もしも、ぐだ男とぐだ子が笑顔の素敵な公務員だったら【連載版】   作:MAGMA

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新作なので初投稿です。


1話

1

 

 

 マシュ・キリエライトは困惑していた。

 

今日は最後のマスター候補生がやってくると聞いていたし、初のレイシフトがあることも聞いていた。その前に気を落ち着かせるべく散歩をしていたところ、カルデアの特権生物フォウに先導され辿り着いたところで、一組の男女が眠っているのを発見した。

 

清掃が行き届いているとはいえども、固く、皆土足で踏み荒らす床で眠るのは如何なものかと思い、起こそうと近寄った瞬間だった。

 

「誰よあんた」

 

 オレンジ色の髪をサイドポニーにした少女に壁に押し付けられていた。寝ていた男女の片割れであることは直ぐに理解したが、壁に押し付けられるまでの行程が速すぎて、マシュが壁に押し付けられたと理解するのに数秒の時間を有したのだ。

 

所謂壁ドン状態、しかも両手を上で拘束され、首に手がかけられた状態でロマンスが発生するものなのか? しかも女性同士で。一瞬変な考えが頭をよぎったのは、まだ事態を飲み込んだ上で混乱しているからなのだろう。

 

「三度目は言わないわよ? あんた、誰?」

 

 茶色の瞳から発せられる、拳銃の銃口にも似た鋭い視線に射抜かれ、マシュの口から小さく息が漏れた。圧迫される両手首と目の前の少女から発せられる威圧感と徐々に強くなっていく殺意にいよいよ恐怖が鎌首をもたげ始めた時だった。

 

「フォーウ! フォウフォウ!」

 

「んが? 寝てたのか俺? お、寝起きの飯にウサギとはなかなか乙なもんだぜ。立華! ナイフかせ! さっさと血ィ抜いて捌こうぜ!」

 

「ファーーーー!!?」

 

 眠っていた男が起きたようだ。どうにもフォウを食うつもりらしい。

 

「あ、あの……フォウさんは食べ物ではありませんので」

 

 マシュの声に気が付いたらしい男がこちらを見る。サファイア色の瞳は資料で見た刀剣のように鋭く、フォウを捕まえている腕は義手だろうか? その両腕は漆黒の金属が光を反射し、鈍く輝いていた。

 

「あ? 何だ嬢ちゃん? 立華は壁ドンなんかしてなにやってんだ? まさかマジでそっちの()が」

 

 立華と呼ばれた少女が、マシュの首を抑えていた素早く腕を振るうと何かが男の元へ飛ぶ。男は瞬きもせず、無造作にそれを掴んだ。コンバットナイフと呼ばれるそれは男の眉間に向かって投げられた。明確に殺すつもりで投げられたナイフに、マシュは血の気が引くのを感じた。

 

「冗談のつもりでも殺すわよ、立香」

 

「もう殺す気だったじゃねえかよ、危ねえな」

 

 立香と呼ばれた男が投げ返したナイフを鞘でキャッチした立華は、マシュを解放する。

 

「ええと、その、先輩たちはどうしてこちらで寝ていられたんでしょうか?」

 

「先輩? 俺らの事か?」

 

「はい、恥ずかしながらあまり外部の人間と関わったことが無かったので」

 

 恥ずかしそうに顔を赤らめるマシュは、立香たちにとっても新鮮な存在であった。

 

「(真っ先に戦場で死ぬ娘ね)」

 

「(結構でけぇな……)」

 

 立香は碌でもないことを考えていたようだが。

 

「フォウ!」

 

 一方の謎生物、フォウは仕切りに立香と立華の周りをウロチョロし、時折匂いを嗅いでいた。

 

「何なのよ? この兎モドキ」

 

「フォウさんはカルデアの特権生物でして、先輩たちを見つけたのもフォウさんです」

 

 立華がフォウを猫みたいに持ち上げると、フォウは大人しくぶら下がって立華とにらめっこを開始した。

 

「フォウ!」

 

「……」

 

 よう! と言わんばかりに片足を上げるフォウだったが、立華は無反応。無造作に立香に突き出すと、立香はフォウを某獅子王(ライオン・キ○グ)の如く掲げた後に下ろしてやった。

 

「フォウ」

 

 フォウは立香たちの脛に頭をこすり付けた後に、どこかへ去って行ってしまった。

 

「フォウさんはなかなか他の方に懐かなかったのですが、先輩たちに懐いたみたいです。フォウさんのお世話係の人員追加です」

 

 小さく拍手するマシュに、立華はやっと警戒を緩めた。どうにもこのマシュという少女は天然なのか、純粋培養されたお嬢様チックで、毒気を抜かれてしまう。

 

「はぁ……、さっきは悪かったわね。私は『藤丸立華』。戸籍上はコイツの妹」

 

「俺が『藤丸立香』。ここには立華ともども国連から派遣されてきた傭兵だ」

 

「私は『マシュ・キリエライト』と申します。よろしくお願いします、先輩」

 

 マシュと立香たちが握手を交わす。その時立華が小さく笑った。

 

「お? 立華が笑うなんて珍しいな。後輩ちゃんが気に入ったか?」

 

「あんたと感性を一緒にしないで頂戴。ま、よろしくね。キリエライト」

 

「マシュで大丈夫です。先輩」

 

「どっちも呼び方が『リツカ』で『先輩』じゃこんがらがっちまうな。おい立華、お前はキリエライトに『お姉様』とでも呼ばれたらどうだ?」

 

「虫唾が走る提案をどうも。あんたは『穀潰しゴリラ』とでも呼ばれたらどう?」

 

「あ、あの、先輩。私はその、お姉様とお呼びした方が?」

 

「キリエライト、あまりアイツの言うことを真に受けちゃダメよ。私の方を呼ぶときは『藤丸先輩』とでも呼びなさい。あっちのデリカシーの無い野蛮なヒャッハーは『玉無し先輩』とでも呼べばいいわ」

 

「さ、流石にそれは失礼すぎてその……」

 

「マシュ、此処にいたのかい」

 

 立香たちとマシュが漫才をしていると、緑のコートとシルクハットの男がやってきた。

 

「ん? 君たちは確か国連から派遣されてきた……」

 

「国連所属特務中尉、藤丸立香でありまぁす」

 

「同じく藤丸立華特務中尉です」

 

「ほう、同じ名前なのか。なかなか奇妙な関係だね。私は『レフ・ライノール』。このカルデアの技師さ」

 

 2人がレフに敬礼をし―――ちっとも敬意は籠ってないが―――、レフも笑顔で自己紹介をした。

 

「マシュ、そろそろ所長の演説が始まるはずだ。私も向かうところだったんだ。ついてきたまえ、案内しよう」

 

 

 

 

 

 2

 

 結末から先に言えば、立香たちは説明会の会場から追い出されてしまった。立華はそうでもなかったが、立香のほうは施設に来た際に受けたシミュレーターの霊子ダイブの後遺症ですぐさまいびきを立てて眠り始めたからだ。殺意のこもった攻撃ならば、たとえ麻酔をかけられていた状態で狙撃されても覚醒して反撃する程に敏感だが、それ以外の、ただの怒気しかこもっていないビンタには反応できず、食らってしまった。追い出された立香とは別に、立華の方は説明を受け続けているようだ。

 

「おーいて、ストレス溜まってんな所長ってやつは」

 

「いえ、先輩も覚醒していただけたようで何よりです。ファーストミッションからは外されてしまいましたが……」

 

「あん? 立華がいるなら問題ねえよ。他のマスターとやらがどうなるかは知らねえが」

 

「いったいどういう事で……きゃっ!?」

 

「フォーーウ!」

 

 突如マシュの顔面にフォウが飛来し、そのまま背中を経由して肩に落ち着いた。

 

「お、フォウじゃねえか。さっきぶり」

 

「キュ。フォウ」

 

「すごいです、先輩。二度目の邂逅でここまでフォウさんと打ち解けるなんて……着きました。ここが先輩のお部屋になります。そろそろ説明会も終わっているはずなので、藤丸……お姉様の方もお部屋に案内しに向かいます」

 

「おう、案内ありがと」

 

 マシュは立華を迎えに行くべく、立香と別れた。フォウは現在立香の肩の上だ。

 

「さて……(部屋の中に気配が1つ、空き部屋って言ってたが……)」

 

 立香はドアの開閉スイッチを押し、身を潜めた。

 

「はーい、入ってますよー……? あれ? 誰もいない……?」

 

 中からゆるふわ系の声が聞こえてきた。

 

「フォウ」

 

「ん? あ! カルデアの珍獣フォウ君じゃないか! 初めて見た!」

 

 やたら驚愕する声の後、足音が近づいてくるのを聞いて、フォウに手を伸ばした人物の腕を取り、関節を極めつつ部屋に侵入した。

 

「いだだだだだだだ! 誰だい! 僕はここの医療班トップの『ロマニ・アーキマン』だぞう!」

 

「自己紹介どーも」

 

 尋問前に情報を吐いたロマニと名乗った男を解放してやると、立香は椅子に腰を下ろした。

 

「で? 医療班のトップが俺の部屋で何してんだ?」

 

「いたたた……、ついさっきまでは僕のサボり部屋だったのに……。そうか、君が国連から派遣されてきたマスター候補だね?」

 

「おう、そうだぜ」

 

 敵意の欠片も、ましてや戦闘力もないゆるふわドクターと立香は割とすぐ打ち解けた。茶菓子を楽しみながら談笑していると、ロマニに通信が、そして立香には来客が来た。

 

「立香、私のところにあんたの荷物が一緒に来てたわよ」

 

「マジで? 言っちゃあなんだがここのセキュリティザルじゃねえか? 俺達の得物素通りかよ」

 

「ほら、あんたの刀と私のマガジン。ちゃんと装填しておいてよ?」

 

「わーってるよ。人の義手をなんだと思ってやがんだ」

 

「便利な小物入れ。ところであのいかにも頼りなさそうな、なよっちい優男は誰?」

 

「いきなりひどいね君!?」

 

 そうして立華とロマニが邂逅したときだ。急に電源が落ちた後に、カルデアが揺れた。

 

「爆発!?」

 

「テロか! 音の方角的に中央部と地下っぽいが」

 

「確かさっきあの娘が向かった方角って……」

 

 そこまで言った後、二人は走りだした。後ろでロマニが何か言っているのをスルーしながら、爆発が起きたと思われる場所へ向かう。

 

「随分入れ込んでるじゃねえの? 立華」

 

「……久しぶりに何の悪意もなく慕ってくるもんだから、知らず知らずに情が移ったのかしらね」

 

「あぁ、そうだな……。少なくとも、理不尽に命を奪われていいようなやつじゃねえな!」

 

 2人が辿り着いたときは、辺り一面火の海だった。

 

「相当な量持ち込んだわね。やっぱりあの男」

 

「レフとか言ってたアイツだな? あの野郎、鼻がひん曲がりそうなくらいに、いけ好かねぇ臭いがプンプンしてやがった」

 

「とにかく生存者を、絶望的だとは思うけど」

 

「最後くらいは看取ってやらきゃ、地獄にも逝けねえからな」

 

 2人は生存者を探し始める。ひどく見慣れた光景の中を歩き回り、いるとは到底思えない生存者を探す。

 

「立香!」

 

「いたか!」

 

 立華が見つけたのは、下半身を瓦礫に埋もれさせたマシュだった。出血量も多く、到底助かる見込みはない。

 

「せ、ん……ぱい?」

 

「しゃべらないの、傷に響くから」

 

「いえ、わたし、もう……」

 

 アナウンスが響き渡る。どうやら隔壁が閉まったらしい。

 

「閉じ込められちまったみてえだな」

 

「そうね」

 

 地球儀のような何か―――カルデアス―――が真っ赤に染まるのを見たマシュが、血が抜けて青白い顔をさらに青くさせる。

 

「カルデアスが、あかくそまって」

 

「しゃべらないの」

 

 再びアナウンスが響く。人類史がどうのこうの言っているが、立香たちはそんなことより、自分達を何の疑いもなく、無垢な心で慕った少女の方が大事だった。

 

「先輩、お姉様、手を……握ってくれますか?」

 

「お姉様はやめなさいって言ったでしょう。……大丈夫よ、マシュ。死んでも1人にはならないわ」

 

「ああ、なんてったって俺達は―――」

 

 マシュ達の意識は、そこで途絶えた。

 

 

 

 3

 

 

 

 マシュ・キリエライトは驚愕していた。

 

マシュと立香たちは2004年の冬木市へとレイシフトしていた。その際色々な事情があり、マシュはデミ・サーヴァントと呼ばれる存在になったのだが、目の前の光景はそれらの出来事を上書きするには十分すぎる衝撃を持っていた。

 

「どけ、骸骨共ォ! 閻魔様に変わってあの世に叩き返してやらぁ!」

 

 現代的なビル街を炎が照らす地獄さながらの光景の中、骸骨たちがひしめき合いながら襲い掛かってくる。しかし、そんな光景に恐れることもなく、むしろ嬉々として立香が日本刀を手に骸骨の集団を切り刻んでいき、時折義手が射出されて何体もの骸骨を穿つ。

 

「下がんなさい立香、あんたの闘い方はブサイクなのよ」

 

「あぁ!? んだこら立華ァ!」

 

「吠えんじゃないわよ、これからプロの戦闘(しごと)ってものを見せてあげる」

 

 そういうと、立華が懐から刃のついたマガジンを2つ、骸骨の群れの中に放り投げる。それは2体の骸骨に眉間に刺さる。その光景に目を向けているうちに立華はどこからか2丁の拳銃を抜いて、銃口をそれぞれ天と地に向け、銃身が一直線に並ぶような独特な構えを取った。

 

「さあ、どこを撃ち抜かれたいかしら? 5秒以内ならリクエストを受け付けるわよ」

 

 そのまま骸骨の群れの中に身を躍らせ、骸骨が剣を振りかぶった瞬間にはその銃口が眉間を捕えていた。

 

「時間切れよ」

 

 凄惨な笑みの後に、骸骨の頭が吹っ飛ぶ。その銃声を合図に、踊るように身体を翻しながら銃を撃ち始める。弾丸はどれも正確に骸骨を捉え、一分の無駄もなく撃ち込まれていく。

 

最初のマガジンが空になると、立華が跳んだ。美しく弧を描いた後方宙返りを決め、着地点の骸骨を踏み潰す。その両脇には頭にマガジンの刺さった骸骨。拳銃を叩き付けるようにマガジンを装填し、そのままの勢いで骸骨の頭を粉砕する。そのままの勢いで再び始まる乱舞がさらに骸骨たちを殲滅していく。やがて二つ目のマガジンすら撃ち切った立華は、熱を持った銃身を気にせず握りしめる。よくよく見れば立華の手には手袋が嵌められていた。マガジンの底に付けられた斧のような刃が炎に照らされて鋭く光る。

 

「まだよ!」

 

 今度は刃を用いた近接格闘で次々と骸骨を切り刻み始めた。どこまでも洗練されたその乱舞は神々しささえマシュには感じられた。

 

「どおおりゃああああ!」

 

 立華が深く屈んだ瞬間、立香がその背を踏み跳躍した。振り下ろされた刃は骸骨の骨盤までも両断し、返す刃で首を刎ねた。

 

「神に会うては神を斬り」

 

 何かが降ってくる。それは銃のマガジンだった。跳躍の際に立香が放ったそれは寸分違わず下で構える立華の銃へ装填される。

 

「悪魔に会うては、その悪魔をも撃つ」

 

 背中合わせの二人に骸骨が何体も飛びかかる。立華が撃ち落とし、立香が薙ぎ払う。

 

「戦いたいから戦い」

 

「潰したいから潰す」

 

 立香が刀を構え、立華が狙いを定めた。

 

「俺/私たちに大義名分などないのさ!」

 

 骸骨の群れを蹴散らしながら、二人は駆ける。冬木の町に二人の悪魔が、否―――

 

「俺/私たちが、『地獄』だ!」

 

 ―――地獄が並び立った。

 

 マシュはこの光景を生涯忘れないだろう。空虚で色彩の無い人生を彩る地獄の炎が、優しく心を温め始めたこの光景を。

 

本当の意味で、2人と出会ったこの瞬間を。

 

「―――先輩、お姉様」

 

「ッ! マシュ!?」

 

「生きてたの!? ていうか何その格好!? 立香のは臭いから私の上着を羽織りなさい!」

 

「んだとゴルァ!」

 

 

 




藤丸立香

性別:男

秩序(!?)・善(!!?)

国連特殊部隊に雇われた傭兵。いろいろあって両腕がトルネードクラッシャーパンチ。SKLの海動枠。笑顔の素敵な公務員。根っこがFGO主人公な所為で海動よりもマイペースでお人好し気味。ダイナミック主人公のお約束で結構スケベ。


藤丸立華

性別:女

秩序(!?)・中立

立香と同じく傭兵。令呪は基本こっちが持つことになる予定。SKLの真上枠(出生含む)。女性だからか真上より子供や年下に甘い。マシュにとっては正に姉のような存在(立華もまんざらではないようだ)。立香との関係は遺伝子レベルで密接。
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