本業は研究者なんだけど   作:NANSAN

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EP33 誤射姫

 

 ある日、特に任務もなく寛いでいたシスイは、背後からヒカルに肩を叩かれた。見ると、隣には誤射姫こと台場カノンもいる。

 嫌な予感がしたシスイは即座に逃げ出そうとした。

 しかしヒカルはシスイを掴んで逃さない。

 

 

「逃がさん」

「やめて。逃げさせてホントに」

 

 

 しかしよっぽどヒカルも必死なのだろう。凄まじい力でシスイを離さない。

 これ以上は無駄だと悟ったのか、シスイは仕方なく抵抗を止めた。そしてラウンジの椅子に座って事情を聴くことにする。

 

 

「実はハルさんからカノンの教育を頼まれた」

「はい! 教官先生の下に就けば、立派なゴッドイーターになれると聞きました!」

「ちなみに、困ったらシスイさんを頼れと言ったのもハルさんだ」

 

 

 それを聞いたシスイは大きく溜息を吐く。間違いなく、以前の仕返しだろう。先のアラガミ災害では、カノンと共に爆撃をしたのだ。その被害を受けたのがハルオミなのである。

 恐らくはその時のことを根に持ったからこその助言だろう。

 全くもって迷惑な助言である。

 

 

「あの……ダメでしょうか……?」

 

 

 しかしカノンに言われると弱い。

 戦場では誤射姫などと揶揄される彼女だが、可愛らしい見た目や天然の抜けない性格から人気も高い。涙目に加えて上目遣いをされたら謎の罪悪感で断れなくなる。

 シスイは折れるしかなかった。

 

 

「まぁ……手伝うよ。最近は第一部隊も安定してきたしね。エリナもヒカルに色々と教えてくれたって言ってたから、そのお礼も兼ねて一肌脱ごう」

「助かる。割と切実に」

「うん、一緒に頑張ろうね」

 

 

 これから起こる誤射姫の悲劇を思い浮かべながら二人は手を取り合う。恐らく、今までにないほど精神力を消耗する任務になるだろう。何せ、味方から攻撃が飛んでくるのだから。

 まるでわざとではないかと疑うレベルで誤射をするカノンの噂は極東中で轟いている。そこに誇張など一切なく、全て事実ということが一番恐ろしい。

 首を傾げるカノンの目の前で同盟が組まれた瞬間だった。

 

 

「それで……カノンは具体的に何を目指しているのかな?」

 

 

 一通り話が終わったので、今度はカノンに質問する。補佐とは言え教官役をする以上、目指すべき場所はしっかりと把握しておくべきだ。

 すると、カノンは両手を胸の前で握りしめ、どこか決意した目で口を開いた。

 

 

「勿論、誤射をなくすことです!」

 

 

 何とも情けない目標だが、シスイとヒカルは無理だろうと内心で思っていた。一応記しておくが、カノンは二人の先輩である。歳もゴッドイーター歴も共に先輩である。それにもかかわらず年下の後輩のようなイメージが湧いてしまうのは、どうにも仕方のないことかもしれない。

 これがカノンのクオリティだと諦めるのが一番だ。

 

 

「まぁ、そうだろうね……とりあえず、僕とヒカルで考えておくから、今日は普通に過ごして。案が挙がったらまた連絡するよ」

「はい! ありがとうございますシスイさん、教官先生!」

 

 

 そしてカノンは何故か敬礼して去って行く。

 色々と謎な子である。

 カノンがラウンジを出た後、シスイはヒカルの方に向き直った。

 

 

「で、どうするの?」

「うーん。取りあえずカノンがどれだけ誤射するのか確かめるために、適当なミッションに出かけようと思っているかな。俺は噂でしか誤射を知らないし」

「止めるんだ。興味本位で挑むと死ぬよ!?」

「そこまで!?」

 

 

 冗談ではないところが恐ろしい。

 ゴッドイーターの銃撃はオラクルを利用したものだ。属性変化させたオラクルを射出することで、特有の現象を引き起こすのがバレットである。当然、人には効かないなどという都合の良い話はないので、誤射によって大怪我を負うこともあり得る話だ。一応はゴッドイーターに当たっても威力が軽減されるように調整はされているものの、あまり期待できる機能ではない。

 そしてカノンの使うバレットは範囲と威力重視の爆砕弾、もしくは威力重視の放射弾であり、間違っても当たると大怪我は免れない。防衛班のブレンダン・バーデルはカノンの誤射によって何度も入院をしている被害者筆頭である。

 

 

「一緒にミッション行くなら対策しないとね」

「と言っても、俺たちが避けるしかないんじゃ……」

「一番の手は回復弾だけを持たせることだね。あの子、実は衛生兵だし」

「……………………え、衛生兵?」

 

 

 ヒカルは余りの事実に衝撃を受ける。

 

 

「どっちかと言えば強襲兵だろ!?」

「実は衛生兵なんだよねー。ははは……」

「嘘だろ……」

 

 

 寧ろ怪我を増やしている気がするが、彼女は衛生兵である。

 だが、あの誤射率の高さを利用して回復弾を使わせれば、非常に優秀なヒーラーになることは間違いない。二人はその方針で計画を進めることにする。

 そうして打ち合わせが終わった頃、ふと思い出したかのようにシスイは口を開いた。

 

 

「ああ、そう言えばヒカル。あのシステムもそろそろ改良が終わるよ」

「本当か!? この短期間で凄いな!」

「君が精力的に実験を手伝ってくれたからだよ。リンクサポートデバイスの件でもリッカを手伝ってくれたわけだし、その分は応えないとね」

「そうか! アレが遂に実戦投入になるのか!」

 

 

 ヒカルが嬉しそうにしているのは、少し前に行った試験が起因している。シスイが以前から研究しているレイジバーストシステムだが、ヒカルの『喚起』を利用した制御方法をある程度確立したので、一度実験を行ったのだ。

 結果としては成功。

 大きな不具合もなく、微調整すればすぐにでも実戦で使えるほど上手く出来ていた。シスイは効率性に改良を加え、使用者にヒカルに対する負担を減らすなどの最終調整をするだけでよかった。

 

 

「『ブラッドレイジ』……実戦で使うにもいい機会だ」

「そういうこと。カノン衛生兵計画と融合すれば、たとえヒカルが負傷してもすぐに対処できる。まさに丁度いい機会ってわけだよ」

「よし! ブラッドレイジはいつから導入できる?」

「僕が開発したシステムデバイスをリッカに頼んで組み込んでもらっている。そればかりは専門家に任せた方がいいからね。一応、デバイスは神機に組み込めるように設計したから、そんなに時間はかからないかな? 多分、明日には出来ているよ。リッカもノリノリだったし」

 

 

 シスイが今日、任務を入れていなかったのは、このブラッドレイジデバイスを完成させるためだった。そして一段落したので、ラウンジにて休憩していたのである。

 ちなみに元はレイジバーストシステムと仮称していたが、ブラッドの力があってこそのシステムであることから、正式名称をブラッドレイジシステムに変えた。ヒカルのお陰で研究が進んだことへの感謝も込めている。

 

 

「じゃあ、早速だけど明日はどうだ?」

「まぁ、いいんじゃないかな? 僕も明日は接触禁忌種を第一部隊で狩るだけだし、午後からは暇になっているハズだよ」

「分かった。ブラッドも大型種を数体だったからすぐに終わる。カノンには俺から連絡しておく」

「宜しくねー」

 

 

 それを聞くとヒカルはラウンジを出ていく。

 シスイはラウンジに残ってコーヒーのお代わりを飲むことにしたのだった。

 ちなみに、後で来たハルオミを締めあげたのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 翌日、シスイとヒカルとカノンの三人でコンゴウ六体の討伐に向かっていた。どうやら愚者の空母に巣食っているらしく、場合によっては他のコンゴウも寄ってくるという話だ。

 だが、一対多を得意とするシスイは元より、ヒカルもカノンも実力的には問題ない。三人は愚者の空母へと続く壊れかけの橋に到着し、簡単にブリーフィングを行っていた。

 

 

「カノン、先に言ったけど、今日は回復弾だけを使うように。衛生兵なんだから」

「わ、わかりました!」

「隙だらけになるカノンは僕が護衛するからね。あと、ヒカルは前に出てコンゴウの相手をして欲しい。戦闘音を聞きつけてコンゴウが寄ってくると思うけど、六体程度なら余裕だよね?」

「おう」

 

 

 すっかり極東に毒されたヒカル。

 今ではコンゴウを雑魚、ヴァジュラを猫と呼ぶ程度には極東慣れしていた。勿論、実力も充分であり、ブラッドアーツ『風斬り陣Ⅳ』で無数の斬撃を残しつつ、ショートブレード特有の高速移動でアラガミを翻弄する戦法を取っている。

 最近では『黒風』などという二つ名も出回っているらしい。ヒカルに近しい人物は余り呼ばない名前だが。

 

 

「じゃ、作戦開始。カノンはくれぐれも回復弾以外を使わないようにね!」

「頑張れ衛生兵!」

「は、はいぃっ!」

 

 

 シスイは白衣を翻し、ヒカルは縛った髪を揺らし、カノンは無駄に気合を入れつつ愚者の空母へと目を向ける。情報通り、遠目でもコンゴウが巣食っているとすぐに分かった。

 食事中なのか、空母に残っている資材を捕食している。これらの資材は希少なので、喰い尽くされる前にアラガミを始末しなければならない。

 一番初めに仕掛けたのはヒカルだった。

 

 

「そら、喰らえ!」

 

 

 背後から捕食を決めてバースト化する。そこでようやくゴッドイーターの存在に気付いたコンゴウは、咆哮を上げて拳を振り上げた。

 

 

「遅せぇよ!」

 

 

 しかし遅すぎる。スピードに特化したヒカルの戦闘スタイルからすれば、コンゴウなど的でしかない。流石にディアウス・ピターほどになると多少は苦戦するが、ただの中型種に後れを取るほどヒカルは弱くないのだ。

 地面を叩き付けて衝撃波を出す攻撃を軽く避け、背後に回って背中を切りつける。かと思えば、次の瞬間にはサイドに回り込み、ライジングエッジで顔を切り裂いていた。

 一撃ごとに青白いオラクルの刃が発生し、コンゴウに追加ダメージを与える。

 

 

「ゴアアアアアアアアア!」

 

 

 だが、そこへ戦闘音を聞きつけた別のコンゴウがやってきた。コンゴウで最も注意するべき転がり攻撃を仕掛けたので、ヒカルは大きく跳び下がる。

 

 

「ガアアアアアアア!」

「グオオオオオオオオオオオオオオ!」

「ゴアアアアアアア!」

 

 

 更に三体のコンゴウが乱入し、今度はシスイとカノンを狙い始めた。援護のためにジッと止まっていたからか、良い餌だと判断されたのである。

 しかし、シスイは転がるコンゴウを無理やり切り捨てる。

 

 

「邪魔だよ」

 

 

 ノヴァの因子を取り込んでいるお陰で、あらゆるアラガミに対して最大ダメージを与えることが出来る。つまり、シスイのヴァリアントサイズは切れ味が途轍もなく高いということだ。転がってくるコンゴウを一撃で両断してしまうほどに。

 だが、その一秒後に背後から殺気を感じて飛びのいた。

 すると、さっきまでシスイがいた場所を炎属性の放射弾が通り過ぎる。

 

 

「アハハハハハハハハハハ! 猿が人間様に盾突くんじゃなわよ!」

「ちょっと! なんで普通のバレットを使ってんの!?」

「ぶっ壊れちゃいなさい!」

「危なぁっ!?」

 

 

 あれ程念を押したにもかかわらず、カノンは高威力バレットを使い始めた。どうやらコンゴウが転がって来たことで興奮したらしく、無意識で使ってしまったのだろう。

 しかもわざとではないかと思うほど、正確にシスイを狙ってくる。ここまでくれば、もはや才能である。仮に攻撃バレットではなく回復バレットだったならば、優秀な衛生兵になれることだろう。

 

 

「作戦変更! ヒカルはブラッドレイジを使って! 手早く戦闘を終わらせるよ!」

「了解、もうすぐ神機暴走率が百を超える!」

 

 

 新しく改良したブラッドレイジシステムは、『喚起』の力で徐々に暴走率を高めていくことが重要だ。これによって神機を慣れさせ、安定した制限解放を行えるようになるのである。便宜的に暴走率と呼んでいるが、実際に暴走しているわけではないので安全だ。暴走というよりも、ポテンシャルを解放していく作業と言った方が正しい。

 勿論、百パーセントになっても大丈夫なように、暴走を抑える拘束用フレームが取り付けられている。

 

 

「よし、百パーセントを越えた!」

 

 

 暴走率は神機を使い続けることで溜まっていく。

 そして誓約と呼ばれる制限用モジュールを展開し、それを履行することでブラッドレイジの発動時間を決めるのだ。誓約一つにつき十秒の解放と定められており、感応波制御によって時間経過と共に神機が自動的に再封印される仕組みだ。

 

 

「誓約の選択、『追撃の誓い』『破壊への衝動』『解き放つ本能』」

 

 

 ヒカルの放つ感応波によって誓約が結ばれ、神機との繋がりも強化される。

 選択した『追撃の誓い』はアラガミから一定量のオラクルを吸収することにある。つまり、神機である程度のダメージを与えれば良いのだ。バレットで攻撃した場合も、オラクル回収弾の要領でダメージを算出してくれる仕組みになっている。『破壊への衝動』はアラガミを結合崩壊さえること、そして『解き放つ本能』はアラガミを一度だけ捕食すればクリアとなる。

 

 

「行くぜ!」

 

 

 誓約履行の制限時間は三十秒だ。その間に三つの誓約をクリアしなければならない。

 まず、ヒカルは目にも留まらぬ速さで移動し、コンゴウ一体から捕食した。これで『解き放つ本能』はクリアとなる。次に、同じコンゴウの尻尾を連続で攻撃する。ここがショートブレードで最も結合崩壊させやすい場所だからだ。ダメージ効率が高いので、『追撃の誓い』もすぐに達成できる。

 シスイがカノンを全力で捌きながらコンゴウを相手に遊んでいるので、今がチャンスだろう。

 

 

「そろそろ溜まったか? 潰れろ!」

 

 

 流れるような動きで神機を変形させたヒカルは、ブラスト形態で破砕弾を発射する。残像が残るような速度で移動しているお陰か、自分が爆発に巻き込まれない距離まで下がるのは一瞬だ。まるで暗殺者のように立ち回るかと思えば、大胆な爆弾魔のように激しい攻撃もする。

 実に緩急の上手い戦い方だ。

 ヒカルのブラスト弾がコンゴウに大ダメージを与え、背中を結合崩壊させる。本当は尻尾を狙っていたのだが、先に背中が壊れたらしい。

 ただ、これで『追撃の誓い』と『破壊への衝動』は満たされた。

 モニターしていたヒバリから通信が入る。

 

 

『誓約の履行を確認。拘束フレームパージ。ブラッドレイジ、来ます!』

 

 

 獲得した開放時間は三十秒。

 その間は神機から漏れ出す大量の暴走オラクルによって守られ、凄まじい肉体能力と無敵状態を得る。神機自体の攻撃力も五倍に跳ね上がるので、最強モードと言っても過言ではなかった。

 

 

「うおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 ヒカルの右腕から肩にかけて黄金のオラクルが奔流となって流れ、右肩からは翼のようなものまで発生する。過剰なオラクルが一時的に侵食している証だが、これは表面的なものなのでブラッドレイジ解除と同時に元に戻るから問題ない。

 そしてバースト状態を越えるブラッドレイジとなったヒカルは、分身すら作る勢いで高速移動を始めた。

 

 

「はあああああああああああああああああああ!」

 

 

 コンゴウの顔面を砕いたかと思えば、少し離れた場所にいる別の一体の尻尾を千切り、更には溜まっていたオラクルを使ってメテオ弾を大量に発射する。過剰活性オラクルのお陰で、通常よりも大幅に少ないオラクル量でバレットを撃つことが出来るのもブラッドレイジの強みだ。

 メテオ弾は落ちてくるまでに時間がかかるので、その間にヒカルはショートブレードを振るう。攻撃力五倍の力はすさまじく、殆ど一撃で結合崩壊させていた。僅か数秒でコンゴウ一体を刈り取り、更に十秒も経てば三体がダウンしていた。ブラッドレイジの残り時間は半分を切っている。

 

 

「遅いっ!」

 

 

 黄金の軌跡を残しながら移動するヒカルをコンゴウ如きが捉えられるはずもなく、腕を切り裂かれたり、胸部を十字に傷付けられたリと無茶苦茶である。他の支部ならば一体出現するだけで無傷での帰還を諦めなければならないと言われるコンゴウが、六体同時相手でも雑魚扱い。シスイが一体は倒したので五体同時と考えてもすさまじい戦闘力だった。

 あのカノンですら……カノンですら茫然と眺めるほどの恐ろしい速さである。

 

 

『まもなく、ブラッドレイジが終了します』

「ならこれで最後!」

 

 

 オペレーターのヒバリがブラッドレイジの発動管理もしているので、ヒカルは戦闘にだけ集中することが出来る。そしてもうすぐブラッドレイジが解除されることを聞き、最後に渾身の一撃を叩き込んだ。

 コンゴウは呻きながら力尽きる。

 ブラッドレイジ中に討伐出来たコンゴウは三体であり、残り三体もかなりの重傷だ。

 さらに、ここでヒカルが設置していた複数のメテオ弾が降り注ぐ。

 

 

『ゴアアアアアアアッ!?』

 

 

 爆発音に紛れてコンゴウの断末魔が響き渡り、全てのアラガミを討伐することに成功した。

 そしてヒカルの神機は誓約に従って再封印が実行され、過剰活性によって黄金に輝いていたオラクルも無事に鎮静化する。右腕から肩にかけて覆っていたオラクルの塊も綺麗に消え失せた。

 

 

「ヒバリさん。ヒカルのバイタルは?」

『正常です。ブラッドレイジ封印も無事に機能しています』

「よかった。データ観察ありがとう」

『いえ、しかし凄まじいですね。こちらの計器が振り切れそうになっていましたよ』

「あー、すみません。帰ったら再調整してブラッドレイジに対応できるように改造しておきます」

『フフ、お願いしますね』

 

 

 シスイがヒバリと通信する一方、ヒカルは初めてのブラッドレイジで疲れたのか、地面に座り込んで自分の作り出した惨状を眺めている。実戦に投入したのは今日が初めてなので、その威力を思い知って茫然としているのだろう。

 やはり訓練室で一度やった実験とは異なる感想があるらしい。

 カノンだけは興奮した様子だった。

 

 

「さすが教官先生です! これはつまり……私も更に強いバレットを作って、やられる前に()れってことですね! 勉強になります!」

((お願いだからそれは学習しないでくれ!))

 

 

 シスイとヒカルの思いが一つになった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、アナグラのラウンジでシスイとヒカルはハルオミに報告会を行っていた。ソファに対面しながら座りつつ、軽いお酒を口にする。ちなみにシスイもヒカルも未成年だが、今の時代はそれを気にする者は殆どいなかった。精々、暗黙の了解といった程度のものである。

 しかしながら、シスイとヒカルはあまり強い酒を好まないので、アルコール度数の低いものだけを口にしていたのだった。

 

 

「取りあえず、カノンに出来ることはやったぜ?」

「お~。そりゃあ良かった。つまり期待していいんだよな?」

「勿論だ」

 

 

 ヒカルの言葉を聞いてハルオミは上機嫌に口笛を鳴らす。ミッションごとの悩みの種である誤射がこれで解消されると思ったのだから当然だろう。

 ここでヒカルはシスイへとバトンタッチして、詳しい報告を任せた。

 

 

「じゃあ、僕から説明を。まず、カノンと何度かミッションに出かけたんだけど、あの誤射率を逆に利用して回復弾を持たせることにしました。あれでも彼女は衛生兵なので」

「なるほどな~。そりゃ盲点だったぜ」

「ですが、戦場に出るとカノンは狂化(バーサーク)します。すると、彼女は回復弾を忘れて攻撃バレットで爆撃を開始するのです。流石に攻撃バレットを持たせずミッションに連れていくことは出来ないので、何度もミッションに連れて回復弾を使う癖をつけさせようとしました」

「ほうほう」

「結果は失敗。そこで僕たちは考えたのです。『もう、カノンの誤射はアイデンティティだし、これはこれでいんじゃないか』と」

「おいっ!?」

 

 

 全然解決していなかったのでハルオミは思わず立ち上がる。先程の上機嫌は吹き飛び、額からは冷や汗が流れ始めた。

 しかし、シスイはどこか悟ったような目で言葉を続ける。

 

 

「僕はカノンのアイデンティティを生かすために、技術を結晶して高威力バレットを作成。安心してください。カノンには全属性分を渡しておきましたよ」

「止めろ!? 全然安心できねぇ!」

「試しにカノンが撃ってみたら、一撃でヴァジュラが吹き飛びました。いやー、適合率が高いとあんなことも出来るんですね」

「ああ、凄かったよな」

「何を他人ごとのように言ってんだよ!? え? 嘘だよな!? 嘘だと言ってくれシスイ博士ェ!」

「いや、他人事ですし」

「まぁ、被害を受けるのはハルさんだからいいかなぁって」

 

 

 何を言ってるんだコイツ、という目でハルオミを見るシスイとヒカル。二人の瞳からはどこか光が消えていた。それを感じたハルオミは悟る。

 

 

(ま、拙い……カノンに毒されて現実から乖離してやがる……っ!?)

 

 

 シスイとヒカルはカノンと何度もミッションをこなし、数えきれないほど誤射被害を受けた。直撃は回避したが、爆風の余波を受けたり、緊急回避を強いられたリと散々だったのである。

 一周回っておかしな答えに辿り着いたといってもいい。

 ハルオミはゆっくりと立ち上がり、一歩後ずさった。

 だが、そこで背後から声をかけられる。

 

 

「ハルさーん!」

 

 

 それはまるで悪魔の呼び声。

 ハルオミも良く知る可愛い部下の声に間違いなかった。

 錆びた機械のように震えながら振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた第四部隊の隊員こと台場カノンがいる。片手にはミッションが登録されたデバイスを持っていた。

 

 

「シスイさんが素晴らしいバレットを作ってくれたんです! これを見ればきっとハルさんも驚きますよ! さぁ、ミッションに行きましょう! 今日はちょっと背伸びしてサリエル二体の討伐です!」

 

 

 よりにもよってサリエル種。

 前方からの弾幕に気を付けつつ、背後から迫る爆撃に注意しなくてはならないという地獄だ。ハルオミの目の前は真っ暗になった。

 

 

 

「行きますよハルさん!」

「……ああ」

 

 

 傍から見ても真っ白になったと分かるハルオミを連れて出撃ゲートへと向かって行くカノン。シスイとヒカルはグラスを片手に手を振るのだった。

 そしてハルオミが見えなくなった辺りで、シスイは再び口を開く。

 

 

「うん。ハルさんの反応は最高だったね」

「ドッキリ大成功って奴だな」

「新作バレット、識別弾を組み込んだから味方への被害は心配ないからね」

 

 

 全てはハルオミを陥れるために仕組んだ演技である。カノンの矯正役を押し付けられた恨みを込めて、今日のことを計画したのだ。事前にカノンを唆してミッションを受注するように仕向けたのだが、タイミングもバッチリである。

 ちなみに、『誤射姫アイデンティティを守る』という境地に至ったのは本当の話だ。シスイは思考がおかしくなった状態で威力重視の化け物バレットを作り上げてしまったのである。だが、完成と同時に正気へと返り、折角なので新作の識別弾を組み込んだのだ。

 識別弾は、味方への被弾が無くなるという効果である。味方に当たった場合は透過し、アラガミにのみ直撃するよう、オラクル細胞にプログラムした弾丸だ。元から構想はあったのだが、ブラッドバレットに似たような効果があると知り、それを解析して通常のバレットでも識別効果を生み出したのである。

 

 

「じゃ、僕たちは僕たちでブラッドレイジについて話を詰めようか」

「分かった。まず、発動時の反動だけど―――」

 

 

 ヒカルはブラッドレイジという新たな力を得た。

 広範囲に感応波を放つ特殊なマルドゥークがいると分かった以上、非常に有用な能力である。二人はしばらくの間、ラウンジで改良点を話し合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




ブラッドレイジはこの段階で実用化です。

ちなみに原作とは仕様を変えています。本来、ブラッドレイジは誓約の選択によって攻撃力を上げるのですが、この作品では誓約一つに付き稼働時間が伸びるという風に扱っています。
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