かんぴょう戦記 ~地球防衛艦隊2200~   作:EF12 1

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10.葬列の後

  ―― 新横須賀市、自衛隊士官家族官舎 ――

 

「‥‥‥‥」

 

嶋津家の居間に設(しつら)えられた、にわか仕立ての祭壇にの中央に白い布で包まれた人の頭大の箱と位牌、それに成年女性の顔写真が収められたフォトスタンドが立てられていた。

その前で、家主たる嶋津冴子は無煙線香を立てて瞑目し、合掌。

日頃は強気な言動が目立つ嶋津だが、心なしか肩を落としているように見えた。

 

その後ろで、セーラー服姿の少女と黒スーツの男が正座し、向き直った嶋津と礼を交わした。

嶋津は、まず少女に顔を向けた。

 

「お疲れさん、雪菜」

「‥‥いえ、私は何も‥‥」

「何もしていないわけないさ。ちゃんと喪主していたぞ」

 

少女――雪菜――は、労う嶋津に、自分は何もしていないと答えるが、その横から

男が改めて雪菜を労う。

 

「‥‥‥‥」

 

嶋津は改めて祭壇の写真を見る。

写真の中の女性の顔は、ところどころに雪菜と共通する面影があった。

しばらく写真を見てから、嶋津は男に向き直り、頭を下げる。

 

「すみません、中島さん。全部お任せしてしまって‥‥」

「お前さんには重要任務があった。謝られる筋合いのものじゃないさ‥‥それに、俺たちは故人の遺志どおりにやっただけさ」

 

中島さん―― 国連宇宙軍極東管区主計局第一課長代理・中島龍平一佐 ―は手を振って謝辞した。

 

写真の女性『翠屋の女将』こと高町桃香が、長患いの末息を引き取ったのは、嶋津が駆逐艦『カミカゼ』を率いて火星に発った翌日の事だった。

嶋津にとって桃香は、家族同然に付き合った『ご近所のおばさん』であると共に、色々な意味で頭が上がらない数少ない一人だった。

 

桃香は21世紀初めから続いたカフェ『翠屋』の7代目オーナーパティシエールで、婿入りした夫との間に一男二女をもうけていた。

長女の若菜は嶋津冴子と同い年の幼馴染み、長男の恭一は若菜の7つ下、次女の雪菜は16歳下だったが、ガミラスとの戦争は高町家にも容赦なく襲いかかった。

若菜は7年前の2192年、神奈川県に着弾した遊星爆弾の炸裂に遭い、父や祖父母と共に死亡。

当時3歳だった次女の雪菜はインフルエンザをこじらせて東京都内の病院に入院しており、たまたま見舞いに訪れていた桃香と長男の恭一は難を逃れた。

これが契機となって、恭一は宇宙戦士を志し、それを実現させたが、2198年の天王星軌道上会戦で乗り組んでいた巡洋艦『ミクマ(三隈)』と運命を共にした。19歳だった。

 

一方、桃香は雪菜を連れて新横須賀市に引っ越し、2193年に改めてカフェ『翠屋』を店開きした。

新『翠屋』には国連宇宙軍の士卒~将官の常連もつき、沖田十三や土方 竜、古代 守や真田志郎らも顔を見せたが、犬猿の間柄と言われる土方と芹沢虎鉄が同じテーブルでコーヒーを飲む姿も複数回あった。

しかし、桃香が病を得たため、翠屋は2198年に休業→閉店。

そして桃香の死で、高町家は末娘の雪菜以外の全員が鬼籍入りしてしまった。

 

桃香の葬儀は、喪主たる雪菜が11歳のため、かつて翠屋のスタッフだった中島真理亜と夫・龍平が中心になり、桃香の遺言に沿って執り行ったが、雪菜は通夜と告別式で、自ら希望して喪主挨拶を行った――。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

‥‥所変わって、同じフロアの中島家‥‥。

 

「雪菜ちゃんは休めた?」

「強めに『寝ろ』と言ったら、素直に」

 

中島真理亜の問いに、嶋津は苦笑交じりに応え、ややあって付け足した。

 

「‥‥それに、私たちがいては思い切り泣けないでしょう?」

「‥‥そうね‥‥」

 

母の容態急変から告別式終了までの5日間、ほぼ眠らずにいた高町雪菜を半ば強制的に寝かせた後、嶋津は中島家を訪れていた。

母親が病に臥した後、雪菜は嶋津の官舎で寝起きし、通学と母の見舞いに通っていた。

これは治安が今一つの市内に娘を残す事に不安感を抱いた桃香と、後輩(嶋津)の家事能力が小学生レベルである事を案じていた中島の思惑が一致したためで、官舎に雪菜を住まわせる事で住まいの治安が確保され、小学生にしては家事能力が必要以上に高い雪菜は、半ば汚部屋化していた嶋津家の片付けを一人でやってのけた。

その雪菜の今後は‥‥。

母の見舞いと家事をこなし、ここにきて母を看取ったのに加え、葬儀の喪主で、雪菜は悲しみを露わにする暇がなかった。

 

「そうでなくても彼女はしっかりしているわ、過剰なまでにね。ママ(桃香さん)もそれを案じていたわ。

‥‥さすがに、母親が骨になる頃にはいっぱいいっぱいだったけど」

「‥‥‥‥」

 

頃合いだったのだろう。感情を抑え続けたら、今後の雪菜のためにならない。

皆が座を移したのは、まさにこのためだった。

 

「‥‥早速だが、雪菜(あの子)はどうするんだ?」

 

中島が雪菜の今後について口火を切った。

 

「雪菜次第ですが、引き続き住まわせるつもりですよ‥‥母親が亡くなったのを理由に放り出すわけにはいかないでしょ」

「俺としてもその方がありがたい」

 

引き続き自宅に住まわせると答えた嶋津に中島も賛同したが、続けて追い打ちをかける。

 

「お前さんは、戦闘じゃなくてゴミで圧死しそうだからな」

「そうねぇ」

「‥‥‥‥」

 

中島夫妻のツッコミに、嶋津は肩を竦めるしかなかった。

 

「‥‥しばらくは『カミカゼ』の出番もなさそうだし、公的手続きに駆け回りますよ。桃香さんの頼みですからね」

「ああ。後見する以上はくたばるヒマなんかないぞ」

 

2199年末、嶋津冴子三等宙佐は高町雪菜の法定後見人に選任された。




こちらの世界も、魔法少女リリカルなのはシリーズの原形『とらいあんぐるハート3/リリカルおもちゃ箱』の後の世としていますので、高町雪菜は高町なのはとクロノ・ハーヴェイの6代後の子孫にあたり、母親共々魔法を使えます。

次回からは波動機関搭載艦が順次登場。留守番たちの反攻が始まる‥‥はず。
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