本業は研究者なんだけど   作:NANSAN

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EP15 進化

 

 極東支部では鎮魂の廃寺で起こっている異常を察知出来ていた。突如としてレーダーに大量のアラガミが映り、それとほぼ同時にジャミングが発生。鎮魂の廃寺を中心とした広範囲が観測、通信不能となった。ジャミングのせいでシスイとの連絡は途絶え、今もヒバリが呼びかけ続けている。

 

 

「シスイさん! シスイさん! どうか返事を!」

「すぐに第一部隊を向かわせろ! 偵察班を呼んで現場の確認を!」

 

 

 ヒバリの呼びかけに重なってツバキの怒号も響き渡る。シスイのことも心配だが、アラガミが鎮魂の廃寺へと集結していることも大問題だ。何が原因なのかを早急に調べる必要がある。特に、今は極東支部の対アラガミ装甲壁が間に合っていない状況なのだ。このタイミングで大量のアラガミが極東支部まで押し寄せてきた場合、大変なことになる。レーダーが使えないだけに不安が大きかった。

 任務中だったユウとソーマも討伐対象を速攻で倒し、ヘリに乗り込んで鎮魂の廃寺に向かっていた。

 

 

『こちらユウ。どうにか任務は遂行した。これから鎮魂の廃寺へと向かう』

『ソーマだ。俺もこれから向かう。追加で指示はあるか?』

「なら死ぬな! 危険と判断したら必ず帰投しろ。お前たちを失う訳にはいかんからな」

『ですがツバキ教官。それではシスイが……』

「黙れ! これは上官命令だ!」

 

 

 無線の向こう側で歯軋りするユウと舌打ちするソーマが容易に想像できる。

 しかし、ツバキも好きでこのような命令を下したわけではない。

 この異常事態を一人で対処しているシスイの存命は絶望的と言って良い。とても一人では対処できない数のアラガミが集まっている中、あのユウとソーマを送っても焼け石に水なのだ。余計な犠牲は出せない。

 それ故に出した苦渋の決断なのだ。

 

 

「無線とレーダーはまだ直らんのか!?」

「ダメです。強力な偏食場のせいで正確な観測は不可能。直す直さないの問題ではありません!」

「く……ユウとソーマもジャミング範囲では通信できないか。パイロットに伝えてジャミング範囲に入らないように警告を出せ!」

「了解です。こちら極東支部、ポイント89から143までを禁止区域とします。侵入しないように気を付けてください。こちら――」

 

 

 任務に出ているゴッドイーターを出来るだけ呼び戻し、支部の守りを固めていく。問題となる鎮魂の廃寺については、向かっているユウとソーマに任せるしかなかった。

 

 

「必ず戻れよ……神崎シスイ」

 

 

 ツバキの呟きは支部の喧騒の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆ 

 

 

 

 

 

 

 背後から奇襲を受けたシスイを救ったのはリンドウだった。

 ディアウス・ピターに殺されたはずのリンドウを見て、シスイは一瞬だけ幻覚を疑う。だが、何度目を擦ってもそれは確かにリンドウだった。

 

 

「リンドウさん!」

「ウラアアアアアアアア!」

 

 

 シスイは大声で呼びかけるが、リンドウは聞き留めずにアラガミへと向かって行く。そしてプリティヴィ・マータへと襲いかかり、右手に持つ神機のような何かで攻撃していた。接触禁忌種のプリティヴィ・マータを簡単に引き裂き、人とは思えない身体能力で次々と傷を増やしてく。

 たったの数秒でプリティヴィ・マータは沈黙した。

 

 

「……アラガミ化の影響か」

 

 

 苦々しい声でシスイは呟くが、いつまでもリンドウを見ている暇はない。周囲には大量のアラガミが残っているのだ。それは当然のようにシスイにも襲い掛かる。

 

 

「邪魔だ!」

 

 

 オラクルの爪を両手に出し、竜のような白いアラガミ――ハンニバル――を切り裂く。そしてコアを露出させると同時にオラクル弾で狙撃した。

 コアが破壊されてハンニバルは沈黙する。

 そして流れるような動作で次々とオラクル弾を生成発射していき、ザイゴートの大軍を撃ち落とした。リンドウが縦横無尽に暴れまわっているので、シスイは狙撃で援護するだけでも充分である。殆どの大型種がリンドウを狙っていた。

 だが、ステラノーヴァだけは相も変わらずシスイを攻撃する。

 

 

「キュオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 

 サリエルの使うエネルギー障壁が展開され、それがステラノーヴァを中心として広がった。深紅のエネルギー自体に攻撃力があるため、障壁に触れるとダメージを受ける。障壁の範囲は通常のサリエルが使う障壁の十倍を優に超える。

 避けきれないと判断したシスイは、先程倒したハンニバルの死体を盾にした。

 

 

「ぐっ……」

 

 

 高密度のエネルギーがハンニバルの死体を削り取り、シスイにも若干のダメージを与える。まともに受ければかなりの重傷を負っていた可能性が高い。

 幸いにも障壁は一瞬通り過ぎただけで終わったので、ハンニバルの死体も原型を留めていた。広範囲攻撃を繰り出したことで隙を見せたステラノーヴァに攻撃するべく、シスイはハンニバルの死体の下から這い出る。

 そしてオラクルの爪を出し、ステラノーヴァに攻撃を咥えようとして―――

 

 

「ぐあっ!」

 

 

 ―――吹き飛ばされた。

 それもステラノーヴァにではなく、死んだはずのハンニバルに吹き飛ばされたのである。

 今のシスイは知らないが、ハンニバルは後に不死のアラガミと呼ばれる個体だ。原型を留める限り、コアを無限に再生させて復活することの出来る厄介なアラガミなのだ。倒すには、原型を留めないほど徹底的に攻撃する必要がある。

 最低限、首を落とすことが出来れば倒せるのだ。

 しかし、シスイはそれを知らなかった。

 

 

「く……確かにコアは破壊したはず。どーなってんだよっと!」

 

 

 吹き飛ばされた先をステラノーヴァが大口径レーザーで焼き尽くそうとしたので、シスイは咄嗟に避けた。少し回避が遅れて服が焦げたが、ダメージはない。

 リンドウが参戦したおかげで負担は減ったが、根本的な解決にはならなかった。

 

 

「まったく……リンドウさんもアラガミ化のせいで正気じゃないみたいだし、面倒なアラガミが僕にしつこく付き待ってくるし、とんだ災難だよ」

 

 

 本業は学者だっていうのに、と最後に小さく口にする。

 上空から叩き付けるような一撃を繰り出してきたハンニバルを避け、攻撃直後の隙を突いてその頭部へと両手で触れる。アラガミ化した両腕がハンニバルの頭部を一瞬で捕喰し、沈黙させた。

 その捕喰で得たアラガミバレットを別のハンニバルへと撃つ。

 螺旋状の炎が両腕から飛び出し、ハンニバルは大きく仰け反った。シスイはその間に高速移動でハンニバルへと近づき、再び頭部を捕喰する。

 そして一番目に頭部を捕喰した方のハンニバルへと目を向けた。

 

 

(生き返っていないね。再生には条件があるのかな?)

 

 

 一度殺したアラガミが復活するなど面倒極まりない。ただでさえステラノーヴァが厄介なのに、生き返り続けるアラガミがいるとなると無限に戦い続けることになる。

 法則性を探す必要があった。

 

 

(アラガミはオラクル細胞の塊だから、再生は本来不可能じゃない。生物の形をしていても、本質はオラクル細胞にあるから……何かをキーにしてオラクルを収束し、再生する進化を遂げたのか?)

 

 

 そう仮定すれば、解決の糸口は見えてくる。

 アラガミの性質を司っているのはコアだ。つまり、再生能力もコアにあると考えられる。コアをオラクル狙撃弾で破壊したハンニバルが生き返っていたので、辻褄はあっているだろう。

 そしてコアだけが再生されるのだとすれば、コア以外を潰してしまえば解決する。

 

 

「つまりこうだね!」

 

 

 シスイはオラクル爪を振るい、ハンニバルの尻尾と右腕を斬り落とした。バランスを崩したところを狙い、さらに頭部と左足も切断する。アラガミも生物の形をしているので、生物の急所となる場所を破壊すれば行動不能に出来ることが多い。その状態でコアを抜き取る、もしくは破壊すると完全に倒すことが出来る。

 数秒経っても再生される兆しは見えなかった。

 

 

「やはりコアが重要か」

 

 

 そう言って、動けなくなったハンニバルにとどめを刺す。コアを破壊されたことで、ハンニバルはオラクル細胞を霧散させ始めた。

 これで動きの素早いハンニバルはほぼ仕留めた。勿論、まだ残ってはいるが、その残りはリンドウの方へと目移りしている。ステラノーヴァに攻撃するチャンスである。

 

 

「次こそ仕留める!」

 

 

 シスイは雪の大地を蹴ってステラノーヴァへと急襲した。四つの衛星を持つステラノーヴァは連射レーザーで迎撃するが、シスイはそれを弾くか回避しながら走り続ける。リンドウのお陰でステラノーヴァの周囲にいたアラガミの数が減っているので、今がチャンスなのだ。多少のダメージを受けたとしても、それを無視して近づかなければならない。

 

 

(小型種は無視、中型種は狙撃でコアを撃ち抜く!)

 

 

 残り五十メートル。

 オウガテイルの突進を躱し、コンゴウをオラクル狙撃弾で撃ち抜き、グボログボロは伸ばしたオラクル爪でバッサリ切り裂く。

 ステラノーヴァの大口径レーザーを跳んで回避した。

 

 

(行ける!)

 

 

 残り三十メートル。

 ウロヴォロスの放つビームが周囲を焼き焦がすが、シスイを狙っている攻撃ではない。ヒヤリとさせられるも、足は止めずにただ走り続ける。

 

 

(何で攻撃する? どの攻撃なら倒せる? オラクル弾……いや爪か……?)

 

 

 残り十メートル。

 リンドウが遠くでウロヴォロスの顔を破壊した。複眼が飛び散り、深く大きな傷跡を残している。アラガミ化したリンドウの右腕から作り出されている神機のような何かの力だった。

 それを見たシスイはふと思う。

 

 

(僕にも出来るんじゃないか―――?)

 

 

 シスイのアラガミ化は安定しており、意思のままにオラクル細胞を操ることが出来る。これまでは爪としてオラクルを伸ばしたり、弾丸にして発射したりしていたが、オラクル細胞を神機の形に変異させれば、わざわざ本物の神機を使わなくても良い。

 残り五メートル。

 シスイは右手に黒い鎌を創り出した。

 

 

「キュアアアアアアアアアアアアアアッ!」

「そいつを喰らえ!」

 

 

 振り下ろされた神機のような何かは、ステラノーヴァの衛星を切り裂き、そのまま体まで真っ二つにした。

 本来、神機とはオラクル細胞の塊で、アラガミの一種も言える。神機がアラガミを攻撃できるのは、神機がアラガミを喰らっているからだ。この喰らう能力が、そのまま攻撃力になると言える。

 そして、シスイが創り出した黒い鎌は、シスイの捕喰の意思が乗ったオラクル細胞だ。本物の神機が持つ偏食なども無視して、シスイが喰らえと命じれば何でも喰らう。

 ステラノーヴァは黒い鎌に喰われ、真っ二つに裂けたのだった。

 

 

「それがコアか。喰らえ」

 

 

 どうやらコアに攻撃は当たらなかったらしい。体が裂けたステラノーヴァは白い大地に転がって行動不能になっているが、本当の意味で倒すためにはコアを潰すか喰らう必要がある。

 シスイは神機の形をした黒い鎌を捕食形態に変形し、ステラノーヴァのコアを喰らった。

 その瞬間、神機のような何かに変異が起こる。

 

 ―――ピキリ

 

 何かが割れるような鋭い音が聞こえ、鎌が黒から赤黒い色へと変色した。さらに刃の部分が水晶のように透き通り、赤色透明な色合いとなっている。

 同時に、シスイの両腕にも赤いラインが走り、変異した。

 黒い鱗のようなオラクル細胞に混じって深紅のラインが雷のように入り、以前にも増して不気味な色合いへと変化している。

 ノヴァの因子を喰らったことで、シスイのオラクル細胞が進化したのだ。

 これまで大量のアラガミを喰らってきたシスイのオラクル細胞は、ポテンシャルとして十分な領域へと達していた。そこに、あらゆるアラガミの集合体であり、世界全てを喰らうと言われるノヴァの因子を取り込んだことで、ポテンシャルが励起され、進化へと至ったのである。

 だが、それは良いことだけではない。

 

 

「ぐ、くぅ……」

 

 

 シスイは両腕に激しい痛みを覚えていた。

 アラガミ化しているとは言え、細胞が変質して組織が組み変わっているのだ。当然、代償として激痛に苛まれることになる。

 それでも残りのアラガミは待ってくれない。

 メビウスノーヴァが呼び出した数えきれない量のアラガミが残っている。

 

 

「く……あああああああああっ!」

 

 

 痛みに耐えながら変異した鎌で薙ぎ払った。ヴァリアントサイズと同じように咬刃が伸び、刃に触れたアラガミは真っ二つに切り裂かれる。クアドリガやボルグ・カムランのような防御力の高いアラガミすら豆腐のように抵抗なく切断されていた。

 更にシスイが左腕を掲げると、パキパキと音がしてオラクルが半透明な水晶の槍を生成する。色は不気味な赤黒の混合色で、見るからに毒々しい。

 それをシスイが放つと、高速で飛んでヴァジュラに突き刺さり、まるで木の枝が成長するかのように水晶が成長してヴァジュラを内部から食い破った。まさに喰らうバレットである。

 

 

「腕と……頭痛が痛い。あ、文法ミス」

 

 

 少し余裕が出来て来たのか、無駄口を叩けるようになった。

 相変わらずアラガミ化している両腕と頭に痛みが残っている。それでも、最初よりはましになりつつあったので、シスイは気合を入れ直してメビウスノーヴァへと目を向けた。

 

 

「折角だ。変異した僕の能力を試させてもらうよ」

 

 

 シスイは右手に赤黒く変色したヴァリアントサイズを構えつつ走り出す。大量のアラガミを誘因するメビウスノーヴァは、個体性能より特殊能力に傾倒している。岩山の上で大将のように佇み、能力でアラガミの大軍を呼び寄せ、一つの陣形を築いていた。

 近付くには、それを切り崩さなければならない。

 幸いにも背後ではリンドウが暴れまわっている。シスイは前にだけ集中すれば良い。

 まず、シスイが右腕から作り出した神機がコンゴウ堕天を切り裂いた。

 

 

「グゴオオオオッ!?」

「いい切れ味だね」

 

 

 自分の制御するオラクル細胞で創られているだけあって、喰らう能力が桁違いだった。斬撃が通りにくいコンゴウの体を一撃で両断したことから窺える。

 そして飛びかかってきた数体のヴァジュラに、半透明な結晶槍を放った。神機の形にオラクルを成型する術を見つけたおかげか、造形という新しい使い方が出来るようになった。これまでのオラクルを固めた弾丸よりも殺傷力が高い槍の形状であり、刺さった瞬間、内側から食い破るようにしてオラクル結晶が成長する。

 数体のヴァジュラは全て、内部から大量の結晶が突き出て沈黙してしまった。

 

 

「成型には少し時間がかかるね。ということは、乱戦中は使いどころを考えないとダメか」

 

 

 性能が更新されているので、確認をしつつ能力を行使する。

 次にいつもの最大負荷オラクル狙撃弾を使用すると、色が赤っぽく変色していた。それをサリエルに向かって放つと、当たった箇所が結合崩壊する。どうやら威力は変わっていないらしい。変異したの色だけのようだった。

 シスイは実験を繰り返しつつ、ヴァリアントサイズにも似た神機モドキを振り回して、次々とアラガミを両断していく。一撃必殺で大型種すらも引き裂き、踏み台にしてメビウスノーヴァに迫った。

 

 

「グガアアアアアアアア!」

「はあああああっ!」

 

 

 クアドリガに似たキャタピラの下半身と、人型の上半身を持つ奇妙なアラガミ。色はステラノーヴァと同じ深紅である。

 シスイは偏食因子を取り込んだが故の身体能力で岩山を駆けあがって大きく跳び上がり、咬刃を伸ばしてメビウスノーヴァへと振り下ろした。

 しかし、右方向から突撃してきたザイゴートの大軍に押し流される。空中では流石に回避できず、そもそも数百体のザイゴートによる面制圧では避けようがない。シスイは吹き飛ばされ、雪煙を散らしながら地面に激突したのだった。

 

 

「痛っ……」

 

 

 ポーチから回復錠を取り出して口に含み、すぐにダメージを修復する。

 見れば、メビウスノーヴァの周囲には大量のアラガミが取り囲んでおり、分厚い壁となっていた。サリエル種やザイゴート種のような空中を浮遊できるアラガミがメビウスノーヴァの周囲を守り、ヴァジュラ、プリティヴィ・マータ、ディアウス・ピターのように機動力の高いアラガミが尖兵として向けられる。

 他にもシユウ、コンゴウ、グボログボロのような中型種も数えきれないほどいるので、このままではメビウスノーヴァまで辿り着くことが出来ない。メビウスノーヴァがずっとアラガミを呼び寄せ続けているので、倒しても倒しても減らないのだ。

 

 

(ここはリンドウさんと協力して逃げた方がいいね。一体は倒したわけだし、僕も両腕がまだ本調子じゃないみたいだから)

 

 

 突然変異したシスイの両腕は、未だに安定化に向かって変質し続けている。アラガミの大軍を相手にする余裕はあまりない。

 また、リンドウも右腕がアラガミ化しており、様子を見る限り一刻の猶予もない。

 一度、落ち着ける場所まで撤退するのが吉だろう。

 シスイはそう判断を下した。

 

 

「ウラアアアアアアアア!」

「くっ、リンドウさん! 僕の声が聞こえますか?」

「オラアアアアアア!」

「リンドウさん!」

 

 

 呼びかけるだけではリンドウを気付かせることも出来ない。

 仕方なく、シスイは周囲のアラガミを蹴散らしながらリンドウへの接近を試みた。流石に極東支部で第一部隊の隊長をしていただけあって、ユウに勝るとも劣らない理不尽な動きをしている。背後に目があるのではないかと思うほどだった。

 シスイはヴァリアントサイズでアラガミを切りつつ、オラクル弾でリンドウの援護をして徐々に距離を詰めていく。

 

 

(アラガミ化が酷く進行している……間に合うか?)

 

 

 まだリンドウは完全なアラガミ化へと至っていない。

 運よく制御に至れば、シスイと同じくオラクル細胞をコントロール下に置くことも不可能ではないだろう。シスイと異なり、強い意思を以てオラクル細胞の捕食本能に打ち勝たなければならないが。

 リンドウはハンニバルを両断し、そのコアを喰いちぎる。本来なら有り得ない、アラガミを人が捕食するという行為。アラガミ化が進行している証だった。

 アラガミ化すると、本人は酷い矛盾に苛まれることになる。

 捕食しなければオラクル細胞の捕食本能に潰される。

 捕食してオラクル細胞を取り込めば、アラガミ化が進行してしまう。

 今のリンドウはまさに後者の状況だった。

 シスイのように制御できなければ、どちらにせよ完全なアラガミ化を果たしてしまうのである。人として生きるなら、その前に制御させなければならない。

 

 

「リンドウさん! 聞こえてる!?」

「アァ? シスイ……カ? ウラァッ!」

「よかった。まだ意識はあるみたいですねっ!」

 

 

 二人は会話をしつつ、周囲のアラガミを掃討する。

 片手間で倒せてしまうあたり、やはり極東の人間ということだろう。普通のフェンリル支部なら軽く十回は壊滅しているアラガミを、たった二人で捌き切っているのだから。

 

 

「リンドウさん。取りあえず逃げましょう。数が多すぎます」

「悪ィナ。腹ァ減ッテンダ」

「後でどうにかしてあげますから逃げましょうよ!?」

「仕方ネェ」

 

 

 幸いにも理性は残っているらしい。

 シスイの呼びかけにも応じてくれた。

 しかし、やはりアラガミの飲まれかけているらしく、コアを喰らいながら腹が減ったと主張している。これだけアラガミがいる場所で喰らい続ければ、一時的に満たされるだろう。しかし、急速に進むアラガミ化のせいで再び酷い空腹に悩まされるだけだ。

 麻薬と同じである。

 

 

「スタングレネードを投げるので、その隙に逃げますよ」

「ワカッタ」

 

 

 シスイはポーチからスタングレネードを二つ取り出し、安全ピンを抜いて同時に投げる。すると凄まじい光が周囲を照らし、アラガミが嫌う特殊な周波数の音が鳴り響いた。これによってアラガミは一時的に行動不能となり、シスイとリンドウはその隙に逃走する。

 ヤバそうなら逃げるのが信条の第一部隊。

 逃げ足も一流だった。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 シスイとリンドウが鎮魂の廃寺を去って三十分後。

 ヘリに乗った神薙ユウはジャミング外までやってきていた。アナグラからの指示で、広域ジャミングが発動している鎮魂の廃寺まで近寄ることが出来ない。こうして遠目に確認するのが限界だった。

 

 

「こちらユウ。限界位置まで到達した。ここからでも大量のアラガミが確認できる」

『こちらソーマだ。かなりの大型種もいやがるな。こいつは厄介だぜ』

『ユウさん、ソーマさん。具体的な数は分かりますか?』

「俺から見えるアラガミだけでも千はいるかもしれない。小型種が多すぎる」

『ザイゴートが多すぎてヘリで近づくのも無理だな。地上には大型種も馬鹿みてぇにいやがるぜ』

 

 

 アナグラのレーダーでは鎮魂の廃寺を確認できないので、現場に向かっているゴッドイーターの目視が頼りになる。既に任務に出ていたユウとソーマは既に到着しているようだが、偵察班はまだ向かっている最中でしかない。

 討伐が主な任務の第一部隊では気付けないこともあるだろう。

 あまり期待は出来ない。

 それでもヒバリは何度も通信のやり取りを行い、出来るだけ情報を引き出していた。同じく通信を聞いている他の職員が可能な限りデータ整理を行い、ツバキがそれを元にして作戦を立てている。

 

 

「ヒバリさん、あと何分で偵察班が到着する予定だ?」

『少し待って下さいユウさん……何もなければ十分程ですね。偵察班が着き次第、ユウさんとソーマさんには帰投することになります』

「シスイはどうなっているんだ? 無事なのか?」

『すみません。いまだ不明です』

 

 

 何となく、シスイがリンドウと重なる。

 まだ死んだと決まったわけではないが、嫌な予感はひしひしと感じていた。

 このあと偵察班と入れ替わり、第一部隊は極東支部で待機を命じられることになる。シスイ捜索のために出撃すると主張するも、ツバキは認めなかった。

 鎮魂の廃寺で発生している広範囲ジャミングは途切れることがなく、偵察班による決死の探索でのみ調査が進められることになる。

 その数日後、この極東支部に訪れた危機を脱するべく、ヨハネス・フォン・シックザール支部長が主導する大掃討作戦が決行されることになった。

 

 オペレーション・メテオライト。

 

 アーク計画完成と、対アラガミ装甲壁のために、極東のゴッドイーターを全て投入した大作戦が行われる。

 

 

 

 

 

 




God Eater2のリンドウさんエピソード、アニメ版エピソードを絡めます。

シスイ君はここで戦線離脱ですね。
バースト編、リザレクション編を原作に近いまま進めるために、シスイだけ別行動になっていく予定です。
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