「では、両クラス共に準備はいいですか?」
Aクラスの担任で、学年主任の高橋先生がそう聞いてくる。
現在、時刻は10時を回ったばかり。
私達は今、Aクラスの教室にいた。
そう、遂にAクラスとの5対5の試験召喚戦争が始まる。
今この場には、両クラスの生徒全員がいて、私達の勝負を今か今かと注目している。
そして、教室の正面にある巨大ディスプレイの前に、私を含めた代表選手の10人が向かい合うように並んでいた。
こちらの五人は、私と明久、康太に姫路さん、そしてクラス代表である雄二。
Aクラス側には、木下優子とメガネをかけた黒髪の女子生徒(康太の情報だと、佐藤美穂)、黄緑の髪をショートカットにしたボーイッシュな女の子(同じく、工藤愛子)と学年次席の久保利光、そして、霧島翔子。
今回の戦争はこの十人で行われる。
………何故か、私達の後ろには島田さんが、そして教壇にいる高橋先生の横には、これまた何故かラウンドガール姿の秀吉がいた。
島田さんはウチの主要メンバーの一人だからまだ分かる。
でも、なんで秀吉がそんな姿でそこにいるのよ!!
せめて貴方もこっちにいなさい!
「なんでワシがラウンドガールなのじゃ?」
秀吉も疑問には思っているらしく、そんなことを言い出す。
「何言ってるのさ! 秀吉以外に誰がラウンドガールをやるっていうんだよぉ」
「ワシはガールじゃないと言うとるのに」
「そもそも、ラウンドガールとか必要なのかしら?」
明久がそう言い、秀吉が反論の声を上げる。
そして、私が疑問のを口に出すと、
「必要だよ! 今何人目・何戦目なのか直ぐにわかるし、何より目の保養になる!」
「ああ、そう」
明久がそう力説し、私は呆れたように返事をする。
ふと、周りの生徒に目を向けると、Fクラスの生徒全員と一部のAクラス男子がうんうんと頷いていた。
………この会場にはバカが多いのかしら?
「え~、よろしいですね? それでは、一回戦を開始します。両クラス選手前へ」
高橋先生がそう言い、フィールドを張る。
既に先生には、一回戦の対戦科目は伝えてあったからね~
この辺の進行はスムーズだ。
フィールドが張られた瞬間、Aクラスからは木下優子が前に出てくる。
ふむ、ここまでは予想通りね。
さぁて、始めましょうか!
木下優子が出てきたのを確認して前に出る。
★
昨日の作戦会議にて……
「一回戦は明久で行きましょう」
「「何だって!?」」
私がそう言うと、雄二と明久がそう叫ぶ。
そんなに驚くことかしら?
「て、天子! なんで僕が一回戦なのさ!?」
「そうだぞ天子。多分向こうは一回戦を確実に取りに行こうとするだろう。てことは、あの木下姉が出てくる可能性が高い」
まぁ、そうでしょうね。
康太の情報で分かっていることだが、木下優子はオールラウンダー系で、どの教科でも戦うことが出来るだろう。
だから、一回戦で確実に勝つために彼女が出てくる可能性はかなり高い。
でも、だからこそ私は……
「だからよ。木下優子が出てくるからこそ、私は明久を推したい」
「明久は捨て駒役か?」
雄二が私に聞いてくる。
その目はどこか、いつもより真剣な目だった。
「そんなわけ無いでしょ? 私が明久を切り捨てると思う?」
「いや、思わない。だからこそ、俺はお前の真意を知りたいんだが」
「私の真意ねぇ」
そんなの決まってるじゃない。
「天狗になっている木下優子の、ひいてはAクラスのやつらの鼻を明かしたいのよ」
「なるほどな、確かにそれなら明久が適任だ」
「え、え? ど、どうゆう事?」
どうやら明久本人は気が付いていないらしい。
「解らないなら教えてやろう明久。それは、お前がバカだからだ!」
「何だと! このバカ雄二!!」
「こら明久落ち着きなさい。どうせ事実なんだから」
「そこはせめてフォローしてよ天子!」
いやよ、私嘘はあんまり好きじゃないもの。
「まぁとにかく、そういうわけだから一回戦は明久に出てもらうわ。異存は?」
「俺はないな」
「ありがとう。明久、お願いね?」
「……うん、わかったよ天子!」
明久は私の問いに、笑顔でそう答えた。
★
「あら? アナタが相手なの? てっきりアタシの相手は比那名居さんとかだと思ってたんだけど」
木下優子は私の方を見てそう言った。
まるで、明久なんて眼中にないとでも言うように。
「私が出る幕もないわよ。貴女相手なら、明久でも十分すぎるくらいだしね」
「へぇ、随分彼への評価が高いのね?」
「あったり前じゃない。伊達や酔狂でそのバカと親友やってないわよ」
「天子、それ僕のこと褒めてないよね!?」
あら、今回は褒めてるわよ?
「まぁいいわ、早いとこ始めましょう? どうせ勝負にならないんだし」
「あら、そんな風に明久を見下していていいのかしら? 木下優子。そんなんじゃ痛い目に遭うわよ?」
「私はそんな挑発に乗ったりはしないわよ? 比那名居さん?」
挑発じゃないんだけどねぇ。
まぁ、いいわ。
「明久! 頼りにしてるわよ♪」
「任せといてよ、天子!」
私が明久に声を掛けると、彼は元気にそう返してくる。
………あ、あら? なんか寒気がしてくるんだけど、何で?
周りを見渡すと、Fクラスの男子が恨めしそうに明久を見ていた。
どういうことよ?
「やっぱり、比那名居が一番の強敵ね……」ブツブツ
「どうして吉井君はあんなに嬉しそうに返事をするんですかぁ?」ブツブツ
なぜか寒気がさらに強くなった気がするんだけど……
「試合開始!」
高橋先生の合図とともに、ゴングが鳴り響く。
さぁ、頑張りなさいよ明久。
「『
木下優子が召喚獣を呼び出す。
装備は西洋風の鎧と少し大きめのランス。
リーチの差なら向こうの方が少し有利ね。
「ねぇ、坂本。本当にアキで大丈夫なの? やっぱりウチが出たほうが良かったんじゃ……」
島田さんが雄二にそんな事を聞いてくる。
「大丈夫よ島田さん。明久なら何の問題もないわ」
「でも!?」
「まぁ落ち着け、島田。見てればわかるさ」
雄二がそう言ったことで、島田さんは渋々引き下がる。
………何故か一瞬だけ睨まれた気がしなんだけど。
私なにかしたかしら? まぁ、多分気のせいよね?
「貴方の噂は聞いてるわ、吉井君。『観察処分者』なんですってね? 全く学園の恥もいいところだわ」
「僕だってなりたくてなったわけじゃないんだけどね。まぁ、自業自得だけどさ」
「そんなことどうでもいいわ。さっさと召喚獣を出してよ」
………彼女ってあんなに不遜だったかしら?
なんか、明久にだけかなり当りが強い気もするんだけど……
「言われなくても! 『
そう言って明久も召喚獣を出す。
こちらはいつも通り、学ランと木刀姿だ。
「さて、教科は何? 何が来ても同じだと思うけど」
木下優子はそう言い、ディスプレイの方を見る。
今回の戦争では、対戦科目と点数がディスプレイに表示される。
まぁ、他の人も見やすいだろうしね。
そして、対戦教科が表示された。
フィールド[日本史]
「あら、アナタ日本史が得意なの?」
「まぁ、それなりにね」
「ふ~ん、まぁ私には勝てないでしょうけどね」
そう言った木下優子と明久の点数が表示される。
フィールド[日本史]
木下優子 359点 VS 吉井明久 110点
あら、頑張ったじゃない明久。
「な、アキが100点超え!?」
「すごいです、吉井君!!」
明久の点数を見て、島田さんと姫路さんが驚く。
隣では、雄二や康太、そして壇上の秀吉も感心していた。
「アイツいつの間にあんな点数を……」
「いつもは60点くらいなのにのう」
「…………驚いた」
「僕だってやろうと思えば出来るんだよ!」
皆が驚いていると、明久がそう叫ぶ。
まぁ、ネタばらしをすると私が教えたんだけどね。
元々、歴史モノのゲームをいくつかやったりしていて、明久の日本史と世界史の成績は他の科目と比べると高い方だった。
さらに、明久が暗記系が得意だったこともあり、二年生になる少し前から私がその二つを教えていたのだ。
ここ三日間は日本史に絞って勉強してたしね~
「へぇ、頑張ったのね。でも、三倍以上あるこの点数差で勝てると思ってるのかしら?」
「そんなの、やってみないとわからないさ!」
そう言って明久の召喚獣が動く。
木下優子の召喚獣は冷静にランスを構え、突っ込んでくる明久の召喚獣を狙う。
「終わりよ!」
「吉井君!!」
「アキ!!」
木下優子がそう言い、明久の召喚獣を貫こうとした。
その瞬間、姫路さんと島田さんが叫ぶ。
だが、明久の召喚獣はそれをヒラリと簡単に躱してみせた。
「な!?」
木下優子は驚きの声を上げた。
そしてその隙に明久は、彼女の召喚獣に木刀で攻撃を食らわせた。
フィールド[日本史]
木下優子 341点 VS 吉井明久 110点
当たったのは腕だった為、そこまでのダメージではなかった。
召喚獣も構造は人間と同じなので、急所を狙えば大ダメージを与えられる。
だけど、今みたいにちょっと当たった程度では削れる点数も少ない。
まぁそれでも、先制を取れたのは大きいけどね。
「ふん、上手く避けたみたいね。だけど、これならどうかしら?」
そう言って彼女は、ランスで連続攻撃を行い明久の召喚獣を狙う。
右に、左に、縦横無尽にランスを振り攻撃を行うが、明久の召喚獣にそれが当たるどころか掠りもしない。
「なんで、攻撃が当たらないのよ!」
「これでも『観察処分者』だからね。召喚獣の操作はお手の物だよ!」
召喚獣の操作は簡単なものではない。
集中力はもちろんのこと、慣れも必要になる。
コツを掴めれば、意外と早く慣れることができるが、そのコツを掴むまでに時間がかかってしまう。
明久も無駄に『観察処分者』として、先生達の雑用などをやっているわけではなく、操作を覚えそれに慣れるように動かしながら仕事をしている。
元々明久はゲームの操作などが得意だったし、召喚獣も似たようなものだろうとか言いながら、色々と試行錯誤もしていた。
フィードバックがあるから感覚もつかみやすいしね~
多分、今の二年生の中では一番と言ってもいいほど操作は上手いでしょうね。
私でも真正面から明久に攻撃したら簡単に避けらて攻撃されちゃうし。
まぁ、一番ネックなのは点数によるその攻撃力と防御力の低さなんだけど……今の明久の点数ならそれも大丈夫かな?
「ふっふっふ、当たらなければどうということはない!」
明久はドヤ顔で某赤い彗星のセリフを言ったりしている。
こら、だからって調子に乗らないの!
私が睨んだことで寒気を感じたのか、明久は一瞬肩を震わせ、操作に集中を戻した。
まったく、ちょっと褒めるとこれなんだから。
そんなんことを考えながら数分が経つ。
フィールド[日本史]
木下優子 201点 VS 吉井明久 110点
明久は木下優子の攻撃を避け続け、彼女の召喚獣に攻撃を繰り返していった。
点差は既に、二倍を下回っている。
「くっ……。なんで、こんな奴に!」
それが貴女の敗因よ、木下優子。
成績が低いからと見下して、明久を相手に油断していた。
自分なら格下相手でも勝てると慢心していた。
『彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に殆うし。』
相手の実力と自分の実力がわからない様な貴女に、明久は倒せないわ。
そして、遂に……
フィールド[日本史]
木下優子 0点 VS 吉井明久 110点
明久は一撃も攻撃を貰うことなく、木下優子を倒したのだった。
「勝者! Fクラス、吉井明久!」
『うおーーっ!』
高橋先生が明久の勝利を告げると、Fクラスの生徒達が叫ぶ。
私は、少し疲れたように勝利の余韻に浸っている明久に近づいていった。
「お疲れ様、明久。格好良かったわよ?」
「あはは、ありがとう天子」
私達は互いに片手を出し合い、ハイタッチをする。
パンッと良い音が鳴った。
「それにしても、正直まだ信じられないや。Aクラスの木下さんに勝てたなんて」
「もっと自信を持ちなさいよ。これが、あなたの実力なんだから」
「……うん!」
私達が話していると、雄二達もこちらに来たようだ。
「よくやった明久!」
「ちょ、痛いよ雄二!」
雄二は明久の肩を掴み、頭をグリグリと撫で回す。
「まさか姉上に勝つとはのう!」
「…………おめでとう」
秀吉と康太も明久に賞賛の言葉を送る。
「すごいじゃないアキ! 一体どんな裏技使ったのよ!」
「本当にすごいですね、吉井君!」
島田さんと姫路っさんも来たみたいね。
私は一人、いまだにその場で項垂れている木下優子に近づいた。
「木下優子」
「っ! 何よ、比那名居さん。惨めなアタシを笑いにでも来たの?」
私が声をかけると、彼女は不貞腐れたように言う。
「あら、笑って欲しいの?」
「……そうね。そのほうが幾分か気が楽だわ」
「悔しい?」
「……ええ、とっても悔しいわ!」
見ると、彼女は目に涙を浮かべていた。
相当悔しかったのだろう。
そして、情けなかったのだろう。
そして今、彼女は罪悪感と不安感に押し潰されそうになっているのだろう。
「なら、その悔しさを忘れないことね。貴女の今回の敗因は、自分の力を過信していた事と明久を見下してその力量を見誤ったことよ」
「……………」
「自分を知り、相手を知れば次は必ず勝てる筈よ? その為には、まず自分の態度を見直しなさい。ちょっと他より成績が良いからって、他人を見下していてはダメよ? そんなことをしてたら足元を掬われるわ。それは今回、貴女がよ~く解ったでしょ?」
「……ええ、そうね」
「うんうん。過ちを改めざるを、これ過ちという。今回のことで過ちに気づけた貴女の事、期待してるからね?
「っ! ええ、見てなさいよ
優子は笑みを浮かべながらそう言った。
どうやら吹っ切れてくれたみたいね。
良かった良かった。
それにしても……
「やっと名前で呼んでくれたわねぇ。なんで頑なに苗字で呼んでたのよ?」
「そ、それは……だって、天子が……」
そう言って優子は黙ってしまう。
ううん? 一体何なのかしら?
私が? 私、優子になにかしたっけ?
「な、何でもないわ! そんな事もうどうでもいいでしょ!?」
「え~、私すっごく気になるんだけど~」
「そんなの気にしなくってもいいってば! じゃあ、アタシ戻るから!」
「あ、優子~」
そう言って、Aクラスの面々の方に歩いていってしまう優子。
もう、相変わらずつれないわね~
「天子」
そんな事を思っていると、私の後ろに雄二がいた。
因みに明久はなぜかFクラスの皆に胴上げをされていた。
いや、まだ一回戦に勝っただけなのになんでよ。
明久も困ったような顔してるし……
「それで、どうしたの雄二?」
「ああ、いや、そのな?」
うん? どうしたのかしら?
さっきの優子みたいに、何故か雄二も歯切れが悪そうにしている。
それ、最近流行ってでもいるのかしら?
「いや、やっぱりいい。次の試合はお前が出るんだろ? お前なら心配ないと思うが、頼んだぞ?」
「ふふ、なによそれぇ」
私は雄二の態度が可笑しくて笑ってしまう。
まったく、優子といい雄二といい素直じゃないわね。
何を言いたいのか知らないけど、言いたいことは素直に言ったほうが良いのよ?
自分の本音なんて口に出して言わないと、伝えたくても伝わらないんだから。
「おいおい、笑うんじゃねぇよ」
「だ、だって可笑しくって、あはははは」
「はぁ、まったく」
「皆、そろそろ降ろしてよ! まだ一回戦が終わっただけなのに大袈裟だってばぁ!」
私が笑い雄二が呆れていると、そんな明久の声が聞こえてくる。
まだやってたのね。
「さて、そろそろ再開するか。頼むぞ、天子」
「ええ、今回は全力で行くからね。私に任せておきなさい!」
「はっ、頼もしい限りだよ。おいお前ら! そろそろ二回戦始めるから向こうに戻れ!」
雄二が私から離れ、胴上げをしていた生徒達に言うと、彼らはそそくさと先程まで自分達がいた席に戻っていった。
明久を地に落として。
「いったーっ! もう、みんな酷いよ!」
明久が叫び、皆が笑っている。
私も少しクスリとしてしまった。
さぁて、今度は私の番よ!
またも一時間遅刻しました。
遅くなってすみません。
さぁて、今回の話はいかがだったでしょうか!?
自分で言うのもなんですが、今回はそこそこ面白かったと思います。
皆さん一回戦は天子VS優子だと思っていた人が多いのではないでしょうか?
実は元のプロット(有って無いような、プロットとも言えない想像の産物)では天子と優子の予定でした。
ですが今日、これを書く直前にふと、明久と優子でも面白いんじゃないかと思い、迷った末にこちらになりました。
まぁ、理由としては、優子を徹底的に負かして考えを改めさせたかったからです。
その為には『観察処分者』である明久が一番適任かなと思いました。
因みに優子が天子を苗字で呼んだり、明久に当りが少し強かったりしたのは、優子が天子に対して寂しさを感じていたからです。
優子は天子をライバル兼仲の良い友人と感じているためそうなりました。
ある意味では、『Fクラスに明久達を追いかけて来なかった天子』だといえるかもしれませんね。
だから、Aクラスの雰囲気に毒されたりもしていました。
そうそう、明久といえば点数のことがありました。
彼の日本史と世界史の成績は、天子のおかげで上がっています。
この二つに関しては、明久の得意科目として少しづつ良くなっていく予定です。
それでも400点は行きませんがね。
あ、それと、これは前回の後書きで書き忘れたんですが……
今って『大化の改新』は645年ではなく646年で覚えるんですね。
………私の時ってどっちだったっけ?
まぁ、ちょっとびっくりしましたというお話です。
さて、次回はついに天子が大活躍!
得意科目に腕輪、緋想の剣の力など盛り沢山の予定です!
きっと彼女の全力を見ることが出来るでしょう!
それでは、どうぞ次回もお楽しみに!