復讐者と共に往く未来   作:センゾー

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貴方のための物語であれば、




アンノウン・バッドエンド

 あの日、あの時、私は彼に全てを託して、この物語の第一部を終わらせることに決めた。それはきっと最善の選択、それはきっと最悪の選択、それはきっと、きっと、当然の選択。

 

 願わくば、世界のために迷いなく全てを捧げられますよう。

 願わくば、決して折れぬ不屈の心を持っていますよう。

 願わくば、どんな痛みにも、如何なる苦難にも耐えられる鉄心でありますよう。

 

 願わくば、同じ結末を迎えませんよう。

 

 

 

 

 

 

 これは世界を救った一人の英雄の物語。七つの異常を正し、人類史の終焉を阻止することを使命として与えられた救世主の、数多の英霊と共に歩んだ華々しい冒険譚。

 

 聖女の信仰を知り、皇帝の愛を知り、悪党の夢想を知り、叛逆の矜持を知り、鋼鉄の信念を知り、騎士の忠誠を知り、王の理想を知った。それら全てが極限の域に達していれば、それ故に彼女はその光の眩さに目を細める。だが、それでも近づいていくのだ。それを理解するために。きっとそれなしでは自分は変われないから。変われなければ、きっとその願いは果たされないから。

 

 彼女はその足で進み、すべての異常を正し、辿り着いた先でやがて、その瞳は魔術王の姿を捉える。そして、手を伸ばすのだ。世界を救うために、その中で失われた多くの命のために。全てが報われるように。

 大願は果たされる。世界を救うという、一人の尊く生きる英雄の願いは遂に叶う。そう、人理修復は成されたのだ。

 

 第一特異点『邪竜百年戦争オルレアン』を修復した時、「辛くはないかい」と男は聞いた。「大丈夫、だって皆がいるから」少女の答える声は明るく、笑顔は曇りなく彼に向けられている。

 第六特異点『神聖円卓領域キャメロット』を修復した時、「辛くはないかい」と男は聞いた。「大丈夫、だってもう覚悟はしてるから」少女の答える声は明るく、笑顔は皆に向けられている。

 第七特異点『絶対魔獣戦線バビロニア』を修復した時、「辛くはないかい」と男は聞いた。「大丈夫、だって私がやらなきゃいけないからね」少女の答える声は明るく、笑顔は全てに向けられている。

 

 

 

 

 

 

 一人の少女の話をしよう。

 平凡、普通、ありきたり。その少女はこうして英雄譚のように語るには大したものを持っていなかった。

 大人は少年少女に教えを授ける。皆と同じく普通に生きろ。なるほどそいつは理想的だ。だって、何かをなすには何もない。大抵の夢は叶わない。いかにもそいつは現実だ。だって、夢を叶える気力もない。

 少女は教えに背くことなく凡夫の列を進んでいく。だって、彼女にも何もない。誰もが抱く絶望が底の希望に絡みつく。夢より悲惨な現実に、希望なきまま沈み行く。心はやがて絶対零度、痛まぬ程に冷えていく。

 

 しかし、今に消え行くこの世界は誰でもない彼女を選び出す。世界を救う救世主に、ただの凡人を指名する。少女に拒否権はなく、そして無力な凡人は死を掠める。あぁ、なんたる悲劇か。

 いくら救世主と祭り上げられようとも凡人は凡人、臆病さは捨てられず、孤独に陰で涙を流す。逃げる事は許されない。誰が許そうとも、自分自身が許さないから。諦めることは許されない。ここで諦めれば、滅びを招くことになるから。

 

 哀れにも少女に退路はなく、前に続くは地獄のごとき英雄譚、凡人が英雄と呼ばれるに足る偉業の物語。越えればきっと英雄のごとき尊い心を得るだろうが、さて。

 

 

 

 

 

 

 これは世界を救おうとした一人の人の物語。七つの異常を正し、人類史の終焉を阻止することを使命として与えられた凡人の、孤独の中で絶望に潰された当たり前の物語。

 

 歪な自己犠牲を知り、無限の愛を知り、力の無慈悲さを知り、身勝手な自己満足を知り、破綻した固執を知り、残酷な忠義を知り、理想の過去を知った。それら全てが極限の域に達していれば、それ故に彼女はその光の眩さに目を細める。そして、その者達の尊さを得ればきっと得てしまう悍ましいそれらに、恐怖する。だって、それは凡人にはあまりにも毒だから。得てしまえば、尊さに耐えられるかも怪しいその心はきっと壊れてしまうから。

 

 だから、彼女は英雄達の尊さを得ることはできなかった。得ることなく進み続けた。

 終われば英雄のようになれるだろう旅も、終わらなければ意味がない。尊さを得ることなく、凡人が英雄が成すべきことを成すことなどできはしない。

 

 彼女の心は、耐えられるはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、一つ、お願いしてもいい?」

「なんだ? 戦いなら俺じゃあなく、他の連中に頼め」

 

「違うよ。今回は、英霊である君というよりは作家である君に対するお願い」

「つまり、執筆か。なんだ、何を書いてほしい」

 

「英雄たちを率いて世界を救う、英雄のようなマスターの物語を」

「…………」

 

「汎用救世主型主人公だって、いつかの君が言っていた。きっとあの時の君は私の見栄を尊重してくれたんだと思う。君は本当はわかっていた」

「…………」

 

「私は本当にただの凡人、世界を救う救世主になれはしない。それどころか、もう駄目になりそう」

「人であるのが辛いから、人でないモノと同じになるか。それも自分を捨ててでも。まぁ、それもいいさ」

 

「お願いできる?」

「頼まれてやる。俺も人理が焼却されようとしている時に怠けるほどろくでなしじゃあない」

 

「それに、頑張ってる人とその努力を無下にはしないから?」

「フン、どうだろうな」

 

「あぁ、ねぇ」

「なんだ、まだ何かあるのか」

 

「引き止めないでくれて、ありがとう」

「…………あぁ」

 

 

 

 

 

 

 では、最後の話をしよう。人の未来に殺された、どこにでもある善の末路を。

 

 

 

 

 

 

「覚悟はできているんだな?」

「うん。とっくの昔に」

「そうか。ならいい。ここで迷われてもたまらんからな。では…………お前の人生を書き上げてやろう、マスター。世界で最も哀れな少女よ。タイトルは、そう――――――――『貴方のための物語(メルヒェン・マイネスレーベンス)』だ」

 

「――――――――――ありがとう、アンデルセン。さようなら、アンデルセン」

 

「さらばだ、悩み多き少女、藤丸立香。所謂来世があるならば、そこでうまくやるがいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方たちには私はどう見えていたのだろう。

 ちゃんと演じられていたのかな。それとも、道化のように見えていたのかな。そうだったら嫌だなぁ。

 

 でも、大丈夫。私はもう道化じゃなくなる。貴方たちの前には理想の救世主が立つ。

 

 もしも私が消えてしまうことを悲しむ人がいたなら、大丈夫。私にも世界の平和を願わせてくれたら、私にも人理を守ると言わせてくれたなら、きっと藤丸立香(人間)は満足して何処かへ行けるから。無力だった私にも意味があったんだって、夢のような、悪夢のような旅を誇れるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は理想を選んだ。自己の破綻か、自己の放棄か。選択肢は他になく、どちらにしろ少女はもうどうしようもなく、故に、少女は自分を捨てて、世界を救える英雄という人物になる事を選んだ。

 

 それはきっと世界にとって、最善の選択。

 

 それはきっと少女にとって、最悪の選択。

 

 それはきっと凡人にとって、当然の選択。

 

 

 藤丸立香(英雄)は、世界を救った。

 

 




それ故に世界のための物語。

だって、少女は――――――――

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