初春は白井の指示を最後まで聞かなかったことを後悔していた。あのまま聞き続けていれば、女の子は怪我をしなくて済んだかもしれない。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。しかし、爆発の衝撃も痛みも何時まで経ってもやって来なかった。時間が経つに連れて、周囲の温度が低くなっていることが分かった。恐る恐る目を開けてみると、白いもやが漂っているのが見えた。
「少し下げすぎたか?」
「少し所じゃねぇよ! 凍死させる気かお前は!」
そう会話している月浦とツンツン髪の少年。初春の腕の中で縮こまっている女の子。皆、怪我一つ無い。そう、怪我一つしていないのだ。
「え……。怪我、してない?」
肌寒いだけで初春も女の子も、そして御坂もかすり傷ひとつ負っていなかった。
「なら良かった。寒いなら後で暖かいものでも奢ろう」
通学鞄から何故か出てきたタオルケットを掛けられた。何で夏にタオルケット持ってるんだろう、とか野暮な事は聞かない。
「どうしてその優しさを上条さんにも分けてくれないのかな!」
「俺は慈悲に溢れているつもりだが? 欲しいならアイスでも奢るぞ」
財布からわざわざアイス割引券を数枚取り出す辺り、本気なんだろう。
「余計寒くなるわっ! とにかく、お前の絶対零度は危なすぎだ!」
「絶対零度っ!?」
全ての物体はそれがどれほどの低温であろうとも、原子レベルでの運動を行っている。運動をしない物質などこの世界に存在していない。しかし、マイナス273.15度。全ての原子の運動が停止し、その物質はこの世から消え去ってしまう温度。その温度に至った瞬間、物質の存在は無かったことになる。月浦の生み出した、凍てついた存在しないはずの世界が爆発の衝撃波を起こす原子の動きを完全に止めたのだ。
そのような離れ業を難なく行うことが出来る彼は間違えなくレベル5だった。
「だから
「いや実は名づけたのは小萌先生なんだが……」
「マジかよ!」
二人が口論している内に御坂がエスカレーターを駆け降りていく後姿が見えた。
「御坂さん!」
「あたし、犯人の顔知ってるから捕まえてくる!」
そう言い終わる前に彼女の姿は見えなくなった。
月浦が飛び出して行ってすぐ、白井も現場へ向かった。
小、中学校、全てクラスが同じだった固法は月浦がどんな人物か大体把握している。周りに興味を無さそうにしていながら、困った人間はほって置けない。知り合いが危険な状況に陥るとすぐに飛び出す。何だかんだで面倒見がいい。
だからこそ、今回の事件で初春が
御坂は不思議に思っていた。
今回、
月浦に至っては、初春たちに本当に暖かい飲み物を持って来ていたし、何を考えているか全く分からない。
「何よ、アイツら……」
「お悩みか。御坂?」
「っ!?」
今、月浦が居るのは数メートル上だ。上から御坂を見下ろし、「どうかしたのか?」と聞いているのだ。
「な、何やってんのよ!?」
「見ての通り空中散歩を楽しんでいるが?」
「全然答えになってないわ。一体アンタの能力の正式名称は何なのよ?」
空中からひょいっと地面に降りてきた月浦に尋ねる。月浦の知り合いらしいあのツンツン頭の少年は彼の能力名称は付けられたものだと言っていた。なら、正式名称があるのではないかと考えて当然だろう。
「上条の言う
「なるほどね……。で、どんくらい強いの?」
序列は強さを表すものではない。しかし、元第四位、
「逆に君は強さを何と仮定しているんだ?」
「え、あ、それは……」
今までそんなことを考えたこともないし、言われたことすらない。御坂の言う強さは基本的には能力の強さだ。しかしあの少年以外、その考えは適応されていないと言ってもいい。月浦自身も強さと言うより、人柄にこだわっている節が見られた。
「俺は意思だと思っている。そういった意味では、上条が強いんだろうな」