「新しい
白井を驚かせたのは先輩の固法美偉の言葉だった。
確かに夏の募集で合格した物達が各支部に振り分けられる時期だ。しかしこの一七七支部は人員が足りている事から、新しい
「ええ。しかも小学三年生なのにレベル3。中々優秀な子よ。ただ……」
「ただ?」
「月浦の身内なのよね……」
月浦零哉。学園都市を代表するレベル5であり、新しい第四位
常識があるという点では白井の慕う御坂と同じなのだが、彼は研究者タイプだ。珍しいものは見て、調べたい。最近はそのためだけに
そして、先日の
本人は決して認めないが、白井たちを佐天の退院祝いにと食べ放題に連れて行ってくれたのはつい先日のことである。メニューを見て、あまりの高さに腰を抜かしかけたが全て彼の奢り。固法が当たり前の様に奢られていたのだ。これが彼の通常なのだろう。
つまり、身内に甘い月浦が身内の
「それは、大変ですね……」
「そうなのよ。月浦の奴、あの子のこと溺愛してるもんだから絶対反対するわ」
「で、溺愛ですの?」
八歳の男の子を溺愛する月浦。……想像すら出来ない。いや、むしろしたくない。
「ええ。家庭の事情もあって月浦が面倒を見ていたそうよ」
「確かに可愛いんだけど、ちょっと問題があるのよね……」と言葉を濁した固法。彼女が言うに、中学時代に何度かあったことがあるらしい。先ほども言ったように新入りは優秀だ。しかし、月浦同様に性格に難あり、とのことだ。
「大丈夫ですよ。白井さんも結構問題ありますし」
「初春、それはわざと言ってるんですの?」
新たな
「
何故語尾に「にゃ」がついているんだろうか。言動も変わっていたが、考え方も八歳と思えないくらい達観している。ああ、この子は確かに月浦の身内だと思い知らされた。
「美偉姉ちゃんも久しぶりにゃ。兄ちゃんは元気―?」
「元気よ」
「良かったにゃー。最近忙しいって聞いたから電話も控えたにゃー」
「そろそろ日本語にも慣れたかしら?」
「大丈夫なんだにゃ。兄ちゃんの知り合いが教えてくれてるにゃー」
そして少年は随分おかしな日本語を話す。見るからに外国人である彼に、一体誰がこんな間違った日本語を教えたのだろう。彼の友人であるという者がすごく気になった白井だった。
月浦の目の前に座る茶髪の少年は学園都市の第六位、
物体の持つ固有の振動数を音波の振動で増幅することで固いものでは破壊する。やろうと思えば人体すら破壊しかねない能力だ。本来の名称は
「美月。お前、木山春生の研究に手を貸したな」
「それ、わざわざ呼び出して言うこと?」
「妹が首を突っ込んだと聞いてもそれを言えるのか?」
店員が運んできたカップに手を伸ばした美月の手が震えた。見るからに焦ったその姿に「そう言えば、お前はシスコンだったか」と言っておく。
「……零哉。美琴には内緒の方向で。バレたら明日、葬式になるかも」
毎度のことだが、この男は大袈裟に考えすぎだと思う。あの御坂が実兄相手に本気で十億万ボルトを落とすはずがない。
「了解した。しかし、御坂はお前に電撃を落とすのか?」
「レベル5に上がってから落とすようになったよ。あれ、ホントに勘弁してほしい。美琴の電撃の音は頭に響くから」
音を操る能力者である美月はどんな微小な音でも拾ってしまう。そのため、普段はヘッドホンを装着しているくらいだ。そのため、電撃もとい、雷の音は非常に頭に響くと言うことだ。御坂に勝負を挑まれれば、頭に響く音に耐えながらの戦闘である。兄であろうと恐らく容赦しない性格である御坂の事を考えれば当然か、と思い直した。
「初姉ちゃんは地図書くの下手だにゃー」
「うぅ……」
にゃーなどとお子様口調で喋る彼の研修を任されたのは初春と白井だった。
確かにちょっと生意気な部分もあるが、思いのほか冷静な彼に初春は終始振り回されている。白井に至ってはいつも通り突っ走ってしまい、今は二人きり。この気まずさから逃げたいが研修中ゆえにそうはいかない。
「海斗君はどうして上手いんですか?」
「んー? 俺の住んでたのはフィンランドでも田舎の方でねー、全部ご近所さんで済んじゃったにゃ。でも学園都市ってそうはいかないからー、自分で地図書くようにしたにゃ」
西葛西と言う東京の都会で育った初春には経験のないことで、苦労しているんだなぁ、と思った。月浦もフィンランド出身だと言っていたし、彼らは日本に来て言語と地理に苦労したのだろう。
「苦労してるんですね」
「にゃー? よく分かんないけど馬鹿にされたー?」
「してませんよ!」
しかし、彼女たちの後輩研修はまだ始まったばかりである。
月浦の身内と御坂兄を出したかった。このまま