七月二十日。
昨夜起きた謎の雷のせいで、月浦が住む寮及びその周辺地域は停電に見舞われていた。しかし、彼の部屋は能力の事もあり何時でも涼しい。それを理由に隣室の人間がよく涼みに来るくらいだ。
月浦の朝は早い。
大体六時くらいに起き、まず紅茶を入れる。彼の従兄から定期的に送られてくる茶葉を消費しようとするうちに、習慣となってしまったものである。お湯が沸くのを待つうちに、昨日の能力で冷やしておいた冷蔵庫の中から食パンと卵、ベーコンを取り出す。食パンをトースターに二枚入れ、フライパンでベーコンを軽く焼いた後に卵を乗せる。それらを組み合わせればベーコンエッグトーストの完成である。それと同時に沸いたお湯で丁寧に紅茶を淹れれば、彼の朝食の準備は出来る。それらを皿に乗せ、隣人の家のベルを鳴らすのが高校に入ってから彼の日課と成りつつある。
「起きろ、土御門」
『何だ、ツキやんか。今日は舞夏来てないから助かったにゃー』
隣人の名は土御門元春。「だぜい」や「にゃー」などの日本語とは思えない不思議な訛り口調で話すクラスメイトだ。彼には舞夏という妹が居り、彼女が頻繁にご飯を作りに来るのだが朝は滅多に来ない。彼女は彼の昼ごはんは作っていくが、朝ご飯は何とかしろと言うタイプである。
そのため、月浦が起こすついでにご飯を食べさせて学校に行かせて欲しいと舞夏から頭を下げられてしまった。月浦は面倒見の良い方であったし、彼が一学期休みがちだった時、土御門とその友人はよく部屋を訪れてくれたこともあったので二つ返事で了承した。
「にしても、お前少しは料理をしたらどうなんだ?」
「俺は夏補修があるから無理だにゃー」
「……夏補修?」
聞き覚えのない単語に首をかしげる。
「成績が悪かったからそうなったぜい。ま、適当にクリアするにゃー」
「よく分からんが、頑張れ」
つい最近レベル5に上がった月浦には、補修など到底理解できない世界であった。
月詠小萌のクラスにはつい最近まで不登校だった生徒が居た。無能力者の多いこの学校で最近レベル5に上がった、月浦零哉である。
彼はこの学校に入学して僅か一週間で不登校になった。理由は彼女の指導するクラスの子供達も憤るものだった。能力開発の担当者が無理な
能力と言うものは、通常年単位の時間をかけてじっくり行うものである。それを急に行われれば体を壊す。月浦が取った行動は、自己防衛のためのものだった。
すぐに同僚の黄泉川に事情を話し、対処に当たったが彼は中々捕まらなかった。というのも、彼は氷系統の能力者である。氷で自身の姿を屈折して映すことで、捕まらないような対策を打たれていたのだ。日に日に暑くなる中、彼との鬼ごっこはかなりきつかった覚えがある。
ある時、月浦は何の気まぐれか学校にやって来て
結果はレベル5。学校に来なかった間、毎日行った鬼ごっこがどうやら功をなしたようだ。その時の心情と言ったら複雑極まりないものだった。
『いいですか月浦ちゃん。いじめられたら担任の私にちゃんと言ってください』
皆からよく小さいと言われる身長を精一杯伸ばして言う。
『分かりました。何かあったら小萌先生か黄泉川先生に言います』
そう宣言してからというもの、月浦は学校に来るようになった。既に一学期は終わりかけ。しかし、ようやくクラス全員が揃ったことが何よりも嬉しい小萌であった。
月浦は一時間目が終わるころになると補修を受けるクラスメイトに差し入れを入れに行く。何処にでもあるクーラーボックスにアイスを詰め、能力で一定温度に保たせて学校まで持っていく。
馬鹿みたいに暑い日差しを氷で遮りたいところだが、そこまでしたら流石に目立つ(パーカーを着ている地点で既に目立っている)と思い、何とか踏みとどまった。
「やってるな」
月浦の所属するクラス一年七組のメンバーの凡そ半分がこの補修を受けている。それプラス先生たちの分でアイスの数は丁度だ。
「おー、我等が救いの神!」
「月浦さん、どうぞこちらに愛の手を!」
わらわらと集まってくるクラスメイトにアイスを振る舞った後、彼は乗り遅れてしょんぼりとしている少年、上条当麻に話しかける。
「何をやってるんだ、上条」
「この溶けたアイスを見て何も思わないんですか、月浦さん?」
「……左手で食べるなら冷やそうか?」
上条の右手はどういう原理かは分からないが、能力を打ち消す。つまり、アイスを再び凍らせたとしても、彼の右手が振れればジ・エンドである。
「是非よろしくお願いします」
無能力者と過ごす日々、それが月浦の日常の一部である。
しかしようやく辿り着いた病院のロビーで彼が見たのは、公衆の面前で上半身を下着一枚の女性の姿だった。