぎますからね。その時は変異種の可能性を考慮してください。そして全力でリンドウさんの仇を討ち取りましょう」

 

 

 分かってはいたが、リンドウの死は確定的だ。アラガミ化を考慮しても人間としては死んでいる。未だにリンドウの扱いが作戦中死亡(KIA)ではなく作戦中行方不明(MIA)認定なのは、第一部隊の心情を考慮している部分が大きいからだ。

 認めたくなくとも、皆がリンドウの死を確信しているのである。

 それでも僅かな希望に縋るため、今回の作戦は行われるのだ。

 

 

「僕も出ます」

「シスイも? 神機は?」

「大丈夫だよユウ君。ちゃんと新しいのがある」

 

 

 最悪の事態が起こればシスイが処理をする。

 それは言わなくても良いことだろう。ただ、今回はシスイも出撃するという事実だけを言えば良い。アラガミ化したリンドウを殺させるには、ユウは経験不足過ぎるからだ。

 ゴッドイーターとなって一か月もない内に隊長というだけで酷な部分もあるのだ。それ以上を負わせる訳にはいかない。ユウの友人として、シスイはそう考えていた。

 

 

「最近は出撃していなかったので、僕との連携は難しいでしょう。基本的に、僕はターゲット以外の露払いを担当します。一対多は僕の得意分野なので。ではブリーフィングを終了します。時間がないので詳しい話はヘリの中で行いますね」

『了解』

 

 

 久しくシスイも参加する作戦。

 隊長となったユウは静かに拳を握り締める。ペイラー経由でシスイの秘密を知ったユウは、アラガミ化したゴッドイーターの処理を任務としていたことも分かっている。

 

 

(もしかしてシスイは……)

 

 

 リンドウがアラガミ化していた場合、シスイがそれを殺すつもりなのだろう。

 図らずとも、ユウはその真実に辿り着いてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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