IS-アンチテーゼ-   作:アンチテーゼ

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サブタイトルの元ネタ
大好きです( ´∀` )
ちなみに元ネタでは夜のnightですが、この話では騎士のknightを考えてます。


第十六話 黒、強襲(ナイトレイド)

 ◇

 

 

 

 あらためて、中国(ここ)に暮らす人々の『食』に対する情熱はすごい。診療所からの帰り道、砕次郎は路地を歩きながら、ふと思う。

 砕次郎と美煌(メイファン)が歩いているのは、例によって大通りから大きく外れた裏路地だ。行きにここを通った時は人の姿はほとんど無かった。なんなら野良猫の方が多かったほどである。

 しかし昼食時だからだろうか、今は同じ場所が過剰なレベルの活気にあふれていた。

 どこからひっぱってきたのか、無数の屋台がところせましと並び、不安になるほど低価格のグルメをたたき売りしている。売り手も買い手も声を張り上げて会話をしているせいで、個々の会話はまったく聞き取れない。

 いったい何を売っているのかと見てみれば、まんじゅうや焼き芋、麺類のような見慣れたものから、何の肉か明記していない串焼きや、どう見ても節足動物にしか見えない謎の揚げ物まで様々だ。

 規律という言葉を蹴り飛ばすようなカオスな光景だったが、砕次郎はその喧騒に謎の感動を覚えた。

 

 ――さすがは美食と寄食の楽園。さしずめ、食の四千年帝国ってとこだね

 

 こんがりきつね色のムカデをパリパリかじっている子供を見ながら、砕次郎はぼんやりとそんなことを考える。

 

 ――こういう熱気や活力は見習いたいもんだな

 

 まわりの様子など気にすることもなく、騒ぎ、笑い、怒る人々。そんな彼らを、すこしうらやましい、と思ってしまった。

 他人に無関心でいられる。それは砕次郎にとって、ある意味もっとも難しいことだったからだ。

 どこに敵がいるかわからない、という理由だけではない。

 そうなる前から、砕次郎という人間はあまりにも――

 

 と、

 

「ふわあぁ……」

 

 隣を歩く美煌(メイファン)がとつぜん大きなあくびをした。

 大きく口を開けて目をこする姿が微笑ましく、砕次郎はフッと笑みをこぼす。

 

「お疲れの様子だね」

 

「あ、はい……。さすがにちょっと眠くなってきたであります」

 

 無理もない。

 いかにも健康優良児な美煌(メイファン)のことだ。毎日、早寝早起きをこころがけていたに違いない。

 それが昨晩は一睡もしていないのだ。ことがことだっただけに、心労(ストレス)も大変なものだっただろう。

 今になってどっと疲れが出て眠くなるのも当然である。

 

 ――それに加えてかなり無茶な速度で体を治してるからな。その分、体力も消耗してるはずだ

 

 砕次郎は美煌(メイファン)の右腕に目をやる。

 結局、腕をギプスで固定した以外、たいした治療はしなかった。必要なかったと言った方がいいだろう。もしかしたらギプスも2、3日でいらなくなるかもしれない。

 その事実は美煌(メイファン)にとって、自分が普通の人間ではないことをあらためて自覚させられるものだったはずだ。

 平気にふるまってはいるが、やはり少なからずショックを受けているようだった。

 

 ――それを考えれば、精神的にも休息が必要だろう

 

  美煌(メイファン)を気づかい、砕次郎は優しく声をかける。

 

「ホテルに着いたらゆっくり休むといい。どんなに強くても、キミはまだ子供だ。よく寝てよく食べて、大きくならないとね」

 

「でありますな。……そういえばお腹も空いてきたであります」

 

「ああ、僕もだ。考えてみれば朝は何も食べなかったからな」

 

 と、ここで砕次郎の思考は、ここにいないもうひとりの人物へと移った。

 

 ――あー、……ということはエリスもそうとう空腹だろうな

 

 いつもの無表情で不機嫌オーラを出しまくるエリスの様子が目に浮かぶ。

 

「途中でなんか買っていこうか。ひとりで待機してるエリスの分も」

 

「了解であります! 何がいいでありましょうなあ?」

 

 エリスへのおみやげをあれこれと考えながら、満面の笑みを咲かせる美煌(メイファン)

 つられるように砕次郎の表情も柔らかくなる。この子なら心配ない。あらためてそう思えた。

 が――

 

「あ、あそこの屋台とかどうでありますか?」

 

 にこにこ顔の美煌(メイファン)が指さす先を見て、砕次郎から笑顔が消える。

 

「……いや……看板に『(ヘビ)』って書いてあるんだけど……」

 

「前に道場の裏で捕まえたのを焼いて食べた時は美味しかったでありますよ? その時は師父に怒られたでありますが、店で売ってるのならきっとだいじょうぶであります!」

 

 その自信に満ちた笑顔を見た瞬間、砕次郎の心はなんだかよくわからない不安でいっぱいになった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 彼女は待っていた。

 薄く広がる雲の下、じっと地上の標的を見すえ、攻撃のタイミングを計っていた。

 そして、ついにその時は訪れる。

 民間人――なし。

 建造物――少数。

 戦闘時の周辺被害――軽微と推測。

 様々な条件が彼女の望む状況と合致する。

 

「作戦開始だ」

 

 彼女の声に合わせて、背中の黒いカスタムウイングが大きく広がる。

 一呼吸の後、背後の雲を吹き飛ばしながら、彼女は上空6000mからの急降下を開始した。

 

 衝撃波を輪のようにまといながら超音速で真直ぐに降りてくる、それはまるで、昼空を切り裂く漆黒の流星のように見えた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 最初に反応したのは美煌(メイファン)だった。

 

「っ!?」

 

「ん? どうし――」

 

 振り返った砕次郎のえりくびを左手でつかみ、思いきり後ろに放り投げる。と同時に自分も地面を蹴って後ろに飛びのく。

 

「おわわわわ!」

 

 悲鳴をあげながら砕次郎が3mほど地面を転がり、その横に美煌(メイファン)が着地した瞬間――

 

 地を叩き割るような爆音と衝撃が2人を襲った。

 砂煙が噴きあがり、吹き飛ばされた小石があたりにバラバラと降り注ぐ。

 

「ったたた……もう少し丁寧に助けてほしかったな……」

 

「ごめんなさいであります」

 

 すり傷だらけで体を起こす砕次郎に、美煌(メイファン)は前を警戒したまま謝罪をした。

 その視線の先、砂煙の向こうで何者かの影が大きく翼をひらいた。一拍おいて風が吹き荒れ、視界をさえぎる砂煙を吹き飛ばす。

 

「……が、そうも言ってられない状況でありましたので」

 

 クリアになった2人の視界に映ったのは、さっきまで自分たちがいた場所にできたクレーターと、その中心に突き刺さっている漆黒の大剣。そして、一対の巨大なカスタムウイングを広げ浮かぶ、黒い騎士甲冑のようなISの姿であった。

 凛とした顔つきと、ブロンドのポニーテール。その操縦者は、砕次郎の知っている人物だった。 

 

「何者でありますか!?」

 

 襲撃者を知らない美煌(メイファン)は砕次郎をかばうように前に出る。

 黒いISは地面の大剣を引き抜くと、ガシャリと剣先を美煌(メイファン)に向けた。

 

「ドイツ空軍特務少尉フランツィスカ・リッターだ。

 中華人民共和国、元代表候補生熊 美煌(シォン メイファン)。そして後ろの男はテロ組織『アンチテーゼ』の構成員だな?

 悪いが、貴様らに対し殲滅しろとの命令が出ている。……覚悟してもらおう」

 

「っ……」

 

 フランツィスカの鋭い視線に美煌(メイファン)気圧(けお)される。

 そのかたわらで、砕次郎はゆっくりと立ち上がりながら考えを巡らせてていた。

 

 ――()る気まんまんだな。さて、どういう会話に持っていくべきか……

 

 慎重に言葉を選ぼうと頭をフル回転させる砕次郎。

 だが、口を開いたのは砕次郎ではなく美煌(メイファン)だった。

 

「ぜ……」

 

 砕次郎の心臓がはねる。

 

 ――お、おい、何を言うつもりだ!?

 

「ぜんぜん違うでありますっ!! ひ、人違いではっ!?」 

 

 ピシリと空気が凍りついた。

 瞬間、砕次郎は「この子は空気感というものをぶちこわす天才なんじゃないか?」と直感する。

 

「自分はメイなんとかさんじゃないでありますし! こ、この人もアンなんとかさんじゃないであります! 人違いでありますよぉ、やだなぁ……」

 

 必死でこの場をごまかそうとがんばる美煌(メイファン)だったが、いかんせん、それはごまかしのていすら成していなかった。

 実直という言葉をそのまま人型にしたような彼女のことだ。これまで嘘などほとんどついたことがなかったのだろう。

 玉のような汗を浮かべ、くるくると目を泳がせるその様子は、滑稽(こっけい)を通り越して(あわ)れにすら思えてくる。

 見つめるフランツィスカの目にさえ、憐憫(れんびん)の色が浮かんだほどだ。

 

「……美煌(メイファン)

 

 砕次郎はできるだけ優しく声をかけた。

 

「あ、だ、ダメでありますよ! いま自分は美煌(メイファン)じゃないことになってるんでありますから……」

 

「あのね、美煌(メイファン)。キミががんばってくれてるのはとっても嬉しいんだけど、残念ながらあの人はもう全部わかってるんだよ。ほら、さっきいきなり攻撃してきただろう? それは僕らが攻撃対象だってわかってたからだろ?」

 

 ハッという表情で固まる美煌(メイファン)。その固まった顔が徐々に赤くなっていく。

 

「は……はあぁ……」

 

 真っ赤な顔で湯気を噴く美煌(メイファン)もかわいそうだったが、砕次郎はフランツィスカに対しても少し申し訳ない気持ちになってしまった。

 この茶番としか言いようがない会話を、あきれたような顔をしながらも律義に待ってくれているのだ。それも殲滅せよとの指示が出ている相手に対して、である。

 おそらく生まれつきであろう生真面目な性格。そのせいか、どこか人の良さを捨てきれてない。

 砕次郎は心の中で謝罪した。せっかくの真面目な空気を壊してしまったこと。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()に。

 

 ――ヒヤッとしたが結果オーライだ。よくやった美煌(メイファン)

 

 砕次郎は美煌(メイファン)の頭をポンとなで、フランツィスカに向き直った。

 

「いや、なんかごめんね。ただ、確かにキミの言葉にはひとつ訂正すべき箇所がある」

 

「……まさか貴様も『別人だ』などと、とち狂ったことを言い出すんじゃないだろうな」

 

 苦々しい顔のフランツィスカを馬鹿にするように、砕次郎がニヤリと笑った。

 

「まさか。訂正したいのはね……僕はアンチテーゼの構成員じゃなく、リーダーだってことだよ! ハッハァ、その後ごきげんいかがかな、少尉?」

 

 フランツィスカのまとう空気が再び張りつめた。

 競技場で言葉を交わしたアンチテーゼのリーダー。目の前にいる男がその本人だとは思っていなかったようだ。

 

「……情報提供を感謝する。おかげで――」

 

 瞳に敵意が満ち、燃えるような殺気が空気を焦がす。

 

「――思ったより早くアンチテーゼを潰せそうだ!!」

 

 言うが早いか、フランツィスカは構えなおした大剣を砕次郎めがけて振り下ろした。

 だが次の瞬間、金属同士がすり合わされるような鋭い音が響き、剣の軌道が大きくずれた。そのまま大剣は地面をえぐり、はね飛ばされた土が宙を舞う。

 攻撃の瞬間、割り込んだ美煌(メイファン)金虎(ジンフー)の左腕だけを展開し、振り下ろされる剣を受け流したのだ。

 ISの展開が任意のものである以上、その展開速度は使用者の反応速度を超えることはない。その事実が、美煌(メイファン)の実力を如実に物語っていた。

 そう。どんなに間の抜けた言動があっても、熊 美煌(シォン メイファン)は近接格闘最強のルーキーとうたわれる代表候補生なのである。

 それを再確認し、フランツィスカは素早くバックステップで距離をとった。

 

「……やっと真面目にやる気になったか」

 

「とんでもない! 空回りはあれど、自分はいつだって大真面目であります!」

 

 金虎(ジンフー)を完全に展開し、美煌(メイファン)が構える。

 だが、砕次郎はその構えにわずかな違和感を感じた。やはり無意識に右腕をかばっているように見える。

 当然と言えば当然だが、まだ痛みがあるということだろう。ナノマシンの超速再生はだいぶ効果が落ちてきたらしい。

 それでも美煌(メイファン)はやる気のようだった。

 

「自分、今は戦う理由を探す身であります。ですが、あなたが自分たちを殺す気でいるというのなら、黙ってやられはしないでありますよ!」

 

 万全、という顔をして、砕次郎をかばうようにフランツィスカとの間に立ちはだかっている。

 自分を救ってくれた砕次郎を必ず守ってみせる。そう宣言しているようだった。

 

 ――ならその気持ち、ありがたく受け取らせてもらおうか

 

 砕次郎は頭の中で組み立てていたプランを少し変更した。

 少しでも勝率が高くなるならば、偶然生まれた微妙な空気も、愚直な少女の献身も、使えるものは何でも使う。この世界からすべてのISを消し去るその日まで、自分たち(アンチテーゼ)に敗北は許されないのだから。

 

美煌(メイファン)、ひとつ忠告だ」

 

 臨戦態勢の美煌(メイファン)に呼びかける。

 おそらくフランツィスカの機体はシュヴァルツェア・メーヴェの改修機。大きな仕様変更がないとすれば、やはり美煌(メイファン)にとってネックになるのはあの装備だ。

 

「相手が六角形の盾を出して来たら気をつけろ。(もろ)そうに見えるけど、近づいた物体すべてを問答無用で停止させるAIC兵器だ。突きも蹴りも効かないからね」

 

「な……反則レベルの武器でありますな! 了解、気をつけるであります!」

 

「オーケー。向こうも格闘戦特化の機体だ。キミとの相性は悪くない。ただし、どんな隠し玉があるかはわからないから、油断はするなよ」

 

「はい!」

 

 美煌(メイファン)が大きな声で返事をするのと同時に――

 

「いいかげんにその悠長なおしゃべりをやめろ!」

 

 しびれを切らしたフランツィスカが袈裟がけに斬りかかった。

 

「うぉっと!」

 

 のけぞるようにして紙一重でそれをかわす美煌(メイファン)。そして起き上がる反動を利用し、重心を大きく移動させて左の掌底を放つ。

 だが自分の攻撃をかわされた瞬間にスラスターウイングを前へと向けていたフランツィスカは、そのまま逆方向の加速で距離をとり、離れざまに今度は突き出された左腕を狙って剣を振り上げた。

 美煌(メイファン)はすかさず体を半回転させ腕を引き、空を切った剣の腹を右脚ですばやく蹴りつける。

 

「くっ!」

 

 崩れたバランスをすばやく立て直し、フランツィスカは再度その黒い大剣を構えた。

 右脚を下ろした美煌(メイファン)がニッと笑う。

 

「やるでありますな! 敬意をもって、あらためて名乗らせてもらうであります。

 統派劉勁流八極拳(とうはりゅうけいりゅうはっきょくけん)瑛樵(えいしょう)流総合武術道場門下、熊 美煌(シォン メイファン)! 

 そして専用IS金虎(ジンフー)! 

 全力でやらせてもらうでありますよ、フランツィスカさん!」

 

 そのあまりに堂々とした名乗りに、フランツィスカの顔にも小さく笑みが浮かんだ。

 

「ドイツ空軍、特別情報統制機関『番犬部隊(ヴァイスヴァハフント)』所属、特務少尉フランツィスカ・リッターだ。

 専用機の名はシュヴァルツェア・メーヴェ・フェアヴェッセルング。

 君のような子は嫌いじゃないが、こちらも命令を受けている以上、手加減はできない。たとえ()()()()()()()()()としてもな」 

 

「さすがにバレてたでありますか」

 

 美煌(メイファン)が苦笑した。だがすぐに集中を高め、フランツィスカに向けて構えをとる。

 

「ですが、もとより手加減など不要であります。これから自分が歩くのは間違いなく(じゃ)の道。覚悟は、とうに完了してるであります!」

 

 奮い立つ獣がその毛を逆立てるように、金虎(ジンフー)はスラスターを一気に広げ空へと駆け上がった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 少し離れた建物の中に身を隠して、砕次郎はフェアリア・カタストロフィのプライベート・チャンネルを呼び出した。すぐにエリスが通信に応じる。

 

『出番……?』

 

「いや、もう少し美煌(メイファン)にがんばってもらおう」

 

『わかった』

 

「シンデレラグレイのチャージは?」

 

『とっくに終わってる』

 

「オッケー。じゃ、合図をしたらよろしく頼むよ」

 

『了解』

 

 手はずを確認し終えると、砕次郎は静かに息を吐きだした。

 プライベート・チャンネルは開いたまま、美煌(メイファン)とフランツィスカの戦いを遠巻きに見守る。

 

 ――来るならドイツだろうと思っていたが、まさか彼女とはね

 

 砕次郎には驚いていることが2つあった。

 ひとつは襲撃者がフランツィスカであったことだ。

 自分たちを取り逃がしたフランツィスカがまったくのおとがめなしだったはずがない。仮に謹慎ですんだとしても、一週間やそこらで解けるものとも思えないのだ。

 そして、もうひとつ。

 

 ――いったいなにがあった……リッター少尉

 

 モニター越しにとはいえ、ドイツですでにフランツィスカを()()()いた砕次郎は、彼女の変わりように驚いていた。

 今、美煌(メイファン)と戦っている彼女は、砕次郎の知っているフランツィスカとは明らかに違う。今でこそ美煌(メイファン)のペースに乗せられてはいるが、不意打ちで命を奪おうとしたことや、標的の殲滅という任務に就いていること自体、以前の彼女からは考えられないことだった。

 わずかに見え隠れしていた迷いはすでになく、かわりにその瞳には揺るぎない『覚悟』が宿っていた。

 

 ――変わった……? いや、()()()()()……か

 

 砕次郎は考える。

 フランツィスカが所属する番犬部隊(ヴァイスヴァハフント)。そこに、一週間足らずで彼女をあそこまで成長させた人間がいる。そして少尉がこの任務に就けるよう手をまわしたのも、おそらく同じ人間だ。

 フランツィスカの背後にいる人物を想像した時、砕次郎は背筋を逆なでにされるようなゾワリとした感覚を覚えた。

 だが、それは恐怖や不安ではなかった。むしろそれは、ある種の歓喜をはらんだ福音のようにも思えた。

 

 ――間違いない。僕と()()()()()の人間だ

 

「……フッ……ク……フフ……」

 

 うつ向いた砕次郎の口から唐突に笑いがこぼれた。

 

『……砕次郎?』

 

「……いや、ごめん。気にしなくていいよ」

 

 不信がるエリスを安心させるように、「なんでもない」と答えた砕次郎。

 だが、その口元は三日月のように歪んだまま、まだ見ぬ怪物に笑いかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回「幻想装飾(カスタムファンタジア) 前編」

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