とある科学の氷葬地獄(インフェルノ)   作:水谷祐

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第三話 一方通行

 

 

「くそっ! 俺じゃショートカットなんて出来ないのに!」

 

 青髪ピアスの言う通り、御坂の通った道を虱潰しに探しているのだが、中々彼女の姿は見つからない。

 

「俺も流石に三人一気に移動は無理だ」

 

「おい、レベル5」

 

「仕様がないだろう。俺の能力は元々念動力(テレキネシス)なんだ」

 

 月浦は多重能力者(デュアルスキル)ではない。ただ念動力(テレキネシス)系統の能力を使いこなす能力者だった。物体を浮かせる能力者が多い念動力(テレキネシス)の中で多くのものに干渉する事が出来る彼だからレベルを上げるのに時間が掛かった。

 

「え、念動力(テレキネシス)だったんか」

 

「ああ。俺の場合、氷の精製が極端に得意だったから氷系統の能力区分なんだ」

 

要は分子振動を操作して物体を凍結させたり、大気の流れを操作したり、空気自体を圧縮・拡散させたり、自分自身の推進力に使ったり出来るのだ。そして、元々の物体を浮かせると言う力の使い方自体はそこまで得意ではない。

 

念動力(テレキネシス)って元々万能な能力だしね。月浦はそのせいで中々レベルが上がらなかったんだけど」

 

「まぁ、僕よりは便利やなぁ」

 

「お前ほど訳の分からない能力者はいないから安心しろ」

 

 

 

 

 

 

『わああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああっ!』

 

 涼風の目撃情報を元に妹を探す美月の頭に響いたのは妹、御坂美琴の悲鳴。音の対象を美琴と友人二人だけに絞って居るため、美月は妹達(シスターズ)の最後の声に気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 月浦が見たのは大きな血溜まりだった。日常生活では滅多なことではお目にかかれない光景。そして、御坂の足らしきものが転がっていた。

 

「……一方通行(アクセラレータ)

 

 白色をもつ髪。血に染まったような赤い瞳。能力者らしい肉が付いていない体。学園都市最強の能力者である第一位。対峙するは学園都市第六位、破壊音声(キルサウンド)御坂美月。ちなみに最近決まった序列で月浦は麦野沈利と同列の第四位となった。

 

「僕ぁ、隠れて援護するからな! 絶対に前には出らんよ!」

 

「いやお前はその方が効率良いし、それで良いよ」

 

 真っ先に飛び出して言った美月を追う前の作戦会議は僅か十秒程度のこと。その間に美月と一方通行との会話は進んでいた。

 

「お前! 人の妹に何してくれてるんだよ!」

 

「ああン? 何だ、お前ェ?」

 

「お前が殺した子の兄貴だよ、この馬鹿やろう!」

 

 御坂を後ろ手で庇いながら一方通行と彼女の間に割り込んだ。放心状態の御坂がのろのろと顔を上げ、美月を見る。見る見るうちに溜まった涙はきっと見間違えではない。

 

「兄貴? あのクローンに兄とか居たかァ?」

 

「厳密に言えばオリジナルである御坂の兄だが、彼女たちの兄であることには変わりないさ!」

 

 予め演算によって構築しておいた氷塊を能力で飛ばす。上下左右、そして地面から。四方八方から放たれるそれを避けることは出来ない。一方通行にこの手の攻撃が聞かないことも承知している。月浦は、ただの時間稼ぎだ。

 ベクトル操作によって次々跳ね返ってくる氷塊は美月の能力により、当たる前にかき消されていく。

 

「ああ? んだこりゃあ?」

 

 しかし、一歩踏み出すことでさらなる反撃を加えようとした一方通行の足はまるで縫い付けられたように動かない(・・・・)

 

「お待ちください。破壊音声(キルサウンド)氷葬地獄(インフェルノ)、いえ念動支配(テレキネスマスター)死霊使い(ネクロマンサー)

 

死霊使い(ネクロマンサー)。既に死した者と会話し、その力を借りる能力。青髪ピアスは学園都市に数十人しかいない原石能力者の一人。死んだ者達に一方通行のベクトル操作は効かないからこそ、出来る事がある。

 

「計画外の戦闘は、予測演算に誤差を生じる恐れがあります。とミサカは警告します」

 

御坂と同じ様なクローンが十数人程やってきた。

9985号と言う御坂妹を見た時点で、それが複数人いる事は容易に想像出来た訳だが、やはり本人達を目の前にすると、正直ゾッとした。この現実をすぐに受け止められるのは恐らく、一方通行と美月だけだろう。

 

「特にお姉様、お兄様方は」

 

超能力者(レベル5)大能力者(レベル4)ですので」

 

「戦闘により生じる歪みは」

 

「非常に大きい」

 

「そのため、計画を途中で変更することは極めて困難であるとミサカは説明します」

 

「分かったよ、ちょっとからかっただけだってんのに」

 

 「リレーして喋んな、気持ち悪ィ」と吐き捨てて去っていく一方通行を見送ってすぐ、妹達は死体を淡々と片付け始めた。その異常な光景に御坂が耐え切れないように呟いた。

 

「あんたたち、何なの……。おかしいよ、なんでこんな計画に付き合っているの? 殺されちゃうのよ」

 

 その言葉は、ここに居る四人の言葉を代弁したものだった。

 

「ミサカは計画のために作られた模造品です」

 

「作り物の身体に、作り物の心……単価にして18万円の実験動物ですから」

 

 作業が終わった後、ピンクのカチューシャを付けたミサカが月浦たちに謝罪を申し出て来た。

 

『本実験に関係のないお兄様達を巻き込んでしまった事については重ねて謝罪します、っとミサカは頭を下げます』

 

 そう言って頭を下げ、「今日は楽しかったです、さようなら」と言った9985号を見た瞬間、今起こった事がいっきに現実味を帯びてきた。あの子は、9985号はそう遠くない日に実験で命を落とすのだろう。

 

 

 

 

 

 

 御坂を寮近くまで送り届けた後、真っ先にリタイアを申し出たのは青髪ピアスだった。彼曰く「下宿先に迷惑をかけるのはマズい」らしい。御坂についてはこれからも護衛を行うため、見逃して欲しい、と。

これから首を突っ込もうとしていることは明らかに学園都市の機密に関わることだったからか美月はあっさり承諾していた。ただし、御坂に何かあったらすぐに連絡するようにと釘を刺すことだけは忘れなかった。

 

「でも意外だなぁ。零哉が付き合ってくれるなんて思わなかったよ」

 

「些か心外だが、まぁ乗りかかった船だ。一人でも多く救えるように動くぞ」

 

「……うん」

 

 

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