サバイバル特殊ミッション『朧月の咆哮』。
極東を苦しませた特殊マルドゥークを討伐する大作戦が発動され、作戦遂行に当たって簡易的な前線基地が築かれた。技術員と資金を大量に投入した簡易基地であるため、かなりの設備が揃っている。ここを基点として前線を押し上げていき、キャンプを繰り返しながらマルドゥークへと迫っていくのだ。
想定している作戦日数は最低でも二週間となる。長引けば三週間はかかると予想されているので、初めての大作戦に誰もが緊張していた。
特に戦闘力を持たない技術員は不安を隠せない。ブラッド隊や第一部隊の神機を簡易メンテナンスするため、共に前線を上がらなければならないからだ。
「なぁ、俺たち生きて帰れるかなぁ?」
「縁起でもないこと言うなよ。一応、第一部隊が守ってくれるんだから」
「でもよ、第一部隊だってシスイ隊長が前に出るから実質三人だぞ? この基地全体を守り切れるのかよ?」
「極東支部みたいに広い訳じゃないし、大丈夫……多分」
『はぁ~』
アラガミ動物園と揶揄されるこの極東において、対アラガミ装甲壁の外に出るということは死を意味しているといっても過言ではない。前線基地もアラガミの少ない場所を選んで建設されたとはいえ、不安がぬぐえないのは確かだ。
戦闘力のない技術員は特にそうなる。
しかし、負担がかかるのはゴッドイーターも同じだった。別の場所で、ブラッド隊長ヒカルはナナを伴いつつ周囲のアラガミを狩っていた。
「ナナ! そっちにヴァジュラテイルが行ったぞ!」
「りょ~かい!」
ヒカルはショートブレードの身軽さで風のように動き回り、撹乱を繰り返しつつ小型アラガミのヘイトをかき集めていく。その間にナナが高威力の攻撃でプチプチとアラガミを潰していた。
流石の連携であるが、やはりこの人数ではいつもより仕事量も多くなる。特にスタミナ管理が重要なブーストハンマー使いのナナは、息を切らさないように慎重な立ち回りを求められた。
「よし、そいつで最後だ。やれナナ!」
「任されました隊長――とりゃっ!」
上から下へと叩き付ける一撃。ブラッドアーツ『ナナプレッシャー』によって最後に残っていたドレッドパイクが沈黙した。
そこでオペレーターとして同行しているヒバリから通信が入る。
『ヒカルさん、ナナさん、お疲れ様です。次のポイントに向かってください』
「分かった。行くぞナナ」
「りょーかーい。も~疲れちゃったよ~」
『もう少しですから頑張ってください。第一部隊βもブラッドβも順調ですから、そろそろ終わると思います。それに、これでも第一部隊α……つまりシスイさんが大部分のアラガミを一人で引き受けていますから、楽になっている方ですよ?』
「あの人、マジでバケモンかよ」
「凄いよね~」
殆どのアラガミを一撃で倒し、流れるように次々と戦場をかけてアラガミを始末しているのがデータ端末でも確認できる。たった一人で次々と端末に表示されたアラガミ反応を消しているのだ。現在も目で分かるスピードで周囲を掃討している。
「本気出すって言ってたけど、ここまで凄いなんてな」
「どうやって戦っているんだろうねー」
「謎だよなぁ」
そんな会話を繰り返しつつ二人は息を整える。まだアラガミのいるポイントは残っているので、早く次に向かわなければならない。やはり少人数で広大な場所のアラガミを全滅させるのは骨が折れる作業だ。もう少し休んだ後、ヒカルとナナは次の場所へと向かったのだった。
一方、ブラッドβことシエルとギルバートも丁度小型アラガミの群れを討伐したころだった。
「これで最後ですね」
「ああ、そうみたいだな」
『シエルさん、ギルさんもお疲れ様です。ブラッドαは次のポイントに向かっています。第一部隊αは後数分で指定ポイントのアラガミを全滅させると思われます。第一部隊βは先ほど最終ポイントで戦闘を開始しました』
「私たちが一番遅れているようですね。急ぎましょうギル」
「分かった」
頭脳派のシエルとベテランのギルのチームは安定志向であり、ペースを保ちつつ順調にアラガミを減らしていた。そのため体力的にも問題なく、次のポイントへと直ぐ向かうことに決める。
流石の二人と言うべきだ。
更に別もポイントでは、第一部隊β……コウタ、エリナ、エミールが奮闘していた。副隊長コウタの銃撃は相変わらず正確であり、エリナとエミールが好きに動いても問題ないほど的確にフォローしている。あまり目立たないが、コウタも非常に優秀なゴッドイーターなのだ。
「エミールは一旦下がれ! エリナもバイタル大丈夫か?」
「引き際を弁えるのも騎士。了解だ!」
「バイタル大丈夫です! もう少し行けます!」
最近はブラッド隊長ヒカルに指導して貰い、エリナはメキメキと上達した。あまり他部隊と関わりを持たないエリナにとって、ブラッドとの共同作戦は新鮮だったらしい。色んな動きを取り入れ、以前とは比べ物にならないほど強くなっている。
第一部隊に配属される程には適合率も高いので、今ではアナグラの中でも屈指の実力者だと誰もが認めていた。まだ感情的で子供っぽいところは残っているものの、実力としては充分である。
「やぁっ!」
エリナはチャージグライドでオラクルを纏った一撃を繰り出す。数匹の小型アラガミが巻き込まれ、赤い体液を撒き散らしながら地面に倒れた。そしてスタミナ回復のために一旦下がると、迫るアラガミを抑えるためにコウタが弾幕を張る。
その直後、エリナと入れ替わるようにしてエミールが飛び出し、ブーストハンマーの一撃でアラガミを一気に薙ぎ払ったのだった。やはりエミールも第一部隊に選ばれるだけあってオラクルの出力はすさまじく、中型種程度なら一撃で葬れる程の威力を放てる。
特に危ない場面もなく、あっという間に最後のポイントを全滅させたのだった。
『アラガミ反応が消失しました。第一部隊βは帰投してください』
「よーし、帰るぞお前ら!」
「はーい」
「うむ」
コウタ、エリナ、エミールは帰投するのだった。
そして第一部隊の隊長であるシスイも、殆ど同じ時間にアラガミを全滅させていた。左手で捕食したアラガミをアラガミバレットに変えて放ち、空気中のオラクルを凝縮させて弾丸の雨を降らせる。ノヴァの因子を宿したヴァリアントサイズは一撃でアラガミを引き裂き、無双という言葉相応しい戦場を創り上げていた。
もはや『狩り』ではなく『刈り』である。
「ふぅ……終わりましたよヒバリさん」
『あ、相変わらず凄いですね……』
「引かないでください。傷つきますよ」
『あはは……すみません』
しかし、シスイの周囲には無数のアラガミが死体となって飛び散っている。その中心で大鎌を持った男が立っていたら、間違いなく引いていただろう。レーダーの様子で戦況を把握していたヒバリでさえ引いたのだから、無理もない光景である。
そしてシスイはそのまま帰投したのだった。
◆◆◆
周囲のアラガミも掃討が終わり、前線基地は二日で建設を終えた。粗方のアラガミは狩り尽くしたので、しばらくは基地にアラガミが近づくこともないだろう。
善は急げとばかりに作戦が実行されることになった。ブラッド隊は前線を開き、シスイが単騎で周囲のアラガミを抑える。残りの第一部隊は後方でアラガミを駆除しつつ、前線基地を守護するのだ。また、撤退ルートの確保もシスイを含めた第一部隊の担当となっている。
神機を持った八人のゴッドイーターたちが遠くで待つマルドゥークを目指して進み始めた。
第一フェイズの開始である。
『ブラッド隊は常に前線を開き、前に進んでもらいます。その時、背後を固められると撤退ルートがなくなってしまうので、第一部隊で抑えてください。シスイさんが粗方のアラガミを掃討し、後に続くコウタさん、エリナさん、エミールさんで残りを始末してください。神機兵は作戦前の大規模メンテナンスを行うために今日は投入されません。気を付けてください』
『ブラッド了解』
「分かりました。僕も可能な限りは掃討しよう」
『はは、シスイも俺たちに任せてくれたっていいんだぜ? 俺たちだって第一部隊だからな』
ブラッド、シスイ、第一部隊は互いに一キロほど離れつつ既定ルートを進んでいく。ブラッド隊が道を開き、シスイが掃除して残りの第一部隊が仕上げをする。まさに三枚刃の構えだ。
ここで重要なのはブラッドであり、手早く道を開く必要がある。そうすれば、ある程度のアラガミが残っていてもシスイたちが確実に始末するからだ。ちなみに、そうして確保したルートを輸送車が通り、キャンプに必要な資材を運ぶことになっている。
『では第一フェイズを開始してください。目標は最終到達点にいるセクメト二体とハガンコンゴウ四体、そしてウコンバサラ三体です』
作戦が実行され、シスイは軽い駆け足でルートを進んでいく。腕輪から発信される位置情報を元にして、端末に表示されたマップを進んでいく。
注意するべきは、戦いに熱中してルートを外れないようにすることだ。ただでさえ、シスイは大きく立ち回って一対多の戦闘をする。そこだけは常にチェックしなければならない。
昨日の時点で周囲は掃討しているので、一時間はアラガミに出くわすこともないだろう。体力的にも余裕があるのか、デバイスではブラッド隊が速度を上げているのを感知していた。ブラッドを示すアイコンがかなりの速度で移動しているので、シスイも引き離されないように足を速める。
「まったく……僕って研究員なハズなのに、なんで前線に出ているんだろうね……」
とても今更なことだ。
極東ではゴッドイーターと研究員という二つの立場を有しているので、色々な場所で引っ張りだこになるのが日常。接触禁忌種の討伐を頼まれたり、データ解析を依頼されたり、他のゴッドイーターからバレット調整を依頼されたりとかなり忙しい。
オラクル細胞による身体能力強化がなければ疲労で倒れていたことだろう。
「ん……? さっそく猫か」
極東の猫ことヴァジュラがやってきたので、シスイはオラクル槍を放って倒す。突き刺さったヴァジュラは体内から槍に食い破られ、一撃で絶命していた。
するとヴァジュラの死体を飛び越えて中型種コンゴウが現れたので、シスイはヴァリアントサイズで薙ぎ払った。続く小型種の群れにはオラクル弾の雨を浴びせ、遅れて到達したボルグ・カムランについては背中に乗って左手による捕食を行う。
生成したアラガミバレットは別の大型種に射出することで、巨大な穴をあける。ボルグ・カムランのアラガミバレットは貫通力が売りなので、直線上に誘い込めば一網打尽だ。
シスイは自分の生まれ持った才能と言える計算能力によって上手に立ち回り、大量のアラガミを相手に無双の強さを繰り広げていた。
時にアラガミの攻撃を利用し、その巨体を盾として活用し、オラクルの弾丸と槍が反撃となって降り注ぐ。接近すれば広範囲攻撃ラウンドファングによってアラガミは上下真っ二つになった。
(サリエルの状態異常攻撃が三秒後、二歩だけ右にずれて槍を射出)
攻撃の予備動作を検知して、回避に移る。ただ、それだけでは鱗粉攻撃の範囲から逃れられないので、同時に槍を放った。するとサリエルは鱗粉を放出すると同時に槍の直撃を受け、範囲が微妙にずれる。これによってシスイは毒鱗粉の散布範囲から逃れた。
そしてその場で回転しつつヴァリアントサイズを振り回し、ハガンコンゴウが率いるコンゴウの群れを一掃する。
遠距離から飛んできたクアドリガのミサイルは左手で捕食して無効化し、逆にアラガミバレットに変えて投げ返してやった。同時にシスイの周囲が巨大な影に覆われる。即座に回避すると、一秒後にラーヴァナが飛び降りて周囲の地面を融解させる。
「あっつー……」
マグマが煮えたぎり、周囲の空気を温めた。そこでシスイはヴァリアントサイズを捕食形態に変えてクアドリガ堕天種に咬みつき、力づくでラーヴァナへと投げ飛ばす。家ほどもある巨大なクアドリガを投げ飛ばしてしまうあたり、シスイも人間やめていた。
(今度はシユウか)
滑空しつつ上空から突撃を仕掛けて来た数体のシユウ。その質量と速度を直接受ければ、ゴッドイーターであってもただでは済まない。だが、シスイはオラクル狙撃弾を左手から放ち、難なく撃ち落とした。頭部を結合崩壊させられたシユウは落下し、大型種に踏みつぶされる。
そんなアラガミ同士の潰し合いもあり、かなり数は減ってきた。
「あとは十体ほどか。それぐらいならコウタたちに任せても大丈夫かな?」
アラガミの群れを始末している間にブラッドはかなり先まで進んでいる。少し急がなければブラッド隊が孤立してしまうだろう。丁度ヒバリからも連絡が入ってきた。
『シスイさん。そろそろ先へと行ってください』
「分かりました」
残りのアラガミは無視してシスイは先へと急ぐ。かなりの数を倒したので暫くはアラガミを見かけることもなかったが、次第に小型種が集まり始めていた。
相手にするのも面倒なので、走りながらオラクル弾を飛ばして始末する。十分ほど走ると、ブラッド隊の開けた戦端を閉ざそうとしえて左右から迫るアラガミの群れを発見した。これを始末して安全を確保するのが第一部隊の役目である。
今度は小型種が多く、特にドレッドパイクは緑色の波となって押し寄せて来た。ドレッドパイクというアラガミは蟲の形状をしているので、これだけの数が集まると気持ち悪い。
シスイは即座に薙ぎ払った。
「気持ち悪!? オラクル充填収束、高速分裂、下方向に順次射出!」
大量のオラクルを集めて巨大な球体を作り、それをドレッドパイクの群れの中央付近へと放った。巨大オラクル球は高速分裂して大量のオラクル弾となり、雨のようにドレッドパイクへと降り注ぐ。雑魚のアラガミは一撃で仕留める威力であるため、あっという間に勝負はついた。
すると地面まで抉られたからか、潜っていたコクーンメイデンまで息絶えてぐったりしていた。棚から牡丹餅である。
ブラッド隊が先にアラガミを幾らか倒していったので、空気中には大量のオラクルが漂っている。シスイにとっては武器がその辺に転がっているようなものだった。
「さて、これでドレッドパイクも打ち止めかな? ちらほらとオウガテイルもいるみたいだし、後は走りながらでいいか」
そう言って再び小走りになり、オラクル弾を撃ちながら戦場を駆けていく。途中で何度もアラガミの群れを倒すことになったが、三時間後にはキャンプ予定となる第二ポイントへと辿り着いた。第一ポイントである簡易基地からは直線距離で四キロほど。ただ、途中のルートは地形などの関係で曲がりくねっているので、実際の移動距離は六キロほどだろう。
ともかく、その日の進行は終了したのだった。
◆◆◆
キャンプ地では、輸送車が来る前にアラガミの掃除が行われていた。一定範囲のアラガミを殲滅しなければ満足に眠ることも出来ないので、当然の措置である。
ブラッドは第一部隊と合流した後も二時間はキャンプ地の整備に追われ、クタクタになりながらその日を終えることになった。
これが後七日は続くので、帰りを含めれば二週間。
初日からかなりハードなスケジュールである。
流石のブラッド隊も神機を握ったまま地面に寝転がっていた。シエルとギルバートは神機を支えにして座った状態を保っているが、ベッドがあればすぐにでも眠れるほど疲れていた。
「くっそー。多すぎだろ。今日だけで百はいったぞ」
「事前情報では最低でも千体以上いるという話でしたからね。これでもアラガミが少ないルートなのだそうですよ」
「嘘でしょー……私、疲れちゃったよ。おでんパンは輸送車に積んじゃったからまだこないし……」
「明日からは神機兵も来るから少しは楽になるだろうさ」
ヒカル、シエル、ナナ、ギルバートは順に愚痴を漏らしていく。本当ならば神機兵による戦力の補助をするはずだったのだが、二週間にも及ぶ連続稼働に備えてメンテナンスを行うことになったのだ。以前のように急に停止されても困るので、文句は言えない。
また、作戦自体も迅速さが求められている。事前に割り出したマルドゥークまでの最短ルートも、アラガミが移動することによって変更することになりかねないからだ。綿密な作戦を立てた以上、状況が変わる前に遂行しなければならない。
その結果がこれだった。
「輸送車が来るのはいつだよ……」
「予定では二十分後ですね」
「まだ休めそうにねぇなぁ」
ヒカルは動き回る戦闘をするので、体力的にはかなりキツイ。連戦だったので体力配分には気を付けていたが、それでも流石に限界だった。
そこへ同じく周囲のアラガミを始末していたシスイ以外の第一部隊も合流する。
「お、ブラッドは先に終わったみたいだな」
「コウタさんか。流石にバテバテだけどな」
「ははは。すっかりくたばっちまったなヒカル」
コウタはまだ余裕だったが、エリナとエミールは限界だったのか、その場で倒れて大の字になる。後方支援がメインのコウタと異なり、二人は常に前に出ているのだ。疲労度合いが高くなるのは当然である。
ヒカルはそう言えば……と言いながらコウタに向かって尋ねた。
「シスイさんは?」
「アイツならまだアラガミと戦っているぞ。実は輸送車のルート上にハグレの大型種が出て来たらしくて、そっちに行ったんだ」
「うわ……よく体力が続くな……ここまで来るときも一人で戦っていたのに」
「アイツは特別だよ。ユウの奴と同じタイプだ」
「あー、なるほど」
世界に名を馳せる神薙ユウと比較できるのがシスイである。そう言われれば納得だった。また、シスイのもつヴァリアントサイズという刀身は味方を巻き込みやすい武器でもある。だからこそ、一対多という状況は強い。
下手に味方と組ませる方が効率も悪くなるほどだった。
七人が休憩しながら輸送車を待っていると、大型のトラックがやってきた。すぐに皆もアレが輸送車だと気付く。
「ようやくかよ……」
ヒカルは溜息を吐きながら立ち上がり、到着を待つ。
悪路で土煙を上げながら輸送車は到着し、中からスタッフが現れた。各スタッフはヒカルたちに敬礼してから作業へと移っていく。
そしてシスイも輸送車に乗っていたらしく、一緒に出て来たのだった。
「お疲れ……なんか疲れ果てているみたいだね」
「いや、何で一番働いているシスイが元気なんだよ」
「そういうコウタも元気じゃないか」
「俺は後方からバレット撃つだけだからな。他の奴よりは元気なんだよ。それに対してシスイは一人でアラガミの群れを倒した上に、輸送車の護送もやったんだろ? 有り得ねぇって」
「まぁ、輸送車の護送は成り行きだったんだけどね。ヒバリさんにルート上に現れたデミウルゴスを始末して欲しいって言われたからだよ。やっぱ防御力が高いと中々倒せなくてね。倒した頃に輸送車が来たから、折角なんで乗せて来てもらったって訳さ」
いかにも大したことのないように語るシスイだが、その仕事量は想像を絶する。一般的なゴッドイーターでは到底不可能なほど働いていた。
勿論、シスイにも疲労はある。
しかし、倒れるほどでもないのだ。これがオラクル細胞含有量の違いである。オラクル細胞の保有率や適合率が高いほど、人間離れした能力を得ていく。こうして疲れも見せずにいるのはある意味、化け物である証拠だった。
だが、それは肉体の話。
シスイは心まで化け物になったつもりなどない。自分を化け物だと認めていたソーマと異なり、シスイは常に人間であろうとした。その力が無暗に振るわれることはない。
何故なら、本業は研究者だからである。
「じゃあ、僕が神機のメンテナンスをしておくよ。本職ほどじゃないけど、それなりの心得はあるからね」
今回の作戦では人員削減のために神機のメンテナンス要員を数人しか連れて来ていない。理由はシスイもメンテナンスを担当するからだった。
これでもリッカの作業を手伝うことがあるので、意外と手際が良いのである。
そこにギルバートも手を挙げた。
「俺も手伝わせて貰う。リッカから幾らか教わってな。助手ぐらいなら出来るぞ」
「体力的に大丈夫?」
「それぐらいなら問題ねぇよ。戦闘ならともかくな」
「分かった頼むよ。じゃあ、神機調整は早めにしておきたいし、提出しておいてくれ。僕とギルは先に行っておくから」
作戦の一日目。
第一フェイズは無事に終了したのだった。