僕のヒーローアカデミア PLUS ウルトラマン   作:リューイ

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15話です。

タイトルは(文句だけは美しいけど)ですがジャミラは出てきません。
少し紛らわしかったですかね。すいません。


第15話 文句だけは美しいけど

 バキッ

 何かが壊れる音がした。

 その音がした方向には体中に刃物を装備した男が立っていた。

 男は血の様に赤いマフラーとヘアバンドをしてフロテクターを着こみ、使い古した包帯を巻き目元を隠した姿で路地裏に立ち、その手には壊れた携帯端末が握られていた。

 音の正体は男が携帯を握り潰した時の音だったようだ。

 

 このいかにも怪しい男はステイン、ヒーロー殺しとして、昨今悪名をとどろかせるヴィランである。

 

 ステインはその日、偶然ある情報をネットの中の書き込みに見つける。

 その内容ヒーローがヴィランと通じスパイとなっていたと言う物で、ヒーロー原理主義のステインにとってはとても許せるものではなかったのだろう。

 

 ステインは走り出す、科学特捜隊のある街へ。

 そのスピードは怒りがあふれ抑えられないのかどんどん速くなる。

 ビルの屋上から屋上へ、あるいは誰もいない路地裏を、ステインは街の影を縫う様に進んでいく。

 

 ステインの居た場所から科学特捜隊の事務所がある街まではそう遠くはなく、すぐにたどり着いた。

 

 科学特捜隊の事務所がある街に着いたステインは、己のこれまでの警察やヒーローから身を隠していた経験から探してく。

 

 「見つけた。」

 

 ステインは狩るべき粛清対象を見つけ微笑んだ。

 これでまた一歩正しき社会へと近づけると。

 

 

 

 

 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 暴徒化した民衆から何とか逃げ延びた信とキヨシはさびれた社で体を休めている。

 キヨシは死んでしまったペットのエレジアの事を思い涙が止まらぬ様子でずっと塞ぎこんでいる。

 一方、信は何とか誤解を解かなければいけないと考えていたが妙案は浮かばず頭を抱えていた。

 

 「そうだ!!」

 

 信は何か思いついたのかそれとも誰かに助けを求めようとしているのか携帯を取り出し電話をかけようとしていた。

 そんな時、信は今までに感じたことのないほどの怖気を感じる。

 そしてそれと同時に何かが自分に向かい飛んでくる風切り音が聞こえた。

 とっさに信は手に持っていた携帯でその飛翔体を受け止める。

 受け止めた携帯を見ると深々とナイフが刺さっていた。

 信が携帯で受け止めていなければどうなっていたかそれ程に鋭いナイフだった。

 

 信は見つかってしまったのかとナイフが飛んできた方向を見るとそこには目元を使い古した包帯を巻き隠している怪しい男、ステインがいる。

 

 「誰だ!!」

 

 信がステインに何者かを問うとステインはゆっくり信たちに近づきながらこう言った。

 

 「俺は、お前の様な偽物を粛清する者だ。」

 

 名前も名乗らぬステインの姿は如何見てもヴィランだ、しかし姿で人を判断してはいけないと言う事を、身をもって味わっている信は、先ほどの信をヴィランスパイだと思ったヒーローが言いそうな発言も相俟ってステインの事をどう判断すべきか決めかねていた。

 

 「待ってくれ、話を聞いてほしい。」

 

 ステインは信の制止など聞く耳を待たず背中の刀を抜き放ち信に切りかかる。

 

 それには信も迎撃せずにはいられず、手にしていた携帯を投げ捨て、懐に入れていた伸縮式警棒を取り出しステインの刀をはじく。

 だがそれで止まるステインではなかった。

 彼ははじかれた刀から片手を離し、空いた手で腰に装備しているコンバットナイフを逆手に握り信に向かい横一文字に振りぬいた。

 信はその一撃も後ろに飛び距離を取りかわす。

 しかしステインの一連の動きにはよどみがなく正面からの一撃が防がれるなど想定済みだったことがわかる。

 だがそれだけじゃないのだろう、きっとそれ以外も様々な事態を想定して一瞬の停滞もなく動けるようにしていたのだ。

 それだけでもステインの戦闘経験の豊富さと並外れた修練の跡がうかがえる。

 

 信はステインに改めて強者のにおいを感じた。

 いつでも動けるようにステインに集中し警棒を持つ右手を前にやや半身に構える。

 それに対しステインは右手に刀を握り、左手のコンバットナイフは逆手から順手に持ち替え信を睨みつけている。

 

 二度目の攻防もまた、ステインから動き始めた。

 

 ステインは信に向かい左手に持つナイフを投げると同時に距離をつめる。

 

 ナイフを信が警棒を振り下ろしはじき落とすと、その隙にステインは刀の間合いに信を捉え上段から一気に刀を振り下ろした。

 

 (まずい!!)

 

 信は今、警棒を振り下ろしていたので重心が前にあり後ろに避ける事も警棒を上げて受け止める事も難しかった。

 とっさにそれを悟った信は重心が前にあることを利用しそのままステインの左側を前回り受け身の要領ですり抜け立ち上がる。

 

 期せずしてステインの後ろをとれた信は警棒でステインの背中を殴打しようとしたがそれを察したステインの後ろ蹴りが信の腹部に決まる。

 しかし信もそれに反応し後ろに飛ぶことでダメージを最小限にした。

 

 たった二回の攻防だったがステインも信が弱くないことが分かった様だった。

 

 ステインはまたナイフを太ももに装備した鞘から取り出す。

 

 信はまた投げてくるのかと警戒している。

 

 ステインはナイフを投げる。

 

 しかしナイフは信に向かってではなくキヨシに向かって投げられたのだった。

 

 キヨシはナイフが飛んできているのに一向に動かない。

 幼い心に大きな恐怖と悲しみが一斉に押し寄せてきたせいで涙も枯れ、動く気力すらなかったからだ。

 だがそんなことを知る由もないステインは信が弱くないと悟るやいなや二人でかかってこられては厄介だと思いキヨシを攻撃したのだろう。

 ナイフは容赦なくキヨシへと突き進む。

 キヨシにあと少しで到達してしまうと言う所でナイフは飛んできた別の物にはじかれ軌道がそれキヨシには当たらなかった。

 

 ナイフを弾いた物、それは信の警棒だった。

 信はステインがナイフの投擲のモーションでナイフが自分に向かい投げられるのではないと予測し、ステインがナイフを投げると同時に自分の唯一の武器である警棒を投げていたのである。

 

 「いい加減にしろ!! その子はヴィランじゃない!!」

 

 そんな言葉がステインに対し口をついて出たのはやはり信もキヨシと一緒に追い立てられて精神的に疲弊していたからだろう。

 

 だがその信の怒りの感情がステインに一抹の疑念を抱かせる。

 ステインは己に芽生えた疑念を払拭するために信が間に合うか合わないかギリギリの速度でキヨシに切りかかった。

 

 それを見た信はキヨシのもとに駆けだした、そしてそれと同時にウルトラ念力で飛んでいった警棒を手元引き寄せた。

 ステインの刀がキヨシに届く直前、信はキヨシとステインの間に割り込み警棒で刀を受け止める。

 それはステインの予想よりわずかに早かった。

 

 「なぜそれほどそいつを守る?」

 

 「キヨシがヴィランでないと信じているからだ。」

 

 「だがヒーローは民衆を守る物だろう、大勢の者がそいつをヴィランだと言い、消えることを望んでいる。 その通りにしてやれば名声が容易く手に入るものを、今のお前はヴィランの一味と言われて追いかけられている。それでいいのか?」

 

 「かまわない! 名声なんてどうでもいい、ここでキヨシを守れなければヒーローなんて肩書き、何の意味もない!!」

 

 ステインの問いに信はそう叫び返し、力任せにステインの刀を押し返す。

 

 押し返されるまま後方に飛び下がったステインの目にはすでに怒りの感情はなかった。

 

 (ヒーローと言う名を求めぬからこそヒーローらしい精神を持ちうるとは皮肉なことだな)

 

 そんな事を思いながらステインは刀を収める。

 

 「どうやら、お前たちは俺の粛清対象ではなかったようだ。 今回は見逃す。だが憶えておけ、ぶつかり合えば弱い者が淘汰される。 ヒーローであるならば強く在れ。」

 

 ステインはそう言うと投擲用のナイフを二本、太もものホルダーから抜き信へと投げる。

 信がそのナイフを打ち払う間にステインはその場から動き出し、信が再びステインの目を向けるころには完全にその姿を消していた。

 

 信はステインがいないことに戸惑いながらも周囲を確認し、完全にステインがいなくなったと確信すると、深呼吸するように大きく息を吐きステインとの戦闘で緊張しきった精神を解きほぐす。

 

 「あっあの……」

 

 信は自分に向けられたしわがれた声に気づきその声の主であるキヨシの方に行く。

 

 「ありがとう、信じてるって言ってもらえてうれしかった。」

 

 キヨシは先ほどのステインと信の会話を沈んだ心の奥底でしっかり聞いていたのである。

 そして信の思いに触れ少し元気を取り戻していた。

 

 信はキヨシの感謝の言葉を聞き苦労が報われたように感じほっと一息つく。

 

 「どういたしまして。」

 

 だが気を抜いてばかりはいられない。これからの事を考え信は科学特捜隊と児童相談所に連絡を入れておこうと携帯を探すが見つからない。

 

 「そうだ、携帯はナイフを受け止めて壊れたんだった。」

 

 信は携帯を捨てた方を見ると見事にナイフが刺さった携帯が転がっていた。

 

 如何したものかと信が思案しているとキヨシが

 「エレジアのお墓を作ってあげたい。」

 と言い出した。

 

 信もキヨシのペットのオウムは彼にとって最後の家族同然だったことを思い出し、キヨシがそうせずにはいられないことは容易に想像できるし、最初にいた場所に戻ることによって信たちを追いかけてくるものたちの裏をかける、それに最初に連絡した児童相談所の人間がやってきているかもしてない。

 そんな思惑もあり信は一旦キヨシと出会った廃屋に戻ることにした。

 

 「わかった。じゃぁ一旦エレジアの所に戻ろう。」

 

 そうして信とキヨシが廃屋に戻る為に社を出ようとした時、唐突に何の脈絡もなく街に一条の雷が落ちる。

 雷が落ちたのは信とキヨシが出会った廃屋の様だった。

 信が雷の落ちた廃屋の方を見ると突如として緑の頭と赤い翼をもつ怪鳥が現れた。

 

 現れた怪鳥はその数十メートルはある体を生かし周りの建物を踏み潰したり火を噴いたりと街を履かし始める。

 その様子はまるで激しい怒りに我を忘れているかのようで無差別に見えるものを手当たり次第に破壊している様だった。

 

 「あの怪獣はエレジアだよ!」

 

 そんな中キヨシがあの怪鳥はエレジアだと言い始める。

 しかしそんな事は流石に信もすぐには信じる事が出来なかった。

 だがあの怪鳥はキヨシの言う通りエレジアだったのである。

 廃屋で死んだエレジアの怨みが雷のエネルギーを吸収してオウムの体を怪鳥と変化させたのだった。

 

 「キヨシにはあれがエレジアに見えるのか?」

 

 「そうだよ、あれはエレジアだよ。エレジアが悲しくて泣いているんだ。」

 

 そう言われてみればそうなのかもしれないと信は考え始めていた。

 なぜならば信はエレジアがキヨシを虐げてきたものたちへの怒りに悶えているように感じたからだ。

 

 「エレジアを助けてあげて! 死んでも何かを恨んであんなに苦しんでるなんてかわいそうだよ。」

 

 キヨシは子供特有の直観でなのか信がエレジアを救う事ができる者だと分かっているのか信に必死に願う。

 だが信は頷くことができない。それは今の信の心の中にはある意味エレジアと似た感情があるからだ。

 いま信の心にはキヨシを虐げるものたちへの怒りが燻っている。

 そんな状態ではエレジアを斃すことはできても到底、救う事は出来ない。

 

 だけど信もエレジアを救いたいという気持ちはある。そこで信はキヨシに力を借りることにした。

 

 「キヨシ、俺だけの力じゃエレジアは救えない。 キヨシの力を貸してくれ。」

 

 そう言って信はキヨシの正面に立つ

 

 「どうすればいいの?」

 「手を出してくれ。」

 

 キヨシは信に言われるままに左手を信の前にだす。

 出された手を信は握りしめ目を閉じ深呼吸してキヨシの心を感じようとしている。

 

 (あったかいな。)

 

 キヨシの左手はとても暖かかい。

 

 (そうかこの暖かさが寒さに弱いオウムのエレジアを寒い冬から守ったのか。)

 

 それは肥大化している左腕がただ熱を持っただけかもしれないが信にはその温かさはキヨシのやさしさに思えた。

 

 キヨシの優しさを感じ心で受け取り、信は静かに目を開ける。

 その瞳には先ほどまでの不安の色はなく、絶対に救ってみせると言う確固たる意志が宿っていた。

 

 「キヨシ、エレジアを天国に送ってくる。ちゃんと安らかに眠れるように。だからキヨシは此処で隠れて待っていてくれ。」

 

 キヨシは信の変化に気づいたのか素直に頷く。

 

 「うん。 待ってる、マコトさんのこと待ってる。だからエレジアの事お願いします。」

 

 信はキヨシに頷き返し社から駆け出した。

 

 エレジアを救うために。

 

 キヨシの優しさを心に秘めて。

 

 

 

 

 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 怪鳥エレジアが出現する少し前、科学特捜隊の事務所は蜂の巣をつついたような大騒ぎだった。

 信がヴィランと間違われたときに科学特捜隊の制服を着ていた為に事務所に問い合わせの電話がひっきりなしにかかってきていたのである。

 

 「まったく、あの小僧とんでもないことしてくれたな。」

 

 嵐隊員は電話を切りながらため息混じりに愚痴をこぼす。

 

 「まだ信くんがヴィランだと決まった分けじゃないだろう。」

 

 井手は愚痴をこぼす嵐を注意する。

 

 「儂だって何もネットの話をまともに取り合うほどアホウじゃないぞ。だが実際に今連絡もつかん状態なんだ、なんかあったことは確かだろうさ。」

 

 「ウ~ン、そうかもしれんが……」

 

 井手と嵐が電話応対しながらそんな話をしていた時、怪獣出現の第一報が科学特捜隊に届いた。

 

 「よし!! 科学特捜隊出撃だ!!」

 

 「まてよ、井手。 ヴィランならともかく怪獣用の装備なんかないぞ。」

 

 すぐに出撃を命じる井手に嵐が苦言を呈すると井手は何やら自慢げに笑い内線で工房にいる発目に何か持ってくるように言った。

 発目がトランクケース二個をすぐに持ってくると井手はそれを受け取り自慢げに井手に見せる。

 

 「こんなこともあろうかと、二挺作っておきましたよ。怪獣用装備マルス133」

 

 そういって井手はトランクケースを開き中に入っている本体とスコープとバレルを組み立てる。

 そうしてできたのがマルス133、所謂小型超強力光線銃だ。

 

 「これさえあれば、地震雷火事怪獣なんでもござれだ。」

 

 「よし! それじゃあ早速行くか‼」

 

 嵐は井手からマルス133を受け取ると先ほど井手を止めたのも忘れたかのように真っ先にガレージに駆けていく。

 切り替えの早い男である。

 生来の猪突猛進な性格もあるだろうがやはり井手との長年の信頼がおおきいのだろう。

 井手を信頼するからこそ彼が大丈夫と言うならば嵐はすぐに頭を切り替え決断することができるのだ。

 

 井手も他の隊員に市民の避難誘導と必要があれば救助もするように命令しマルス133を持ち嵐の後を追う。

 

 井手がガレージに着くとすでに嵐が車に乗り込み準備万端と言う風に待っており井手を急かす。

 

 「こっちだ、早く乗れ!」

 

 およそ隊長と隊員の会話とは思えないが、これも何年も一緒に戦ってきた井手と嵐ならではなのだろう。

 

 井手が車に乗り込むと嵐は一気にアクセルを踏み込み発進する。

 

 「しかし儂たちが怪獣退治とは…… 腕が鳴るな。」

 

 「腕が鳴るのは構いませんが、安全運転でお願いします!!」

 

 嵐が怪獣退治に興奮し、ハンドルから手をはなして拳どうしを合わせていると後部座席から女性の声がする。

 嵐は驚き慌ててバックミラーを覗き込むと後部座席には科特隊の制服を着た発目がいた。

 

 井手も慌てて後部座席を振り返り見ると発目がいることを確認するとなぜついてきたのか問う。

 

 「発目くんどうして君がこの車に乗っているんだ?」

 

 発目は事も無げに

「私もマルス133を作るのに協力したじゃないですか、どれほどの威力が出るか見たくなったのでついてきました。」

 と言った。

 

 「井手、今更引き返すわけにはいかんぞ。」

 

 「仕方がないか、発目くん、現場では自分の安全を最優先で危ないとこはしない様に気おつけてくれよ。」

 

 井手と嵐は時間的に引き返す余裕がないことから現場に発目を連れて行くことに決めた。

 

 

 嵐がしばらく車を走らせると怪鳥エレジアが見えてきた。

 やがてエレジアから数百メートルの所まで来ると嵐と井手は車を停めてマルス133を手に車を降り、その後に発目も続き3人は怪獣と相対する。

 

 「よっしゃ!! いくぞ!! 井手。」

 

 嵐は井手に先駆けて走り出す。

 

 「ったく、もう。 発目くんはここで待ってるんだよ。」

 

 井手も一人で駆けていく嵐に嘆息しながらも発目にこの場にとどまるように言い残し嵐を追いかける。

 

 井手と嵐の二人は怪獣に近づくにつれその大きさと、その巨体からもたらされた破壊の痕跡に圧倒されていた。

 

「でっでかいな、井手よ、ほんとに効くんだろうな、このマルス133とやらは?」

 

 「そんなことやってみなけりゃ解りませんよ。 ええい! こうなりゃやけだ!! 弓矢八幡、マルス133の力を御覧じろ、だ!!」

 

 井手と嵐はマルス133をエレジアに向け引き金を引く。

 

 マルス133からまるで空気が焼けるような音がして光線が放たれる。

 

 二条の光線はまっすぐエレジアへと向かい一秒としないうちに命中した。

 

 マルス133の光線の直撃を受けたエレジアはかなりのダメージを負ったのかのたうち回りながらまるで悲鳴のような鳴き声を上げる。

 しかしその目の色は恐怖ではなく光線を放った者への怒りの炎が燃え上がっていた。

 

 「なんだ、ちゃんと効いているじゃないか!!」

 

 嵐がエレジアの怒りには気づかず井手を褒める。

 

 「よーし、次でとどめを刺してやる。」

 

 井手と嵐はもう一度マルス133をエレジアに向け引き金を引く

 

 マルス133から光線が発射されようとしたその時、光が井手達とエレジアに間に降り立ち、徐々に巨人の姿に成る。

 光から現れたのはウルトラマントラストだ。

 トラストはキヨシとエレジアを助けると約束し彼から優しさを分けてもらったからか気合が充実しており赤と銀の体は何時もより逞しく、大きな瞳と頭の角は心なしか輝いているようにも見えなくはない。

 

 しかし発射し始めた光線が止まるわけではなくそのままエレジアを守るようにエレジアに背を向け現れたトラストの胸の部分へ命中した。

 いかにトラストが心身共に充実している様に見えても、市民に追いかけまわされたあとステインとも戦っていたのだ、相応に消耗していた、そんな彼にとってエレジアにもダメージを与えるマルス133の光線はかなりの痛手だった。

 思わず胸を押さえ膝をつくも、なんとか嵐と井手の方へと右手を、前に突き出し攻撃を待ってほしいと意思をしめす。

 

 「なんなんだ、あの巨人は?」

 

 「あの巨人は信くんです!!」

 

 急に現れたトラストに困惑した嵐の誰に問うたでもない疑問に答えるものがいた。

 発目である。

 彼女は井手達が放ったマルス133の初撃に興奮し、もっと近くで見たいと井手の言いつけも守らず井手や嵐の傍まで来ていたのだ。

 

 「なんだって!! 怪獣を庇うってことはあの小僧は本当にヴィランだった、てことか!!」

 

 嵐が勘違いするのも無理からぬことだ。

 しかし即座に発目はその考えを否定する。

 

 「それは違いますよ!」

 

 「何か根拠があるのかい? それとも何の理由もなく信じられる程、彼を知っているのかい?」

 

 井手は即座に嵐の考えを否定した発目になぜ信じているのか理由を聞く。

 それは彼自身嵐同様に信の事を信じきれなくなっていたからだろう。

 

 「彼とは親しくなってまだそれほど立っていませんし、なぜ怪獣を庇ったのかも知りません。」

 

 はっきりそう言いきる発目に対し、嵐と井手の思う所は、なら何故?と言うのが正直な所だろう。

 

 「ですが信くんが道具を大切に使うことを私は知っていますよ!! ただしまい込んでおくのではなく精一杯使って! 使った後は整備して大事に保管しておく! 彼は私のベイビーを安心して預けられる人です!!」

 

 井手には発目の言わんとするところが何となくわかった。

 技術者同士の共感のようなものだろうか。

 要するに技術屋なら自分の作ったものを安心して預けられる奴は信じるに値するってことだろう。

 井手が嵐に全幅の信頼を寄せる様に。

 

 「よし、わかった。 この場は彼に任せよう。」

 

 「なに!! いいのか、井手?」

 

 嵐はこの場で井手がこの場をトラストに任せることにすれば最終的に井手が責任を被らなくてはいけなくなることを心配している。

 

 「あぁ! もちろんだ。」

 

 井手の決意を聞き嵐はそれ以上何も言わずに頷き井手の決断に従う。

 井手が嵐を信じているように嵐も井手の事を信じているのだ。

 

 だがそれでも嵐は願わずにはいられない。

 

(井手の信頼、裏切ってくれるなよ、小僧。)

 

 

 

 井手達が攻撃をやめることを決断した時、トラストにもまたその意思は何となく伝わっていた。

 

 トラストはマルス133の光線で焼けて痛む胸を押さえつつ今まで背を向けていたエレジアの方を向く。

 

 エレジアはトラストがマルス133の光線から庇ったので最初のダメージから回復しますます怒りを高ぶらせている。

 

 エレジアを救うにしてもまずは動きを止めないことにはどうしようもないし街への被害も拡大し続ける。

 

 だが何にしても近づかないことには始まらない。トラストはエレジアとの間合いをつめるため駆け出すがエレジアはそんなトラストを待ち構えていたように口から火炎を吐き、浴びせかける。

 

 だがトラストは止まらない。

 すでにマルス133でかなりのやけどを負ったトラストはあと少しぐらいやけどが増えても構わないとばかりに躊躇なくエレジアの吐く炎の中に飛び込みエレジアの嘴を掴む。

 トラストはエレジア嘴を掴んだまま重心を落としエレジアの頭を自らの後方に引き出すとそのままエレジアの下に入り込むように移動し嘴を掴んでいない方の手でエレジアの胴体を掴み持ち上げた。

 

 エレジアは逃れようと暴れるがトラストはそんなことお構いなしに被害の拡大を防ぐために街はずれの人の気配のない山の方へエレジアを投げ飛ばす。

 

 被害を拡大しないという面だけ考えればメタフィールドに隔離してしまえばいい話なのだがエレジアを救うことを考えるとエネルギーを温存しておきたかったトラストの苦肉の策である。

 

 エレジアはトラストに投げられたことに怒りを倍増させ街へ戻ろうと翼をはためかせ跳び上がろうとする。

 エレジアの足が地面から離れたその時、エレジアを投げた後すぐに山の方へ走ってきていたトラストの飛び蹴りがエレジアの頭部にカウンター気味に決まった。

 流石のエレジアもこれには大ダメージを負い、動きが鈍る。

 

 此処が好機とトラストは額の宝玉の前で腕をクロスしエネルギーを貯め、キヨシに貰った優しい心の力を融合させた。

 その力を右手に集約しエレジアに向かい優しく解き放つ。

 解き放たれた力は淡い光となりエレジアを暖かく包み込む。

 

 この技はウルトラマンコスモスのフルムーンレクトのトラスト版の様なものだ。

 トラストはこの技にありったけの思いとキヨシの温もりをこめてエレジアに伝えようとしている。

 もう苦しまないでいいのだと、死んでまで何かを恨み怒りに震える必要はないのだと。

 

 フルムーンレクトを受けたエレジアは最初、暴れていたが自らを包む温もりがいつも自分を寒さから守ってくれたキヨシの心だと分かったのか次第におとなしくなり、瞳から怒りの色が消えていった。

 

 エレジアは次第に怪鳥から元のオウムの姿へと戻る。

 しかしすでに死んでいたからか将又オウムから怪鳥への急激な変化の後遺症からかエレジアの体は光の粒子となり空に消えていった。

 

 エレジアが天へと昇っていくのを見届けるとトラストは消耗した体を休めるため信の姿へと変わる。

 

 マルス133の光線やエレジアの火炎で負ったやけどはひどく痛むが信は不思議と悪い気分ではなかった。

 エレジアの最後は悲しいものだった、遺体すらキヨシのもとに戻すことができなかったが、それでも怒りと憎しみに囚われずに安らかに天国に行けたのだから悪い事ばかりではなかったのではないだろうか。

 本当の所、エレジアが何を考え、何を感じていたのかは分からない。

 だけど少なくとも信にはそう思えたのだ。

 

 信はキヨシのもとに戻ることにする。

 戦いの途中自分を信じて攻撃をやめてくれた井手達や発目にも礼を言いたかったがまずはエレジアの事をキヨシに伝えたくてキヨシが待つ社に急ぐ。

 

 だが焼けどのダメージはことのほか重く、少し動くたびに皮膚が破れ、血がしたたり落ちる。

 痛みに朦朧としだすが、それでも信はキヨシの待つ社に一歩一歩、歩んでいった。

 信が社に着いた頃にはすでに日は傾き、夕暮れ時の赤い太陽が辺りを照らしている。

 

 信が社についてみるとキヨシは地面にうつ伏せに横たわっていた。

 待ちくたびれて寝てしまったのかと信はキヨシを起こさぬ様に静かにゆっくりと近づいてゆく。

 だが近づくにつれ信は言い知れぬ嫌な予感にさいなまれ次第に駆け足となっていった。

 近くに来て信はやっと気づいたキヨシが寝ていたのではないことに。

 

 キヨシは息絶えていた。

 

 「キヨシ‼」

 

 信は地面に座り込み、キヨシを仰向けにして抱き上げる。

 キヨシの体には先ほどまでの温かさはなく熱が失われていっていた。

 抱き上げる手に違和感があり、キヨシの背中を見るとそこには幾人もの人が踏みつけにしていったのだろう足跡がたくさん残っている。

 

 「なんで! 誰がこんなこと!?」

 

 社には信とキヨシ以外誰もいない、問いかけたところで誰も返事などしてくれるわけがない……はずだった。

 しかし信の後ろから答えが返ってくる。

 

 「地球人ですよ。」

 

 その答えに信が顔だけ後ろに振り向くと黒いコートに黒い帽子、全身黒ずくめの5,60代の中肉中背の男がたっていた。

 

 「誰だ?」

 

 「私だよ、分からないかな、ウルトラマントラスト。」

 

 そう言うと男は異形の姿へと変貌した。

 赤い体のほとんどに突起物があり、顔には二本の角と牙が見て取れる。だが一番目に引くのは右手の代わりについている三日月型の鎌だろう。

 

 その姿に信は男が一体何なのか理解することができた。

 

 「異次元人ヤプール!」

 

 —――—―ヤプール、多くの超獣や宇宙人を従え、二つの赤い球体をつなげた様な宇宙船をもち、鎌状の右手から様々な光線を放つことができるほか、空間を捻じ曲げる、など様々な能力をもつ凶悪な異次元人。

 

 覚えた記憶もない知識が信の頭をよぎりある予想を導き出す。

 

 「そうか体育祭の時、マサトを改造したのも、今日、キヨシを殺したのも、すべては貴様の仕組んだことか!!!」

 

 キヨシの遺体をそっと地面に寝かせ、信は怒りに任せヤプールに殴りかかる。

 しかしヤプールは飄々とした態度を崩さない。

 ヤプールを捉えたと思われた信の拳はそのまま何も存在しかなったかのようにヤプールを通り抜けた。

 どうやらどこからか立体映像を投写しているだけで実体はこの場には来ていないようだ。

 

 「勘違いをしてもらっては困るな、確かに私は君がメタフィールドを展開しようとしている所を妨害はしたが、その少年を殺したのは地球人だよ。 私のしたことといえば廃屋に誰か住み着いていますよ、とこの街の人間に教えてやっただけ、そこから一切関わってはいない。」

 

 「ウソをつくな!!」

 

 「ウソではない証拠を見せよう。」

 

 ヤプールそう言うと信の前にスクリーンが現れる。

 そこには大勢の人々がキヨシを棒状のもので殴打したり、踏みつけていたりする姿が映し出されていた。

 

 「君が身を切る思いで怪獣と戦っている時、君が守った街の住人たちはその少年を殺し喜んでいた。」

 

 信の顔は怒りに歪み、食いしばった歯から嫌な音がする。

 

「滑稽だったよ、君との約束を律儀に守りここで生きて待っていようと何とか這いつくばってでも逃げようとする少年をいい大人たちたちが痛めつけ殺している光景はね。」

 

 信はこれ以上スクリーンに映る者たちの喜色に緩む顔を見ていられずヤプールを睨みつける。

 

「姿が異なると言うだけでここまで他者に残酷になれる、これも地球人の業と言うやつかな? フッ、業と言うにはあまりに惨めたらしい姿だがね。果たしてこんな人間たちにウルトラマンの君が守るほどの価値は、あるのかな? ハッハッハッ」

 

 高笑いを残しヤプールの立体映像は消えてゆく。

 

 信はフラフラと足下がおぼつかない様子でよろめきながらキヨシの遺体の前に行きウルトラマントラストの姿に戻る。

 トラストはキヨシを生き返らせるためにリライブ光線を放つ。

 しかし傷は治るが一向にキヨシは生き返らない。

 ヤプールが何か工作をしていったのかとトラストは残ったエネルギーすべてを使いリライブ光線を強化するが一切効果が出なかった。

 

 全エネルギーを使い果たしたトラストはウルトラマンの姿でいる事もきつくなり信の姿に成る。

 信の頭の中ではなぜキヨシが生き返らないのか、理由を必死で考えていた。

 そんな中ある考えが信の頭をよぎる。

 

(キヨシは生き返りたくないんじゃないか? こんな世の中より天国でエレジアと一緒に過ごす方が幸せで戻ってこないのではないか。)

 

 そう考えた瞬間、信の心は折れた。

 

 信はまるで立っていた場所が崩れてしまったかのように膝から崩れ落ち地面に手を突く。

 瞳からとめどなく涙が零れ落ちるが、彼の悲しみを押し流してなどくれなかった。

 その場に蹲り子供の様に泣き叫ぶうちに信は悲しみすら失っていく。

 キヨシが死んだことが悲しい。

 だがどうすればよかったのかキヨシを残していったからいけなかったのか。

 ヤプールの言う通り街を守る意味などなかったのか。

 科学特捜隊の井手達にエレジアを任せておけばよかったのか。

 それとも……

 

 信に頭に嫌な考えが湧き上がる。

 

 それともあいつらを倒しておけばよかったのか。

 

 「クソッ!!」

 

 握った拳を地面に叩きつける。

 信はキヨシの遺体を前にそんなことを考えてしまう自分に嫌気がさす。

 

 「クソッ クソッ クソッ」

 

 何度も地面に拳を打ち付けられた拳は血まみれだ。だがそれでも信はその行為をやめない。

 他にどうしたらいいのか全く頭に浮かばないのだ。

 

 そんな時、発目や井手達が社へとやって来た。

 彼女たちは信がエレジアを山に投げ飛ばした自分たちもその山に成り行きを確認しに行ったのだ、その時、信の血液を発見しそれをたどってここまでやって来たのだった。

 

 信とキヨシを見つけた井手達は信へと駆け寄る。

 

 「おい! 小僧、そいつは一体どうしたんだ。」

 

 倒れているキヨシを見て嵐が真っ先に信へ声をかけた。

 

 「この子は特異個性遺棄児童だったんです。」

 

 信のその言葉で井手と嵐は何があったか、なぜ信がヴィランの仲間扱いされていたのか理解した。

 彼らの子供時代にはもうそんなことはなくなっていたが彼らの一つ上の世代、村松キャップの世代ではまれにこのような悲劇が起こっており、井手や嵐はその話をよく村松から聞かされていたのだ。

 

 「信くん、悲しいのも、悔しいのも、分からんではないが、今はその傷を治して、きちんと少年を弔ってあげようじゃないか。」

 

 「はい。」

 

 信は井手の言葉に力なく返事をし、移動するためにキヨシの遺体を抱き上げた。

 元々意識の無い人間は重いものだが左が子供とは思えぬほど肥大化しているキヨシはケガを負っている信には荷が勝ちすぎてよろけてしまう。

 

 見かねた嵐が「儂が背負ってやる。」と言うが信は「最後まで自分が」と譲らない。

 

 強情な信に嵐は

 「なら儂が左から抱えるからお前は右から抱えろ。」

 と言う。

 

 「儂にも半分抱えさせろ。」

 

 嵐は強引にキヨシを左側から抱える。

 それは単にキヨシの体を抱えるのに手を貸すと言うだけではなくきっとお前の抱えている気持ちの半分ぐらい背負ってやるから話してみろ、と言う嵐の不器用な優しさだったのだろう。

 

 信は唇を噛みしめ静かに涙を流しながら科学特捜隊の事務所に帰った。

 

 

 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 キヨシが殺された翌日キヨシの事は大きく取りざたされることはなかった、と言うより一個の事件としてすら扱われることがなかった。

 キヨシが殺された後さらに大きな事件が起こったためだ。

 

 信は病院のベッドでその話を井手から聞かされていた。

 

 「ステインによる市民の大量殺人があったんだ、彼の犯行声明によるとヒーローを汚す者達への粛清だとの事だが、キヨシ君もその犠牲者の一人とされることになったんだ。」

 

 信は思わず井手に食って掛かる、そんな理不尽な事はないと。

 

 「そんな‼ なぜ! なぜなんですか?」

 

 「僕も頑張ってみたんだが、キヨシ君の体に一切傷がなかった事と、キヨシ君を殺したと思われる市民が全員死んでいることから証拠がなくてね。街の不祥事を隠ぺいしようとする市の政治家たちの動きをとめられなかった。 何も出来なくて本当にすまない。」

 

 井手は信に頭を下げる。

 

 「止めてくさい、何も出来なかったのは俺の方ですよ。」

 

 信が力なくうなだれているとつけっぱなしのテレビからニュースが流れてくる。

 街の市長の会見の様だった。

 

 「今回、ヒーロー殺しの犠牲になった多くの方々に深く哀悼の意を示すとともにこのようなことが二度と起きない様にヒーロー殺しの逮捕に全面的に協力すると共に今回の事を教訓とし、市民の方々の安全の為に防犯対策に力を入れていきたいとかんが」

 

 聴いている内に気分が悪くなり信はテレビの電源を落とす。

 

 「為政者はいつもこうだ…… 文句だけは美しいけど……」

 

 井手のつぶやきは信の心をそのまま表していた。

 

 「キヨシはこれからどうなるんですか?」

 

 「彼は遺体の引き取り手がないから今回のステインの被害者の慰霊碑と同じところに埋葬されることになったよ。」

 

 信はまた怒りに駆られそうになる。

 

 「キヨシの遺体は僕が引き取り埋葬します。」

 

 信はどうしてもキヨシを彼らの傍に置いておきたくなかった。

 それでは安らかにキヨシは眠れないと思ったからだろう。

 

 「そうだね。 その方がいいかもしれない。」

 

 井手は信の言葉を肯定し、病室の窓辺から空を見上げる。

 信もそんな井手につられて空に目を向けた。

 

 澄んだ青空が広がり昨日あんな凄惨な事件があったなんてまるで感じさせない。

 そんな空の上なら地上の世界よりも幸せに生きられるかもしれない、そう信じ信はキヨシに黙祷を捧げる。

 




読んでいただきありがとうございました。

今回の話の構造上どうしても市民のは罰することが難しかったのでステ様に泥をかぶってもらうことになってしまって申し訳ないなぁと思う今日この頃、ですが自分なりにはすっきりはまったかなと思っています。

感想&批判などいただけましたら幸いです。
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