本業は研究者なんだけど   作:NANSAN

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EP2 極東支部

 

「本日付けで極東支部所属となりました。神崎シスイです。これからよろしくお願いいたしますヨハネス・フォン・シックザール支部長」

「うむ。トラブルもあったようだが、よく来てくれた。歓迎しよう」

「はい、ありがとうございます」

「君の所属は第一部隊だ。ゴッドイーターとして仕事すると共に、新型神機についても自由に研究してくれて構わない。謂わば専属の研究者と言えるだろう。第一部隊には極東支部唯一の新型神機使い神薙ユウがいるからね。君も彼に色々と協力してくれたまえ神薙ユウ」

「わ、分かりましたシックザール支部長」

 

 

 シスイを連れて帰投したリンドウとユウは、すぐに支部長室へと呼ばれることになった。そこで改めて神崎シスイの紹介がされ、第一部隊へと所属することが決定したのである。

 

 

「では下がって構わない。あと雨宮少尉はあとで書類を提出するように。かなり溜まっているぞ」

「いやぁ、書類仕事は苦手でしてね」

「何なら雨宮ツバキ三佐に言付けても――」

「すぐに提出させていただきます!」

「よろしい」

 

 

 ユウとシスイが驚くほどの掌返しである。

 神機使い教官のツバキを知っているユウは納得できる部分もあったが、シスイは目を白黒させていた。

 

 

(雨宮ツバキ……リンドウさんと同じ雨宮か。母親、姉ってところかな?)

 

 

 余程ツバキが怖いのだろう。

 それがよく理解できた。

 退出許可が下りたので、シスイ、リンドウ、ユウは支部長室を後にする。そして、支部長室の扉の前でリンドウは二人に話しかけた。

 

 

「よし、新入りと……シスイだったな。俺はこれから榊博士のところに用事があるから、あとは二人で適当にしていてくれ。ああ、何なら新入りはシスイを案内してくれるか? シスイも今日来たばかりで何がどこにあるのか分からないだろう?」

「そうですね。僕としても助かります」

「え? リンドウさん、俺もそんなに知らな―――」

「じゃあ頼んだぞ新入りー」

 

 

 ユウが神機使いとなってアナグラにやってきたのは三日前である。

 食堂、トイレ、神機保管庫、訓練室、寝室などの基本的な設備しか利用したことが無く、あまり知らない。もっと言えば、ユウの権限では入ることも出来ない区画すらあるのだ。案内には不適切と言える。

 だが、リンドウに託された以上、無理とは言えない。

 

 

「あー、取りあえず食堂に案内するよ」

「頼むよ。僕は神崎シスイだ。よろしくね新型君」

「神薙ユウだ。こちらこそよろしく」

「じゃあ行こうかユウ君」

「ああ、こっちだよ」

 

 

 二人はエレベーターに乗り、食堂のあるフロアへと移動していったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「入るぜ榊博士ー」

 

 

 そう言いながらリンドウはペイラー榊の研究室に入る。そして部屋の左にあるソファへと腰を下ろし、寛ぎ始めた。

 

 

「予想より1893秒も遅かったね」

「救援任務が入っちまったからなぁ。まぁ、救援なんて必要なかったけど」

「神崎シスイ君だね」

「知っているのか博士?」

「本部からの転属はヨハンから聞いていたからね。僕なりに調べているよ」

「流石は榊博士だ。スターゲイザーの前にはプライバシーも何もないと」

「ははは、言いがかりはよしてくれ」

 

 

 カタカタとキーボードに何かを打ち込みながらペイラー榊は答える。

 そして少ししてエンターキーを押し、リンドウのデバイスにデータを送信した。

 

 

「これを見てくれリンドウ君。君のデバイスにデータを送ったよ」

「ん? これは……シスイのプロフィールか。……おやまぁ物騒なことだ」

「フェンリル本部情報管理局は裏の仕事も司っている。『元』とは言え、シスイ君はそこに所属していたらしいね」

「つまり榊博士は『気を付けろ』と警告してくれている訳か」

「どうとでも取ってくれ。君の部下になるのだろう? 知っていて損はないハズさ」

「それもそーかねぇ」

 

 

 リンドウは煙草を吸いたくなったが、研究室であることを思い出して諦める。基本的に研究施設では禁煙が絶対だ。煙草好きのリンドウでもそれぐらいは弁えている。

 ストレスが溜まっている様子のリンドウを見て、ペイラーは本題に移ることにした。

 

 

「さてリンドウ君。例の新型君はどうだい?」

「あー、ありゃ逸材だな。一か月もしたら化ける」

「君の目から見てもそう思えるんだね。ならば順調だ。観測データでも、神薙ユウ君の戦闘記録はすさまじいの一言だ。神機適合率は高い状態を維持しているし、彼の偏食因子も安定したまま活発になっている。言い換えてしまえば、理想的なゴッドイーターだ。僕が観察できなくなるのが残念だよ」

「新型は榊博士が直々にデータ収集するんじゃなかったのか?」

「シスイ君が引き継ぐことになっているのさ」

「ああ、なるほど」

 

 

 先程送られてきたデータを読んだことで、シスイが新型神機に関する研究者であることは分かっている。それでありながら第一部隊へと所属になったということは、そういうことなのだろう。

 ヨハネスもシスイを第一部隊専属の研究者と言っていたことを思い出す。

 

 

(監視が必要かねぇ。まぁ、知らないところで暗躍されるより、懐で暴れられる方がマシか)

 

 

 第一部隊にはユウの他に、コウタという新入りがいる。彼は旧型銃タイプの神機使いで、主に第一部隊副隊長のサクヤが担当することになるだろう。

 それでもシスイ、ユウ、コウタと一気に三人もメンバーが増えた。

 賑やかになりそうである。

 

 

(取りあえず、サクヤの所に配給ビールを貰いに行くか)

 

 

 提出書類のことなど既に忘れているリンドウ。

 数時間後、姉である雨宮ツバキの雷が落ちることを、まだ彼は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「―――で、ここが訓練所だ。ダミーアラガミを使って戦闘訓練が出来る。神機を新調したときにも、使い勝手を確かめるために利用する人がいるみたいだね」

「ふーん。あ、誰か使っているみたいだね」

「本当だ……ってコウタじゃないか」

「知り合い?」

「第一部隊の同期だよ。シスイも第一部隊なわけだし、挨拶しておこうか」

「そうだね。それは大事だ」

 

 

 

 二人は強化樹脂による窓から訓練室の様子を眺め、訓練プログラムが終了するのを待つ。コウタは銃タイプの旧型神機を操り、移動しながらダミーアラガミを撃ち抜いていた。オウガテイル数体とはいえ、新人にしては手際が良い。

 コウタも、ユウほどではないが才能に溢れた少年なのである。

 汗を拭き、訓練室から出たコウタを待ち構えていたのはシスイとユウだった。

 

 

「お疲れコウタ」

「あ、ユウじゃん。お疲れー。それでそっちの人は?」

「新しく第一部隊のメンバーになった神崎シスイ15歳です。本部からの転属ですよ」

「マジで? 本部から? うわ、エリートじゃん」

 

 

 シスイの自己紹介に大袈裟な驚きを見せるコウタ。

 素でやっているのだから実に彼らしい。

 そんなコウタにシスイは苦笑しながら答える。

 

 

「エリートってほどでもないさ。僕の本職は新型神機の研究だよ。つまりユウ君に付きっきりで色々とするのが仕事さ」

「いや、その歳で研究って時点でエリートだよ。まぁいいや。俺はコウタだ。第一部隊じゃユウと同期なんだよ。よろしくな!」

 

 

 

 シスイとコウタは握手をして自己紹介を終える。

 三人はほぼ同じ年齢であり、打ち解けるのはすぐだった。

 この日は、コウタも交えてシスイを案内する日となり、極東支部の施設を回ることになった。途中、極東支部が誇る技術者リッカと遭遇し、シスイと共に話し込むというアクシデントもあったが、今日一日だけで大体の施設を回ることが出来た。

 夜、シスイは与えられた私室のベッドに寝ころびながら思考を巡らせる。

 

 

(父さんの故郷か……本部に比べれば随分と楽しい場所みたいだね)

 

 

 嫌味でも何でもなく、純粋に楽しいと思う。

 今日はユウ、コウタとも仲良くなり、久しぶりに年相応になれた気がした。

 シスイは何となく私室の机に立てている写真へと目を向ける。父と母、そして自分が写った写真だ。随分と年相応に笑えている。今とは大違いだった。

 

 

(ようやくあの無表情女のいる本部から逃げ出せたんだ。せいぜい、楽しくやらせてもらうさ)

 

 

 喪服のような黒を纏った金髪の女博士が頭に浮かぶが、シスイはそれを振り払う。

 不気味で、自分の体を今のようにしてしまったシスイの最も嫌う女性である。正直、思い出したくもない。

 

 

(僕たちのような被害者は二度と出させない。ラケル・クラウディウス!)

 

 

 シスイはベッドに寝ころびながら両手を天井に延ばす。

 暗くなった部屋で、自分の両腕を覆う鱗状に重なったオラクル細胞が鈍く光っていた。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 翌日、ユウとコウタは第一部隊副隊長と共に実地訓練へと向かっていった。新人が二人も増えたので、連携を確認するのである。遠距離、近接を分け、有機的にアラガミを討伐する訓練だった。

 一方で、シスイは早朝からヨハネスに呼び出され、支部長室へと来ていた。

 シスイが支部長室に入ると、昨日会ったリンドウもいる。

 

 

「シスイか……」

「リンドウさんも呼ばれたんですか?」

 

 

 二人が少し驚いていると、ヨハネスが口を挟む。

 

 

「リンドウ。今日はシスイをパートナーに連れていけ」

「だが支部長!」

「これは命令だ。シスイの実力が不安だというなら私が保障しよう」

 

 

 何の話か理解できないシスイは恐る恐るといった様子でヨハネスに尋ねることにする。あまり二人の間に踏み込みたい雰囲気ではなかったが、今は仕方なかった。

 

 

「シックザール支部長。僕はどういった理由で呼ばれたのでしょうか?」

「ああ、済まないね。メールでは少し問題のある機密的な内容だったので、概要は省かせて貰っていた。だから今から説明しよう」

 

 

 リンドウは納得していないようだったが、上司であるヨハネスに口答えは出来ない。いや、出来ないことはないが、しても意味がない。今は少し黙っていることにした。

 そしてシスイは姿勢を正し、ヨハネスの言葉に耳を傾ける。

 

 

「君の任務は特務と呼ばれるものだ。支部長である私が直々に降す任務だよ。君なら本部で聞いたこともあるだろう?」

「僕が特務ですか?」

「接触禁忌種、堕天種と呼ばれる強力なアラガミを狩って欲しい。そこにいるリンドウと共にね」

「しかし支部長。僕の本来の仕事は新型神機使いのサポートでは?」

「例の新型はまだ研修期間中だ。本格的なサポートは研修が終わってからで構わない」

 

 

 その言葉にシスイは眉を顰める。

 新型のサポートがメインの仕事だと言われて極東に来たが、本当の意味で期待されているのは自分の戦闘能力だと理解したからだ。かつての実験でシスイの体は普通と異なっており、アラガミとの戦闘については世界でも上位のものになる。

 本部でも秘匿されている事項のはずだが、ヨハネスはそれを知っていた。

 

 

「シックザール支部長。僕の神機は本部から輸送中のはずです。つまり、あの力を使えということですか?」

「そうだ。リンドウには見せておけ。君の所属する部隊の隊長だ」

「……分かりました」

 

 

 今度はリンドウが話に付いていけずに首をかしげる。

 会話の流れから、シスイに特殊な能力があることは理解できた。ただ、それが接触禁忌種にも通用しうるものであるとは素直に思えなかったのである。

 

 

(マグマ適応型ボルグ・カムランだったっけ? 面倒な仕事になりそうだ)

 

 

 今日はいつも以上に気を引き締めていかないと。

 珍しく、リンドウがやる気を出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 煉獄の地下街と呼ばれる場所がある。

 かつては多くの店が並んで賑わっていたのだが、今ではマグマが溢れる危険地帯と化している。ここに出現するアラガミは熱に適応したタイプが多く、多くのゴッドイーターたちが嫌っていた。

 やはり、熱いのは嫌なのである。

 

 

「シスイ止まれ。ターゲットが居た」

「あれですか……デカくないですか?」

「通常のマグマ適応型ボルグ・カムランよりでかい。だから俺たちに回されたのさ」

 

 

 ボルグ・カムランというアラガミは蠍のような姿をしている大型種だ。特徴的なのは巨大な盾のような腕と、剣のような尾である。全身が固く、ベテランでも倒すのは難しい。

 ちなみに、極東以外でボルグ・カムランが出現すると、決死の大作戦が行われる。だが、この極東地区ではベテランたち数人が頑張るだけで片付いてしまうのだ。最前線というだけはある。

 そしてこのマグマ適応型ボルグ・カムランは、厄介なことに熱を操る。

 攻撃時にオラクルの爆発を使用してくるのだ。

 このアラガミは攻撃範囲が広いため、気を付けなくてならない。

 

 

「お前はここで待っていろ。神機ないんだろ?」

「まぁ、そうですね。でも大丈夫です。あれは僕が一人で討伐して見せますよ」

「おい待て!」

 

 

 止めるリンドウの横をスルリと通り抜け、シスイはマグマ適応型ボルグ・カムランの前に出ていく。獲物に気付いたマグマ適応型ボルグ・カムランは、金切り声を上げて迫ってきた。

 だが、シスイは落ち着いたまま手を翳す。

 

 

「負荷最大。貫け」

 

 

 空気中のオラクルが収束し、シスイの左手に集まる。そしてサリエル種のレーザーのように飛翔し、迫りくるマグマ適応型ボルグ・カムランを貫いたのだった。盾を構えていなかったマグマ適応型ボルグ・カムランは口を破壊され、大きく仰け反る。

 

 

「はぁっ!?」

 

 

 神機もなくオラクルを操り発射して見せたシスイに驚き、リンドウは思わず固まってしまう。しかし、シスイはそんなリンドウを置いてマグマ適応型ボルグ・カムランへと飛び移った。

 

 

「これで終わり!」

 

 

 ビリビリと破けてシスイの左腕の包帯が解ける。リンドウが見たのは、黒い鱗状の何かが肘まで覆っているシスイの腕だった。その左腕には三本の爪のようなオラクルの刃が追随しており、シスイは一気に振りぬいてマグマ適応型ボルグ・カムランの胴体を引き裂く。

 

 

「ギイィィィィィイイッ!?」

 

 

 巨大なマグマ適応型ボルグ・カムランは今の一撃で絶命した。背中に大きな裂傷が走り、赤い液体が噴水のように溢れだす。

 流石のリンドウも、咥えていた煙草をポトリと落としてしまった。

 

 

「な、なんだありゃ……」

 

 

 神機もなくアラガミを仕留めるなど聞いたこともない。

 まるで常識を覆されたかのような光景だった。ペイラーから貰ったデータにもあんな戦闘力があるなど書いてなかった。ペイラーでも調べることが出来なかったのか、意図的にリンドウに隠したのか。恐らく後者だと思うが、今のリンドウにはどうでも良いことだった。

 

 

「なぁシスイ。その左腕……」

「これですか?」

 

 

 シスイは死体となったマグマ適応型ボルグ・カムランの上から飛び降りつつ、左腕をリンドウに見せる。手は黒く染まり、腕は肘まで黒い鱗に覆われていた。とても人間の腕ではない。

 

 

「アラガミ化……しているのか?」

「そうですよ。それに左だけじゃなく右腕も同じです」

 

 

 皮手袋を付け、包帯に覆われている右腕を見せながらシスイはそう語る。そして右手の手袋を外すと、左手と同様に黒く染まっていた。

 完全にアラガミ化し、それが腕だけで止まっている。

 経験豊富なつもりのリンドウも、こればかりは言葉を失った。

 

 

「M2プロジェクトという実験の失敗です。12歳の時、こうなりました。この腕は空気中のオラクルを従えることが出来るんです。他にも、腕でアラガミに触れると捕喰できます」

「あー、なんつーか……無茶苦茶だな」

「そうですね。腕から奪い取ったアラガミのオラクル細胞で固有のバレットを生成することも可能ですから。一応、新型神機のアラガミバレットは僕の能力を参考に搭載されているんですよ? というか、僕が開発したシステムですよ?」

「ああ、そう言えばシスイは新型神機の研究者だったな」

「いや、そちらが本業です」

 

 

 それを聞いてリンドウは苦笑する。

 なんだか気が抜けた気分だった。

 ペイラーから貰ったデータによれば、シスイはアラガミ化した神機使いを処分する特務部隊に居た経験もあるとされている。警戒していたが自分が馬鹿らしくなったのだ。

 シスイはゴッドイーターというより、やはり研究者なのである。

 少しだけ打ち解けた気分になれたリンドウは、少し踏み込んでみることにした。

 

 

「ところでシスイ君よ」

「なんです上官殿?」

「M2プロジェクトってのは本部の実験なのか?」

「ああ、気になりますよね。まぁ調べればすぐに分かりますから、教えますよ。この実験は、二刀流神機使いを作り出す実験です。相反性のある二つの偏食因子を腕輪と共に撃ち込み、二種類の神機を扱えるようにするというプロジェクトです。まだ新型神機が構想段階だった時代ですよ。遠距離か近距離のどちらかしかない旧型の弱点を補うために、当時は二種類の案があったんです」

 

 

 アラガミに対抗するべく生み出された神機だが、一人ではできることに限界があった。神機使いが不足している時代において、一人で何役もこなせる神機使いは必須となる。そこで、遠近両用を可能とする神機使いを作り出す計画が持ち上がった。

 一つは新型神機を制作する計画である。刀剣形態と銃形態の二種類を操ることで、あらゆる状況に一人でも適応できる神機使いを生み出そうとした。

 そしてもう一つはM2プロジェクト。極東で伝説の二刀流剣士、宮本武蔵のイニシャルを取って構想段階ではMM計画と呼ばれていたが、正式段階に移行するとM2プロジェクトという名称に決まった。両腕に別種類の偏食因子を同時に打ち込み、片手に剣、片手に銃の神機を持たせるという計画である。理論では可能とされていたが、幾つかの壁があった。

 まず、二種類の偏食因子に耐えられる体質の持ち主が必要になる。一つの偏食因子に耐えられる人を見つけることすら難しい段階で、これは大きな壁となった。これは、相反する偏食場の因子を撃ち込み、相殺させることで解決することにした。

 そしてもう一つは神機制御の問題である。二つの偏食因子を撃ち込まれていることで、神機の操作に不具合が出るのではないかと言われていた。これについては実験してみなければ検証できず、検体として九人の孤児が利用されることになった。

 

 

「お前孤児だったのか?」

「ええ、僕が10歳の時に両親がアラガミに。研究者で対アラガミ装甲壁に関する研究をしていました。その関係で、小さい頃から論文も読んでいましたよ」

「いや、その……すまん」

「いえいえ。悲しいことには悲しいですが、僕だけが不幸なわけではありません。すでに納得していますよ」

「シスイは強いな」

「メンタルには自信があります。続きを話しますね」

「ああ」

 

 

 

 実験に選ばれた九名の孤児は二つの偏食因子に対する平均適合率が半分以上という理由で選ばれた生贄のようなものだった。つまり研究者側も失敗前提だったのである。

 M2プロジェクトの初期段階はデータを取ることだけを目的に実験が行われた。孤児はマグノリア・コンパスという本部も絡んだ孤児院から選出されているので、死んだところで文句を言う者はいない。マグノリア・コンパスの管理者であるラケル・クラウディウスもこの実験に孤児を使うことを了承した。M2プロジェクトの実験データ提供を対価として。

 

 

「それでどうなったんだ?」

「言ったでしょう? 失敗だったと。僕以外の子供たちは適合実験失敗と同じく肉体が破裂。そして僕は両腕がアラガミ化した。まぁ、僕の場合は半分失敗というところですか。何かの力が働いて、二つの偏食因子による相殺が働いてくれたようです。結果として安定したアラガミ化となりました。それがこの両腕です」

「両腕がアラガミ化しているのは神機の適合試験を両腕で同時に行ったから……か?」

「理解が早くて助かります」

 

 

 シスイはそう言うと、腰に付けたバッグから包帯を取り出し、左腕に巻き付け始めた。そして作業をしつつ話を続ける。

 

 

「ちなみに僕の右腕に付いている腕輪はダミーですよ。神機使いっぽい波長を出すだけの発信機みたいなものですね。僕の取り込んだ偏食因子は相殺されてしまっているので、レーダーでは感知できないんです」

「ならどうやって神機を扱うんだ?」

「え? 普通に使えますよ? 偏食因子が相殺されているということは、因子の持つ偏食場によって左右されないということです。それは言い換えれば、僕の願うままにオラクル細胞を活動させることが出来るということなんですよ。さっきも空気中のオラクルを操れるといったでしょう? それの応用で神機を操ることが出来るんです」

「便利なもんだねぇ」

「どんな神機でも操れるということは便利なだけではありませんよ」

 

 

 包帯を巻き終えたシスイは暗い表情を浮かべながら自嘲する。

 それを見て、リンドウは事情を察することが出来た。

 

 

(アラガミ化した神機使いの介錯……それが理由でさせられていたか)

 

 

 アラガミ化した神機使いを始末するとき、普通の神機では攻撃が通らない。有効な手段は本人が使っていた神機で攻撃することだ。だが、神機には適合率というものがあり、本人以外が使用すると反発によって浸食をうける。

 つまり、アラガミ化してしまったゴッドイーターを殺す方法は無に等しいのだ。

 あらゆる偏食因子に耐性を持つ特異体質か、シスイのように特異能力を持っていなければ、他人の神機を扱うことなど不可能なのである。

 

 

「帰りましょうリンドウさん。今、僕には神機がありませんから、コアの捕喰はお願いします」

「あ、ああ。了解だ」

 

 

 考え事をしていたリンドウは生返事を返しながらマグマ適応型ボルグ・カムランに神機を向ける。そして目的のコアを捕喰し帰投するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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