第一部隊に配属されたエリナとエミールは流石に優秀だった。問題は起こすが、新人としては実力に申し分ない。シスイとコウタというサポートもあり、新人の越えるべき壁の一つであるコンゴウ討伐も実戦二週間目で成し遂げたのである。
帰投後神機を預けるために四人は神機保管庫へと戻ってきていた。
「やぁ、お帰り。今日もお疲れ様」
「それほどでもないよリッカ」
出迎えたのは整備において右に出る者がいない楠リッカである。基本的に彼女は神機保管庫でゴッドイーターたちを出迎え、帰ってきた神機をメンテナンスしている。任務ごとにする簡易チェックから、定期的になオーバーホールまで、毎日が忙しい。
基本的に、シスイは任務後に彼女を手伝っている。
「今日も手伝うよ。コウタたちは先に戻っておいて」
「オーケー。じゃ、あとは二人でごゆっくり~!」
「いや、仕事だから」
冗談を言う余裕のあるコウタに対してエリナとエミールはすっかり疲れ果てていた。所詮はコンゴウだが、新人にとっては強敵である。疲労が溜まるのも仕方ない。
今は新人の現地実習期間なので、第一部隊は任務も少なく、シスイはリッカを手伝い、コウタは防衛班を手伝うことが多いのだ。
手を振って去って行くコウタと疲労困憊な様子で彼に付いていく新人二人に溜息を吐きつつ、シスイはリッカへと話しかけた。
「今日はどんな作業が残っている?」
「う~んとね~。今日は新しく極東配属になった人の神機を整備するんだ。シンガポール支部から来た人なんだけど、出身は極東みたいだよ。私は全然知らない人だったけどね」
「あー。転属してきた人の神機は早めに調べておきたいから、ついでに整備ってことね」
「そういうこと! ちなみに彼は第一世代神機から第二世代神機に乗り換えたみたいだから、その影響がないかも調べたいかな?」
「わかった。そっちの調査は僕がやっておくよ。リッカは整備をしておいてくれ。機材を繋いでおけば同時並行で作業できるしね」
「お願い。えへへ、これが夫婦の共同作業って奴かな?」
「う……ぐ……そ、そうなんじゃないか?」
「照れなくていいのに」
シスイもリッカを嫌ってるわけではない。寧ろ好きな方だ。
結婚の経緯がアレなので微妙な感じもあるのだが、仲良くやれているという自認している。ただ、その負い目もあり、さらにリッカが年上ということもあって接し方に悩んでいる部分もあった。
つまり、いちいち照れるのである。
「ほ、ほら! 速く作業に移るよ。夜は別の研究もあるし!」
「そうだね。私もシスイ君の子供が欲しいし」
「あー、うん、まぁ」
二人が最近になって調べているのは、ゴッドイーターチルドレンについてである。ゴッドイーターチルドレンとは、そのままゴッドイーターの子供のことで、生まれながらにして親が持っていた偏食因子を受け継いでいることが知られている。しっかりと制御する必要があるとされているので、かなり重要な課題の一つだ。
ゴッドイーターも結婚する。
そうなれば子供が出来ることになる。
それで制御できませんでは話にならない。
シスイはアラガミ化しているということもあり、その辺りを詳しく調べなければならない。またリッカは偏食因子を持たない普通の人間なので、夜の行為が悪影響を及ぼすことも考えられる。厳密に、詳しい調査は絶対必要だ。
「仮説は立ったから、すぐに証明してみせるさ」
一応、これまでのデータからある程度の予測は出来ている。
ゴッドイーターと一般人が結婚した例はかなり確認されており、そのどれもが三年以上子供が出来なかったとされている。つまり、ゴッドイーターは一部人間から外れたことで通常の生殖が出来なくなっていると予想される。これは統計データから提唱された論文があったので、割と有名な話だ。
しかし、出来にくいだけで出来ないわけではない。
何度も行為を繰り返すことで母体に耐性が生じ、それで妊娠するという仮説が考えられるのだ。それを裏付ける証拠もある。ゴッドイーターの男性と一般女性の組み合わせより、一般男性とゴッドイーター女性の組み合わせの方が妊娠が早かったのだ。母体である女性側がオラクル細胞を摂取しているとマシになるのである。
ともあれ、ゴッドイーターと一般人の結婚も害はないのだ。
ただ、シスイはゴッドイーターのように調整されたオラクル細胞を打ち込まれているのではなく、腕自体がオラクル細胞に置き換わっている。事情が異なるため、一括りには出来ない。
現在は自分の細胞とリッカの細胞を利用した実験を繰り返し、データ収集しているところだ。
「取りあえずは実験室で検証するからね」
「私は臨床実験でも良いんだよ?」
「……本気でやめてください。それでリッカに何かあったら嫌だから」
「………そうだね、ごめん」
シスイは自分の中にあるアラガミを嫌っている。自分が化け物であることを嫌っている。
だから人間であろうとしているのだ。
もしも自分の中にあるアラガミが他者を傷つけたなら、それはシスイにとって大きな心の傷となるだろう。リッカはそれを察してすぐに謝った。
少し雰囲気が悪くなったので、シスイは気を使って話題を変える。
「さて、じゃあ仕事に入ろうか」
「うん! そうだね! すぐに準備するよ」
「わかった。あ、その前に……」
シスイはハンカチを取り出してリッカの頬を優しく拭った。作業に集中していたのか、黒い油汚れがついていたのである。
「よし……これで綺麗になったよ」
「あ、ありがとう……」
リッカもこういった不意打ちには弱いのか恥ずかしそうにお礼を言った。好きな相手だからこその反応というやつである。こういうのを見ると、シスイは自分が愛されていると実感する。
こんな化け物でもいいのかと思いつつ、リッカが自分を人間にしてくれたことに感謝しているのだ。
そしてようやく二人が仕事へと取り掛かろうとした時、不意に横から声をかけられた。
「ひゅ~。昼間から熱いねぇ~」
軽薄そうではあるが成熟された声が神機保管庫に響く。
二人が驚いてそちらを向くと、黒いジャケットを羽織った男が近寄ってきた。如何にも軽い感じの男、と言った見た目であり、浮かべている表情も微妙に腹が立つ。それがシスイの第一印象だった。
しかし、リッカは彼を知っていたのか、普通に返事を返す。
「あ、ハルさん」
「よぉ~、リッカ。俺の神機の調子はどうだ?」
「丁度今から整備するところ。シスイ君に手伝ってもらってね」
「そうかい。ってことはそっちにいる少年が噂の第一部隊で隊長張っている奴だな? それに極東の凄腕美人整備士リッカちゃんの旦那だって聞いたぜ? 想像以上に若くてビックリだ」
その会話からシスイも彼が誰なのかを知る。
先程、リッカは新しく極東配属になった人の神機を見ると言っていた。そしてその神機は目の前の軽薄そうな人物のものである。つまり、この人物こそが新しく配属されるゴッドイーターということだ。
「どうも、楠シスイです。役職は第一部隊隊長ですね」
「もっと砕けた感じで構わないぜ。俺たちゃこれから一緒に戦場を駆ける仲だ。ましてシスイ君は隊長さんだからな~。おっと自己紹介が遅れたぜ。俺は真壁ハルオミだ。出身は極東だが、その後グラスゴー支部に転属してな。他にも色々と支部を回ったんだが、遂に極東へ帰ってきたって訳だ。これでも神機使い歴は十年ぐらいあるから隊長に抜擢されちまって……第四部隊の隊長をさせて貰うことになった。ま、気軽にハルさんとでも呼んでくれ」
「わかりましたハルさん。よろしく」
「おーおー。いいね。若者は柔軟だ。俺こそよろしくな」
そう言ってシスイとハルオミは握手を交わす。
すると唐突にハルオミは真面目な顔になり、一言尋ねた。
「それでシスイ。カリギュラって知っているか?」
「まぁ一応は。ハンニバル変異種ですよね。僕も何度か倒したことがあるので」
「知っているなら話は早い。カリギュラは普通、青い体表をしているんだが、俺は赤いカリギュラを追っている。ちょっとそいつには因縁があってな。どうしても倒したいんだ」
ハルオミの目からは強い意思が感じられた。絶対に赤いカリギュラを逃さない、確実に仕留めるという思いが伝わってきたのである。
恐らくはそのアラガミに親しい人物を殺されたのだろうとシスイは予測した。
よくあることなので、別に止めはしない。
相手はアラガミだ。
どうせ倒すべき相手なので、復讐でも何でもアリだと思っている。
ただ、無茶をして返り討ちになるケースも多いため、周りが気を使ってやる必要があるだろう。シスイはそんなことを考えていた。
「ルフス・カリギュラ。それが奴の固有名だ。どうやら極東で目撃されたらしくてな。お前さんもそいつを見つけたら俺に知らせてくれ」
「了解です。何ならクレイドルの方にも通達しておきますよ?」
「お、噂の独立部隊か? 助かる」
「どうせ極東とクレイドルは情報共有しているので、そのついでみたいなものですよ。一応、特に注意して貰えるように言っておきます」
「恩に着る。今度一杯驕るぜ。おれが極東にいた頃にはなかったラウンジなんてものが出来てみたいだからな。また男同士の積もる話でもしよう」
「はい。ならお言葉に甘えて」
ルフス・カリギュラに並みならぬ思いを抱いているようだが、それ以外は気さくで話しやすい人物のようだ。シスイはハルオミの評価を上方修正した。
しかし、その数秒後には大きく下方修正することになる。
「んじゃ、俺の神機はこれから整備みたいだし、今日はゆっくりさせて貰うぜ。第四部隊唯一の隊員になった台場カノンちゃんとじっくり親交を深めてくるさ。いや~、資料を見る限りだと美人、優しい、巨乳と三拍子揃っていたからなぁ。いや、今の極東は基本的に美人が多い。はっはっは、帰ってきてよかったぜ」
「ハルさん……セクハラで訴えられますよ?」
「おっといけない。今のは聞かなかったことにしてくれたまえ」
片目をつぶり、人差し指を唇に当てながらそういったハルオミにシスイとリッカは溜息を吐く。初めはかなりいい人と判定されていたはずだが、今はマイナスに差し掛かろうとしていた。どうやら見た目通りの男だったらしい。
ハルオミはその言葉を最後に神機保管庫を去って行ったのだった。
そして彼が去って行ったあと、ふとシスイは気付く。
「第四部隊にカノンが入るってことは……」
「あ、ご愁傷さまって奴だね?」
「うん。ハルさんもきっとすぐに誤射姫の洗礼を受けることになるよ。僕が開発したオラクルリザーブのせいで凶悪化しているし、良く被害に遭っていたブレンダンさんは安堵しているかもね。新しい生贄が出来たって」
「カノンちゃん、もしかして実質左遷」
「うん。実情としては防衛班クビだよ。ハルさんを中軸にした二人だけの部隊ってことは、遊撃担当なんだろうね。空を飛ぶハルさんが今からでも見えるようだよ」
「あはははは……」
全く笑い事ではないのだが、シスイには関係ないので静かに合掌しつつ冥福を祈ることにした。ハルオミも極東人なので、ちょっとことでは死なないだろう。ましてや十年近くゴッドイーターをしているベテランだ。もしかしたらカノンを上手く矯正させることも出来るかもしれない。
期待はしていないが、今後が楽しみである。
そして翌日。
新生第四部隊が初任務に出かけたとき、ハルオミはカノンの本性を知ることになる。そしてボロボロになって帰ってきた彼は、被害者仲間であるブレンダンと夜まで酒を飲みかわしていたのだとか。
◆◆◆
シスイが隊長となってから九か月ほど経った頃、ようやく極東は落ち着きを取り戻し始めていた。やはり元第一部隊のメンバーや、教官のツバキ、その他にも技術スタッフがクレイドルとして抜けた穴は大きく、各部隊が再編成されてゴタゴタとしていたのだ。
第一部隊もエリナとエミールが大型種相手でも立ち回れるようになり、本来のエース部隊としての運用が復活しつつあった。元々、シスイは第一部隊としての仕事の他に、特務として接触禁忌種を単体討伐しているので、エリナとエミールが強くなってれれば負担が減る。それにコウタもクレイドルの方を手伝うことが出来るようになる。
そしてシスイは何より、本業の研究に勤しむことが出来るのだ。
「……んー?」
カーテンの隙間から入り込んだ日差しでシスイは目を覚ます。寝惚けたまま周囲を見渡すと、隣には嫁であるリッカが眠っていた。二人とも一糸まとわぬ姿である。
実は一か月ほど前に例の実験を完了し、おおよそ安全であると証明した。
そこで初めて二人は床を共にしたのである。いや、元から部屋も寝台も一緒だったが、ようやく夫婦としての契りを交わしたのだった。
そうして一か月を過ごし、リッカは少しずつオラクル細胞への耐性が付けられていることを確認している。念のためリッカの毎日のバイタルをデータ化してまとめているので、一目瞭然だ。
ただ、シスイは今日から少し極東を離れることになっている。
それはゴッドイーターとしての仕事であるため、リッカとも必然的に離れることになるのだ。それを知った昨晩にリッカは中々に情熱的だったのだが、それは敢えてここで述べないことにする。
ともかく今日からシスイは出張なのだ。
「リッカ、朝だよ」
「あふぅ……」
シスイの声を聞いてリッカも目を開け、シーツで身体を隠しつつ起き上がる。そして既に着替えているシスイへと声をかけた。
「おはようシスイ君」
「うん、おはようリッカ」
「今日から出張なんだよね?」
「そうだよ」
アラガミ化した腕を隠すために包帯を巻きつつシスイは答える。今日からの出張はある人物と共にサテライト拠点を訪問するというものだ。その後、フェンリル極致化技術開発局フライアにも赴く予定となっている。
そしてある人物とは葦原ユノのことだ。
かつてシスイがネモス・ディアナにいた頃、彼女とはよく話す仲だった。ユノの幼馴染であるサツキと同じ家に住んでいたので、必然的に話す機会が多かったのである。結果として、シスイは頼れるお兄さんといった認識をされていた。
そしてユノは現在、歌姫として世界的に知られている。
元はサツキがユノの歌をフェンリル公式ラジオ放送に流したのがきっかけだが、結果として多くの人に愛される歌手となっていた。主な活動は様々な支部を慰問することで寄付金を集め、サテライト拠点への資金にすることである。
今ではフェンリル内部でも支持者が多いので、本部慰問も要請されているのだが、本人の意向によって今はまだ実現していない。
シスイはそんな彼女の護衛だった。
「ユノちゃん、久しぶりなんだよね? 楽しみだったりする?」
「そうだね。それは否定しないよ。何だかんだで有名人になっちゃったし、サインの一つでも貰って来ようかな?」
「あははは。それは職権乱用じゃないの?」
「それぐらいならセーフだと思うけどなぁ」
そうは言いつつも、シスイはサインよりも彼女に会うことを楽しみとしている。本当に久しぶりなので、色々と話したいこともあるのだ。あくまでもシスイは護衛であるため、あまり長くは話せないだろうが、それでも楽しみなのだ。
手のかかる妹のように扱っていた子が大きく成長している。
そんな嬉しさもある。
シスイは最後にいつもの白衣を纏い、ベットから出ようとしているリッカへと近寄った。
「じゃあ、僕は出るよ。いってきます」
「行ってらっしゃいシスイ君」
そう言って二人は軽くキスをした。
そしてシスイはすぐに荷物を持ち、部屋を出てヘリポートへと向かう。途中、誰もいない場所で右腕から神機を形成しておいた。このアラガミ化のことは極東でも一部の人しか知らないので、シスイも不用意には見せないのだ。
ヘリへと乗り込み、ユノたちとの合流場所であるサテライト拠点の一つに向かう。
昨晩、ユノはそのサテライト拠点で宿泊したので、そこで落ち合うことになっているのだ。集合の時刻は午前九時となっている。そのため、シスイは早く極東支部を出たのだった。
ヘリが上空まで浮かび上がったところで、パイロットがシスイに話しかける。
「おはよう隊長さんよ」
「はい。おはようございます」
「今日は葦原ユノさんの護衛だってな? かーっ! 羨ましいぜ。極東の歌姫を間近で見られるんだろう?」
「と言っても仕事ですよ」
「仕事だろうがプライベートだろうが関係ないさ。俺たちからすれば羨ましい限りだね」
歌姫の威光は庶民にも知れ渡っており、彼女に生で会いたいと思う人は多い。基本的にユノはサテライト拠点の訪問をメインにしているので、フェンリルの支部に顔を出す頻度は少ないのだ。
ただ、移動が多いので必然的にアラガミへの対策も必要になる。
普段は安全ルートをヘリで移動するので大丈夫だが、今回は最後にフライアへと向かうことになっている。そのため、普段は利用しない危険な場所も道中にあり、ヘリがアラガミに襲われないとは言い切れない。そこで、神薙ユウにも並ぶ実力者シスイが護衛となったのである。
勿論、元から知り合いなので気を張らなくても良いからという理由もある。
有名人となってしまって弊害からか、ユノは普段から気の抜けない生活をしている。責任感の強い彼女は、希望を与える歌姫に相応しい言動を常に心がけているのだ。
(そう考えれば役得なのかな……?)
パイロットの男の言った通り、ユノの護衛というのはかなり良いポジションである。今や誰もが知る世界の歌姫の側に仕えることが出来るのだから、役得という他ないだろう。
ただ、注意するべきなのは遊びではないということだ。
護衛という仕事である以上、迫るアラガミの脅威からユノを守らなくてはならない。浮ついた気持で仕事されても困るのだ。そういった点でもシスイが選ばれたのである。
シスイにとってユノは手のかかる妹のようなものなので、有名になったからと言って特に気負うものは無い。
(ま、何にしても久しぶりにユノと会えるわけだし、土産話でも考えておこうかな?)
そうやって集合場所のサテライト拠点まで移動すること一時間。
シスイを運ぶヘリはようやく着陸したのだった。
「着いたぜ隊長さん。何やら美人さんがお出迎えだ」
「美人さん?」
パイロットの声で体を起こし、扉を開けて外に出る。そこで待っていたのはジャーナリスト兼ユノのマネージャーである高峰サツキだった。彼女ともかなり久しぶりの再開である。
サツキはシスイの姿を見ると、手を振りながら叫んだ。
「シスイくーん。久しぶりですねー!」
「サツキさんも久しぶり!」
ヘリのローター音で聞き取りにくいが、まずは挨拶を交わす。
そしてシスイはヘリから飛び降りてサツキへと駆け寄った。形式的だが、まずは敬礼をして護衛任務の着任を宣言する。
「フェンリル極東支部第一部隊隊長、楠シスイ。護衛任務に着任します」
「はい、よろしくお願いします」
本当に形式だけのものだが、一応は仕事なのでしっかりとやる。
そしてすぐに敬礼を解き、普通に会話し始めた。
「改めて久しぶりサツキさん。以前にサテライト拠点をお邪魔したとき以来ですかね?」
「そうですね~。ま、積もる話もあると思いますけど、まずはユノに会ってあげてください。あの子もシスイ君と会うのを楽しみにしていたのでね」
「おやおや。歌姫様にそこまで言われると光栄ですね」
そんなことを話しながら、サツキの案内でユノが止まっている家屋へと移動する。
ここのサテライト拠点は建設が始まったばかりで、内部の居住区はテントの割合の方が大きい。それでも対アラガミ装甲壁に囲まれているので、いきなりアラガミの襲撃を受けることはない。多くの人が自分たちの住むサテライト拠点を良くしようと働いていた。
まだ朝早いにもかかわらず実に精力的である。
シスイはサツキの案内に従って移動し、一つの扉の前に来た。そしてサツキは軽くノックをしながら奥にいるユノへと声をかける。
「ユノ―! シスイ君が到着したわよー!」
「え? ホントにサツキ!?」
中で少しパタパタとした音が聞こえ、すぐにドアが開けられた。中からいつものワンピースをきたユノが現れる。化粧こそしていないが、まだ若々しい彼女は充分美しかった。
数年前の少女っぽさは消えて、今では大人の雰囲気が出ている。
「おはようユノ。そして久しぶり」
「シスイさんも久しぶり! いつぶりになるかな?」
「こうやって話すのは一年ぶりかもしれないね。ユノも最近は忙しくしていたから」
「そうよね……取りあえず中に入って。色々話しましょう? まだ時間もあるし。そうでしょサツキ?」
「まぁ少しなら大丈夫ね。さ、シスイ君も中に」
「じゃあ、お邪魔します」
三人は部屋の中へと入り、シスイとユノは近くに椅子へ、そしてサツキは飲み物を用意しに行った。サツキが戻ってくる間に二人は話し始める。
「調子はどうユノ? 体調崩したりしてない?」
「大丈夫よ。サツキも気を使ってくれるし、これは私がやりたいことだから」
「そっか。それならいいけどね。それに今日からしばらくの護衛は僕だから、気を使わなくてもいい。最後に本部直轄のフライア訪問もあるから、それまでは楽にしてて」
「うん。ありがとう」
フライアのトップであるグレムリー・グレムスロワ局長は本部の人間で、金勘定に煩いことで有名だ。何かにつけてユノを金儲けに利用しようとするだろう。ユノにもユノのやりたいことがあるので、注意しておかなければうっかり言質を取られかねない。
「そうよユノ。ちょっと私も別件でフライアに用があるからついていけないし、気を付けなさい?」
そこへ飲み物をお盆に乗せたサツキが戻ってきた。
「一緒に来れないのサツキ?」
「ちょっとね。ジャーナリストとしてのお仕事をしたいから、私は勝手に動くわ。ユノのことはシスイ君に任せることにしたから」
「もう……サツキは……」
サツキはフリージャーナリストでもあるので、ユノと共に行動しつつ、様々な場所に潜り込んで調査をしている。今回は本部肝いりの施設であるフェンリル極致化技術開発局フライアへ堂々と入ることが出来る機会なのだ。ジャーナリストとしての血が騒ぐのである。
シスイも彼女のことはよく知っているので、仕方ないといったふうに答えた。
「僕は構わないよ。ユノの護衛なわけだし」
「頼むわよー、シスイ君」
今回の護衛日程は一週間に及ぶ。
初めの数日はサテライト拠点を巡り、慰問しつつ様子を確かめる。そして最後にフライアへと赴き視察と共に本部からの要望を聞くことになっているのだ。問題はフライアの場所で、途中アラガミが出現する可能性があるので、護衛であるシスイはここで活躍することになる。
そしてシスイとユノは、フライアである出会いを果たすことになるのだった。
次回から本当にGE2編へと移行します。