11.スターシャの配慮‥‥?
―― 南部重工呉造船所 ――
「こいつが最高級品なら、我々が作ったのは、工学科の卒業課題みたいなもんだな」
「‥‥‥‥」
回収・搬入されたサーシャシップの波動機関をひと通り見た大山敏郎一等宙尉は自嘲気味に呟き、周りの者たちも苦い薬を飲んだ直後のような表情で首肯した。
イスカンダルから提供されたデータに沿って、地球が持てる力の全てを注いで製造した『ヤマト』用波動機関は、試運転すら省略したぶっつけ本番にも関わらず正常に動作し、『ヤマト』を外宇宙に旅立たせた。ガミラスの太陽系侵略部隊の主力と冥王星にあった根拠地を潰し、遊星爆弾の発射継続を阻止するというおまけつきで。
とはいえ、地球自体の窮状はより悪化する事こそあれ、改善されたわけではない。
『ヤマト』の活躍で遊星爆弾の飛来はなくなったが、それまでの弾着で撒き散らされた放射能は確実に地下へと浸透しつつあり、『ヤマト』が1年以内にイスカンダルから放射能除去装置を持ち帰る事以外、人類を確実に救う事は不可能だった。
また、現実的な課題はもう一つ存在していた。
散発的ではあるが、外惑星圏で蠢動するガミラス残党だ。
『ヤマト』は木星圏→土星圏→冥王星圏と“転戦”し、そこに駐留するガミラス軍を撃滅し、冥王星にあった根拠地を破壊したが、少しでも旅程を稼ぐため、天王星・海王星圏は始めから無視していた。
そして、ガミラス冥王星基地が陥落した後、この両惑星圏付近でガミラス残党の蠢動が確認された。
ガミラスは戦力の大半を冥王星に展開していたため『ヤマト』によってほぼ撃滅されたが、それによって、天王星・海王星に展開していたらしい少数の艦船が炙り出された。
同時に、短期日で本隊が潰滅し、現地指揮官も斃(たお)れたため(『ヤマト』に体当たりを仕掛けてきた大型戦艦が旗艦と断定された)か、指揮系統が瓦解したガミラス残党はすぐには系統だった活動再開はできないと判断されたため、国連宇宙軍は直ちに火星に工作艦『ナルト』らを派遣した。
というのも、国連本部と宇宙軍はガミラス軍の活動が逼息状態になったのを契機に、戦力の再建に乗り出したからだ。
ガミラスの太陽系侵略部隊は潰滅したが、国連宇宙軍もまた潰滅しており、早期に再建しないとガミラスの太陽系侵略部隊が再建された場合、『ヤマト』不在の地球は再び攻撃される恐れがあったからだ。
国連宇宙軍の再建 ―― 艦隊戦力再編方針 ―― は、
①残存艦艇の速やかなる復旧と再配備
②波動機関への換装を含む既存艦艇に対する大規模改装
③波動機関を搭載した新型艦艇の迅速なる建造と早期の戦力化
④地上軍(陸・海・空軍)から宇宙軍への人材移動促進。
等がそれだ。
このうち、①は戦艦『フソウ』や駆逐艦『カミカゼ』等、冥王星会戦に参加しておらず、修復が済んでいた艦の復帰によって実現していた。
②については、大・中・小型艦用機関と発電用機関の設計が『ヤマト』用機関に続いて進められ、大型艦(戦艦)用はヨーロッパ、中型艦(巡洋艦)用はアメリカ、小型艦用は日本でそれぞれ1号機の製造に着手。2199年末までに改装1番艦を竣工させる予定になっていた。
一方、発電用波動機関は艦船用機関に先駆けて日本とアメリカで地中深くに設置され、11月中には稼働することになっていた。
地中に設置した波動機関は、真空中で運転する時よりタキオン粒子収集効率はかなり悪く、起動時に大電力を要する(これは艦船用も同じ)という欠点を抱えていたが、一度起動すれば理論上は半永久的に稼働するのと、得られる電力量の多さはデメリットを補って余りあり、最初に1基起動できれば、以後は容易に起動できるため、艦船に先行して稼働する事になったのだ。
一方、③こそがこの計画の本題とも言うべき計画で、新設計の量産を前提とした小型艦――といっても既存の駆逐艦より大型――とし、1番艦は年内起工を目指していた。
それらの計画立ち上げに合わせ、火星に墜落(?)したサーシャシップがサルベージされ、地球に運ばれてきた。
サーシャシップは、イスカンダルから地球までの約15万光年を一気に航行してのける性能を持った、極めて優れた恒星間航行宇宙船だ。機関はもちろん、居住設備等の艤装も十分参考になるはずだった。
しかし、現品を目の当たりにした技術者たちは、イスカンダルの凄まじい技術力と彼我の格差に言葉を失った。
元の技術差が呆れるほど違うのだから、解析には月どころか年単位が必要。全てをフィードバックするまでには数十年ないし1世紀を要するとまで言われた。
『‥‥考えてみれば、イスカンダルと地球の技術格差は、比較する事すらおこがましい程だった。それこそ、第一次大戦当時のデ・ハビランドやフォッカーに、F35を作れという要求に等しいもんさ。
スターシャが、イスカンダルではアンティークレベルであろう波動エンジンのデータを選んだのは、技術後進国への最大の配慮だったんだろうさ。
いくら高性能でも、1年間オーバーホールなしで武人の蛮用に耐えなければ意味ないもんな』
後日、大山敏郎は取材の記者にこう答えている。
とはいえ、ガミラス艦や航空機の残骸解析や、『ヤマト』用機関で波動技術の基本を学んだ軍民の技術者や各国の重工業グループは、この数ヵ月間で初歩的なコンセプトの模倣や簡易なコピーならば可能な技術水準に達しており、波動エネルギー増幅装置等、新型艦に導入するに相応しい技術を得、その成果はまず波動機関による既存艦の大幅強化として具体化しようとしていた。
2199年11月某日、『カミカゼ』艦長の嶋津冴子と副長の大村耕作、機関長の長岡 隆は土方 竜に呼び出され、こう告げられた。
「『カミカゼ』は明後日から波動機関への換装を兼ねた改装工事に入り、済み次第試験航海につく。
‥‥ついては、機関科はもちろん、嶋津と大村も波動理論を一から学んでもらうぞ」