本業は研究者なんだけど   作:NANSAN

7 / 39
EP7 大侵攻の裏

 

「集合フェロモンの実験は半分成功、半分失敗といったところだ。あれは現状で使えば、余りにも効果が高すぎる。呼び寄せるアラガミも強力なものばかりだ。また、この辺りには生息していないはずのヤクシャ、ヤクシャ・ラージャ、さらにウロヴォロスまで呼び寄せてしまっている」

『ふむ。それは問題だ。だが今はどうでもいい。雨宮リンドウと神崎シスイは始末できたのか?』

「雨宮リンドウは恐らく。死体の確認が出来ない以上、絶対ではないがね。ただし、神崎シスイは怪我もなく帰ってきたよ」

『ちっ……化け物め』

「一人でアラガミの群れに放り込んだのが悪かったのかもしれないな。どうやら力を使ったらしい。奴はアラガミ化の力を隠すつもりはないようだが、誰彼構わず見せたりもしない」

 

 

 支部長室にて、ヨハネス・フォン・シックザールは誰かと通信をしていた。テレビ電話の画面には『unkown』と表示されており、声だけが聞こえている。

 だが、その内容は実に怪しいものだった。

 

 

「それと大車ダイゴは失敗したようだ。ボロを出す前にこちらで始末する」

『構わん。あの程度の奴なら幾らでも替えは効く』

「近いうちにアーク計画も暴かれる可能性がある。ノヴァの完成は急いでいるが、脱出用ロケットの方はどうなっている?」

『千人分の箱舟は既に準備完了している。各地のロケット基地ではいつでも発射できる体制が整っている状況だ』

「ならば、本部でも特異点の捜索を急いで欲しい。私も独自の情報網で探しているが、依然として手掛かりすらない状況だ」

『本当に特異点などいるのか? そもそもが仮説だろう』

「それについては間違いない。ペイラー榊博士も同意見だ」

『それならば信用できるか』

「ノヴァの完成も、今回のアラガミ大侵攻でかなり近づいた。皮肉なことに神崎シスイが活躍してくれたおかげだよ。多数の大型種コアだけでなく、ウロヴォロスのコアも手に入れてくれた」

『ふん、忌々しい!』

 

 

 地球を捕食すると言われるノヴァを人工的に作りだし、終末捕食を制御するアーク計画。ノヴァ完成には大量のコアが必要であり、今回の大侵攻ではかなりの数を確保できた。

 だが、この大侵攻自体が人為的に引き起こされたことだったのである。

 ノヴァの研究をしている内に、ヨハネスは集合フェロモンというものを発見するに至った。これはノヴァが自身を完成させるために、周囲のアラガミを呼び寄せる時に発せられる。ノヴァを制御しているといっても完璧ではないので、偶に漏れ出すのだ。

 このアラガミを呼び寄せる集合フェロモンを調査する意味も込めて、今回の計画は実行されたのである。

 まず、リンドウを殺害するために作戦区域で集合フェロモンの試作品を使用し、特定のアラガミを呼び寄せることに成功した。ただ、予定外の近親種ディアウス・ピターも確認されている事から、完成品には程遠い。更にフェロモンの効果時間も短く、本当に実験品としての意味しかなかった。リンドウ殺害には充分だったが。

 そしてもう一つ、接触禁忌種スサノオの体内に集合フェロモンが撃ち込まれた。それを特務としてシスイに討伐させ、濃密な集合フェロモンをシスイの体に付着させる。大量のアラガミを呼び寄せれば、いくらシスイでも生き残れないと思われたのだ。

 だが、想定外だったのはリンドウの行方不明を受けたシスイがすぐに極東支部へと戻ったことである。

 大量のアラガミが極東支部へと侵攻し、大変な危機に見舞われた。

 シスイに付着させられた集合フェロモンはリンドウに使ったものとは別種で、広範囲に長時間の誘因を可能としていたのである。

 ヨハネスはエリア一つをシスイ一人で担当させるように命令し、戦死させようと図った。シスイが想定以上の力を発揮したせいで、失敗に終わったが。

 

 

『あの化け物はフェンリルの汚点だ。どうにかして始末しろ。だが暗殺はダメだ』

「分かっている。あくまでも事故に見せかける必要があるのだろう?」

『腹立たしいことに、奴は優秀すぎる学者だ。暗殺ではフェンリルが殺害に関与していると公言しているようなものだからな』

 

 

 現代では、社会の基盤はフェンリルが全て担っている。製品の殆どがフェンリル製であり、人員も優秀な者は全てフェンリル職員だ。

 それは裏関係も含まれている。

 シスイを暗殺できるような者がいるとすれば、それは確実にフェンリルの関係者だ。暗殺をする意味が全くない。

 それに、研究者の中で有名な神崎シスイが暗殺されたとなれば、フェンリルに所属している全ての学者に不信を与えることにもなりかねないのだ。シスイの研究が知られ過ぎているからである。

 アラガミバレットをメインとした神機システムの研究では、第一級の名声を持っている。そんなシスイが殺されれば隠し切れないので、握りつぶしも無理だ。

 結局のところ、シスイを殺害するにはアラガミに殺されたというシチュエーションが一番なのである。

 

 

『常に前線に出し続けることを条件に奴を極東に連れていく許可を出したのだ。分かっているなシックザール支部長?』

「勿論だ。だが、奴は先の戦いで神機を破損させたらしい。神機によるコアの採取が出来ない以上、一人で特務に出すことも出来ない」

『貴様の息子がいただろう。奴もアラガミの一種なのだ。一緒に始末してしまえ』

「……いいだろう」

 

 

 ヨハネスは表情を歪めつつ同意する。

 だがそんなことを露と知らない通信相手は、その返事に満足したのか機嫌良さそうに言葉を続けた。

 

 

『次の世界に化け物共は必要ない。我ら人間こそが栄えるのだ。期待しているよヨハネス・フォン・シックザール』

「ああ、ではそろそろ通信を切らせてもらう」

『そうだな。秘匿回戦は長く使うものではない』

 

 

 最後にそう言って通信は切れた。

 その瞬間、ヨハネスは拳を机に叩き付ける。

 ガンッ! と大きな音がして、幾つかの書類がデスクから落ちた。

 

 

「老害どもめ……お前たちこそ次の世界には必要ない。精々、ダミーの搭乗者リストを眺めながら喜んでいるといい。アイーシャが残してくれた宝を失って溜まるか……っ!」

 

 

 誰もいない支部長室で、ヨハネスは何かを決意したかのような表情を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 神機保管庫に隣接している技術室。

 ゴッドイーターたちが使用する神機をメンテナンスしたり、強化したりするこの場所には、多くの工具が揃っている。他にも大量の部品やオラクルのサンプルが置かれ、まさに作業部屋といった風景だった。

 そんな技術室のある作業台の上には、酷く壊れた神機が置かれていた。

 刀身が砕け、制御コアも割れて全体的に罅が走っている。

 素人が見ても修復不可能だと理解できた。

 

 

「それでシスイ君。どうしてこんなに壊れちゃったのかな? 君は神機の学者だよね? 本業はゴッドイーターじゃなくて研究だっていつも言っているよね?」

「はい、その通りでございます」

「そんな君が神機を完全破壊ってどういうことなのかな?」

「いや、これには深い訳が……」

 

 

 そして作業台の側で正座させられたシスイは楠リッカに激怒されていた。神機については妥協しない彼女に完全破壊してしまったシスイのヴァリアントサイズを見られ、こうして呼び出されて怒られていたのである。

 メールでリッカに呼び出された時点で、シスイは何となく予測していた。

 そのため、理由をレポートに纏めて持ってきたのである。

 

 

「こ、これをお納めください」

「何? これは論文……というよりもメモ書きに近いね。レイジバーストシステム? 直訳すると『暴威のバースト機能』かな?」

「捕喰によって神機のオラクルを活性化させるバーストの更に上を目指すシステムなんだ。まだ殆ど構想段階だけど、理論上は可能だと思う」

「なるほどね。神機に掛けられているリミッターを外し、暴走状態にしてオラクルを異常活性させる。それによって神機使用者に凄まじい身体能力を与えるばかりか、神機の攻撃力も比べ物にならないほど上昇するってことだよね?」

「大まかにはそういうこと」

「ただ問題もあるね。リミッターを掛け直すことが出来ない。神機が暴走状態になると、一分も経たないうちに壊れちゃうだろうから、リミッターは必須だよ。君のメモ書きでは、新型神機使いの感応波を利用して再封印するってなっているけど、これ無理だよね?」

「計算上、新型神機使いの感応波では暴走神機に封印を施せるほどの力はないみたいなんだ。補助システムを組み込めば可能性はあるけど、淡い希望なんだよね」

「ふーん。ちょっと興味深いね……で、これと壊れた神機に何の関係が?」

「すみません。意図的に神機を暴走させました」

 

 

 そう言い切ったシスイを見て、リッカはポカンと口を開けたまま驚く。

 言葉を失っているリッカを見て、シスイはそのまま続ける。

 

 

「大型種含む数百体のアラガミに囲まれ、ウロヴォロスまで出て来たもので……研究中ですけどレイジバーストシステムを使えば何とかなると思って使いました。一応、ヒバリさんを通して神機壊れるって伝えましたよね? 取りあえずごめんなさい」

「ちょ、ちょっとシスイ君! 意図的に暴走させたってことは、神機からの侵食も受けたってことだよね? 大丈夫なの!?」

「あ、それは大丈夫」

「一応、メディカルチェックをしておく?」

「大丈夫です! ホントに問題ないですから!」

 

 

 メディカルチェックなどされたら、両腕のアラガミ化は一発で知られることになる。進んで知らせたいことではないので、シスイは全力で遠慮したのだった。

 恐ろしいまでの剣幕で遠慮するシスイに、流石のリッカも少し引く。

 

 

「あ、うん。そうだね。こうして無事に生きている時点で大丈夫だったってことだよね?」

「そうそう! この通り大丈夫だよ」

「本当に気を付けてね? 君が使った力は本当に危険なんだから。といっても、世界に名を馳せる神崎シスイ博士には釈迦に説法ってところかな?」

「勿論、危険なのは分かっている。でも命を天秤にかけるなら危険なこともせざるを得ないさ」

「分かった。今回は不可抗力。だから大目に見てあげるよ」

「ありがとうリッカ」

 

 

 シスイはホッと胸をなでおろし、正座を解いて立ち上がった。足が痺れて一瞬ふら付くが、偏食因子のお陰ですぐに回復する。

 神機完全破壊の件は決着したので、リッカも特に文句は言わなかった。その代わり、作業台に置かれている破損した神機に目を移しつつ口を開く。

 

 

「それにしても派手に壊れたね。私も暴走した神機が壊れるなんて初めて遭遇したよ。ポテンシャルを一瞬で燃やし尽くしたって感じだね」

「レイジバーストシステムの発動時間は五十秒もなかった。でも、たったその程度の時間でウロヴォロス、大型種十体以上、中型種に関しては数十体を倒し切ったからね。神機を代償にした効果と考えれば大した戦果だよ」

「うーん。確かに実用化できれば大きな戦力になるね。神機は安定させてこそだから、意図的に暴走させるなんて思いつきもしなかったよ」

「まぁ、使用法は間違っているからね。安全装置のない神機なんて、野良のアラガミと一緒だよ」

「確かにそうだね。でも、このシステムは私としても興味が沸いたよ。私が個人的に研究しているプロジェクトもあるんだけど、こっちも興味深いね」

「ちなみにリッカは何を研究しているの?」

「リンクサポートデバイスって知っている?」

「聞いたことはあるね。神機を基点として特殊な効果を発動させるシステムだったかな。大きなキャパシティを食うから、余っている神機でしか使えないんだっけ?」

「よく知っているね。私の研究は、リンクサポートデバイスの効果を戦闘中の神機にも発揮させることだよ。元は私のお父さんが研究していたことなんだけどね」

「リンクサポート自体、まだマイナーな分野だよね。ってことは、殆ど独自の研究になるんじゃない?」

「まあね。マイナー過ぎて本部からも研究費が下りないほどだよ。理論上では可能なはずだけど、本部は無理だって判断降しちゃってね。だから私が完成させて見返してやるんだ」

 

 

 同じ技術屋であるシスイとリッカは、専門的な内容すら話が合う。気付けば深く話し込んでいることも珍しくないほどだった。

 レイジバーストシステムとリンクサポートデバイス。

 お互いにマイナーな研究をしている者同士として、親近感すら湧く。

 

 

「リンクサポートデバイスってのも奥が深いね。僕はあまり興味が無かったから詳しく調べたことはなかったけど、神機に新たな可能性が見えた気分だよ」

「それは私もだよ。流石にレイジバーストシステムはぶっ飛び過ぎだけど、感応波による神機制御は私も興味があるかな? これから新型も増えていくだろうし、研究し甲斐があるね!」

「折角なら一緒に研究しない? どうせ、僕は神機が壊れている。やることも研究しかないだろうから、リッカのリンクサポートデバイス開発も手伝えると思うよ?」

「本当に? 正直、一人では限界があるから嬉しいよ。それなら、私もシスイ君の研究を手伝うよ。交換条件だね」

「助かるよ。現場知識が豊富なリッカがいると頼もしいからね」

「あはは。嬉しいこと言ってくれるね」

 

 

 こうして、シスイはしばらくリッカと共に研究することになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 シスイがリッカと研究を始めて数日が立った頃、リンクサポートデバイスについてリッカの技術室で色々と議論を重ねていると、そこへユウがアリサと共にやってきた。もうすぐアリサが復帰する話はシスイも聞いていたので、特に驚かない。

 

 

「二人とも良く来たね。アリサはそろそろ復帰するのか?」

「えっと……はい。その、色々とご迷惑をおかけしました」

「……え? アリサが謝った……!?」

 

 

 随分と失礼な物言いのシスイだが、思うところのあるアリサは胸を抑えてよろめく。どうやら言葉の刃が胸を抉ったらしい。あの高慢な態度は、彼女の中でも完全に黒歴史と化していた。

 そんなアリサの様子に苦笑しつつ、ユウが捕捉する。

 

 

「色々あってね。感応現象のお陰もあって、随分と落ち着いたみたいだ」

「はい……ユウのお陰で何だが目を覚ますことが出来ました。シスイも私が倒れている間に神機を失うほどの戦いがあったそうですね。役に立てなくてすみません」

「アリサがしおらしく見えると何だか新鮮だ……」

 

 

 この変化にはリッカも驚いているらしく、先程から一言も喋らない。それほどにアリサの変化は衝撃的だったのだ。

 まだ少し戸惑っているシスイとリッカにユウがここにやってきた訳を語りだした。

 

 

「シスイ。明日からアリサが復帰することになるからメディカルチェックをお願い。先にシスイの研究室に行ったんだけど居なかったみたいだから」

「ああ、最近はリッカと色々してたからね。分かった。今日の夕方四時からでどうかな?」

「なら、それまではロビーで暇つぶしでもしようか。アリサはその時間で良い?」

「あ、はい……大丈夫です。よろしくお願いします」

「ホントに同一人物だよねユウ君?」

「それは俺が保証する」

 

 

 本当に疑っているわけではないが、以前とのギャップが激しすぎて違和感が凄い。

 何だか調子が狂う。

 まさにそんな状況だった。

 ただ、いつまで茫然としているわけにはいかない。新たな仕事を得たシスイは、メディカルチェックの準備をするために研究室に戻ることにする。

 

 

「悪いけど今日はここまでだねリッカ」

「いいよ。どうせ、私も仕事の合間にしているだけだから。それに、私もアリサさんの神機を調整しないといけないからね。シスイ君も仕事頑張ってね」

「リッカこそ」

 

 

 シスイはそう言って広げていた資料などをまとめ、一通りの片づけをしてから技術室を出る。その際にユウとアリサも伴い、帰り道を歩いていた。途中までは帰り路が一緒なので、暫くは三人であることになる。

 そんな中、ユウがふとシスイに尋ねた。

 

 

「前から思っていたけど、シスイってリッカさんと仲いいよね」

「まぁ、ちょっと約束事をしてね。お互いの研究を助け合うことになったんだよ」

「ああ、本業は研究だもんな」

「その通り」

 

 

 大侵攻で血塗れとなったシスイの白衣は、既に新調されている。やはり白衣があると研究者っぽい見た目になるのは固定観念の一つだろう。逆に、その姿で戦場に出ると違和感が凄いのだが。

 

 

「早く僕が戦場に出なくてもいい世の中にしてくれ」

「いや、俺よりもシスイの方が強いだろ」

「今は神機が無いからユウ君の方が強いでしょ」

「いや、神機ない状態で比べてどうするんだよ。ウロヴォロスを含めたアラガミの大軍を殲滅してしまうシスイは色々おかしい。その強さで何で研究者なんだ……?」

「そっちの方が好きだから。それに父さんが学者だったからね」

「ふーん?」

 

 

 そんなことを話している内に、区画移動エレベータに到達する。ユウとアリサはロビーへと向かい、シスイはこのまま廊下を歩いて自分の研究室へと向かう。

 つまりここでお別れだった。

 

 

「じゃあ後でね。四時に僕の研究室だよアリサ?」

「あ……はい」

「ユウ君もアリサの側についてやってね」

「分かっている。じゃあ」

 

 

 そう言ってユウとアリサは区画移動エレベータに乗って移動していく。

 それを見送った後、シスイは自分の研究室に足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。