ソーマが黒いアラガミを発見したのは、アラガミ同士の戦闘音を察知したからだった。多数の唸り声と何かを潰す音が強化された聴覚に届いたので、気配を消しつつ様子を見に行ったのである。
そして建物の陰から見たのが竜のような見た目をした黒いアラガミだった。右腕に装甲を持ち、紫の炎を纏って中型のアラガミを相手に無双している。新種であることはすぐに分かった。
(なんだあのアラガミは!)
表情を険しくしたソーマは、神機を強く握り直して様子を窺い続ける。
後にハンニバル侵食種と名付けられるこの個体は、リンドウがアラガミ化した姿なのだが、今のソーマにそのことを知る由はない。ただ分かったのは、通常のアラガミから逸脱した戦闘力だけだった。
(格闘の心得があるのか? いや、剣術に近い動きもある。まさかゴッドイーターから学び取ったとでも言うのか?)
大型種であれだけの戦闘力を持つとなると、下手をすれば接触禁忌種に指定されるレベルだ。防御力は測れていないので断定できないが、紙装甲でもない限りは間違いないだろう。一見すると防御が薄そうでも、実は滅茶苦茶硬いということもあり得る。油断は出来ない。
ソーマは念のため、通信を入れることにした。先程から通信が復帰したことは分かっているので、連絡だけでもしておくべきと判断したのである。
「こちらソーマだ。新種の黒いアラガミと交戦中。悪いが援軍を頼む」
そう言ってから建物の陰を飛び出し、ハンニバル侵食種へと神機を振り下ろす。どうせ避けられるだろうと考えての軽い一撃だったが、案の定ハンニバル侵食種は余裕で回避した。一応は不意打ちだったはずだ。しかし、その凄まじい反射神経の前にはまるで意味がない。
ハンニバル侵食種は尻尾を振り回してソーマを攻撃しようとして、ソーマはそれを装甲で防ぐ。ジャストガードによる完全防御のお陰でダメージはない。
ジャストガードとは、上級ゴッドイーターが良く使うテクニックで、受けるダメージをゼロにすることが出来るというものだ。神機の装甲は展開時に一瞬だけ高いエネルギー反応を示し、その一瞬の間に受けた攻撃は衝撃が完全に相殺されてダメージを打ち消すことが出来る。本来は幾らかの貫通ダメージを受けてしまうため、攻撃力の高いアラガミを相手にする時には重宝する技術だった。
ちなみに、極東でもこの技術が実用レベルで使えるのは各部隊の隊長格ぐらいである。一般隊員ではよくても半分しか成功しない。
「ちっ! 潰れろ」
ソーマはバスターブレードを振り下ろすが、ハンニバル侵食種は右手の装甲で綺麗に受け流す。そして隙を晒したソーマに紫の炎によるブレスを吐いた。半分近くがアラガミのソーマは、無茶な体勢からでも回避できる。褒められた行動ではないが、命には代えられない。負担が足腰にかかっているのを感じつつ、大きく跳び下がってブレスを避けた。
「厄介な奴だぜ……」
アラガミが人の戦闘術を持っているだけで非常に厄介になる。元々、アラガミは人間よりも身体能力が高いのだ。その上で技術を身に付けられたら面倒極まりない。ソーマはそれを実感していた。
そして更に言えば、ハンニバル侵食種だけに構っているわけにもいかない。他の中型種もまだ近くに残っているのだ。
ソーマは滑空してきたシユウを一撃で切り裂き、グボログボロの砲撃を装甲でジャストガードする。そして反撃とばかりに跳び上がってからチャージクラッシュを叩き込み、重力と一緒にグボログボロを叩き潰した。
その後すぐにハンニバル侵食種へと向き直ると、ハンニバル侵食種も別の中型種を相手に暴れまわっている。てっきり隙を突かれて襲われると思っていたので、ソーマとしても意外だった。
(偏食傾向ってやつか? シオみてぇに人を食わないのかもしれねぇな)
ソーマは改めて神機を構えつつハンニバル侵食種を睨みつける。近くの中型種を掃討したハンニバル侵食種は小さく吼えた後、ソーマへと向き直った。
再び戦いが始まるかと思われたが、ハンニバル侵食種は背を向けてどこかへと逃げ出す。あれだけの戦闘力を持っておきながら、ソーマに畏怖したということはないだろう。余りのことで、流石のソーマも追いかける精神的余裕は無かった。
反射的に左手を伸ばし引き留めようとする間抜けな構図だけが残り、黒い影が遠くへと離れていく。
そこへ神薙ユウが到着した。
「何やってんのソーマ?」
「あ、ああ。例の黒いアラガミに逃げられてな……」
「ソーマから逃げるなんて……機動力特化っぽい?」
「そうかもしれねぇな。俺の攻撃は一度も当たらなかった」
「厄介だ」
「ああ、だが……」
「どうかしたの?」
「いや、何でもねぇ。コアの回収を続けるぞ」
ソーマは通信を入れて新種のアラガミが逃亡したことをヒバリに伝える。
そして二人は元の任務であるコアの回収へと戻るのだった。
オペレーション・メテオライトはほぼ予定通りに遂行され、僅か一日で一か月分を優に超えるだけのコアを回収することに成功。極東支部の対アラガミ装甲壁は無事にアップデートされ、エイジス島で育成されているノヴァの素体もほぼ完成することになったのだった。
◆◆◆
神崎シスイは一人で荒野を彷徨っていた。
衝動に任せて適当に走ったせいで、既にフェンリル極東支部がどこにあるのかもわからない。コンパスがあればどうにかなったかもしれないが、流石にそんなサバイバル道具を持ち合わせてはいなかった。本来ならばゴッドイーター全員が緊急用に所持しておくべきものである。だが、残念ながらコンパスはステラノーヴァとメビウスノーヴァの戦闘時に壊れてしまっていた。特殊な偏食場を放つメビウスノーヴァのせいで、磁力が狂ってしまったのである。今の時代、乱れた磁場のある地域でもコンパスが利用できるように、オラクル細胞が利用されている。つまり、強力な偏食場を浴びるとコンパスの機能を失ってしまうのだ。
まとめると、今のシスイは迷子だった。
「お腹すいた」
そして迷子であると同時に、食糧難という重大な危機もある。流石にアラガミを食べる訳にはいかないので、こればかりはどうにかして用意するしかなかった。一応、シスイはアラガミ化しているので、腕から捕食すればエネルギーは補給できる。しかし、腹が減ることには違いないのだ。
動けるには動けるが、空腹で精神的に参っている状態なのである。
「はぁ……今ならシオやリンドウさんの気持ちが分かる気がする」
アラガミ化のお陰で生きていられるとも言えるが、逆に言えばアラガミ化のせいで苦しんでいる。何とも形容しがたい現状だ。
また、こうして荒野を彷徨っているだけでは食料など見当たるはずがない。アラガミによって食い尽くされた場所が荒野なのだから、まともな食料が残っているとは思えないのだ。
一応、アラガミにも移動ルートが存在している。
アラガミも定義としては生物なので、縄張りのようなものがあるのだ。そして幾つものアラガミが徘徊するルートが綺麗に隙間を作ると、捕食されない領域が現れる。絶対にアラガミが出現しないとまでは言いきれないが、被害が大きく減っている領域は確かに存在しているのだ。
これはシスイが敵認定しているラケル・クラウディウスの研究の一つであり、本部のサーバーから論文を読んだこともある。あまり興味がなかったので軽く目を通しただけだったが、シスイはそれを覚えていた。
現状として、シスイが探しているのはこのような地帯なのである。
そこまで行けば食料にありつけると考えたのだ。
空腹のせいで一周回って冷静になっていたのが幸いした。
そうして半日ほど歩き、目的の領域を探す。残念ながらヒントなどないので、適当に歩き回る以外に探す方法はない。それでも、シスイは運よく森を発見することが出来た。
「木が生えている……ってことはアレが安全地帯か」
大きめの川を挟んだ向こう側に、そこそこ大きな森が見えた。木々が生い茂っているということは、アラガミの被害を免れているということである。つまり、目的の安全地帯であることを示していた。
シスイは濡れることを気にせず川に足を踏み入れ、ザブザブと波を立てながら歩いていく。それなりの流れがあるので、気を付けなければ流されてしまうだろう。だがシスイはトップレベルのゴッドイーターなのだ。腹をすかしていても、気を付ければ普通に渡り切ることが出来る。
特に問題もなく対岸へと渡り切り、森の前に立った。
「流石に鳥の鳴き声はしないね。まぁ、僕も機械の記録でしか聞いたことないけど」
この時代に野生の動物は殆どいない。要るのは各フェンリル支部で食用に育てられている動物ぐらいだ。鳥のような観賞用動物は優先度が低いので、奇跡と偶然に恵まれなければ目にかかることすらないだろう。
また、鳥や虫がいなければ木々は果実をつけることが難しくなる。
生物の気配がしないなら、野生の果物類は期待しない方が賢明だ。
「となると、イモ類かキノコ類か山菜類か。あると良いけど」
シスイはそう言いつつ森の中へと足を踏み入れた。ボロボロの白衣が草に引っかかるが、シスイは気にすることなく無理やり進んで行く。余り手入れされていないので、人がいる可能性は低かった。
このような偶然出来上がった安全地帯では、フェンリルに受け入れ拒否された人々が身を寄せ合って暮らしていることがある。彼らは細々と畑を耕し、危険を冒して資源を手に入れ、毎日を必死に生きている。
もしもそういった人たちが暮らしてた場合、フェンリル所属のシスイはどのように扱われるか不明である。勿論、戦えば銃を使われてもシスイの勝ちだ。しかし、アラガミの力は人に使うべきではない。最低限、逃走に使用するだけだろう。
(まぁ、今の僕は元フェンリルだけどね)
流石にそんな理屈は相手に通じないはずだ。シスイの手袋と白衣にはフェンリルマークが入っているのであった瞬間にフェンリル関係者だとバレる。今は所属していないといったところで説得力がなさすぎるだろう。
あまり期待はしない方が良い。
シスイはそういったもしもの事態について考えつつ、食料を求めて歩き続ける。すると生い茂っていた森の中に手入れされた形跡のある場所が見つかり、ますます人が住んでいる可能性が見えていた。
気配を感じ取れるように警戒を強め、ゆっくりと前に進む。
「―――――」
「なんだ?」
かすかに聞こえる声。
気のせいかもしれないが、シスイは念のために立ち止まって耳を澄ませた。
「―――――――」
確かに聞こえる。
メロディの雰囲気があるので、恐らくは歌だろう。この安全地帯ではアラガミの数は少ないが、絶対にいないわけではないのだ。そんなところで歌うなど自殺行為に等しい。一瞬だけラジオや録音の音を疑ったが、独特の雑音がないので確実に歌っている人物がいることになる。
距離はそれほどではない。
会って注意ぐらいはするべきだろう。
「歌が聞こえるのは……こっちか」
草を掻き分け、シスイは道なき道を進み続ける。ある程度の手入れがされているといえど、それは道があるという意味ではないからである。
ガサガサと音を立てながら歩いていくと、徐々に歌声は強くなってきた。
シスイがそのまま進んで行くと、唐突に開けた場所に出る。どうやら木を切り倒した結果できた場所らしく、切り株が幾つもあった。
そしてその切り株の一つに座り、歌っている少女を発見する。
「誰っ!?」
シスイが出て来たことで少女は歌を止め、振り返った。
そこにいたのがアラガミではなく人だったことに安堵したのか、胸を撫で下ろしている。そんな彼女にシスイは優しく語り掛けた。
「こんな場所で歌うなんて自殺行為だよ。アラガミに気付かれる」
「ご、ごめんなさい」
「君はこの森に住んでいるのかな?」
「はい。
「それはこの近くに?」
「はい」
間違いなく、フェンリルに拒否された人々が暮らすコミュニティの一つだ。聞いたことのないコミュニティではあるが、少なくともフェンリルは
そして、そこに住む大人が子供を一人で外部に連れ出すとは思えない。
勝手に抜け出してきたのだろう。
「送っていこう」
「あ、その……結構です」
「いや、危ないよ?」
「ホントに大丈夫ですから!」
少女が大きめの声でそう叫ぶと、遠くから別の声が響いてきた。
「ちょっとユノ~。そこにいるんですか~?」
「サツキ?」
ガサガサと音がして、シスイとは反対側から一人の女性が現れる。眼鏡を掛けた彼女の第一印象として、かなりキツそうなイメージをシスイは覚えた。
そして、今のやり取りで少女がユノ、女性がサツキだと判明した。
「全く。勝手に出ていっちゃダメ……というか、そこの不審者は誰ですか?」
「いきなり不審者扱いか。酷いね」
「ボロボロの服を着た顔色悪い人が可憐な美少女の前にいる。絵面的には危ないでしょ?」
「……そんなに顔色悪いかな?」
「とっても」
やはり精神負荷のせいだろう。アラガミを喰らってエネルギー補給はしているが、食事や睡眠は殆ど取ることが出来なかった。食べ物を探すためにここに来たわけであるし、アラガミが闊歩する場所で十分な睡眠など取れない。
顔色が悪くなるのも当然だった。
ユノが逃げようとするわけである。
シスイは鏡を持っていないので、ペタペタと顔を触りながら違和感がないか確かめてみる。確かに、肌の艶が減っているような気がした。
そしてサツキはシスイの付けている手袋を見て、表情を険しくしながら口を開く。
「貴方はフェンリルの人間なんですか?」
「フェンリルの『人間』ではないかもね」
「どういう意味です? 貴方の手袋にはフェンリルマークが入っています。これでフェンリル所属ではないと言い張るのは無理がありますよ?」
「分かりやすく言えば、僕は元フェンリル所属の実験動物ってところかな。少なくとも人間扱いされたことは殆どないね」
「なるほどなるほど。ちょっと詳しい話を聞いてみたいですね」
ジャーナリストであるサツキの仕事魂に火が付く。
元フェンリル広報部所属で、現在はフェンリルの抱える闇について独自に調査しているのだが、これは大きなスクープになると確信していた。咄嗟の言い訳にしては実感が籠っているので、嘘ではないだろう。サツキはこれでも優秀な広報員だったのだ。
優秀過ぎるゆえにフェンリルをクビになったのだが。
「話を聞かせてもいいから食料をくれないか? 空腹で死にそうなんだよ」
「……まぁいいでしょう。こっちに来てください。ユノもこっちに」
「うん」
ユノはパタパタと走っていき、サツキの手を握る。そしてそのままサツキは向こう側へと歩き始めたので、シスイもそれに従ってついていった。
鬱蒼とした森も徐々に開け始め、所々に伐採した跡が見えてくる。そして十五分ほど歩くと、大きな壁に囲まれたコロニーが見えて来た。
「あれは……もしかして対アラガミ装甲壁?」
「ええ、そうですよ。尤も、一部分だけですし強度も気休め程度ですけどね」
「もしかして自分たちで組み上げたのかな?」
「フェンリルから拝借した資材と情報を基に、苦労して組み上げたんですよー。フェンリルに捨てられた人たちで集まり、この子の……ユノのお父さんを中心にして皆で立ち上がったんです」
「その子の?」
「はいー。みんなは葦原総統って呼んでますね。この子は私と幼馴染みたいなものなんですよ。まぁ、私からすれば手のかかる妹って感じですけどね」
「もう、サツキったら。私はそんなにお転婆じゃない」
「ネモス・ディアナから勝手に出ていってるお嬢様は充分お転婆よユノ」
「う……」
随分と仲がいいらしい。二人の雰囲気を見るだけでそれがよく分かった。
そうして談笑しながら歩き続け、ネモス・ディアナの入口へと到着する。そこには門番のように二人の男が立ち、見張りをしていた。
「ユノを連れ戻してきましたよー」
「おぉ、サツキ嬢ちゃん。ありがとよ」
「ユノちゃんが無事で安心したぜ」
「ほらユノ。心配かけたんだから謝りなさい」
「ごめんなさい」
「いいってことよ。サツキ嬢ちゃんに心配かけるじゃねぇぜ?」
そう言って二人はネモス・ディアナの門を通る。それに続いてシスイも通ろうとしたが、二人の門番に止められてしまった。
「ちょっとお前さんは待て。あんたは何者だ?」
「あ、大丈夫ですよー。その人は私のお客さんです」
「サツキ嬢ちゃんが言うならいいが……余計なことはするんじゃねぇぜ」
「はいはい」
シスイは適当に返事をしつつサツキについていく。正直、空腹のせいでかなり辛いのだ。
そんなシスイにサツキは相変わらずの毒舌で語り掛けた。
「今にも死にそうですねー。感謝してくださいよー?」
「その嫌味な顔で言われると感謝したくなくなってくるよ……」
「ほー。つまり食事はいらないと」
「すみませんでした超感謝してます」
「素直に初めからそう言えばいいんですよ。さ、ユノはお父さんの所に行って。心配してたから」
「う、うん」
ユノは手を振ってからパタパタと走っていく。
そしてユノを見送ったサツキはシスイの方へと向き、改めて口を開いた。
「さてと、詳しく聞かせて貰いますよ。私の家に案内します。少ないですけど食事も出してあげますよ。超感謝してくださいね」
「頼みます。ホントに」
「うむうむ。殊勝な返事ですねー。あ、そういえば貴方の名前は?」
「神崎シスイ」
「ほうほう。どこかで聞いたことあるような……まぁいいか」
サツキはどこかでシスイの名を聞いたことがあると感じつつ、それを脇に置いて自分の家へと案内をし始める。
だが、その途中で突然地面が揺れた。
揺れはそれなりに大きく、色々な場所から悲鳴が聞こえる。
そして倒れそうになったサツキをシスイが支えた。
「大丈夫ですかサツキさん」
「あ……どうも。ってそれよりユノ!」
揺れはすぐに収まったが、先程別れたユノが心配だ。サツキはすぐに立ち上がり、ユノが走っていった方へと向かう。
運よくユノに怪我はなかったが、ネモス・ディアナでは幾つかの家や設備が被害を受けた。それによってシスイは何故か一緒に働かされ、食事にありつけたのはその日の夕方になったのであった。
◆◆◆
極東支部では神崎シスイが正式にKIA(作戦中死亡)と決定された。決め手となったのは鎮魂の廃寺に落ちていたシスイの神機と腕輪である。
ユウたち第一部隊のメンバーはシスイが腕輪無しでも活動できることを知っているので信じなかったが、だからと言って捜索する余裕は生まれなかった。
何故なら、オペレーション・メテオライト完遂に伴ってアーク計画はほぼ完成し、あとは特異点を手に入れるだけになったからだ。ユウとソーマは特異点を捜索する特務に駆り出され、シスイを探すことが出来なかったのである。
そしてペイラー榊が匿う特異点ことシオは、徐々にエイジス島にあるノヴァ素体へと引かれるようになっていった。不安定さが増していき、脱走しては連れ戻してを何度か繰り返している。
ユウとソーマは特務の間に余分なコアを採取し、シオのために持ち帰っていた。
「博士、シオはどうなるんです?」
「難しい質問だね」
ペイラーもユウの質問に明確な答えを出すことは出来ない。シオは定期的にノヴァ素体に呼ばれるらしく、そればかりはペイラーでも止めることが難しいのだ。偏食場を遮断する特別な部屋を用意してみたが、いつまでもそこに閉じ込める訳にはいかない。
だが、少なくともミッションに連れ出してシオに食事させることはもう不可能だった。
「現状は私の部屋が彼女の行動範囲の限界値だよ。こればかりは時間を掛けて精査するしかないからね。だけどアーク計画のこともある。ヨハンの目を気にしておかないといけないね。どうやら私は疑われているようだ」
「アーク計画を阻止するためにもシオは渡せませんね」
「当然だ。あの野郎にシオは渡さねぇ」
アラガミのコアを食べているシオを見つつ、ユウとソーマは決心を強める。極東ではアーク計画に賛同する者と反対する者が二分しているのだが、ユウとソーマは当然ながら反対派だった。意外にも反対派は多く、ロケットへの搭乗券を持つ者の中にもアーク計画を拒否する者もいた。
どうするべきか。
そんなことを考えていると、極東支部はいきなり地震に襲われる。元から地震が珍しくない地域だが、今回の地震はかなりの揺れだった。それによって電気系統に不具合が生じ、停電になる。
「地震!?」
「なんだ!」
「落ち着き給え。すぐに復旧する」
研究室が真っ暗になったことで驚くユウとソーマ。一方でペイラーは落ち着いた様子だった。極東支部には常に電気を供給する必要がある設備もあるため、こういう時のために予備電源を備えているのである。
だからペイラーは余裕だったのだ。
しかし、そのことでペイラーは拙いことに気付く。
「あああああああ! し、しまったぁっ!」
「どうした博士!」
ソーマは声を荒るが、ペイラーが答えるより先に研究室にヨハネス支部長の声が響いた。
『そこにいたか。やはり君が隠していたんだなペイラー』
それを聞いてユウとソーマは表情を固める。
どういうわけかヨハネスにシオのことがばれていたのだ。ペイラーは苦々しい口調で二人に説明する。
「すまない。予備電源は極東の中央管理システムが担っているんだ。だから、復旧の際に各場所の情報をゴッソリと持って行ってしまう。当然、僕の部屋のセキュリティでも意味をなさないんだ」
「なんだって!」
「クソ! シオを連れて逃げるぞ!」
ソーマが動こうとしたが、それよりも先に研究室の扉が開け放たれ、黒服に包まれた部隊が乱入する。そしてスタンガンでユウとソーマを一瞬で無力化し、シオを連れ去っていったのだった。
アーク計画は遂に始動する。
主人公は原作から外れます。
しばらくはネモス・ディアナの生活ですかね。シスイが極東にいたらリンドウさん討伐をしなくてはならなくなるので。