iDOL exe(改)    作:宗田りょう

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大幅な加筆修正版


プロローグ
神崎蘭子の弟くん


 

 厭だ、すごく厭だ。

 

――あー、いいよぉ、凄くいいよ琥太郎君。いい笑顔だ

――なかなかイケるじゃない

 

畜生、なんだって、僕がこんな格好をしなければならないのだ。

 

――うーん、次はね、耳を……そう、ぴょんってね

 

何がぴょん、だ……いや、カメラマンを恨むのは違うな。彼は自分の職務に忠実なだけだ。

恨むべきはこれを見るであろうオタク共。どうにもならない現世の鬱積を、子供で発散しようという気も頭も弱い連中。いや、それでも誰かに手を出さないだけましなんだろうか?

僕や姉さんはどこかの少女の純潔を救っていた? 莫迦が、僕。思い上がりだ。

 

まぁ、こうして被写体になっている――つまり、みんなに担がれている僕も大概だな、畜生め

 

 

――いいね、本当にどこかに連れていってくれそうだな、このウサギは

 

「神崎蘭子の弟」だ。それなりに売れてしまうのだろうな、

 

 

――お姉さんの蘭子ちゃんとは違う、こう、気品があるよ。

 

極めて不愉快だが、うん。楽しいなこれは

 

アハハ、糞ッ。なにかも好みではないが、僕はこの状況を楽しんでいるぞ。撮影を。誰に教えられたこともないが、どうすればいいのかはわかる。

 

女みたいな恰好をして、誰かを悦ばせてやるために

 

アイドル。うん。これがアイドルなのだ

 

僕はやっと、貴方の気持ちに成れましたよ、姉さん

 

畜生が

 

*** *** ***

346プロダクション 撮影スタジオ

 

神崎琥太郎がその日の撮影を終えたのは6時を過ぎてからのことだった。

「琥太郎君、お疲れ様。画像モデルは明日には上がるから、またそっちに送るよ」

「ありがとうございます」

「……っと、悪いね。後がつかえているんだ。すぐ次の撮影が始まるからさ」

 

お疲れさまでした。プロデューサーと琥太郎はスタジオを出た。

 

「神崎、今回の撮影は良かったぞ。はじめてにしてはよくできてたよ」

「……それはいいんですけど。この格好は……」

 ウサギ耳に黒のチョッキにホットパンツ。小道具は懐中時計(持ち出してしまったが、いいのか?)いうまでもなくモチーフはあのウサギだ。妙に露出しているが……

 姉の蘭子

「まあまあ、気にするな! 似合っているぞ。今回は初めての単体撮影だったけど、成功間違いなしだ」

 

 露出の多い衣装に姉に似た顔立ち――銀髪にやや緑がかった瞳、華奢な体格。琥太郎は思った。人気は出るだろうな。どんな層に売れるか考えたくはないな。うん、考えないようにしよう。

 

 「そういえば、撮影ってもっと大人数だと思っていたんですけど、意外少ないんですね」

  

そういって、話を変えた。

 

 撮影と言っても一昔前とは違う。部屋の6か所に備え付けられたレンズレスカメラと動体センサを使って、上下左右の全周から撮影する。彼はレンズを見て「はいチーズ」といった形ではなく、背景スクリーンやプロップ――被写体がイメージを掴みやすくするため、あらかじめ背景が投影されている。以前のように緑や青のスクリーンに想像力を働かせる必要はない――の前にいるだけでいいのだ。勿論それなりの苦労はある。ここで撮られたデータは平面的な写真だけではなく、AR・VR用の3Ⅾモデルにも使用される(別々に取ることもあるが、簡単な撮影ならまとめてしまう。アイドルは忙しいものだ)レンズを通した平面的な演技だけでなく、彫像のように全周からみられることを意識して撮影に臨まなければならない。

 

 彼の情報はその場でピント処理(レンズレスの利点はこれだ)から肌色補正までおこない、それから必要に応じて雑誌のグラビア写真やVR用鑑賞モデルに組みあがるのだ。

 いまだに撮影と聞いて多くの人間がイメージするような馬鹿でかいカメラや照明はないし、胡散臭いカメラマンや無口な照明さんもいない。

 教室ほどの広さのスタジオにいる人間は、被写体である彼を除いてカメラ操作担当と補正・背景操作担当各1人ずつにメイクさんと衣装さん、そして彼のプロデューサーだけ。以前ならばこの2倍の広さのスタジオに最低でもこの3倍以上の人数が必要であったから、人員削減は極まっている。

 ただし、同じようなスタジオが事務所内に大小30部屋はある。

 

 ここまでしなければプロダクションに所属するアイドル190人(研修生や北米などの支社所属者は含まれない)の撮影など回すことはできない。という事情が絡んでいた。全員が一線級なのだ。おまけに俳優や女優まで合わせれば一体何人いるのやら。外部スタジオは常に取り合いであり、撮影後の加工やらモデル調整を委託するのも面倒が多い。そのためこのプロダクションでは自前の撮影スタジオからカメラマンまですべてを抱えこんでいる。

 

 ……テクノロジーの発展によって減ると思われていたカメラマンや照明などの関連人員は増加中だ。1スタジオに必要な人員は減り、第一線で活躍するアイドルは極端に増えた。ならば、スタジオを増やそう。

 同じことはプロデューサーから事務員まで同じことがいえた。そしてまた、アイドルが一人増え、夢破れるか市場を開拓する。

 

 要するに00年代初頭に合衆国の銀行で起きた「窓口革命」――1店舗当たりの窓口に必要な行員は減ったが、そのため店舗を増やした結果以前より人員が増え、給与水準も良くなったという小話、テクノロジーと省力化に関する古典的寓話を繰り返していたのだった。

 

 異様に人の少ないスタジオからも肥大し続けるアイドル業界について語ることができる。すべては相対的なのだ。

 

 

 ……以上、これは神崎琥太郎の脳内モノローグの一部である。この後も割と続くが、割愛させていただく。

 

 なんとか別なことを考えて、この状況から逃れようとする彼の悪癖だった。姉とはまた異なる中二病であった彼は、このようなモノローグと悪態によって人生の困難を乗り越えてきたのだ。もっとも彼も神崎蘭子の弟であるから、そこらの凡人とはわけが違う。絶望や希望の奴隷にならず、あらゆる機会を創り出す男。

 

 「頭が良く、勇気があり、優秀な兵士にして、どうしようもなくロマンティックな愚か者」

 

 彼はまさにその通りの男であり、今現在の状況はその愚かさが招いたものだった。

 

 メスショ……女の子のような恰好をし、あまつさえその状況を楽しんでいたのだ。彼の内心は察して欲しい

 

 と、そこへ

 

「血を分けし我が眷属!?」

 

姉登場である。

 

 

 

 

 

 

 




モバマス超能力パロとか大正妖怪パロがあるのに、サイバーパンクパロがないのはなんでや!
なので書きました。

旧版から大幅加筆しました。

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