かんぴょう戦記 ~地球防衛艦隊2200~   作:EF12 1

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8.告げられた任務

    ――新横須賀基地・第2艦隊臨時司令部――

 

「3日後、火星に向かえ」

 

かつての担任教官でもある土方からの命令は、やはり無茶ぶりもいいところだ。

駆逐艦『カミカゼ』艦長・嶋津冴子は、敬礼しながら内心で大いにぼやいた。

 

嶋津が予想したとおり、『ヤマト』がガミラス冥王星基地を潰した後の国連宇宙軍は素早い動きを見せた。

『ヤマト』用波動推進機関の製造と並行し、より簡易化した発電用波動機関の基本設計をまとめたのだが、宇宙軍は当然ながら舶(艦船)用波動機関を要求した。

というのも、宇宙軍艦政本部は、既存艦の修復を進める一方、当初から波動機関を搭載し、かつ現在の地球で建造可能な小型戦闘艦の設計に着手していたからだ。

 

さらに、『ヤマト』で波動機関と陽電子衝撃砲(ショックカノン)が予想以上に良好な適合性を見せていた。

在来艦が傷ひとつ付けられなかったガミラス艦をただの一射で屠った事実に、国連宇宙軍はショックカノンに対する自信を強め、今後新たに設計する宇宙艦は、フェザー砲を廃してショックカノンを搭載する方針に変わったのだ。

だが、そのためには波動機関自体を小型化

しないと話にならない。

そのための検討材料として、火星に不時着したイスカンダルからの宇宙船の残骸から重要部品や部材を回収し、持ち帰る任務が発生したのだ。

 

「回収は工作艦『ナルト(鳴門)』が行う」

 

『ナルト』は日本宇宙自衛隊所属の工作艦で、現在残存する国連宇宙軍の正規工作艦では健在な3隻中の一翼を担う。

当然、艦内工場のレベルはソフト・ハードともに随一で、今や虎の子の1隻だ。

 

「それはわかりましたが、護衛は『カミカゼ』のみですか?」

 

嶋津の懸念はそこにあった。

ガミラスの冥王星基地と駐留艦隊が壊滅したとはいえ、単艦や少数のガミラス艦が太陽系内に潜伏している可能性はある。

そして彼我の戦力差は未だ圧倒的だ。

『ナルト』も武装はしているが、単艦では到底ガミラス艦には勝てない。

臆病風に吹かれてなどいないが、精神論に頼るのは単なる愚か者だ。

 

「無論、念には念を入れる。巡洋艦『トンブリ』と駆逐艦『ハツユキ』だ。

直接指揮は『トンブリ』艦長のタナリット大佐が執る」

 

巡洋艦『トンブリ』は東南アジア連合宇宙軍唯一の生き残りで、2年前からは日本ベースで運用されており、艦長のタナリットはタイ王族の一員でもある。

 

一方、駆逐艦『ハツユキ』の艦長・水谷 脩三佐(少佐)は宇宙商船大学卒で、航海畑を歩んでいたが、人材払底のあおりを受けて、ふた、航海長から艦長に昇任した経歴の持ち主だ。

 

以上3隻が『ナルト』とともに火星に赴き、イスカンダル船の残骸回収と、火星との航路再開のデータ取りを行う。

 

「――以上だ。何か質問は?」

「ありません。直ちに出撃準備にかかります」

 

敬礼して退出しようとした時、嶋津は土方に呼び止められた。

 

「‥‥翠屋の女将(おかみ)の様子はどうだ?」

 

土方が声を低めて尋ねてきたのは、土方・嶋津共通の知人である、『翠屋』という名の店を営んでいた女性の事だ。

嶋津は表情を曇らせ、その表情のまま答える。

 

「‥‥3ヶ月前、余命半年と宣告されました」

「そうか‥‥」

 

それきり腕組みして沈黙した土方に再度敬礼し、嶋津は司令部を退出した。

 

 

(さて、どうしたものかな‥‥)

 

臨時庁舎を後にした嶋津は、一瞬考え込む。

ここからなら、先程土方と話した『翠屋』の女将こと高町桃香が入院している病院まで数分で行ける。

しかも、嶋津と高町桃香は家族同然の付き合いなので、見舞人登録もしており、行こうと思えば行けるのだが、

 

(いや。任務を片付けてからにしよう)

 

嶋津は顔を横に振った。

出立は3日後。艦長としてやるべき事が山積しているのだ。

そんな状態で見舞ったところで、彼女が喜ばない事を、四半世紀に及ぶ付き合いで嶋津はよく知っていた。

嶋津はエレカーに乗るや、目的地を乗艦が待つ横須賀宇宙軍港に定めた。

 

 

 

      ―― 新横須賀宇宙軍港 ――

 

 

 

「お帰りなさい、艦長」

「ああ、ただいま。‥‥話は確認したな?」

 

帰艦した嶋津をブリッジクルー一同が迎え、副長の大村が艦の整備状況を報告する。

 

「はい‥‥整備進捗は、主砲と発射管が95%、アビオニクスは97%、機関は87%です‥‥推進剤以外の物資搬入は明日から可能です」

「うん‥‥機関はどうだ?」

 

嶋津は軽く首を捻った。機関の整備進捗が幾らか遅れていたからだ。

 

「尻を叩けば明朝一番で仕上がるようですが‥‥」

「それはダメだ。機関科も造船所員もちゃんと休憩と睡眠を取らせるんだ‥‥急かしたあげくエンストじゃ、目も当てられんさ」

「わかりました。機関長にはそのように伝えます」

 

大村が機関室に走っていった。

それを見送り、タブレットに視線を下ろした嶋津に、通信長から声がかかる。

 

「『トンブリ』のタナリット艦長から通信です。『ハツユキ』の水谷艦長、『ナルト』の藤田艦長と四者協議をしたいとの事です」

「わかった、繋いでくれ」

(そうか、『ナルト』の艦長は藤田という人か‥‥)

 

嶋津は立ち上がり、モニターに向き直った――。




『ハツユキ』艦長の水谷氏は、『完結編』の『冬月』艦長と同一と設定しています。(名はオリジナル)
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