極東に甚大な被害をもたらしたアラガミ災害は収束し、後始末が始まって二週間が経過した。破壊されたサテライト拠点は再建設され、ゴッドイーターたちの奮闘によって最新の対アラガミ装甲壁へと補強されている。
しかし、大量のアラガミ出現に加えて赤い雨という災害も重なり、怪我人だけでなく死者も防ぐことは出来なかった。ゴッドイーターの死者は十四名、一般人も六名が死亡し、怪我人は数えきれない。
これについて、フライアにも責任追及が行われた。理由としては無人制御の神機兵が途中で停止してしまったことが挙げられる。神機兵に防衛を任せていた部分が穴となり、アラガミの被害を甚大化させたことが死者の発生につながっているからだ。開発責任者である九条ソウヘイことクジョウ博士は本部へと招致され、現在は詳細に審議されている。最低でも開発責任者を降ろされ、最悪は研究者としての立場すら失うことになるだろう。
それほど、今回の失態はフェンリルにとって汚点となった。
これによって神機兵開発を進めるフライアは大きな打撃を受けることになる。失態を侵したとはいえ、クジョウも優秀な技術者だったのだ。それを失うのは非常に痛い。
何より、ブラッド隊の隊長ジュリウス・ヴィスコンティと隊員ロミオ・レオーニが黒蛛病に罹ってしまったことが最大の被害と言えるだろう。現在は極東で働いているとは言え、所属としてはフェンリル極致化技術開発局フライアなのだ。
ジュリウスもロミオも現在は黒蛛病患者としてアナグラの病室で隔離されており、一部の人しか面会を許可されない状態となっていた。そして黒蛛病に対して耐性のあるシスイは、その面会を許されている数少ない人物の人であり、その日も病室へと訪れていた。
「見舞いに来たよジュリウス」
「シスイか。済まないな」
「あはは……今は物資不足で見舞いの品もなくてね。こうやって定期的に顔を出すのが精一杯なんだ」
「いや、偶に来てくれるだけでも感謝しているさ」
今ではお互いに呼び捨てする仲になり、ジュリウスの会話相手として一週間に三回以上は面会している。復旧用のオラクルリソースを集めるために忙しいハズのシスイだが、こうして時間を見つけては病室を訪れていたのだ。
隔離病室に入ったシスイは、ジュリウスの隣で眠るロミオへと目を向ける。
「まだロミオは目を覚まさないみたいだね」
「ああ、黒蛛病に侵されている以外は安定しているそうだが……意識はまだ……」
シスイのリンクエイドとジュリウスの『統制』によってロミオは瀕死の状態から蘇った。そして体内に宿す偏食因子の力で急速に回復し、無事に肉体は安定へと至ったのだ。しかし、依然として意識だけは回復せず、昏睡状態のまま眠っている。
黒蛛病にかかっているので世話をするスタッフも大変だ。直接触れないように、常に防護服を着用しなければならないからである。
ギルバートは『昏睡しても苦労掛けやがって』などと言っていたが、心配しているのは明らかだった。
「ロミオも……折角『血の力』に目覚めたのにね」
「ああ、確か『圧殺』だったか? 広範囲にオラクル細胞を不活性に追い込むと聞いた時は目玉が飛び出るかと思ったぞ」
「名称は暫定だけどね。ロミオが昏睡状態にあるから、『血の力』の解析はまだ終わっていない。もしかすると、興奮状態が作用して半分暴走していた可能性もあるからね。ただ、強い力には変わりない。戦力として組み込むなら、たった一人で戦況を変え得る素質を持っている。他にも、ロミオの『血の力』を応用すれば、広範囲にアラガミを弱体化させる対アラガミ兵器が出来上がるかもしれない。僕としても夢の広がる能力だよ」
「まさか最後に覚醒したロミオがこんな力を秘めていたとは……まるで物語の主人公だな」
どちらかというと悲劇の主人公だが……と口に出しそうになり、ジュリウスは言葉を飲み込む。それは言っても仕方のないことだからだ。
あの時、自分たちにできる全てを出し切った。最善を出し尽くした。それでもロミオが昏睡状態から回復しないとなれば、もはや自分たちにはどうしようもない。ロミオ自身の強さに賭けるしかないだろう。
そもそも、ジュリウスとて黒蛛病患者なのだ。人の心配ばかりしていられない。
「治療法の方はどうなっている?」
「榊博士が独自に解析しているね。あとは……ほら、フライアも以前に黒蛛病患者を受け入れたよね。そちらも独自で研究しているみたいだよ。内容は公開されていないけど」
「ああ、俺が提言したやつだな?」
「それだよそれ。ただ、黒蛛病の研究なんて公開した方が効率的なのに、なんでラケル・クラウディウスは秘匿しているんだか……」
「ラケル先生が……? どうして……」
ラケル嫌いなシスイは表情を隠して憤慨しているが、先生でもあり育ての親でもあるジュリウスの立場からすれば信じられないといった様子だった。
「ともかく、治療に関してはまだ何とも言えない。気合で耐えてくれたまえ」
「科学者の癖になんとも抽象的な答えだな」
「いやいや、気合を馬鹿にしてはいけないよ。それこそ、『血の力』だって広義的には気合の一種だし」
「…………言われてみればそうだな」
ブラッドとして長く『血の力』と付き合っているジュリウスは、自身の力の仕組みについてもある程度の理解がある。気合の一種だと言われても納得できるのが事実だった。
「まぁ、そういうこと。さて、僕はまだやることがあるから出ていくよ。丁度、ヒカルの『喚起』を利用した強化案があってね。ブラッドの戦力も減ってしまったし、そちらにも手を貸しているんだ」
「そうか……ヒカルには宜しく言っておいてくれ」
「分かった」
シスイはそれだけのやり取りをして病室を出る。
やはりジュリウスもブラッドのことが心配なのか、最後には憂いの目をしていた。隊長が抜けたことで副隊長のヒカルが中心となり、シエル、ナナ、ギルバートと共に忙しく過ごしているのが今のブラッドだ。以前のようにα隊とβ隊に分けることも出来ず、仕事量は単純に二倍となっている。
そこで、シスイは以前から開発していたレイジバーストシステムを本格的に完成へと近づけ始めたのだ。ヒカルの『喚起』を利用した感応制御によって安全な神機暴走を誘発し、一時的だがバースト状態を越えるバーストへと至ることが出来る。理論上は十倍まで強化できるが、安全を考慮すれば五倍が限界だろう。それ以上はアラガミ化の可能性が出てくる。
いずれにせよ、僅かな時間とは言え凄まじい力が得られるシステムだ。極東の戦力低下を考えれば、早めの投入が望ましい。
(全く……俺も隊長らしいことは結局できなかったな……)
病室に残されたジュリウスは眠り続けるロミオを眺めながら自嘲する。
元々、ジュリウスは人付き合いが苦手だった。大手財閥の跡取りとして生まれたジュリウスは、両親がアラガミ被害によって事故死したことで天涯孤独となる。引き取り先となるはずの親戚も財産だけ分けて、ジュリウスは放り出したのだ。
それを拾ったのがラケルだったというわけである。
しかし、ジュリウスは極度の人間不信に陥り、ひたすら自分を高めることだけに時間を費やす。必要以上に人間関係を築かず、いつの間にかブラッド隊の隊長となっていた。その頃には人間不信も軽減され、人付き合いが苦手という程度になっていたが、隊長としては色々失格である。
ロミオが部隊を明るくする。
ヒカルが癖のある隊員を繋げる。
シエルが戦術眼を以て支援する。
ナナが場を和ませる。
ギルバートが培った経験で実戦を教える。
だが、自分は何をしてきただろうか。ただ、部隊最強の力を振るって隊長という立場に収まっていただけのようにしか思えない。単純な力量で言えばヒカルにも追いつかれているので、既に部隊最強とは言えないかもしれないが。
(ふっ……柄にもなく落ち込んでいるな)
そんなことを自覚してジュリウスは溜息を吐いた。
黒蛛病に罹り、部下のロミオも未だに目を覚まさないことで精神的に弱っている部分があるのだろう。このままでは『気合が足りない』状態となる。気合を入れろと言われたばかりだったにもかかわらず、落ち込んでいた自分に気付いて苦笑した。
そしてジクジクと痛む左腕の黒い痣に目を向けつつ、気持ちを落ち着ける。
三十分ほど目を閉じつつ精神統一を図っていると、再び病室がノックされた。今度はロミオの世話役かと思い、ジュリウスは許可を出す。
だが、入ってきたのは予想外の人物だった。
「こんにちはジュリウス。まだ元気そうで何よりだわ」
「ラケル先生……」
黒い服で身を包み、車椅子に乗って移動するラケル・クラウディウスがそこにいた。付き添いでヒカルもいたようだが、彼は扉の隙間から軽く手を振った後、病室の外で待機する。
どうやら、ラケル個人がジュリウスに対して話があるらしいと分かった。
「貴方が黒蛛病にかかってしまったと聞いて心配していたのよ?」
「それは済まない」
「ふふ……必ず死ぬ病と言われているのに、思ったより冷静なのね」
「不安になる時もある。だが、治療法が確立されると信じて待っているだけだ。俺もこのまま終わるつもりはないからな。先程もシスイに気合で耐えろと言われた」
「あら、シスイも来たのね? 黒蛛病の効かない特殊体質を持つあの子を調べたいのだけど、血液サンプルすら貰えなかったわ」
何とも残念そうな表情を浮かべるラケルを見て、ジュリウスは首を傾げる。何故なら、ジュリウスはシスイが自身を黒蛛病研究に役立てない理由をぼかしつつ伝えていたからだ。
「シスイを調べることに意味がないのはラケル先生も良く知っていると彼に聞いたが?」
「……ええ、確かに、彼を調べたところで意味はないわ。彼が黒蛛病にかからないのは、一重に荒ぶる神々の力を強く宿しているから。治療法には応用できそうにないわね」
ラケルの言葉に何かを誤魔化すような意図を感じたジュリウスだったが、すぐにその考えを霧散させる。長年にわたって積み上げられたラケルへの信用が勝った形だった。
そんな風に一瞬だけ別のことを考えていたジュリウスに対して、ラケルは笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「ジュリウス。私が研究している黒蛛病の治療法に協力してくれないかしら?」
「何?」
「これは貴方にしか出来ないこと。もしも協力してくれれば、黒蛛病の治療法を確立できるかもしれないわ。それに、ロミオのような被害者を出さなくて済むようになる……」
「……」
そんな都合の良い話があるのだろうか、とジュリウスは思案する。
だが、ラケルの言葉が気になるのも確かだった。
黒蛛病を治療できるようになる、ロミオのようなアラガミや赤い雨の被害者もなくなる、そして何より、これはジュリウスにしか出来ないことだという。
「詳しく聞かせてくれ」
ラケルは抑揚に頷き、自身の計画を話し始めたのだった。
◆◆◆
悲しい事件の後、極東支部には大きな変化があった。
まず、大被害をもたらした変異マルドゥークを捜索するためにチームが組まれ、クレイドルと共に共同の調査作戦が発布されたのだ。これによって観測班も外出が多くなり、討伐班への負担も増している。理由としては観測不足からくる乱入アラガミの多発だった。
あのマルドゥークはそこまでして捕捉したい相手だったのである。特徴としては目に傷を持ち、更に右のガントレットが破壊されてる。目の傷はかつてヒカルが付けたものであり、その時に『血の力』を発現した。右のガントレットにある傷はシスイが結合崩壊させたものである。
あれほど広範囲に感応波を届かせるマルドゥークは是が非でも討伐しなければならない。その一心で皆が頑張っているのである。
二つ目の変化はジュリウスとロミオがフライアに移されたことだ。極東支部でも黒蛛病の研究はしているのだが、ラケル・クラウディウスが強制的にフライアへと戻したのだった。言い分としては、所属がブラッド隊からということである。
その一方でブラッド隊は神威ヒカルを新隊長として極東所属になった。ジュリウスとロミオを回収してからブラッドを手放したという順序を見ると、欲しいモノだけ手に入れて邪魔者を捨てたようにも見える。ヒカルたちも戸惑いが大きかった。
極東支部としては戦力が増えるので願ったり叶ったりだったが。
しかし、やはりブラッド隊からしてみれば納得できることではなかった。特に、ジュリウスがラケルの神機兵開発を手伝っていると聞かされれば。
「あの野郎……なんでブラッドを抜けやがった……」
ギルバートが機嫌悪そうに呟く。
フライアから正式に極東へと移ってきた後、荷物を整理してから再びブラッド隊でロビーに集まった。理由は、極東に移籍となった理由やジュリウスとロミオが抜けた理由である。
確かに、黒蛛病に罹っていることを考えれば部隊からの除名も頷ける。だが、二人をフライアに収容する一方、ブラッド隊を追い出した理由が分からない。
何より、ジュリウスは一言も説明なしに消えてしまったのだ。
それも含めてジュリウスへの不満となっていた。
「変だよな。ラケル博士がブラッドを手放すなんて。一応、俺たちの『血の力』ってあの人の発明なんだろ? 普通は手放さないよな」
「はい、私も君と同じことを考えていました。結局、先生から一言もありませんでしたから……」
ヒカルとシエルはラケルの行動について首を傾げる。
ブラッドの移籍と同時に、極東へ研究データも送られてきたらしい。つまり、ブラッドの研究をするなら好きにどうぞ、というスタンスなのだ。逆に言えば、ラケルはこれ以上ブラッドに関わらないという意味でもある。
何かが気に入らなかったのか、それとも必要なものが手に入ったからか。
どちらかといえば後者だろう。
「ジュリウスの『統制』にロミオの『圧殺』……これが欲しかっただけなのか?」
「それは……」
勿論、賢いシエルは同じ答えに辿り着いていた。しかし、それを肯定したくない自分がいたことも確かである。もはや親がいないシエルにとって捨てられるという感覚は耐えがたいものがあるのだ。
「納得できねぇな」
「せめてラケル先生とお話ししたいよね~」
モヤモヤとしたものが取れないブラッドの四人は、ロビーの片隅で同時に溜息を吐く。そんな様子を見かねたのか、受付のヒバリが恐る恐ると言った様子で声をかけた。
「あの~。少しだけでしたらフライアと連絡が取れると思います。フランさんという方に交渉して頂き、どうにか時間を取ることが出来ましたから」
ヒバリも暗い表情をしたブラッドを見かねていたのだ。仕事柄、仲間に死にゆかれたゴッドイーターを慰めたりする機会も多く、そういったメンタルケアの面でもヒバリは活躍している。その結果、彼女のファンが増えているのは余談だ。
今回も、ブラッドのメンバーのためにコッソリと働いていたのである。
これにはヒカルを始めとして皆が驚いた。
「本当か!?」
「是非ともお願いします」
「ふん。あの野郎を問い詰めることが出来るんだ。感謝するぜ」
「ヒバリちゃん、ありがとね~」
四人から礼を受け取ったヒバリは、電子掲示板を利用してテレビ電話を繋げる。交渉の結果、通信可能となったのは数分のみだ。ヒカルたちは緊張した面持ちで繋がるのを待つ。
その結果、画面に出て来たのはジュリウスだった。
何かの椅子に座り、背後では用途不明な機械が大量に並んでいる。
「こっちみえてる~? 聞こえてる~? 久しぶり~」
まずはナナが手を振って呼びかける。
しかし、ジュリウスは表情一つ変えずに返答するだけだった。
「これでも忙しい身でな。手短に済ませてくれ」
あまりにも冷たい反応に、イラっとしたギルバートが前に進み出た。
「尋ねたいことは一つだ。何でブラッドを抜けた」
その質問は予想していたのだろう。ジュリウスは表情を変えることなく答えていく。
「俺は黒蛛病に侵されている。限りある少ない時を効率的に使おうとしているだけだ。大量生産することができ、壊れたらパーツ交換が可能な無人神機兵の開発にな」
「ブリキの兵隊の王様気取りか?」
「もはや俺は戦場に出ることも叶わぬ身だ。たとえお前たちが玩具と蔑もうとも、俺はこの新しい武器でアラガミを倒す。エリート部隊の隊長も、こうなってしまっては役立たずということだ。だからこそ、神機兵の開発を手伝っている」
既に自分が戦えないことを悲観した様子もなく告げるジュリウス。
ヒカルはジュリウスが何かを隠しているように思えた。
「なぁ、ジュリウス」
「どうしたヒカル?」
「本当にそれだけか? それが理由なら、なんでロミオを連れていく?」
「……ロミオはブラッドだ。だからラケル先生もフライアに戻しただけだろう」
「その割には俺たち、追い出されたけどな」
「…………」
やはり何かを隠しているらしい。ジュリウスはヒカルの指摘に答えることが出来なかった。正確には、答えたくとも言えない何かがあるということだろう。少しばかりジュリウスの表情が曇ったのが見えた。
しかし、それでも答える気はないのだろう。
「時間だ。切るぞ」
そう言ってジュリウスは通信を遮断する。元から数分だけの予定だったとはいえ、一分も経たずに切ってしまったことに多少の罪悪感は感じていた。
そしてジュリウスは咳込み、苦しそうに胸を抑える。黒蛛病の進行によって全身が痛み、遂には内臓にまで症状が及んでいた。通信中は何とか耐えていたが、実際はかなり辛い状態である。
「ゴホッ……ゲホッ……ぐ……っ!?」
「ジュリウス、大丈夫ですか?」
少しは慣れていたところで作業をしていたラケルが話しかける。自分の体を心配してのことだろう。だが、ジュリウスは敢えて別の答えを口に出した。
「問題ない。ブラッドとの縁は切っている。だからこそ、何も言わずに出て来た」
「いえ、そうではなく、貴方の体は……」
「……それよりも神機兵の教導を急ぎたい。黒蛛病の治療法開発のためにもな」
神機兵の教導はジュリウスが黒珠病に罹ったことで可能になった手法だ。感応現象による『統制』を使って自らの実戦経験を伝え、神機兵に効率的なAIを組み込む。そのためのマーカーとなるのが黒蛛病の偏食因子である。
教導をするにしても、感応現象を引き起こすためのマーカーが必要になる。フライアに収容した黒蛛病患者から偏食因子を抜き取り、それを神機兵に与えることでマーカーにしているのだ。ジュリウスが黒蛛病に罹ったことで共鳴しやすくなり、更に全ての神機兵の戦闘データも共有することで戦闘技術を集約し、凄まじい成長を促すことも出来る。
ジュリウスは神機兵の司令塔になることで感応波を送受信、そして自身の戦闘法を伝授しているのである。また、黒蛛病の偏食因子を抜き取る技術が進めば、治療にも役立つ。同じく黒蛛病に侵されているロミオを救うためにも、ここで倒れる訳にはいかなかった。
「神機兵の『エメス装置』は着実に貴方の戦闘スキルを学習しています。この調子なら、すぐにでも一般の神機兵を凌駕するでしょうね」
「悪いが一刻も早くブラッドを越えて貰わなければ困る」
「そうですね……あの子たちを戦場に立たせない、貴方の願いのためにも……」
ジュリウスの黒蛛病は何故か早い。
恐らく、神機兵が完成するころには死ぬ寸前となっているだろう。寧ろ、完成を間に合わすことが出来るかも怪しい。だから、たとえ黒蛛病の治療法が完成したとしてもジュリウスには意味がないのだ。更に、黒蛛病の偏食因子を利用するということは、黒蛛病を活性化させることを意味している。
神機兵の教導は寿命を縮める行為に等しいのだ。
それでもジュリウスが神機兵開発に協力しているのは、ロミオを救うためである。ロミオは昏睡状態が続いているからか、黒蛛病の進行が遅い。治療法さえ開発すれば間に合うはずだ。
「必ず……間に合わせてくれ」
「ええ、必ず。貴方の死が追い付いてしまう前に……」
再び教導へと集中するジュリウスにラケルは怪しく嗤いかけたのだった。