ゼロの使い魔(サーヴァント)   作:くおん(出張版)

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朝餉

「シエスタ……シエスタねえ」

「ご存知なのですか、マスター?」

 セイバーがマスターの自室に戻った直後、ルイズは目を覚ました。

 寝ぼけ眼にセイバーを胡乱げに観ていた彼女であるが、やがて自分が召喚した使い魔だと思いだしたようで、改めてそのことを自覚してか目をぱっちりとあけた。

 その後でセイバーが主人に勝手に何処に行っていたのかを問い質したのであるが、洗い場で出会ったメイドのことを話すと、どうしてか目を細めてその名を繰り返したのだった。

 そして。

「一応、知っているわ。この学院でメイドをしている子でしょ? 黒髪が綺麗だって誰かが言っていたわ。誰だったかしら。マリコルヌかギーシュか……ああ、セイバーには解かんないか。後で授業に出た時にでも……まあ、そのくらいだけど」

「そうですか」

 セイバーはそう答えながら、しかし首を傾げた。

(なんでしょう……何か違和感がある……)

 それがどういうことなのかをはっきりと言語化はできなかったが、セイバーはルイズの説明を奇妙だと思ったのだ。

「…………まだ、聞きたいことある?」

 ルイズは、何処か居心地悪そうな声で言う。

 彼女の目は困惑したようにセイバーに向けられていた。自分に衣服を甲斐甲斐しく着せてくれているセイバーを、何処か罪悪感のようなものの入り混じった眼差しで見ている。

「そうですね」

 セイバーはそんなルイズに気づいているのかいないのか、手慣れているわけでもないが躊躇なくルイズに靴下を履かせながらそう言ってから、立ち上がり。

 

「はあい、ルイズいる?」

 

 扉が開き、褐色の少女が入ってきた。

 セイバーは流れるようにルイズとその闖入者との間に自分の体を入れた。

 少女は眼を広げた。

 驚いたらしい。

 それもすぐに元に戻し、口元に妖艶な微笑を浮かべてセイバーの顔を一瞥し、次いで不機嫌そうにこちらを見ているルイズへと目を向けた。

「キュルケ」

 ルイズは自分の襟元を正しながら、セイバーの背後から声をかけた。

「心配しないで。同級生よ」

「――――ご学友ですか?」

「敵よ」

「?」

「敵だけど……忌々しいことに、この学院の同級生なのよ。あと、色々」

「色々ですか」

 ルイズの「色々」に籠められた何かをセイバーは何処まで察したのか、改めて少女――キョルケを見た。

 彼女はその視線を受けて、笑みを止めて大きく優雅に一礼してみせた。

「先ほど、ルイズに紹介された通りですわ。

 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー

 二つ名は『微熱』。

 お気軽にキュルケと呼んでいただいても結構です」

「その女のことなんて、無視したっていいわよ」

 ルイズの言葉はにべもない。

 セイバーは振り向いて、「しかし」と言いかけて黙った。どうあれ、マスターの意向に逆らいたくない。

 キュルケは笑う。

「あらら、ひどいわね。せっかく、使い魔召喚が成功したっていうから朝っぱらから訪ねてきたっていうのに」

「………………あっそ」

「こちらの方が、噂の使い魔――――凄いわね。うん。なんというか、凄い、凄いわルイズ。あなた本当、たいしたメイジよ」

「それ、嫌味?」

「嫌味なもんですか!」

 キュルケは両手を広げた。

「メイジの実力をはかるには使い魔をみよ、よ」

 セイバーはその言葉に「なるほど」と頷く。この少女が何を言わんとしているのかようやく解ったのだ。

 ルイズも複雑そうな顔をした。

(昨日聞いた話では、サモン・サーヴァントというのは、この世界の魔術師――メイジたちのパートナーを呼び出す大切な儀式。それでどれだけ強力な使い魔を呼び出せるかで、メイジとしての実力を世に示す……ということなのか)

 昨日見渡した限りでは、自分の脅威になりえるようなモノはあの場にはいなかった。

 それもそうだろう、とセイバーは思う。

(仮に英霊がいたとしても、自分以上霊格の者となるとかなり限られる)

 なにせ、元の世界で最も有名な聖剣の担い手であるアーサー王なのだ。

 セイバーは傲慢ではないが、自分がそれなりに高名な英雄であり、霊格の高い英霊であるという自覚はあった。

 その自分を呼び出した者が、なまなかの存在であるはずがない。

 呼び出すのに、なんらかの触媒があるのならばともかく。

 この世界にそんなものがある可能性は限りなく低い、はずだ。

(そんな状態で私を呼び出せたマスターは、この世界のメイジとしてもかなり高位の存在であるに違いない)

 …………そう考えてしまったのも、無理のない話なのである。

 キュルケは随分と興奮しているらしく、ルイズを正面から抱きしめていた。

「もうあなたを、誰も『ゼロ』なんて呼ばないわ!」

「くるしいっ、はなして!」

「あ、ごめんなさい」

 途端に冷静になり、キュルケはルイズを離し、踵を返して扉へ向かう。

「今日からの講義が楽しみだわ!」

 じゃあ、また後でねーと駆け去っていった。

「嵐のような人でしたね」

「あいつは風系のメイジじゃなくて、火系よ」

 そういう意味ではないのだが、セイバーはルイズの顔をじっと見つめた。

 ちなみに、メイジの系統などについては昨晩に寝る前に少し話を聞いていた。

「……今のは冗談よ」

 ぷいと頬を赤らめて、顔をそらした。

 セイバーは微笑んでから。

「しかし、『ゼロ』……?」

 キュルケの言葉に首を傾げるのであるが、ルイズは何か言いたげな顔をして、だが、何も口にしないまま部屋からでた。

「セイバー、食堂にいくわよ」

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 アルヴィーズの食堂というのは、魔法学院の三つある塔の中でも一番大きな本塔の一階にある大食堂である。

 そこには三つのやたらと大きく長いテーブルが置かれていた。一つに軽く百人は座れそうな席がある。

 三つはそれぞれが学年ごとに分けられているようで、二年生であるルイズは真ん中のテーブルになっていた。

「ここは……豪華ですね」

 セイバーが思わずそう口にしてしまうほどの、それはそれは大規模な食堂だった。

 見渡すと、一階の上、中階のテラスには大人の――恐らくは教師だ――メイジたちが歓談しているのが見えた。

(私の時代には、ここまでのものはそうそうなかったものですが)

 かの絢爛たるキャメロットの兵舎もかくや、というものであった。

 ……単純に、セイバーは華美豪華なものを好まなかったというのはあるのだが。

 単純に規模についていえば劣らぬものはあったが、テーブルに乗っている果物などを見ると、目眩がしてきた。

 彼女の生きた古代と中世の狭間の時代では、到底あり得ないものだ。

 セイバーが昨日までいた現代日本ならばともかく。

 彼女がそんな風にもの珍しげにしている間に、ルイズはメイドの一人に声をかけていた。

「マスター?」

「セイバー、話はつけたから、今日は私の隣の席に座ってちょうだい」

「それは、しかし……、」

「解っているわよ。サーヴァントとして扱えっていうんでしょ。夜までにはメイドたちのところでご飯が食べられるようにしておくから」

「ありがとうございます」

 一礼するセイバーに、ルイズは複雑そうな視線を送った。

『あなたみたいな人を、平民みたいに扱いたくないんだけど』

 と考えているのはありありと解ったが。

 そうはいかない、というのがセイバーの主張であった。

 どうも自分がこの世界にきてから、変な誤解を受けているというのは解っていた。

 誤解は誤解で放置していいものと、放置していると後々で致命的になってしまうものまで、色々とある。

 とりあえずセイバーは、この世界での貴族というものではない、ということは周知して欲しいとルイズに頼んだ。

 最初は、放置しておいてもいい類の誤解だと思っていたのだ。

 神秘の秘匿などを考える必要はないが、自分の素性などはマスター以外に知る必要のない情報である。

 真名は晒さないにこしたことはない。

 黙っていれば、周囲はほどよく適当な推論をしてくれるだろうと。

 そう思っていた。

 しかし……、

 今されているだろう誤解は、放置していい類のものではない。

 何せ彼女は、「アルビオンからの亡命貴族」であるという誤解をされているらしいのだ。

 マスターであるルイズも、最初はそのように思っていたらしい。

 セイバーにとって、アルビオンから亡命してきたという誤解は、いたくプライドを刺激するものであった。

 仮に祖国とは違う、ただ名前が同じなだけであるとはいえ、やはり「アルビオン」という名前がよくない。

「亡命」というのはなおのこと悪い。

 大ブリテンの統一王として、大陸にまで遠征したことがあるのである。

 最終的に国は滅びたとはいえ、そんな自分が亡命してきているのだという誤解のもと、哀れみの目を向けられるというのが耐えられない――

 ……というのも、多少はある。

 多少である。

 あくまで多少のことである。

 彼女は今やサーヴァントなのだから、なによりも自分のマスターの身を第一に考えなくてはならない。騎士としての誇り、王としての矜持など二の次だ。

 基本的に。

 基本的に。

 考えなくてはならないのは、自分がそう誤解されることによって、マスターがどういうことになるのか、である。

 セイバーにはこの世界の政治事情がまだ解らない。

 そもそもどんな社会形態なのかもよく解ってない。

 昨晩にマスターに聞いた話は断片的だったし、今朝に聞いた話もやはり短くてそれどころではない。

 ただ、亡命貴族、というのはよくないと思った。

 その、この世界のアルビオンがどうなっていて、そしてどうなるのかは解らないのだが、亡命した貴族がいるとなると、やはりその後でなんらかの政治的な追求があるかもしれない。

 ないのかもしれない。

 だが、用心すべきだと考えた。

 どんなことからトラブルに巻き込まれるのか、解ったものではないのだ。

 そのような懸念は、むしろ彼女の生前の記憶からではなく、サーヴァントとしての経験が思わせていたのであるが。

 その時のセイバーの脳裏には、進んで危険に突っ込んでいく元マスターと、それを止めようとしてより状況を混沌とさせていく先マスターの姿があった。

 ルイズにその旨をいうと「そんなに心配することはないわよ」とあっさりといってのけたものである。

 どうもアルビオンの戦乱については、あまり悲観的な見方はしていないようだ。

 それが事実に基づくものであるのか、ということは考えないことにした。

 とにかくセイバーはこの誤解は早めに解くに越したことはないと思っていた。

 そして、とにかく自分はこのマスターのサーヴァントであるということを強く示さないといけないとも思っていた。

(ここは現代日本とは違うのです。そこらのケジメはちゃんとつけなければ)

 セイバーは身分制度が強く残っていた時代の人間であるわけで、そこらの価値観だの機微についてはよく解っていた。解っていたつもりだった。

 だから。

 自分の食事も先程のメイドにテーブルの上に用意されてから、ふと尋ねてしまったのである。

「今のメイドはなんという名なのでしょうか。あとできちんと礼を言わねば」

「さあ」

 ルイズはそっけなく返した。

「……話し慣れてたようでしたが?」

「そういう風に見えた? まあ、ここではよく話しかけている方かしらね。なんとなく。けど、いちいち、メイドの名前なんか覚えてられないわよ。向こうも仕事の内としているんでしょうから、特に礼なんかしなくてもいいと思うわよ。どうしてもっていうのならとめないけど」

「それはそうですが――」

 セイバーは言いかけて、言葉を濁した。

 貴族というものはそういうものだと、思い出したからである。

 身分の違う者とは、滅多に言葉さえ交さない、顔も見ないというのが当然なのだ。

(しかし、そうすると……)

 違和感が再び鎌首をもたげてきた。

 それを聞くことを、セイバーはしなかった。

 ルイズは祈りの言葉を捧げだしたし、そのことも特に緊急を要することとは思ってなかったからである。

「いただきます」

 セイバーは生前ではなく、前の世界のように手を合わせた。

 その場にいた貴族、平民問わず、注目の視線が集まった。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

「…………セイバーがあそこまで食べるとは、思わなかったわ」

「申し訳ない…………」

 魔法学院の廊下を歩きながら、ルイズとセイバーはそのような話をしている。

 ルイズは何処か憔悴しているような顔をしているし、セイバーはそれこそ申し訳なさげに項垂れている。

 そうなのだ。

 セイバーは食事時間ギリギリまでご飯を食べ続けていたのだ。

 その様子があまりにも上品で、静かなものであったので、ついついルイズは眺めていたままで時間の経過を忘れてしまっていた。

 ……気づいた時には、周囲で一緒に観ていた者たちは立ち去っていた。

「貴族の食事ということを忘れてしまっていました」

 セイバーは言う。

 地方や時代にもよるが、支配階級の食事には食べきれないほどの量を豪華に盛り付けて出されることがある。セイバーの生前の時代にもそういう食事が出されることはあった。

 食事が豪奢で豪華であるということは、権威を示すのに最も普遍的な方法なのだった。

 セイバーがそのことを忘れていたのは、単純に現代日本社会に適応しきっていたからであるが。

 それと、食事の内容があまりにもよかったということもある。

(とても……とても美味しかった)

 そう。

 なんというかべきか、食堂で出された料理は、セイバーの予想を超えて美味だったのだ。

(この世界で、こんなに美味しいものが食べられるとは……)

 セイバーは現代日本で生活が長かったので、長い時間がかかって人類がどのようにして食事事情を改善させたのかをなんだかんだと学んでいるわけであるが、それゆえにこのハルケギニアでも現代日本にかなり近いクオリテイの料理がでてくるというのは完全に予想の外だった。

 そして風土的に、この地はセイバーの生前の土地に近い――のかも、知れなかった。

 何処か懐かしい風味がした。

 ……それで、ついついもっきゅもっきゅと食べてしまった。

 あくまで上品に。

 ゆっくりと。

 その様子は、見惚れるほどだった。

 ただし、大量に。

 セイバーはあくまでもサーヴァントである。

 体内に取り入れられる食料は、魔力に変換される。

 限度はあるにしても、その量は見た目にかなりのものになる。

 ルイズは目を丸くしたままで、セイバーの食事が終わるのを待っていた。

 より正確には、終わるまで目が離せなかっただけであるが。

「まあ、仕方ないわよね。アルヴィーズの食堂のコック長はオールド・オスマンがわざわざ雇ったってくらいだもの。うちの実家の料理と較べても劣らないくらいよ」

「なるほど。この国の最高水準の料理でしたか」

 セイバーは歩きながら頷く。

「セイバーの国が何処かは聞かないけど、そうそうあれ以上のものは食べられなかったでしょうね」

「……そうですね」

 瞼を閉じていた。

 彼女の前のマスターたちは、それはそれは美味な料理を作ってくれていたものである。

 もはや二度と食べられないだろうそれらを思い浮かべた。

 口元に淡い笑みが浮かんだ。

「……セイバー?」

「いえ、なんでもありません」

「そう」

 ほどなく、教室に辿り着いた。

 

 

 魔法学院の教室というのは大学の講義室のようだった。それが石で作られている。

 教師は一番下に立ち、そこから階段状に席が続いている。

 ルイズとセイバーの二人が教室に入るのは、どうやら最後だったらしい。

 一斉に二人へと視線が集まり、ぼそぼそと呟きや囁き声が聞こえ始めた。

(なるほど。どうやら私は注目の的ということですね)

 今朝聞いたという噂――アルビオンの亡命貴族であるという話のせいだろうと、セイバーは思った。

 今のうちにその誤解は解いておいた方がよいだろうか……と考えてから、ふと見回すと様々な動物たちの姿が見えた。少年の肩の上に止まっている梟もいれば、窓の向こうからこちらを頭を出して覗いている巨大な蛇もいる。誰かが口笛を吹くとその蛇は頭を隠した。烏もいる。黒猫が足元を通り過ぎた。

 さながら動物園のようだ。

 キュルケの顔も見えた。彼女は何人かの少年たちに囲まれていたが、それらを無視してこちらに手を振っていた。

 セイバーがちらりとマスターであるルイズを視ると、不機嫌な表情で一瞥したきりだった。

(どうしたものか)

 少し考えたが、軽く会釈するだけにとどめた。

 基本的な方針として、マスターの意向にはできるだけ従うことにしていた。

 そうすると、キュルケの足元にいた大きなトカゲ……らしき生き物もこちらに向かって頭を上下させた。どうやら、挨拶らしい。なんともご丁寧なことだった。セイバーはそのトカゲらしい生き物に向かっても目礼をした。

 その様子が目に入ったのか、ルイズは呟いた。

「火トカゲよ。火竜山脈のものかしらね」

「なるほど。この世界では、あれが火トカゲですか」

 セイバーの知る幻想種としてのそれとは、姿が結構違っている。

「そうなの?」

「ええ」

「ふーん……ああ、あれは烏って生き物だけど、」

「烏は同じです。ここから見えるところでは、猫も梟も」

「変なの」

「変……でしょうか」

「セイバーは違う世界から来たって言ってたけど、何もかもが違うわけでもないし、何もかもが同じってわけでもないのね」

 なんだかそれって、変。

 そういう風に言われてみれば、確かに少し変かもしれなかった。

 セイバーは平行世界の概念をルイズに説明しようとして、何処かぴんとこない顔をされた昨晩のことを思い出した。

 ここがどれだけ近いのか遠いのかは解らないが、なんらかの形で元の地球とは関係しているのだろう……とはアルビオンの名前などを聞いてから確信はしているのであるが。

 烏や猫のような一般的な動物とは違う、幻想種だの魔獣だのような生き物もキュルケの火トカゲ以外にもかなりいて、蛸人間だのバジリスクだのもいた。

 それらの姿はセイバーの知るそれとはよく似ているものもあれば、かなり違うものもいる。

(本当に不思議ですね)

 改めて、ここが異世界であるということを思い直した。

 自分の知識が先入観となってマスターの危機につながるかもしれない、とも考える。

 彼女は魔法は使えないが、やはりこの世界のことをよく知るためにもマスターと共に授業を受けた方がいいのだろう。

 そう思いながら教師を視ると、どうしてか入り口から誰かに呼びかけられているようだった。

「……どうしたのかしら?」

 ルイズは怪訝にそう言った。

 セイバーは無言でそれを見ている。

 やがて。

 教師は何かを了承したらしく、生徒たちへと一礼してから教室をでていった。

 入れ替わりに入ってきたのは、セイバーも見知った禿げた男だった。

「彼は――」

「コルベール先生、ね」

 変なの、とルイズは首を傾げる。

 セイバーが見回すと、他の生徒たちも多かれ少なかれ、そんな様子になっていた。

 不思議そうな、興味深そうに、あるいは訝しげに、禿頭の教師を見ている。

 

「えー、シュヴルーズ先生には急なご用事ができたので、今日の授業はこの私、『炎蛇』のコルベールが担当させていただきます」

 

「…………ッ」

「セイバー……?」

「いえ、なんでもありません」

 セイバーは目を細めた。

『炎蛇』を名乗ったあの痩せっぽちの、いかにもうだつの上がらなさげな男の眼差しを、彼女は見たのだ。

 

 それは刃の冷たさと鋭さ、そして焔の如き熱さを持った――

 

『炎蛇』の名に相応しいものだった。  

 

 

 

 




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