本来の任務、シユウ討伐へと戻ったシスイとアリサは、周囲を警戒しつつ探索していた。アラガミは常に移動しているので、観測班がアラガミを発見してから、討伐部隊が出動するまでにどうしても場所を変えてしまう。
こうした索敵スキルも第一部隊には必須だった。
しばらく歩くと、足音が聞こえて二人は歩みを止める。ゴッドイーターとしての鋭敏な感覚が何かを捉えたのだ。足音の重さを考えれば、リンドウとユウではないだろう。恐らくは小型のアラガミだ。
シスイとアリサは目を合わせて頷き合い、足音が聞こえた方へと近づいていく。物陰を移動しながら、先手を取るべく発見を急いだ。
「居ました。オウガテイルですね」
「五体か……周囲に他のアラガミは居そうかなヒバリさん?」
『レーダーには特に。中型種も大型種も反応ありません』
「了解。なら、片付けておこう。僕が飛び出るから援護宜しく」
「ふん。旧型に期待なんてしていませんよ」
「わぁ辛辣」
そう言いつつ、シスイは物陰から飛び出してヴァリアントサイズを構える。そして開咬して横向きに薙ぎ払い、オウガテイルを三体同時に両断した。シスイに気付いた残り二体が針を飛ばそうとするが、アリサが銃形態にしてオラクル弾を発射し、牽制する。
そしてオウガテイルが怯んだ隙に、もう一度ヴァリアントサイズを開咬して薙ぎ払った。
このラウンドファングと呼ばれる技によって、オウガテイル二体は絶命する。
シスイが始末したオウガテイルのコアを捕喰していると、アリサが近寄ってきた。
「旧型なりの仕事は出来るようですね」
「まぁ、第一部隊だからね。それに僕は元々、本部の特殊部隊に所属していたし」
「なるほど。それなら納得ですね」
「少しは見直してくれた?」
「私の足は引っ張らないとだけ理解しました」
相変わらず見下した口調だが、少しでも仲良くなれたことでシスイはホッとする。彼の本職はゴッドイーターではなく研究なので、データ収集元となる新型神機使いとは仲良くしたいのだ。
折角なので、ここでもう少し踏み込むことにする。
「ところでアリサ」
「何です?」
「僕の本業は新型神機の研究なんだ。今度でいいからデータ取らせてくれない? ユウ君は既に何度か協力して貰っているんだけど」
「それで私に何のメリットが?」
「メリットしかないと思うよ? 新型神機のメンテナンスは確立されているとは言い切れないし、形態切り替え機能なんかのチューニングにも役立つはずだよ。つまり、純粋な戦力アップが望めるってことさ」
「ふん。それならいいですよ。精々、役に立ててください」
流石のアリサも神機に整備が必要なことぐらいは理解している。神機使いがこうして戦えるのは、整備班がキッチリと仕事しているからだ。そして極東に二人しかいない新型神機使いには楠リッカという整備士が当てられている。
シスイはリッカと何度か打ち合わせをしつつ、新型神機の整備方法、改良方法を模索している途中だった。今いるユウの神機も二人のお陰で整備できているのである。
「というか、神機使いの癖に研究もやっているんですか?」
「いや、だから研究が本業だって。元々研究者だったんだけど、神機使いにさせられた。ちなみに、僕が開発した技術も新型神機に使われているんだよ? アラガミバレットの生みの親は僕だからね。リンクバーストもアラガミバレットの応用だし」
「……意外ですね。あなた名前は何て言うんですか?」
「今更……まぁいいや。神崎シスイだよ」
「シスイですか。まぁ、あなたのことは認めてあげましょう」
実際に話してみると打ち解けることが出来たので、シスイとアリサも案外相性が良いのかもしれない。基本的に、シスイは理詰めで話すタイプなので、上手く相手に合わせるのは得意だった。
相手が求める話題を与えれば、相手は納得する。
アリサの場合、シスイに価値があると認めさせるだけの話を提供すれば良かった。
「それじゃ、認めてもらったところでシユウの捜索を再開しますか」
「ええ、そうですね」
そうしてしばらく歩き回っていると、二人は遂にシユウを発見した。目標である二体のシユウが並んで屋根の上に立っていたのである。周囲を警戒するようにしているため、近づくことは難しいだろう。
「居ましたよシスイ」
「取りあえずリンドウさんに連絡しますか。おーいリンドウさん」
『……ん。どうしたシスイか?』
「シユウ二体を発見しましたよ。F地区です」
『了解だ。ユウと一緒に向かうから待っていろ』
「早めに来てくださいね」
通信を終えたシスイがアリサの方を向くと嫌そうな顔をしていた。どうやら、リンドウを待っているのが気に入らないらしい。そして案の定、アリサは文句を言い始めた。
「あんな適当な隊長を待っている意味なんてありませんよ。シユウなら私と貴方で一匹ずつで倒せます」
「いや、出来るだろうけど、このミッションは連携の練習も含まれているからね? アリサと同じ新型のユウ君もいる訳だし、待っていようよ」
「……仕方ないですね。貴方が言うなら待っていますよ」
傲慢な態度を見せるアリサだが、認めた相手の言うことは聞くらしい。ただ、素直じゃないだけだ。あとは人付き合い自体も苦手なのかもしれない。
リンドウたちが来るまで待つと決定すれば、彼女は勝手に行動したりしなかった。
やはり真面目ということだろう。
リンドウたちはすぐにやってきた。
「いやー。スマンね遅れて」
「本当です。私たちより先に出撃しておきながらシユウの発見も出来ないなんて、ハッキリ言って無能なんじゃありませんか?」
「おお、こりゃ手厳しい。ところで雲は見つかったか?」
「っ!? ええ見つかりましたよ! 腹の立つことにコクーンメイデン型の雲が!」
「なんかスマン」
「本当ですよ!」
「まぁまぁ二人とも」
流石にこれ以上騒ぐとシユウに見つかる恐れがあるので、シスイが間に入って止める。その間にユウはシユウを監視していたので、シスイとユウも相性がピッタリなのかもしれない。
というか、シスイと相性が良くない人を見つけることの方が難しいかもしれない。
基本的にシスイは人当たりが良いので、大抵の人に好かれるのだ。
「仕方ありませんね。シスイが言うなら」
「おおう。上官の俺よりもシスイが敬われていると若干傷つくな」
「リンドウさんに傷つくだけの脆弱さがあったなんて驚きですが」
「いつになくシスイが辛辣だ。隊長は悲しいよ」
一通り冗談を言い合ったところで、本来の目的に入る。シユウ二体の討伐ということは、一体に付き二人で当たれるということである。余裕は充分だった。
「んじゃ行くぞ。俺とユウで一匹、シスイとアリサでもう一匹だ。分断してそれぞれ討伐すること。無理そうなら逃げること。いいな?」
『了解』
四人は建物の陰から飛び出し、先程分けた二人チームでシユウを一体ずつ担当する。旧型であるシスイとリンドウは前に飛び出し、新型の二人は銃形態で援護だ。
まずはシスイがヴァリアントサイズを開咬状態にしてシユウ一体を巻き込み、大きく振るって遠くに弾き飛ばす。そしてすぐに吹き飛ばしたシユウを追いかけた。
背中を見せたシスイにもう一体のシユウが飛びかかろうとするが、そこをユウの狙撃弾が狙い撃つ。そして怯んだすきにリンドウが接近し、神機を頭部に叩き込んだ。
「アリサ追撃!」
「任せてください!」
シスイの言葉に応えてアリサはアサルト弾を放つ。連射が強みのアサルト弾によって吹き飛ばされたシユウはその場から動けず、シスイの接近を許してしまった。
「よっと」
ヴァリアントサイズが閃き、シユウの翼が引き裂かれる。両断するまでは至らなかったが、これでは滑空も出来ないだろう。さらにシスイは怯んだシユウを飛び越えつつ頭部を切りつけ、更に着地時には重力を乗せた振り下ろしの二撃目をお見舞いした。
その間、オラクルが切れたアリサは剣形態にして接近する。
シスイがシユウを引き付けている内にアリサが背後へと回り込み、千切れかかっていたシユウの片翼を完全に両断したのだった。
「グオオオオオッ!?」
叫び声を上げてシユウは光弾をを作り出すが、それよりもシスイとアリサの方が速い。前後からタイミングを合わせて順番に残りの翼を切りつけ、両断してしまった。二つの翼を失ったシユウはバランスを崩して倒れてしまう。
それと同時にシスイがシユウの胸を切り裂き、アリサが捕食形態でコアを奪い取って勝負は決まった。
やはり、事前に打ち解けておいたのが功を奏したのだろう。
二人の連携は初めてとは思えないほど有機的に機能していた。
「やりましたねシスイ」
「うん。リンドウさんとユウの方も終わったみたいだ」
見れば丁度リンドウがシユウの首を吹き飛ばして戦いを終わらせたところだった。ユウの方はずっと銃形態で援護に徹していたらしく、スナイパーを構えたまま遠くで立っている。
それを見たアリサは小さく呟いた。
「旧型の割に……やるみたいですね」
その言葉はシスイにも聞こえないまま、贖罪の街の空へと消えていった。
◆◆◆
非常に上手くいった連携訓練だったが、アリサは様々な部隊と問題を起こしていた。交流を深めるために第一部隊意外との任務がアサインされていたのだが、その度に問題を起こしていたのである。
そして今日もシスイとユウとコウタで任務を終えてアナグラへと戻ると、アリサと防衛班のシュンが口論を繰り広げていたのである。
「おいテメェ! 何回も誤射してんじゃねぇ!」
「ふん。貴方が無駄に射線上に入ったんじゃないですか。せめてシスイのように動けるようになってから私と任務に挑んでください」
「んだとコラ!」
「邪魔になる内は旧型同士で遊んでいてください」
「ぶっ飛ばす!」
流石にこれ以上は拙いと判断した周囲がシュンを止めに入ったが、アリサは意も介さずに自室へ戻ろうとしていた。その際、目が合ったシスイにアリサは話しかける。
「任務終わりですかシスイ?」
「ああ、ユウとコウタと一緒にコンゴウを四体ほどね」
「まぁ、貴方のことですからユウの足は引っ張らなかったでしょう。コウタはともかく」
「なんだよ俺はともかくって!」
「あなたは前も接近しすぎてユウに助けられていたでしょう」
「うっ……」
少し前にグボログボロを討伐したとき、コウタは前に出過ぎてターゲットされてしまったことがあった。狙われたコウタを庇ってユウが怪我をしたので、強くは言い返せないのである。
そしてシスイが新型神機使いのデータと取っている関係で、ユウとアリサは一緒にシスイの研究室に来ることが多くなった。シスイという仲介もあって、ユウとアリサの仲は割と良好なのである。
元々、ユウは新型神機使いなのでアリサ自身もユウについてはそれほど見下していなかったということもあった。
最後に鼻で笑って去っていくアリサに何も言い返せず肩を落とすコウタ。
流石にユウが慰める。
「まぁ気にするなって。いずれはサクヤさんみたいな銃使いになれるさ」
「そう思うかユウ?」
「大丈夫大丈夫。なぁシスイ」
「まぁユウ君が言うなら大丈夫でしょ。というか、バカラリーの癖に落ち込むとか何様」
「シスイが辛辣!?」
「それはいつも通りだな。諦めろコウタ」
コウタは慰めるより弄ってやる方が元気になる。
基本的にはお調子者キャラなので、そこを立ててやればいつも通りだ。
それよりも、やはり問題はアリサである。
「一応フォローはしておくか。僕がアリサにちょっと文句言ってくるよ。ユウ君はシュンさんたちにフォローよろしくね。無理そうならリンドウさんを適当に引っ張って行けば大丈夫でしょ」
「分かった。コウタはさっきのミッションを後処理しておいて」
「いいぜ。それぐらいはやっておくよ」
「前みたいな報告書はダメだよ? 『ヴァジュラが乱入して来てマジやばかった』とか今どきの小学生の作文でも見かけない酷さだったし」
「ぜ、善処します」
アリサのせいで険悪になるアナグラをシスイとユウでフォローする構図が出来上がり、リンドウからは隊長よりも隊長らしいことをしているなどという言葉を頂くことになる。
それを聞いたシスイとユウは無言で腹パンを叩き込み、リンドウは五分ほど悶絶するのだった。
◆◆◆
アリサのフォローを続けたり、新型神機使いのデータ収集をしたり、榊博士と相談したり、リッカとヴァリアントサイズの改良をしたりと、アナグラでの生活を続けていたある日。
シスイはヨハネスに呼び出され、支部長室に来ていた。
「神崎シスイ。久しぶりの特務だよ」
「久しぶりと言っても一週間前に受けたばかりですけどね」
「それもそうか。今回の相手は第一種接触禁忌種スサノオだ。奴のコアを採取して欲しい。観測班によると愚者の空母で二体も見かけたらしくてね。可能なら二つとも欲しいが、最低でも片方は確実に回収して欲しい。やってくれるね?」
「僕だけですか?」
「ああ、特務の間、リンドウは別任務だ。ソーマも同様だね」
神機使いの天敵とも呼ばれるスサノオは、気性の荒さと攻撃の凄まじさから第一種接触禁忌種として指定されている。極東で知られた百田ゲンという神機使いも、スサノオとの戦いによって負傷し、神機使いを引退することになったのだ。
それが同時に二体である。
通常なら一人で達成など不可能な任務だ。
しかし、シスイは頷きながら答える。
「分かりました。やります」
「そうか。では頼む」
シスイは支部長室を出て区画移動エレベーターに乗り、エントランスへと移動する。そしてオペレーターのヒバリの元へと行き、特務を受注した。
「シスイさん。スサノオ二体の討伐です。気を付けてくださいね」
「分かった。ちなみにリンドウさんやソーマは?」
「リンドウさんはアリサさんとの任務がアサインされていますね。ソーマさんはユウさん、サクヤさん、コウタさんと共にヴァジュラ討伐です……ってあれ? 二チームとも贖罪の街……同じ場所での任務がアサインされているみたいですね。普通は一チームにつき一地区なんですが……」
「みんな第一部隊だし、いいんじゃないかな?」
「そういうわけでもないんですが。一応、後で確認してみましょう。既に皆さん出撃していますから」
「そうだね。まぁあの人たちに限って何かあるとは思えないし心配しても無駄かな」
「そうですよ。それよりシスイさんこそ気を付けてくださいね」
「うん。行ってくる」
シスイはそう言って出撃ゲートへと向かい、途中で神機を受け取って愚者の空母へと向かう。遠くにはエイジス島が見えることで有名だ。中がどうなっているのかまでは見えないが、着々と建設が進んでいるということは知らされている。
この特務も、エイジス計画に利用されるコアということでヨハネスから依頼されていた。
ヘリに乗って移動し、シスイは愚者の空母へと降り立つ。
見晴らしの良いこのフィールドではアラガミも発見しやすく、少し離れた場所でスサノオ二体が何かを捕食しているのが見えた。
(んじゃ。久しぶりに本気で戦おうかな)
シスイは両腕の包帯を外し、皮手袋を取って腰のバッグに仕舞う。両腕には黒い鱗のようなオラクル細胞がびっしりと張り付いており、日光に照らされて不気味に輝いていた。
足音を消してスサノオに近づいていき、軽く飛んで片方のスサノオの背へと着地する。
「ウオオオオッ!」
背中に異物が乗ったことでスサノオはシスイに気付き、振り落とそうとした。だが、それよりも先にシスイが左手をスサノオの背中に当てる。
「喰らえ」
安定していた左腕のオラクル細胞がシスイの命令によって励起し、スサノオのオラクル細胞をゴッソリと捕喰する。背中に大穴を開けられたスサノオはビクンと震えたが、まだ死んではいなかった。
スサノオは激しく暴れてシスイを振り落とそうとし、もう一体のスサノオもシスイに光弾を飛ばそうとして神機を構える。ボルグ・カムランの盾に当たる部分が、スサノオでは神機になっており、そこからオラクル弾を発射することが出来るのだ。銃形態の神機と同じ能力である。さらに尻尾は剣形態の神機と同じで、尾による攻撃を喰らえば、かなりの大ダメージなること間違いなかった。
シスイは偏食因子によって強化されている肉体を使い、大きく跳びあがる。
そしてもう一体の放った光弾を回避した上で、左腕を二体のスサノオに向けた。
「アラガミバレット射出」
左腕から無数のオラクル弾が発射され、雨のように降り注ぐ。神属性のオラクルエネルギーが空母と二体のスサノオを蹂躙し尽くした。
そしてシスイが着地するころには、結合崩壊を起こしたスサノオが二体、横たわっているだけとなる。ダウンしている今がトドメのチャンスだ。
「こ・れ・で……どうだっ!」
シスイはヴァリアントサイズを最大まで伸ばし、バーティカルファングによって上から下へと咬刃を叩き付ける。そしてそのまま力の限り引き寄せ、クリーブファングによってスサノオ二体を同時に両断した。
アラガミバレットが無ければここまで簡単ではなかっただろうが、シスイにはそれがある。
対象を捕食することで、逆算から抗体を作り出し、捕喰時のオラクルをエネルギーとして発射するアラガミバレットは、あらゆるアラガミに対して有効となり得る攻撃だ。例え接触禁忌種が相手でも同様である。
力尽きたスサノオ二体からコアを回収し、シスイはヒバリに連絡を入れる。
「ヒバリさん。こっちは終わったよ」
『……』
「ヒバリさん?」
『…………』
「ヒバリさん! どうかしたの? 何があった!」
『……すみませんシスイさん。トラブルがあり、他の地区からの通信に出られませんでした』
「どうかした? 取りあえず任務は完了したけど」
『お疲れ様です。それで問題ですが……』
ヒバリはどこか言いにくそうに、間を開ける。シスイとしては何があったのかすぐにでも聞きたかったが、それを我慢して次の言葉を待った。
『…………第一部隊の皆さんが大怪我をして帰還しました。そして隊長であるリンドウさんは行方不明となっています』
「………………は?」
それは余りにも衝撃的な内容だった。