その日、私は尊敬していた一人の大人を代償に世界を救った。
「クソ、本当に、しぶといわね!」
そう悪態を吐くジャンヌ・オルタの眼前には、彼女の渾身の宝具を受けて尚倒れない、ゲーティアの姿があった。ジャンヌが何度も繰り出している炎とは比べ物にならない、地獄を思わせる焔に焼かれ、数多の槍に串刺しにされ、それでも倒れない姿に私は悍ましいほどの執念を感じる。
でも、あと少し、あと少しだ。私はそれを前にして、少しだって絶望を感じてはいなかった。
だって、私にも負けられない理由があったから。
これは、ドクターが、ロマニが、自身の存在全てを放棄してでも切り開いてくれた、そして、マシュがその命を賭して守ってくれた道なんだ。私はその道を進んで行かなきゃいけないんだ。
「ジャンヌ、あと少し、あと少しだ! もう少しなんだ!」
「あぁ、もう! わかってるわよ! 負けて、負けてたまるものですか!」
私の手にはもう、令呪は一画ですら残っていなかった。もう、私にはサーヴァントに強制する力は残っていない。そして、最後の令呪はジャンヌを戦わせるために使ったのではない。つまり、彼女は義務でもないし、隷従している訳でもないのに、私の前で戦っている。自身の、仲間の、もう誰のかもわからない血に染まり、それを舐めて、また一つ、新たな炎を生み出している。
彼女の、耳を劈く咆哮が私の体を震わせる。あぁ、そうだね。私は彼女の背中を真っ直ぐに見つめた。君はこの世界の何もかもが恨めしいのに、君を取り巻く全てを望ましく思う。泡沫の夢をまだ終わらせたくないんだね。さぁ、この戦いを終わらせて、帰ろう。カルデアへ帰るんだ。私達の道はまだ途絶えていないのだから。
私は彼女と共に枯れかけの声で叫び、ジャンヌはそれに呼応するように幾度となく炎を繰り出した。繰り返し、繰り返し、繰り返し、炎はゲーティアの身を焼いた。もう、高く高く燃え上がる炎が眩しくて、私には何も見えなくなっていた。
それでも目を逸らさず前を見続けていた私の瞳が最後に映したものは、黒剣を天を突くように振り上げるジャンヌの姿だった。
そして、
「汝の道は–––––––」
世界を憎む竜の魔女は、
「既に、途絶えた」
世界を救うために、その黒剣を振り下ろした。
「英雄の末路なんて、大体は皮肉なものだ」
いつだったか、カルデアで誰かが言っていた。多分、アサシンのエミヤだったと思う。バレンタインのお礼に銃をくれたのはきっと彼だけど、結局、あれを使うことはなかった。きっと彼は、こんな物を使わなくて済むように精々頑張れ、とでも思っていたのだろう。実際、使わずに済んだよ、エミヤ。そして、貴方が言っていたあの言葉は本当だったのかもしれないね。英雄たる皆の力を借りて、私が漸く成し遂げた事は、
「––––––––世界を救ったという功績、そして、それを成し遂げる能力を鑑みて、封印指定とし、所属を人理継続保障機関フィニス・カルデアより魔術協会へと移行、その名の元に保護するものとする。同時に、人理継続保障機関フィニス・カルデアの権限を魔術協会へ移譲、魔術協会より派遣される魔術師の管理下に置くものとする」
余りに偉大過ぎたが為に、凡庸な私を飲み込んでしまったよ。
「時計塔にて、その身を保護させていただく」
時計塔に幽閉されてから、大体一週間程の時が流れた。私は無為にその時を過ごしてきた。そして、私は死ぬまで同じように無為に過ごすだろう。いや、もしかすると人体実験をされるかもしれない。まぁ、何にせよ、私はもう人生の意味を半ば失ったのだからこれから先がどうなろうと大差はないのだけど。
仕方ないんだ。封印指定を受けるというのは、つまりそういう事だから。
保護、なんていうのは建前だ。実際は私は既に魔術協会にとっては標本と同じだ。凡庸な私が多くのサーヴァントを操り、全ての特異点において様々な人物と関わり、上手くいき、そして、様々な特異点において、偶然死から逃れる事が出来てきた。例えばロンドンの霧等の毒に対する耐毒。例えばキャメロットでのアーラシュの存在。偶然とは思えないほどに、私の世界を救う旅は出来過ぎていた。
それでも、きっとこれらは偶然と、マシュやカルデアや特異点にいた皆のサポートで成り立っていたのだろう。
だが、協会は私を放ってはおかなかった。彼らの思惑は知らない。これらに魔術の可能性を見出したが故か、或いは凡庸でありながらこの様な偉業を成し遂げてしまった私に何かを感じての事か。私は知らない。ただ、私にわかるのは、結果として、私は封印指定となったことだけだ。
時計塔に幽閉される事を私は拒まなかった。きっと、私にはどうすることもできなかっただろうから。世界を救ったとしても、私は凡庸な人間なんだから。マシュにも、ダ・ヴィンチちゃんにも、サーヴァントの皆にも、職員の皆にも、そして、ロマニにも、申し訳なく思っている。皆、怒ってるだろうなぁ。特に、ジャンヌはかなり怒ってるだろうなぁ。怒って、暴れ回ってるかもしれない。
「ゴメンね、ジャンヌ。どうか、」
許して欲しい、そう呟きかけた時、パリと、小さくガラスの割れる音がした。ここは相当高いはずだ。鳥か何かが突いたか、或いは強風でもあったのか。何だろう、そう思い、振り返ると––––––
「どうか、何ですって?」
そこには、アサシンのエミヤのような衣装に身を包んだジャンヌの姿があった。
「どう、して......」
「どうしても何も、貴女を救い出しにきたのよ。世界を救った英雄さん?」
ジャンヌは小さく割った窓ガラスの隙間から鍵を開け、静かに部屋の中に入ってくる。
どうして、再びそう言いかけるが、彼女はその口を手で抑えた。その顔は怒りを帯びた笑顔であり、その時点で、彼女の言いたいことは八割程理解した。自分の顔が引き攣っていくのを感じる。
そんな私の顔を見て、彼女は抑えた手を下ろし、大きく溜息を吐いてから、剽軽な風に「どうして?」と言った。
「じゃないわよ。貴女、自分のしてる事をわかってるわけ?」
その言葉を聞いて、私は呆けた顔をしてしまった。それを見て、ジャンヌはまた溜息を吐いた。
「じゃあ、偉大なる英雄様に聞こうかしら? 貴女は何故、この仕打ちを、この裏切りを、受け入れているの? 世界を救った貴女が喝采や祝福を浴びる事はあれども、こんな惨い事をされる筋合いはないじゃない」
憤りを露わにし問いを投げかけるジャンヌとは対照的に、私は落ち着いていた。
彼女の言う事はもっともだ。世界を救う事の報酬が死ぬまで幽閉なんてブラックジョークにもならない。ただ、この問いに対する答えは途轍もなく単純で、そして、彼女はそれを理解してはくれないだろう。それでも、私には答えなければならない。私はこの理由しか持ち合わせていないのだから。
「彼らは、私達は普通の人ではないから。私達は魔術師なんだよ。だから、こうなる事は旅が始まる前から予想してたし、覚悟もしてた。だから、大丈夫」
私は初めから、人理修復に報酬を求めていなかった。あるとすれば、それは様々な世界をマシュやサーヴァント達と共に旅する事であり、或いは人理修復という凡庸な私には見合わない偉業こそが報酬だ。私は最初からこうなる事を知っていて、人理修復に臨んだ。
今の言葉は、ほぼ本心であった。少し違う所があるとすれば、最初には、覚悟はきっとできてはいなかった。
怖くて怖くて終わりが来て欲しくないと思っていた。だけど、終わらさなければならなかった。私と共に全てが消え去ることの方が怖くて、でもこうなるのは嫌で、覚悟もできないままに進んでいた。
だけど、もう大丈夫。全てが終わって、私は漸く覚悟する事が出来たから。ロマニのあの背中を見て、私は全てを受け入れる準備ができたから。
私はジャンヌに微笑んだ。それを見て、ジャンヌは驚いた顔をして、そして、直ぐに悲哀を見せた。
「本当に、何もわかってないわね。貴女、私達、サーヴァントが何の為に貴女と共に戦ったか知ってる?」
「世界を救う為、じゃないの?」
「違う」ジャンヌは小さな声で言った。私は理解できなかった。世界を救う為に、彼らは私と共に戦ったのではないのか。共に歩み、共に聖杯探索を行ったのではないのか。「確かに」ジャンヌは先程よりは少しばかり大きな声で言った。その声は震えていた。
「確かに、初めはそうだった奴もいるかもしれない。だけど、途中から、貴女のサーヴァント達の目的は世界を救う事ではなくなったのです」
ならば、
「なら、何の為に」
口から零れた私の問いに対し、ジャンヌは大きく深呼吸をして、力なく垂れ下がった私の手を握って、震えそうな声を真っ直ぐにして、
「貴女を生かす為よ。皆、貴女に死んで欲しくなかったのです。最後のマスターだからとかではなく、一人の人間として、皆は、私をも含む皆は貴女に生きて欲しいと願ったのよ」
言い終えると、ジャンヌは蹲って、呻いた。突然の事に戸惑って、屈んで、顔を覗き込むと耳まで真っ赤になっていた。
あぁ、そうか、恥ずかしかったのだろう。私も驚いている。ずっと、彼女はこんな事言わなかったから。ツンツンした態度を私に向けていた彼女がこんなに真っ直ぐに気持ちを伝えてくれたのは初めてだから。
少し、そのままでいた後、ジャンヌは立ち上がり、私の瞳を真っ直ぐに見た。
「もし、貴女がこのままここで命尽きるまで過ごすというのなら、私は貴女を無理にでも連れ出します」
「でも、カルデアはもう魔術協会の管轄下に」
「そうです、あそこはもう、貴方の帰る所ではありません。この魔術協会とかいう組織から逃げ、世界を駆け回る他ないのです。だからこそ、私がいるのよ。貴方の道の障害になり得ると、数が増えれば増える程、貴方を守れる時間は少なくなると、私以外のサーヴァントは座へと帰りました。カルデアのサーヴァント、その全てが貴方を生かす為に行動したのです」
皆が、生きろ、と、そう言っているのか。
「これは私達の復讐です。生かす為に戦ったのに、貴女は無意味に死のうとしている。なら、無理にでも生かすという復讐をしましょう」
「彼らの、復讐」
「さぁ、復讐に苛まれなさい。彼らは、私は生きろと言っています。死ぬ覚悟ができていたら死んでもいい? 何を言いますか。私は貴女の生を見届けて、復讐を遂げます。生きなさい、立ちなさい。死ぬ事は許されないのだから」
彼女はいつものように、邪悪な笑みを浮かべ、私に手を差し伸べる。
そうか、そうだったのか。私は知らなかったよ。皆がそんな風に思っていてくれていたなんて。これは復讐なんだね、だから、貴方達はアヴェンジャーたる彼女に全てを託したんだね。
私はこのままに終わる気だった。だけど、この復讐は、世界を救った皆の復讐は果たされて欲しい。果たされなくてはならない。
だから、私はその手を取り、
「行こう、ジャンヌ。私は生きるよ」
「よろしい、では」
ジャンヌと共に行く事を決めた。
私が彼女の手を取った時、突然、近くでドタドタと階段を駆け上がってくる音が聞こえた。それを聞いて、ジャンヌは「チッ、もう気づかれたのね」と言い、私の手を引っ張って窓の方へ駆け出す。次の瞬間、私は彼女と共に空を飛んでいた。飛んでいたとは言っても、それはほぼ落下だった。落下の途中で私を無理やりお姫様抱っこし、彼女は叫んだ。
「全力で逃げるわよ! しっかり掴まってなさい!」
私は彼女の声に従って、何も見ずに思い切り抱きついて、再びかけられるジャンヌの声を待っていた。ずっと、騒音やジャンヌの荒い息遣いが聞こえていて怖かったけれど、ジャンヌの鼓動の音がそれを和らげてくれた。
私の旅のほとんどはジャンヌ・オルタと共にあった。
オルレアンでの戦いが終わって直ぐにジャンヌは私の元へやって来て、私の顔を見るなりオルレアンの時のように嫌な顔をした。口癖のように「英雄様は」と私に言っていたし、あの時、私はジャンヌに嫌われていたのだろう。
だけどセプテムでのある日、私はジャンヌに陰で泣いているのを見られてしまった。
私は世界を救うために動いていたけど、その中の戦いが怖くて怖くてたまらなかった。常に死と隣り合わせの旅なんて、凡人が背負うには余りにも重すぎるものだった。
私はそれに耐えられなくて、でもマシュに私のそんな様を見せてはいけないということくらいはわかっていて、だから私はたまに陰で一人泣いていた。
ジャンヌは私を見て、全てを察したかのように抱き締めてくれた。そして「貴女は、違うのね」と言った。
突然の事に動揺しながらも泣く私に「大丈夫、私が貴女を守るから」と聞いた事がないような優しい声で囁き、小さな声で「大丈夫」と繰り返した。
その日からジャンヌは私の事を「貴女」とか「マスター」とか呼ぶようになった。私が泣く時になるといつも何も言わずとも察してくれて、陰で私が泣くのを抱き締めて慰めてくれた。
ゲーティアとの戦いでは何度攻撃を受けようとも倒れることなくひたすら戦ってくれて、だから最後に私は勝つ事ができた。
彼女は誰よりも英雄的ではなかった。
私は、世界を救う旅に臨む貴女を英霊達のような普通じゃない精神の持ち主であると思っていた。あれもまた狂った連中の一人なのだと考えていた。自己犠牲の塊、悍しいほどの不屈、痛みを恐れぬ鉄心、それらを持つ者なのだと。
だけど、貴女はそんな人物じゃなかった。英雄ではなかった。貴女は可笑しいくらい平凡で、笑えないくらい普通だった。人理修復の旅なんて重すぎて背負えない事は誰にもわかるくらいに凡人だった。自分の半分も与えられない自己犠牲、直ぐに折れてしまう柔な心、痛みを恐れて止まない臆病者。それでも彼女にしかもう成し遂げる事ができないから、震える脚で前へと進む。それが私のマスターだった。
あの日、私は貴女が普通の人間である事を知った。私が嫌うジャンヌ・ダルクという聖女様とは違うタダの人間が、狂った英雄達と共に世界を救おうとしているのだと理解した。その尊いと崇められる数多の精神の中で、一人足掻いているのだとわかった。
そして、その責任が貴女には重すぎるのだという事もわかった。
それがどれ程惨いことか、私は知っている。きっと私にはジャンヌ・ダルクの末路は耐えられないから。
私は復讐者であるがために、その心は狂ってはいなかった。幾分かマトモな人間と同じような思考をしていた。だから、私にはその苦しみが理解できて、だから、あの時貴女を抱き締めた。私の中の聖女のカケラと復讐者の炎が初めて同じ方向を向いた。
私はあの時、涙を流すその声を聞いて、貴女を救うことに決めた。
暫くして揺れや衝撃がなくなったと思うと、「もういいわよ」というジャンヌの声が聞こえた。目を開け、抱きつく腕を下ろし、彼女に下されるがままに地に立った。
そこは半ば廃墟だった。ボロボロの壁、埃が覆う床に、部屋の隅には蜘蛛が巣を張っている。窓の外には野原が広がっていて、家なんて一つだって見えなかった。
「ここは?」
「ロンドンから少し離れたところにある廃墟よ」
「これからどうするの?」
「慌てないで大丈夫よ。貴女も知ってる人が手筈を用意してくれているから」
私も知っている人? マシュとか、カルデア職員の誰か?
そんな事ができる人は限られている。それに、マシュはきっとどこかの管轄下にあるだろうから来ることはできないだろう。また、様子を見に行ってヤバそうならマシュも救出しなきゃ。
マシュのことも心配だけど、先ずは自分の身の安全を確保しなきゃ。救えるものも救えなくなってしまう。
ここで私は人理修復の前よりどこか変わったように自分でも思う考え方に違和感を覚えた。きっと前までなら、自分なんて無視してマシュを助けようとした。どうしてだろう。
不思議に思い口元に手を当てていると、家の窓が外からコンコンと叩かれた。
「あぁ」と、漸くかとでも言うような感じでジャンヌがカーテンを開くとそこには鳥が一羽いた。その嘴には手紙を加えている。
「あら、軍師様からのお手紙よ? マスター」
「軍師......? ってことは、まさか、孔明?」
「C'est vrai. あれは擬似サーヴァントだったでしょう? 今に生きるロード様が、英雄である貴女を生かそうとしてくれてるのよ」
「あぁ、うん。本当に嬉しいよ」
もうサーヴァントでなくなって魔術師として今を生きる者ですら、平凡な私を救おうとしてくれている。それが余りにも嬉しくて、私の生きる意志をより一層強くした。
泣きそうになっている私の姿を見てクツクツと笑うと、ジャンヌは鳥から受け取った手紙を開き、目を通した。
「手筈はどうなってるの?」
「27日の午前二時頃にロンドンの港から出る船に乗れとのことよ。一隻しかないからわかるとも書いてるわね」
「27日の午前二時って」
「えぇ、約六時間後。直ぐに出発するわよ」
ジャンヌはベッドの下や棚の中に隠しておいたらしい色々なものを出すと、リュックやキャリーバッグの中にそれを詰め込んでいった。そして私にリュックの一つを渡すと「さぁ、行きましょう」と言い、扉を開いた。
扉を開くと、風が中へと吹き込んできた。カーテンはバサバサと音を立て、古くなった家具の一部はギシギシと軋んでいる。その中、ジャンヌは風を背に受け、私の方を向いた。綺麗な髪が風に靡いていて、これを言うと怒られるのだろうが、まるで聖女のようだった。
彼女は笑う。
「さぁ、これより始まるは貴女の生を蝕む復讐劇。これから先、どんなに過酷な運命が待ち構えていようとも、私は貴女を絶対に死なせはしない。どんな苦しみを得ようとも、貴女を絶対に生き延びさせます。その為に私は全てを彼らから託されたのです。そう、『私』からの想いですら受け取った」
一瞬、寂しげな顔をしたかと思うと彼女の表情はまた戻り、更に続けた。
「苦しみなさい。我がマスター、我らがマスター、藤丸立香よ。貴女は復讐者の手を取った。ならば問いましょう。あの男の言葉を借りて」
私はジャンヌの顔を真っ直ぐに見つめて「えぇ」と返す。
「ねぇ、『お前は地獄を見たことがあるか』」
「ない。ないよ、ジャンヌ。だって、私はこれから貴女と共にそこへ行くのだから」
「えぇ、そうね。なら、私は貴女が地獄でもなんとか生きていける、そんな策をこさえる事としましょう」
「うん、待つよ。貴女が一緒にいてくれるなら、私は待ち続ける」
いつだったか––––いや、いつだったも何もない。彼は何度もこの言葉を繰り返していたから。私は何度もこの言葉を聞いているから。私はこの言葉をよく知っている。だから、今、もう一度唱えよう。
「『待て、しかして希望せよ』」
「えぇ、待ちなさい。希望を持って、待ち続けるのです。汝の道は未だ途絶えていないのですから」
私は外へと歩み出た。未来を示すかのように、向かい風が強く吹いてくる。
余りに強いもので少しよろめいたが、ジャンヌが後ろから支えてくれて、倒れることはなかった。
さぁ、あの丘を越えて。その先に広がる未来へと行こう。
私は復讐者に染まっていく。
私は生き続ける。彼らの復讐が果たされるように。
––––––––希望の彼方