申し訳ありません。
――駆逐艦『カミカゼ』艦橋――
「『ナルト』から、目標地点の画像データが届きました。映します!」
通信士の声とともに、メインモニターに火星の表面が映し出された。
「ん‥‥」
「‥‥‥‥」
荒涼とした火星の大地に、地球・ガミラスいずれの意匠でもない宇宙船が、突き刺さるような姿勢で擱座している。
「原型を保ってますね」
「そうだな‥‥銀河間航行をこなすならば、あの位の強度があって当然なんだろうなぁ」
大村の感想に嶋津が返す。
「技術本部が目の色を変えるのもわかりますね」
「ん‥‥」
イスカンダルが地球に提供した波動機関=タキオン推進機関は、恐らくは地球の技術レベルに合わせた、イスカンダルでは熟成どころか枯れたレベルのものだろう。
しかし、あの船の主“サーシャ”は、イスカンダルの元首であろうスターシャの妹だという。
それだけのVIPならば、座乗船は船体・機関・居住性等、極めて優秀なはずだ。
「手を差しのべてくれたとこの技術を覗くのは気が咎めるがね。我々は悪魔と契ってでも生き延びにゃいかんのだ。
‥‥当座の詫びは“彼女”の遺髪と爪で勘弁してもらうしかないな」
「そうですね‥‥」
“彼女”――サーシャ・イスカンダル――の遺体は、あの時現場に急行した古代弟と島大介が仮埋葬したが、その際に遺髪と手指の爪が切り取られた。
それらは波動機関のデータと共に地球に持ち帰られ、今は彼らと共にイスカンダルに向かっている。
『ヤマト』の航海が終わり、地球が復興すれば、遺体を返還する事もできるだろう。
そのサーシャの仮墓は不時着現場から南東約20キロの所にある。
「‥‥‥‥」
遠き異郷の星で果てた救いの使者に、嶋津はそっと瞑目した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「『ナルト』降下開始!」
「ん‥‥」
低軌道で待機していた工作艦『ナルト』が不時着地点への降下を開始した。
『ナルト』はこれより不時着宇宙船『仮称・サーシャシップ』の船体と脱出カプセルを回収するのだ。
「今回はサーシャ氏の遺体は収容しないんですか?」
「収容したいのはやまやまだけど、今回はそこまでのスタッフが集められなかった‥‥今は生きてる人間が優先さ」
「ですよね‥‥」
「それに、今の地球に彼女を連れていったら、“行方不明”にされかねんよ」
『ヤマト』発進後の地球は、比較的政情が安定している日本ですら、各地で治安部隊と市民の衝突が起き、死傷者が出ている有り様だ。
そんな所に異星人の遺体を持ち帰ったら、最悪、混乱に巻き込まれて所在不明になりかねない。
それはサーシャを冒涜する事とイコールである。
「残念ながら、そうなるでしょうね」
「‥‥‥‥」
二人の会話はそこで終わり、『カミカゼ』は宙域警戒を続けた。
ガミラス残党の襲撃が予想されたため、『ナルト』は調査後直ちにサーシャシップを吊り上げて艦体に固定。到着から35時間後には火星を離れた。
サーシャシップを艦外に固定した『ナルト』だが、そのままでは地球の大気圏に入れないため、月軌道上でドック艦『シリヤ(尻屋)』にサーシャシップを移し、新横須賀基地に到着した時、火星出発から4日が経過していた。
また、『カミカゼ』を含む護衛艦も任務を終え、帰還。
嶋津冴子は僚艦艦長と共に艦隊司令部に出頭し、土方に任務報告を行った。
「――嶋津」
「はい」
嶋津が司令官執務室を退出した時、土方に呼び止められた。
怪訝な表情で振り返った嶋津に、土方が続ける。
「“翠屋”の女将が亡くなった。‥‥詳しくは中島から聞け」
「‥‥わかりました」
即答する嶋津にしては珍しく、返答まで一呼吸を要した。