もしも、ぐだ男とぐだ子が笑顔の素敵な公務員だったら【連載版】   作:MAGMA

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アガルタの女を走り終えたので初投稿です

前回のあとがきより設定が大幅変更するかもです

というかします


2話

 

 1

 

「良かった! 通信が繋がった! マシュ! 立香君達! 無事かい!?」

 

 空間に投影されるホログラムに映ったゆるふわドクターに、立香たちは一先ず臨戦態勢を解いて物陰に移動した。

 

「マシュがこんな格好になってんだけど、説明はあるかしら? ドクター」

 

「ドクター、私のバイタルチェックをお願いします。それで事態が把握できるかと」

 

「ちょっと待ってくれ……、!? この数値は!」

 

「はい、私は恐らくデミ・サーヴァントになったと思われます」

 

「デミ・サーヴァントぉ?」

 

 聞きなれない単語に首をかしげる立香。立華の方は壁に背を預けて静観を決め込んでいた。

 

「カルデア第六の実験がようやく成功したという事か。とにかく、君たちが無事レイシフトできたのは僥倖だ。僕はカルデアの復旧作業を指揮しつつ君たちのサポートを行う。君たちにはマシュという人型の兵器が―――」

 

 銃声が響いた。この場で銃を扱っていた人間は立華唯一人。無表情にドクターのホログラムを見つめながら、躊躇なく引き金を引いた。

 

「り、立華ちゃん!? いきなりなにを」

 

「次、この子の事を兵器と呼んでみなさい。脳味噌全部ぶちまけてかわりに粒あん詰め込んでやるわ」

 

「僕はこしあん派だ!」

 

 どこかピントのずれたロマンの反論に呆れたか、あるいはこれ以上語ることはないのか、立華は銃をしまい再び壁に背を預けた。

 

「えーっと、説明を続けるよ。今も解析が進んでいるけど、マシュは君たちのサーヴァントという事になっている。二人のマスターから魔力を受け取っているサーヴァントというのも前代未聞なんだけど、今は緊急事態だ」

 

「待て、俺はその鯖だの鱒だのの事をよく知らねえんだが」

 

「あれ? てっきり国連から話を聞いている物だと思ったけど、まあいいさ。こんな事態だから知識はしっかり持っておいた方がいい。サーヴァントとマスターっていうのは……」

 

「ドクター、通信が乱れています。通信途絶まであと十秒」

 

「カルデアがダメージを受けている所為だね。ここから二キロ先に霊脈の強いポイントがある。そこにベースキャンプを設置してきてくれ。少しは通信が安定すると思うから―――」

 

 そこまで言い残して、ロマンの姿が消えてホログラムに何も映らなくなった。

 

「二キロ先だな。しゃーねえ、行こうぜ」

 

「フォウ!」

 

「あん? フォウまでついてきてたのか? 仕方ねえな。はぐれんなよ」

 

 立香は刀の様子を軽くチェックして、歩き出す。その後に続くようにマシュとフォウ、そして立華が歩き出した。

 

「あの、お姉様」

 

「お姉様はやめなさいって」

 

「それでは、マスター。先程なぜドクターに向かって発砲されたのか、お聞きしたいのですが」

 

 マシュの眼は一切引く気のはないという強い意志を宿していた。マシュにとってドクターとは育ての親であり、お姉様と慕ってはいるが一緒に過ごした時間は明らかにドクターの方が長い。それだけに信頼の厚い人物がいきなり撃ち殺されれば、例えその人物が地獄すら生ぬるい外道であっても、慕っていた人物からしてみれば大切な身内なのだ。当然怒りを抱く。そんなマシュを見て立華は、マシュから敢えて視線を外した。

 

「……別に、人間を兵器だの道具だの呼ぶ輩が嫌いなだけよ。撃ってから警告するくらいにね」

 

 立華がマシュから視線を外したのは、その時に浮かべた羅刹のような顔を見られたくないと思ったからだ。そんな顔を見られることぐらい慣れているはずだが、どうにもマシュには見られたくないと思った。思ってしまった。

 

「(我ながら吐き気がするぐらい甘いわね)」

 

 立華の懐の中にいつの間にか滑り込んできていたこの後輩は、立華の事を知った時、怯えるか、それとも離れるか。そのことに僅かながら恐怖を抱いていることを、立華は無視した。

 

「しっかし進むにつれて骸骨が多くなってきたな」

 

 作業感バリバリで立香が骸骨たちを屠っていく。時折色が違う個体も見かけるが、もれなく切り捨てられていった。矢が来れば切り払い、槍が出されれば蹴り払い、剣が来れば斬られるより先に斬り殺す。立華もがら空きな立香の背を守るように陣取り、討ち漏らしを仕留めていく。マシュも覚束ないながらも盾を使い、立香たちのほんの僅かな隙をカバーし、サポートに徹していた。

 

「マスター!」

 

 たった一言声をかけられただけで、立華はサーヴァントの思考をくみ取る。マシュがシールドバッシュでまとめた敵の頭上へと飛び上がり、猛烈な捻りを加えて回転しながら銃を乱射する。雨のように降り注いだ銃弾が骸骨たちをズタボロに粉砕するすぐ後ろでは、立香が両の腕を射出。アルミ缶を引き裂くように骸骨たちを貫いていった。

 

そんな調子で殲滅を行っているときだった。

 

「キャーーーーーー!!」

 

「悲鳴」

 

「生存者か?」

 

 悲鳴の元に駆け寄ると、銀髪の少女が骸骨に追われていた。その少女はマシュにとって非常に見慣れた存在だった。

 

「オルガマリー所長!」

 

「あ! あん時のヒステリービンタ!」

 

 しかし、此方の声も聞こえないほどに錯乱した様子で走っており、運動に適さないヒールの所為か、はたまた体力が限界だったか、足がつんのめり転倒してしまう。その後ろでは骸骨がゆっくりと剣を振り上げていた。

 

「やだ! いや! なんで私がこんな目に合うのよ! レフ! レフゥ! 誰か私を助けてよぉぉ!!」

 

 あまりにも情けなく、生命が根源から叫ぶ生への渇望。理不尽にも命を刈り取らんとする死神の鎌は―――

 

「どおおりゃあああああ!」

 

 ―――地獄より飛来した魔神の腕が叩き折った。

 

 

 

 

 2

 

 

「―――事情はおおむね理解したわ」

 

 先程の錯乱ぶりは鳴りを潜め、カルデアとの通信も確立させたことでオルガマリーは冷静になれた。しかしだ。この一般枠だったはずの二名の異質さには既に精神にかなりきていた。

 

「残りのマガジンはいくつ? 私の把握だと残り5つってとこだけど」

 

「その通りだ。左腕についている分でカンバンだな。無駄撃ちすんじゃねえぞ」

 

「フン、誰に向かって言ってるのよ」

 

 オルガマリーが関わった人間に、ここまで地獄の鬼のような―――本人たちの名乗りは地獄そのものだが―――人間は今までにいなかった。彼女がイメージしていた一般人というのは、何にも知らない愚図で、無知ゆえに楽天的な使えない人間のはずだったからだ。

 

「マシュ、貴方も何か食べておきなさい。最悪水分と塩分を取るだけでもいいわ」

 

「ありがとうございます、マスター」

 

「お、なんだぁ? 本気でお姉様気取りってか……って危ねっ!」

 

「チッ、無駄弾撃った」

 

 どうしてこうなった。オルガマリーの胸中に広がる言葉である。補給物資とは別に自分で持ち歩いていたドライフルーツを口に含み、なんとか気持ちを立て直した。

 

「いい? 貴方達」

 

「あぁ?」

 

「何よ?」

 

「(ひっ!)……これからの行動について話します」

 

 地獄の眼光に射抜かれて一瞬縮みあがり、若干ちびりそうになりながらもオルガマリーは指揮を執り始める。今回行われるはずだった作戦についての知識は立香たちには当然あった。唯一知らなかった点としてはサーヴァントとマスターの関係だったぐらいで、特に問題はなかった。改めてみてみれば立華の右手には見覚えのない刺青のようなものが浮かんでいた。

 

「そういえば先輩の方には」

 

「これか?」

 

 立香のほうには腕ではなく、心臓の辺りに髑髏のような刺青が刻まれていた。突然惜しげもなくさらされた男の体にマシュは赤面し、オルガマリーがぎゃあぎゃあ喚き散らした。それにつられて骸骨たちが集まって戦闘になったのは言うまでもない。

 

「生娘かっ、つーの」

 

「マスターは平気なんですか?」

 

「見慣れたもんよ、あいつの裸ぐらい。戦場じゃ男だの女だの言ってられないわ。あいつも私の裸ぐらいじゃ動じないわ」

 

 衝撃の事実にオルガマリーが戦慄しているが、マシュは戦場に二人がいたことに僅かながらショックを受けていた。何も知らない自分が過酷な戦場を生き抜いてきたマスターを守ることが出来るのか? それはとてもおこがましいことではないのだろうか? 心の内の葛藤は分かりやすいくらいに顔に現れ、立華に隠すことなど到底不可能だった。

 

「悩むことはないわ。私たちが出来ない事が、マシュにはできるかもしれないのよ?」

 

「それは、一体何でしょうか?」

 

「そうね」

 

 ―――殺さない様に守る戦いかしらね。

 

 その一言は、マシュの心に大きなショックを与えた。守るために戦うという事を考えていなかったマシュにとってその一言は、価値観の根底が揺らぐほどだった。

 

「私たちは地獄。そこにいるのは死者だけよ。でもマシュ、貴女の盾は、貴女の盾の後ろは違う。いつしか、守るためにその盾をかざす時が来るかもしれないわ。その時が来たら、貴女を『貴女が』信じなさい」

 

 振り返りざまに骸骨を撃ち殺した立華は、所長を任せると一言言って立香に加勢に向かう。弾丸を節約するためにナイフを振るう姿は、刀を振るう立香と合わせて、炎の中で踊る修羅と羅刹を想起させる。マシュは、自分の後ろで小さくなって震えている所長を見る。あの二人の間に所長がいても、確かに足手まといだ。なら自分の役割は、立香たちが気兼ねなく暴れられるように背中を守ること、立香たちの代わりに弱者を庇護することにあるのだろう。そうして前を見据えるべく、顔を上げた時だった。

 

「―――っ! 先輩! マスター!」

 

「応さ!」

 

「チッ!」

 

 今までとは違うものが、鎖状の影が二人に襲い掛かってきた。蛇のようにうねりながら二人を追従する鎖を、立香は斬り払った。

 

「(捌き切れないかっ!)うあっ!」

 

「マスター!」

 

 立華が絡め取られてしまった。大蛇の如く締め上げられる立華の口から、苦悶の声が漏れる。

 

「みんな! 今すぐそこから離れるんだ! サーヴァントの反応が近づいてきている!」

 

「もう遅いぜドクター! 立華がドジった!」

 

「無茶だ! 人間ではサーヴァントに勝てない! 戦闘機に生身で立ち向かうようなものだぞ!」

 

 立華に絡みついた鎖を斬ろうと立香が向かうも、他の鎖が邪魔をして思うように進めない。

 

「(クソッ! この鎖硬ぇぞ!)」

 

 立華の刀ですら刃が立たない硬度の鎖が、立香を焦らせた。しかし、この鎖を払える唯一の存在が味方にいた。

 

「やああああっ!」

 

 マシュが盾を振るうと、鎖が千切れ飛んでいく。

 

「ははっ!目には目をってか」

 

 助け出された立華は、音もなく着地し、すぐさま銃を構えた。

 

「こんどは私たちが足手まといってわけ?」

 

「らしいな」

 

 悠然とこちらに歩を進める黒い影を睨みつけ、二人は己の無力を噛みしめた。




実はこのお話の主人公はマシュだったりするかもしれない
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