とある科学の氷葬地獄(インフェルノ)   作:水谷祐

6 / 12
第五話 幻想御手(レベルアッパー)

 

 

 

 七月二十四日。

 月浦は突然入院した友人、上条当麻の知り合い、禁書目録(インデックス)の世話をしていた。本当であれば月浦の担任である月読小萌が面倒を見る予定だったのだが、「補修が忙しいからシスターちゃんを預かってくださいー」と言う無茶ぶりを受け、今に至る。

 禁書目録(インデックス)と言う銀髪碧眼のシスターは朝ご飯だというのに食べる食べる。家中の食糧を食べ尽くしそうな勢いだったので、土御門の部屋に朝食を届けることを最優先とした。お蔭で月浦の朝食は故郷であるフィンランドの特産物、サ○ミアッキだけである。

 

「うー、ごめんなさい」

 

「いや、怒ってないのだが……。むしろ、それだけ健康だということだろう? だが、今度からは少し加減してくれ」

 

「ごめんなさい……」

 

うー、と唸っている彼女を甘やかすわけにはいかない。何故ならば、一週間分の食事が入っているはずの冷蔵庫のほとんどをたった二日で食い尽くされた。これは、あの暑い中買い出しに出なければいけないということである。……憂鬱な気分になってきた。たまに差し入れしてやらないと上条家の家計は潰れるだろう、そう思った。

 

「でも食べないとお腹が空くかも……」

 

 上目遣いで見られても敢えて無視する。ここで甘やかしたら後々に響くと彼の頭では警鐘が鳴っていた。

 

「腹八分目な、腹八分目」

 

「それってどれくらいなの?」

 

「お腹一杯じゃなく、少し控える感じか。……まぁ、それくらいしたら上条もたまには良いもの食べさせてくれるかもな」

 

 済まない上条。きっと禁書目録(インデックス)はこれから期待した目でお前を見るはずだ。今頃病院で検査中であろう友人に心の中で詫びる。

 すると、机の上に置きっぱなしになっていた携帯が突然震え始めた。動作の感覚からして、電話だろう。表示されていた名前は白井黒子。嫌な予感しかしない。

 

「もしも『お願いします! お姉様と初春を助けて下さいの!』おい、本題が抜けてるぞ」

 

『ですから、幻想御手(レベルアッパー)の犯人は木山春生でしたの!』

 

 調査する側であった木山が首謀者であれば、確かに犯人が見つかるはずがない。ファミレスでは全て分かった上で話を聞いていたのだろうか。しかし、彼女はあれを楽しんでいる節があった。月浦の主観としても彼女は悪い人に見えなかった。

 

「何?」

 

『木山春生が今、初春を人質に取っていますの。警備員(アンチスキル)が出動しましたが、混乱していて状況が全く分かりません。それで、お姉様が……』

 

「……なるほど。場所は?」

 

『今転送しますわ』

 

 送付された情報にざっと目を通す。なるほど、今から行けば充分間に合う距離だ。ならばと、禁書目録(インデックス)に向き直る。

 

禁書目録(インデックス)。夕方まで留守番できてたら今日は食べ放題に連れてってやる」

 

「ホント!?」

 

「ああ。約束する」

 

 万が一、外に出るときは鍵を閉めるように言ってから月浦は家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 タクシーを使って途中まで駆けつけたまでは良いものの、現場に居た警備員(

アンチスキル)はほぼ壊滅状態。途中で途切れてしまった高速道路。そして胎児のような姿をした化物。

 月浦が様子を見に向かおうとした時、警備員(アンチスキル)の中に見慣れた顔があった。通っている学校の体育教師、黄泉川愛穂(よみかわあいほ)である。彼女たちが傷だらけということは、あの化け物は警備員(アンチスキル)の重装備と重火器を破ったということだ。

 

「これは酷いな……」

 

 白井が連日の仕事で生傷を増やしていることを聞いたからこそ、月浦は前線へ出てきたのだがここまでなると怪しくなってくる。だが一つ言えることがあると言えば、

 

「全く、最近の化け物は常識がないのか」

 

彼の逆鱗に触れたということである。

 

 

 

 

 

 

 御坂と初春は木山と一緒に居た。化け物を倒すにはどうしたら良いか、それについて話し合っていたらしい。彼女も化け物の攻撃の余波を受けたのか、地面に落ちた白衣は土を被り、全身的に衣服がボロボロだ。

 

「君は……」

 

「どうも。白井から連絡を受けて来てみれば、大変なことになってるみたいだな」

 

「あの怪物の事について知りたいのだな?」

 

「じゃないと止めようがない」

 

「それを私に聞くか」

 

 月浦の問いに彼女は自嘲気味に笑って言い、そして彼女は仮説を話し始めた。

 

「AIM拡散力場の?」

 

「恐らく、集合体だろう。そうだな、仮に幻想猛獣(AIMバースト)とでも呼んでおこうか。幻想御手(レベルアッパー)によって束ねられた一万人のAIM拡散力場。それらが触媒となって生まれた潜在意識の怪物。言い換えれば、あれは一万人の子供たちの思念の塊だ」

 

 苦しそうにもがきながら肥大化していく幻想猛獣(AIMバースト)。それが上げる声は一万人の学生たちの心の叫びに聞こえた。

 

「何か、可哀そう……」

 

「どうすればアレを止めることが出来るの?」

 

「それを私に聞くのかい? 今の私が何を言っても、君たちは信用……」

 

 初春が木山の目の前に手を出して見せ、

 

「私の手錠、木山先生が外してくれたんですよね?」

 

「ただの気まぐれさ。まさかそんなことで私を信用するとは……」

 

「それに、子どもたちを助けるのに、木山先生がウソつくはずありません。信じます!」

 

真っすぐ顔を見て笑う初春。その素直な答えを聞いて、ふっと笑いが漏れたのを見て、「笑わないで下さいよ」とぽかぽかと叩く初春を敢えてそのままにしておく。

月浦は木山の詳しい事情を何も知らない。でも感じるものはあった。月浦に守りたいものがあるように、彼女にも譲れない何かがある。

 

「全く……幻想猛獣(AIMバースト)は、幻想御手(レベルアッパー)のネットワークが生み出した怪物だ。ネットワークを破壊すれば止められるかもしれない」

 

幻想御手(レベルアッパー)の治療プログラム!?」

 

「試してみる価値はあるはずだ」

 

「アイツは私とコイツがなんとかするから、初春さんは、その間にそれを持って警備員(アンチスキル)の所へ」

 

「分かりました」

 

「了解した」

 

 頷いて階段へと走り出した初春を横目に、月浦と御坂も銃を撃ち続けている警備員(アンチスキル)の元へ急ぐ。

 

「本当に、根拠もなく人を信用する人間が多くて困る」

 

 一人取り残された木山は何処か嬉しそうに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。