とある科学の氷葬地獄(インフェルノ)   作:水谷祐

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前からハマってはいたが、まさか小説を書くとは思っていなかった件について。


幻想御手編
プロローグ


 学園都市。

 東京西部の未開拓地を切り開いて作られた街。東京都の三分の一の面積を誇るその場所には人口230万人の内8割が学生のこの都市では学生の脳に自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を作り出し、通常ならば不可能な現象を起こさせる様に日々彼らを開発している。

 ちなみに、学園都市内で能力者と呼ばれるのは凡そ50%位であり、残りは未だに発現していない無能力者(レベル0)だ。高能力者、つまり大能力者(レベル4)以上となると能力者の中でも10%にも満たない人数になる。一番強い超能力者(レベル5)に至っては、現在学園都市の中でも7人しか居ない。

 しかし、六月後半に事態は起こった。今まで七人しか居なかったレベル5に八人目が加わったという一報が常盤台中学校に入って来た。まだ序列は決まっていないようだが、順当にいけば第八位で収まるだろうとのことだった。

 しかし、その見通しは甘かった。八人目は第四位である麦野沈利を蹴落とし、堂々の四位を手に入れた。新たな第四位の能力名は氷葬地獄(インフェルノ)。学園都市でも珍しい氷の能力である。

 

 

 

 

 

 

 銀髪に黒縁眼鏡を掛けた少年は身長も年頃の平均と変わらない、何処にでも居そうな少年だった。強いて少年の目立った特徴を上げるならば、制服の下に着込んだ半袖のパーカーである。

季節は既に暑い夏となっている。周りの生徒が手で顔を扇ぎながら歩く中、彼は汗ひとつ流さずに歩いていた。

 

「暑い。だが暑いと言ったらさらに暑くなる。ならば、寒いと言うべきか?」

 

 ぶつぶつと呟きながら歩く姿はかなり目立っていた。

 すると、公園の近くでクレープを売っている屋台を見つけた。丁度いい。あれでも食べれば少しは体も冷えるだろう。しかし困ったことに少年は体を冷やし過ぎるとまずい体質であった。

 

「すまないがある程度冷たくて体が冷えすぎない、そんな素敵なクレープはありませんか?」

 

 ついでに糖分も。

少年の目には目の前にぶら下がるゲコ太ストラップなど全く目に入っていない。小さな子供たちがクレープを買いに並ぶ中、堂々と聞いてしまうくらい少年は切羽詰まっていたのだ。

 

「あ、はい……」

 

 何やら察してくれたらしい店員はチョコレートアイスを乗せすぎない程度にし、生クリームとトッピングを加えたクレープを渡した。多少量を少なくしたこともあり、値段を下げようとしたが少年はクレープとストラップを受け取り、金を置くと列から離れてしまった。

 

「申し訳ありませんが、ただいまの方でゲコ太ストラップの配布は終了です」

 

 どさっ……。

 何か落としたのかと振り返った少年の目に映ったのは、酷く落ち込んだ様子で両手両膝を付く学園都市第三位の姿だった。

 

「おい。具合でも悪いのか、第三位?」

 

 分かりにくいがこの少年、わりと困った人をほっておけない気質の持ち主である。しかし周りに居た一般人は思っただろう。せめて名前で呼んでやれよ、と。

 

「ゲコ太ぁ……」

 

「ゲコ太? なんだ、それは?」

 

 しかし少年は学園都市第三位である御坂美琴が所望する“ゲコ太”なるものを知らなかった。

 

「ゲコ太って言うのは、ほら貴方が持ってるカエルのマスコットのことですよ」

 

「これが、か? 些か変わったカエルだな。俺の知るカエルなるものは解剖するとピクピク動く可愛らしい物体だが……」

 

 苦笑しながら“ゲコ太”について教えてくれた艶やかな長い黒髪の少女の顔が引きつる。クレープを食べる前にそんな事をさらっと言われたのだ。一般的に考えれば、引いて当然だろう。

 

「しかしこれで理解した。第三位、これをやるから列から出てやれ。子供たちの通行の迷惑になっている」

 

「迷惑って何よ!」

 

「そのまんまの意味だ。早くしろ、第三位」

 

「第三位第三位って、あたしには御坂美琴って名前があるのよ!」

 

「知っているが?」

 

 二人の間に冷たい風が流れた。だが、御坂は何も言い返せなかった。ここで少年の機嫌を損ねてしまえばゲコ太ストラップ(限定版)が手に入らないのである。それは惜しい。是非欲しい。

 

「あらお姉さま。どうかしましたの?」

 

 中々ベンチに戻って来ない御坂を心配して、風紀委員(ジャッジメント)として有名な白井黒子と頭に花飾りを付けた初春飾利が様子を見にやって来た。

 

「あぁ。もしかして御坂さん、この人に交渉してたんですか?」

 

「厳密に言えば、これをやるから何時までもそこで突っ立ってないで列から離れろと言ったんだが」

 

「お姉さま、またですか……」

 

 迷惑をかけたお詫びにと少年は彼女たちが場所を取っていたベンチに案内された。この暑い日差しの中、木陰でひんやりと冷えたままのベンチは純粋に嬉しい。冷たいクレープを口に運びながらそう思う。

 

「それにしても、貴方はお姉さまのことをご存じですのね」

 

「常盤台の第三位って顔も有名だろう?」

 

「確かにそうですね」

 

 共通の知識があると自然と世間話が弾む。聞いた話、どうやら彼女たちは今日初めて知り合ったそうだ。親睦とゲコ太ストラップのゲットも兼ねて、ここのクレープ屋へやって来たそうだ。実に年頃の女子中学生らしい。

 

「あれっ? あの銀行……、なんで昼間から防犯シャッター下ろしてるんでしょう?」

 

 初春が疑問を口にした時、

 

ドガアァンッ!

 

銀行の降ろされたシャッターが、謎の爆発によって弾け飛んだ。子供の多い広場は当然パニックに陥る。

 

「初春! 警備員(アンチスキル)への連絡と怪我人の有無の確認! 急いでくださいな!」

 

「は、はいっ!」

 

 それを見た白井が初春に警備員(アンチスキル)への連絡を指示し、自身は強盗犯と思われる男たちへの対処へ回った。御坂も手を貸そうとしたが、彼女は一般人。白井にやんわりとたしなめられていた。

しかし、相手は三人。幾ら白井が高レベルの能力者とはいえ、援護があった方が良いだろう。

 

「オラァ! お望み通りぶっ殺してやるよ!」

 

 白井は勢いよく拳を突き出した男の腕を引っ張り、バランスを崩したところで足払いをかける。地面に叩きつけられたことで脳震盪でも起こしたらしく、男は倒れたままだ。

 

空間移動能力者(テレポーター)か……。だがっ!」

 

「(発火能力者(パイロキネシスト))……」

 

リーダーと見られる長身の男が右手に炎の塊を発生させ、右腕に纏った瞬間、それは突然掻き消えた。

 

「なっ!?」

 

「馬鹿か、貴様は。そんな力をこんなところで使えば間違えなく死人が出るだろが」

 

 男の右手は凍っていた。見ればこの暑い中、少年の周りにうっすらと氷が張り始めている。

 

「貴方、能力者でしたのね……」

 

「取りあえずな」

 

軽口を叩きあいながら、白井は流れるような手つきで金属矢を手元に転移。瞬く間に男を地面に固定してしまう。

 

「……さーて、残るはあと一人ですわね」

 

「くそ……!」

 

三人組のうちの一人が男の子を人質に逃亡を図った。

 

「だめーっ!」

 

 驚いたことに、佐天が強盗に掴みかかったのだ。なけなしの勇気を振り絞って、男の子を救おうとした佐天が行った精一杯の抵抗。次第に腹が立ったのか、彼は佐天の顔を蹴りつけて車へと走った。

 

「黒子っ!」

 

 びりびりと火花を散らしながら歩く御坂に白井の顔が引きつる。

 

「こっからは私の喧嘩だから……、手、出させて貰うわよ?」

 

そして、ポケットから取り出されたのは何の変哲もない一枚のゲームコイン。

 

「あー……」

 

「君も大変だな」

 

 なら貴方が止めて下さいの! と怒り始めた白井をほって置く。今は佐天の治療の方が先だ。

 

「思い出した! ジャッジメントには捕まったら最後。身も心も踏みにじって再起不能にする最悪の空間移動能力者(テレポーター)がいて…」

 

「一体誰のことですの?」

 

 恐らく、白井の事である。

 

「更には、その空間移動能力者(テレポーター)の身も心もとりこにする、最強の電撃使い(エレクトロマスター)が……」

 

「そう。あの方こそが学園都市二百三十万人の頂点」

 

自慢げに微笑み、綺麗な放物線を描いて空に舞うコインを見つめる白井。コインは吸い込まれるように御坂の正面に落ちてくる。逃走車に乗ってターンをした命知らずは、御坂に向かってアクセルを踏む。

 

「八人の超能力者の第三位」

 

電撃で加速されて打ち出されたメダルは、まるで砲弾(レーザー)に様に周りのアスファルトを抉る。がりがりとアスファルトを削りながら近づいてくるそれに男はなす術もなく、車ごと吹っ飛んだ。御坂の上空を二、三回回転した車は見るも無残な姿で転がっている。

 

超電磁砲(レールガン)、御坂美琴お嬢様。常盤台中学が誇る、最強無敵の電撃姫ですの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急行した警備員(アンチスキル)が強盗犯三人を引っ立てている間に、少年は佐天の治療を優先した。相手は女の子だ。顔に傷が残ることがないよう、細心の注意を図る必要があるだろう。

 

「怪我は大丈夫か?」

 

「は、はい」

 

 氷をハンカチで包んだ簡易な氷嚢を渡してやる。

 頭に血が上った人間に立ち向かってくのはとても勇気がいる。ましてや、彼女はレベル0。向かっていくことすら怖かったはずだ。

 

「お手柄だったね! 佐天さん。すごくカッコ良かったよ」

 

「ありがとうございます……」

 

 年相応の笑顔で笑う彼女たちを少年はただ見ていた。あれは彼女たちの話であり、混じるつもりはなかった。

しばらくして、年相応の笑みから一変した御坂がこちらを見ていった。

 

「ねぇ、アンタ。名前は?」

 

「……ああ、名乗って無かったか。俺は月浦零哉(つきうられいや)だ」

 

 半分正解、半分間違った名前だが、この学園都市にはこの名前で登録しているため、嘘ではない。

 

「月浦? 何処かで聞いた気がしますわ……」

 

「何処も何もコイツが“例の八人目”よ、黒子」

 

「……はい? もう一度お願いしますわ、お姉さま」

 

「だからそいつは新しいレベル5の第四位、氷葬地獄(インフェルノ)よ」

 

 数秒後、警備員(アンチスキル)が驚くほどの声で叫んだ三人を見て、月浦は知らない振りを余儀なくされることになる。

 

 

 




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