ただの青年(?)がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか。〜うん、間違っているだろうね〜 作:霧辻
「あの......どうかなされたんですか?」
少年にとって彼は良く言えば迷い人。
悪く言えば不審者である。
少年の名はベル・クラネル。
まだ自分の目標を、憧憬を与えられる前の彼だ。
今の少年はまだ一介の冒険者でしかない。
深紅の瞳に色素の薄い肌、それと同じ、いやそれ以上に真っ白な髪がとても特徴的だ。
少年からは目の前の青年がとても嫌悪を感じるような人間には思えなかった。
自分はそこまで人を見る眼があるとは思わないが、少なくとも少年にとってはそんな人物だとは感じない。
「......どうかしたんですか...?」
「......あっ!?俺!?俺か!?......どうしたというかですね......その......ま、迷子ですかね......は、ハハッ...」
苦笑いをする青年。
青年の格好としては少し妙な点は見られるが、変だ、と言うほどでも無い。
笑うつもりはないけれど、一応警戒したほうがいいか......。
そうすると前触れもなく、強い風が二人の間を横切る。
それに伴い、彼の茶髪がかった黒髪が風によって靡く。
薄い暗がりの中で青みがかった瞳が、ベルには彼女と重なった。
容姿は幼く、喜怒哀楽の激しいからこそ“神”であっても“神”には見えない、あの【彼女】に。
「......そうですか......」
決して、信じる根拠がある訳ではないが、信じる理由は出来た。
自分はこの人を信じようと思った、ただそれだけだ。
普通の人ならばここで挨拶をして別れるだろう、
しかし、彼の優しさというのは美点ではある、だが欠点であるのは明確な事実だ。
何故なら少年は彼を自分達の寝床に招待しようとしたのだから。
その小さな行動が少年を、そして少年の周りの人間でさえも巻き込む災難へと巻き込んでしまったのだから。
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「...え?い、良いんですか......?」
「はい!ぜひ!」
「その...自分で言うのも何ですけど...俺、普通貴方にとって怪しい奴ですよ......?」
青年は混乱していた。
突如現れた白髪の少年に会ってものの数分で寝床まで提供するなんて言われているのだ。
混乱するのは当たり前である。
されどしかしだ、この状況では上手くいけば彼に町の事も、この世界の事も聞き出せるかもしれない。
そして無償で住処を、共同ではあるが住ませてもらえるなんて願ったり叶ったりの場面だ。
だが、大抵そんなうまい話はある訳がない。
第一彼が自分を住まわせて何の得があるのだろうか、否、ない。
少なくとも自分自身の、全てに対してスペックの足りない頭では考えつかない。
..................。
「.........」
「......あ、えっと...その......あの......」
「「.........」」
「あの...やっぱり......「ベルくん!?」え?」
「うわっぁあ!??」
......女の子が出てきた。
いや、正確には真横にある廃教会の何処ぞから飛び出してきた。
ベル、と言われている少年に飛びついた少女(?)は、
その小さな身体つきには不釣り合いな、とても大きな双丘を身につけていた。
ツインテールを綺麗な白い花型の髪留めで留め、白銀のワンピースの上には左右の腕にかけて青い紐を結んでいた。
...とりあえず今の目の前の光景を言葉で形容するならば【少女がベルの顔面にそれはそれは大きな双丘を当てている状況】だ。
......どうだ?分かりやすかっただろう?
少女は幾分かベルの頬に自身の頬をくっ付け、スキンシップをとってはいたが、
「か、神様...ぐ、ぐるじ......」
ベルの悲痛な声にその動きを止め、一旦ほんの少し彼と間を開ける。
しかし直ぐに少女は身を再び近づけ、少年の片腕に体を押し寄せる。
「それは大変だ...!何より君は“ダンジョン”からの帰りなんだし......疲れてるよね......よし!なら早く帰ろう!急いで帰ろう!」
神様と言われている少女は目の前にある廃教会にベル共々連れて行こうとするが、
「あの、待ってください神様」
ベルの真剣な声音に制止した。
「......どうかしたのかい...?」
「あの...彼の事で...」
「ああ......よし、ならこっちにこようか...」
少女はベルを連れて、廃教会の階段下まで連れて行くと何やら密かに談話し始めた。
ーーー
ーー
ー
「正直に言うよ...ベル君......」
「は、はい」
「僕は反対だ!」
「そ、そんなぁ!?」
「だってそうじゃないか!急に“訳のわからない素性すら分からない奴”をこのファミリアに引き連れるのは...僕は賛同しかねるかな...」
「そこまで知っているって事は聞いてたんですね......」
「当たり前だろう!じゃないと、人前であんな事はなかなかしないよ!......ま、まぁ、してほしいならいつでも僕はOKだけど...」
「い、いや、大丈夫ですよ!?」
「まぁ、それはともかく、僕は反対なんだよ。彼を引き入れるのは。確かに今は人員的にも資金的にもぜんっぜん足りない。だが今は二人だけとはいえ僕達はファミリアを担っているんだ。たったそれだけ、それだけの理由だけど、僕はあまり...」
無情の一言。
確かにそうかも知れない。
前はともかく今は二人しかいないとはいえ、ファミリアを支えているのだ。
素性も分からない人間を引き込むのは愚策に等しいのかも知れない。
でも......けれど...!
「僕は......僕がしたいと決めたんです!確かに、神様の言う通りかも知れません。僕もそう思います、でも.....彼は僕に対して、
『自分は貴方にとっては不審者ですよ?』なんて言ったんです、あんな、あんな...苦しいかも知れないのに、辛いかも知れないのに、真っ先に僕の事を考えてくれた、そんな人です、だから僕は...!彼を......」
「「.........」」
「よし、分かったよ」
「...え?」
「良いと言ったんだ!でも、条件がある」
「条件...?」
「いや、そんな大切な事ではなくて...彼を少し気にしてくれるぐらいでいいんだ。言った通り素性すら分からない奴にあまり色々と行動して欲しくはないのが僕としての考えだし、問題なんかはあまり出て欲しくは...ない」
「そうですね......」
「でも、僕はベル君を信じているし!ベル君が信じる人を僕は信じる!だから、少しぐらいは監視...では無いけど、少しだけ目にかけるぐらいでいいからさ?」
「......!はい!」
ーーー
ーー
ー
「.........で、良いんですか?」
「はい!良いみたいです!神様からも了承を得ましたし!」
約、5分も満たない内に決まった結論。
OKとの事らしい。
まぁ、何も制約が無いわけではないだろうが......住処があるだけましだ。
つか......普通に一部丸聞こえだったんだけど!恥ずかしくないんかね!?......あまりにも普通に聞こえたからこっちまで恥ずかしくなったんだが......。
......なんか、少女が睨んでくるのだが......。
そうして青年は再び溜息を吐く、すると突然ベルからある事を聞かれた。
「そういえば、貴方の名前って何なんですか?」
「......名前...」
彼は突然の質問に少し戸惑うが、直ぐ口にした。
「俺の名前は...朝霞 晴継 (あさか はるつぐ)です」
この瞬間、この別世界に異界の少年が名を刻んだ一瞬だった。