とある科学の氷葬地獄(インフェルノ)   作:水谷祐

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第二話 氷の地獄へと葬る(インフェルノ)

 

 

 初春は白井の指示を最後まで聞かなかったことを後悔していた。あのまま聞き続けていれば、女の子は怪我をしなくて済んだかもしれない。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。しかし、爆発の衝撃も痛みも何時まで経ってもやって来なかった。時間が経つに連れて、周囲の温度が低くなっていることが分かった。恐る恐る目を開けてみると、白いもやが漂っているのが見えた。

 

「少し下げすぎたか?」

 

「少し所じゃねぇよ! 凍死させる気かお前は!」

 

 そう会話している月浦とツンツン髪の少年。初春の腕の中で縮こまっている女の子。皆、怪我一つ無い。そう、怪我一つしていないのだ。

 

「え……。怪我、してない?」

 

肌寒いだけで初春も女の子も、そして御坂もかすり傷ひとつ負っていなかった。

 

「なら良かった。寒いなら後で暖かいものでも奢ろう」

 

 通学鞄から何故か出てきたタオルケットを掛けられた。何で夏にタオルケット持ってるんだろう、とか野暮な事は聞かない。

 

「どうしてその優しさを上条さんにも分けてくれないのかな!」

 

「俺は慈悲に溢れているつもりだが? 欲しいならアイスでも奢るぞ」

 

 財布からわざわざアイス割引券を数枚取り出す辺り、本気なんだろう。

 

「余計寒くなるわっ! とにかく、お前の絶対零度は危なすぎだ!」

 

「絶対零度っ!?」

 

 絶対零度(アブソリュート・ゼロ)

 全ての物体はそれがどれほどの低温であろうとも、原子レベルでの運動を行っている。運動をしない物質などこの世界に存在していない。しかし、マイナス273.15度。全ての原子の運動が停止し、その物質はこの世から消え去ってしまう温度。その温度に至った瞬間、物質の存在は無かったことになる。月浦の生み出した、凍てついた存在しないはずの世界が爆発の衝撃波を起こす原子の動きを完全に止めたのだ。

そのような離れ業を難なく行うことが出来る彼は間違えなくレベル5だった。

 

「だから氷の地獄へと葬る(インフェルノ)なんて名前を付けたんだろ?」

 

「いや実は名づけたのは小萌先生なんだが……」

 

「マジかよ!」

 

 二人が口論している内に御坂がエスカレーターを駆け降りていく後姿が見えた。

 

「御坂さん!」

 

「あたし、犯人の顔知ってるから捕まえてくる!」

 

 そう言い終わる前に彼女の姿は見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 月浦が飛び出して行ってすぐ、白井も現場へ向かった。

 風紀委員(ジャッジメント)一七七支部に一人残された固法は警備員(アンチスキル)への連絡を行った後、書置きを残して自身も現場へ向かった。今回標的(ターゲット)となった初春も心配だが、行かせてしまった元クラスメイトの安否も気になる。

小、中学校、全てクラスが同じだった固法は月浦がどんな人物か大体把握している。周りに興味を無さそうにしていながら、困った人間はほって置けない。知り合いが危険な状況に陥るとすぐに飛び出す。何だかんだで面倒見がいい。風紀委員(ジャッジメント)向きの性格をしていながら、入る気は全くない。分かりにくいが、とにかく身内に甘い少年だ。

 だからこそ、今回の事件で初春が標的(ターゲット)と気づいてすぐに出て行ってしまった。きっと今回も無茶をしているに違いないと思っての行動だった。しかし、固法は現場についてすぐ、事件を解決したのは御坂になっていることを知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 御坂は不思議に思っていた。

 今回、虚空爆破(グラビトン)事件の解決に尽力したのは月浦とあの少年なのに、彼らは揃って「誰が助けたのなんてどうでも良い」と言って帰ってしまった。普通の奴だったら手柄を欲しがるというのにそれは全くない。むしろ、二人とも興味がないように見えた。

 月浦に至っては、初春たちに本当に暖かい飲み物を持って来ていたし、何を考えているか全く分からない。

 

「何よ、アイツら……」

 

「お悩みか。御坂?」

 

「っ!?」

 

 今、月浦が居るのは数メートル上だ。上から御坂を見下ろし、「どうかしたのか?」と聞いているのだ。電撃使い(エレクトロマスター)の彼女も、やろうと思えば磁場で飛ぶことが出来るがあくまで限定的。彼のように何も無い所で出来る訳がなかった。

 

「な、何やってんのよ!?」

 

「見ての通り空中散歩を楽しんでいるが?」

 

「全然答えになってないわ。一体アンタの能力の正式名称は何なのよ?」

 

 空中からひょいっと地面に降りてきた月浦に尋ねる。月浦の知り合いらしいあのツンツン頭の少年は彼の能力名称は付けられたものだと言っていた。なら、正式名称があるのではないかと考えて当然だろう。

 

「上条の言う絶対零度(アブソリュート・ゼロ)瞬間凍結(インスタント・クーリング)だったり、学者によって呼び方が違う。だから正式名称などない。ややこしいから小萌先生……、いや担任が氷葬地獄(インフェルノ)って決めたんだ」

 

「なるほどね……。で、どんくらい強いの?」

 

 序列は強さを表すものではない。しかし、元第四位、原子崩し(メルトダウナー)を五位にする男だ。御坂は彼の強さに純粋な興味があった。

 

「逆に君は強さを何と仮定しているんだ?」

 

「え、あ、それは……」

 

 今までそんなことを考えたこともないし、言われたことすらない。御坂の言う強さは基本的には能力の強さだ。しかしあの少年以外、その考えは適応されていないと言ってもいい。月浦自身も強さと言うより、人柄にこだわっている節が見られた。

 

「俺は意思だと思っている。そういった意味では、上条が強いんだろうな」

 

 

 

 

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